EPISODE.37



「・・・眠っちまったのか?」
「ああ」


シャンクスは自身の腕の中でスヤスヤと眠るナマエを見て困ったように微笑んだ。
悪いが冷やすものを持ってきてくれ、と近くにいる船員に頼み、すぐに持ってきた氷でナマエの赤くなった頬を冷やしていると、それまで事の成り行きを見守っていたベックマンが隣に腰を下ろす。


「悪いな、お頭にしか止められないと思って見過ごしていた」
「別に謝ることじゃねェよ」
「・・・もう、大丈夫そうだな」
「ああ・・・・・・だが、これからだ」


本当につらいのはこれからなのだ。
シャンクスは心配そうにこちらを見つめる仲間達にナマエはもう大丈夫と伝えると、その小さな身体を肩に担ぎ、部屋へ連れて行くとゆっくりとベッドに置き布団をかける。


「いい夢見ろよ、ナマエ」





*












『ねえエース!みてみて!』
「んー?」


ほら、と自信作の花冠を自分の頭に乗せて、エースに披露するナマエ・・・が暫く沈黙の後、エースは吹いたように笑った。

冠の形状は何となく出来ているものの、肝心の花はあらゆる方向に突き出たり折れたりしていたのだ。相変わらず不器用だな、と腹を抱えて笑うエースに、顔を真っ赤させながら、悔しそうに唇を噛み締めるナマエ。

今にも泣き出しそうな様子のナマエにやばい、と思った時には既に遅く――ナマエは花冠を乱暴に取ると大きな声で泣いた。


『だ、って・・・ッつくり、かた・・・分からない、んだ、も・・・ッうええええん!』
「そ、それくらいで泣くんじゃねェ!」
『わた、しも・・・ッお母さんに作って、もらいたいよぉお・・・!!』
「!」


――ある日、フーシャ村の近くまで1人散歩をしていたナマエは、山道で親子の姿を見つけた。子どもはナマエと同じくらいの子で、母親は子どもと一緒に花を摘み、そして綺麗に出来た花冠を子どもに付け、子どもは嬉しそうに笑っていた。

その光景を見ていたナマエはそんな親子を羨ましく思い、そしてその寂しさを紛らわせようと自分も花冠を作っていたのだが――エースに下手くそだと笑われてしまい、現状に至る。

ナマエとてまだ5歳・・・母親を恋しく思うのは仕方の無いことだった。


「っ・・・ならおれが作ってやる!!」
『うっ・・・うう・・・エースだって、作れない、じゃんかァ・・・』
「おれに出来ないことは無い!明日には作ってやるから!だからもう泣くんじゃねェ!!」


そう言ってエースはナマエをダダンの家に送ると、自身は町へと向かった。

――中心街にある図書館へ忍び込み、そして花冠の作り方が書いてある本を見つけるとそれを盗んで逃走し、花がたくさん咲いている場所で本を開きながら、猛練習をはじめる。文字があまり分からず、載っている図面を頼りに何度も練習を繰り返した。


「なんだこれ・・・意外と難しいな・・・」


ナマエほど不器用ではないが本のように綺麗に出来ず、苦戦するエース。練習は夜明けまで続き、漸く綺麗な花冠を完成する事が出来たエースは満足そうに微笑んだ。

ダダンの家で眠るナマエを起こし、そして出来上がった花冠を見せびらかす。


『!これエースが作ったの?』
「へっ、まァな!こんなもん簡単簡単!」


本当はだいぶ苦戦していたのだが、妹の前で決して本音は言わず、見栄を張るエース。するとナマエはキラキラと目を輝かせ、満面の笑みで貰った花冠を自分につけた。


『エース、ありがとう!』










*



『っ』


夢から醒め、パチリ、目を開けたナマエは、ゆっくりと上半身を起こす。部屋には誰もいなく、窓の外を見てみるとどこかの島に着いたのか、陸が見えた。

ベッドから出ようとすると――タイミングよく部屋が開き、シャンクスが入ってくる。


「よお、起きたか?」


昨夜の事を思い出したナマエは咄嗟にシャンクスに皆に迷惑をかけた事を謝った。しかしシャンクスは笑いながら「気にすんな」と言い、ナマエに近づくと腫れの引いた頬に触れる。
――言葉に出さずとも、シャンクスの心配そうな表情を見てすぐに察したナマエは自身に伸ばされた手を握る。


