EPISODE.39



――その場にいた者全員が、ナマエの歌声に驚き、呆然としていた。
噂には聞いていたがこれほどまで澄み渡る歌は聞いたことがなく、全てを歌い終えたナマエはスッキリとした表情で少し離れた場所にいたシャンクスを振り返り、そして満面の笑みを向ける。


『シャンクスー!私の歌、どうだったー!?』


まるで無邪気な子どものような笑顔でそう問いかけるナマエの姿は、さすがは双子というべきなのか、エースそっくりだった。一瞬目を見開かせたマルコが「まるでエースがいるみたいだよい」と、隣にいるナマエを見て肩を竦ませていたのはいうまでもない・・・。


目の輝きが戻り始めたナマエに、心の底から安堵したシャンクスは自分に駆け寄ってくるナマエの頭を撫でながら、言った。


「また一段と上手くなって正直驚いた。・・・さすがは、世界一の歌姫だ」


夢のきっかけを作ってくれたうちの1人であるシャンクスに褒められ、ナマエの笑みは深まるばかり。

その後、シャンクスの提案によって皆で宴会が開かれた。なぜこんな時に、しかも墓の前で宴会を・・・と、普通の者なら思うかもしれないが彼らは海賊・・・死んだエースと白ひげもしんみりとした空気より、楽しい方が絶対に喜ぶであろうと思っての行動である。

ナマエは初めて交わすエースの仲間達との交流に最初こそ戸惑ったものの、自分の知らないエースを語る彼らの話が新鮮で楽しくて、すぐに仲良くなっていた。途中、何度も歌をお願いされ、披露する度に海賊達の笑顔は絶えず・・・中には感情が高ぶり悲しむ者もいたが、今夜ばかりは許そうではないか。

その日の宴会は夜が明けるまで続き、朝日が昇って来る頃には馬鹿騒ぎをしていた海賊たちも死んだように眠っており、マリンフォードからまともに眠れていなかったのかちょっとやそっとじゃ起きそうになかった。


そんな彼らからエースの話が沢山聞けて満足したナマエは「よーし・・・!」と1人意気込むと勢いよく立ち上がり、そして隣で今だに酒を飲むシャンクスを見下ろす。


『ねえシャンクス、一つお願いがあるの』
「ん?なんだよ改まって」
『私をね、期間限定で船に乗せてほしいの』
「・・・期間限定?」
『うん!時間は掛かるかもしれないけど・・・私、強くなりたい。ルフィの仲間になるために』
「ルフィの・・・?ってことは、お前・・・・・・」


ルフィの仲間――それは即ち、海賊を意味している。それがどんなに危険な道か・・・ナマエ自身、もちろん知らないわけではない。実際に目の前で兄が殺されたのだから。しかしナマエにしてみれば、今更海賊になったところで自分の立場は変わらないと思ったのだ。

マリンフォードで初めてナマエという、伝説の実を食べたキラキラの実の能力者でもあり、海賊王の血を持つ存在がバレてしまった時点で、どのみち海軍に追いかけられるのは目に見えている。しかし海賊になってしまえばその存在は更に悪目立ちしてしまい、それが今世間を騒がす"麦わらのルフィ"の仲間なら尚更の事・・・自ら茨の道へ進もうとするナマエに、シャンクスは黙り込んだ。


『あ、あのね、すごいわがままなお願いっていうのは分かってる、ごめんなさい。でも私、どうしても強くなりたいの。今のままじゃ・・・ルフィの足を引っ張っちゃう。もう守られてばかりじゃ、駄目なの』
「・・・・・・」
『・・・・だ、め・・・かな?』
「・・・・・・」


黙り込むシャンクスに、思わず身体を縮こませるナマエ。無謀なことを言っているのは百も承知だ。しかし今のナマエには、シャンクスにしかそれを頼める相手がいない。

長い沈黙が続き、正面に座るベックマンは葉巻を吸いながら、シャンクスに視線を向ける。


「・・・・・・2年」
『・・・え?』
「うちの船に乗せてやるのは2年。その間に強くなれるかどうかは・・・ナマエ次第だ。それでいいか?」
『!』


断られる覚悟だったのだが、シャンクスのその言葉にたちまち笑顔になったナマエは「ありがとうシャンクス!」と飛びついた。反動で後ろに倒れそうになるもすぐ体勢を整えたシャンクスは無邪気に笑うナマエを見て複雑そうに頭を掻きながら、ベックマンに視線を移す。


「という訳なんだが・・・いいか?ベックマン」
「なぜおれに聞くんだ?お頭の命令だ・・・誰もとやかく言う奴はいねェよ」
「・・・まさかナマエがおれの船に乗る事になるなんてなァ・・・」
「クルー達にはおれからも話をつけておく。ナマエ、後でちゃんと自己紹介をするんだぞ」
『うん!』

「本当にいいんだな?おれの船には女はいねえ・・・ナマエ1人なんだぞ?」
『?』


何が言いたいのか分からないナマエは首を傾げた。

ナマエが船に乗るのを渋っていたのはそういう事だったのか、と察したベックマンは思わず肩を竦ませた。船長の親友に、誰も手を出そうとする者などいないというのに・・・ナマエ限定で心配性になるシャンクスの姿にベックマンは「おれからしてみればお頭のほうが心配だ」と小さく呟き、笑みをこぼすのだった。




*



『ポートガス・D・ナマエです!暫くの間、お世話になります!』


ナマエがシャンクスの仲間になったという情報は一瞬で世界に知れ渡る事となり、世界政府はすぐにシャンクスにナマエを引き渡すよう交渉した――が当然ながらシャンクスはそれを断り、交渉は決裂。力づくでも奪い取らなければいけない存在なのだが相手は"四皇"・・・先の戦争によって、今は世界政府も受けたダメージが大きく迂闊に手も出せない状態だった為、今はまだ見逃す他無かった。

赤髪海賊団の一員となったナマエはシャンクスだけでなくクルー達からも修行をつけてもらい、日を追うごとに成長をしていった。さすが海賊王の血を引くだけあって潜在能力が高く、呑み込みも早い。何よりも"覇気"の基礎をレイリーから教わっていた事がかなり大きく、シャンクスはこの2年でどれほどナマエが成長するか楽しみで仕方が無かった。






『(ルフィ、待っててね。私、強くなってまた・・・会いに行くから・・・!)』









   



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