『もう大丈夫だよ。あんな事、しないから』
「・・・そうか」
『あ、あのねシャンクス』
「ん?どうした」
『・・・・・・ルフィは、大丈夫だよね?』


あれからどうなったのか、記憶が曖昧で思い出すことが出来ない。
ルフィも重症を負っていたはず・・・早く会って、治してあげたい。早く会って、抱きしめてあげたい。


不安に見つめるナマエの頭を撫でたシャンクスは、ルフィはあの場から逃げることができ、その後トラファルガー・ローの治療のおかげで一命を取りとめたと話した。
それを聞いてホッと安堵するナマエだったが・・・なぜシャンクスが知っているのか、首を傾げているとシャンクスは「これを見ろ」と、一部の新聞を渡す。


『!』


記事を読むと、ルフィの事が大々的に書かれていた。

事件から間もなくして――ルフィはまだ傷の癒えていない身体で大胆にも一人でマリンフォードの広場へ踏み込み、広場にある"オックス・ベル"を"16点鐘"し、広場に残る戦争の傷跡に花束を投げ込み、堂々たる黙祷を捧げたという。

海軍は、恐らくこれを海軍への挑戦状と受け取っていた。もし、この行動が白ひげや兄エースの追悼であるなら、鐘は2回鳴らされたはず。しかし、鐘は16回鳴らされたのである。

「オックス・ベル」というのは大昔に活躍した軍艦「オックス・ロイズ号」に取り付けられていた神聖な鐘で、年の終わりに去る年に感謝して8回、新年に新し年を祈って8回、合計16回の鐘を鳴らす海兵のしきたりがある。それが「16点鐘」。

だが今は新年ではない。つまりその鐘は時代の"終わり"と"始まり"の宣言と取れる、と考えられた。"白ひげ"の時代が終わり、"おれの時代"の始まりだとで宣言している、と巷の人々も考えているのだろう。
この挑発に対し、海軍も海賊達も、新しい時代は"麦わら"のものではないと鼓舞した。続々と現れる億越えルーキー、残る七武海、そして新世界の"四皇"に、対抗する海軍の新勢力・・・・・・。


新しい時代は、否応なしに幕は開けられた。



『(なんだろう、これ・・・・・)』


それよりもナマエには、写真に写った黙祷するルフィの右腕に記されてあったマークが気になった。右腕には『3D2Y』と書かれてあり、3Dの所にはバツがされてある。マリンフォードの時にはこんなマークはなかったはずだ。

ルフィが海軍に挑発するとは思えず、きっとなにかカモフラージュで鐘を鳴らした・・・そうとしか考えられなかった。

この新聞は全世界へと報じられている。恐らくあの右腕を見せるため、ルフィが世界のどこかにいる"誰か"に送ったメッセージなのだろう。



『・・・・・・・・』






「前にな、航路の途中でルフィに会ったんだ」
『ルフィに?』
「ああ・・・頼もしい仲間達と一緒にいてよ、おれ安心したよ。この先何があっても、あいつはもう大丈夫ってな」
『・・・そう言いつつ、ちょっと寂しそうだね?エース』
「へへっ。いつまでもおれ達の後ろをついてくるわけねェよな」







不意に、エースがそう話していたのを思い出したナマエから笑みがこぼれる。
もしかしたら、このメッセージの宛ては・・・・・・。


『・・・仲間、かな』
「ん?」
『ううん!』


メッセージの意図は分からないが、ルフィがこうして立ち直っている事に、ナマエ自身も前に進まなければと決意をした瞬間であった――。





   



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