EPISODE.35



サボが「貴族の男は18歳で本当の貴族と呼ばれる、だからおれは17歳で国を出る」と常々言っていたのを思い出し、サボの兄弟である自分達の出航は―――17歳と決まった。

それから月日は流れ、世界政府の視察を終えた"ゴア王国"はまた元通りの生活を取り戻し、国中のゴミは今日もゴミ山へと溜められ、ゴミ山はいつものように悪臭を放ちながら、ゴミ山の人々の暮らしを支えた。

エースとルフィの二人は海賊になる日の為、生活の為に日々強くなる訓練をつみ、ナマエも万が一に備えエース達と共に訓練をつみ、そして歌にも磨きをあげていった。

3人だったけど、3人の心の中にはいつもサボが一緒にいた。

エースはルフィとケンカを繰り返しつつも、ルフィが怪我をしたり、危険な目に遭うと、守ってやれなかった事を悔い、再び兄弟を失う事を恐れて震えた。3人は、兄弟を失う事をなにより恐れていた。もうあんなつらい思いは・・・したくなかった。


「・・・・・・これをシャンクスが、わたしに?」
「ええ!赤髪の船長さんにね、頼まれていたの」


ある日、マキノが村人と共にある"物"を運んできた。

袋に包まれたそれを開けてみるとそこには真っ白な、まるで鳥のような小型グライダーがあり・・・初めて見るそれが何か分からないナマエは首を傾げた。そして困ったようにマキノに視線を向ければマキノは「ああ、そうそう」と思い出したように一枚の紙をナマエに渡す。


『・・・・・・メーヴェ?』


ナマエのキラキラの実の力を利用して飛行が出来るというそれはメーヴェといい、シャンクスの仲間のヤソップが文明レベルの高い都市ウォーターセブンにある造船会社"トムズワーカーズ"の知識を借りて作ったものだそうだ。

その紙にはメーヴェの取り扱い方と、「これに乗ってまた歌を聞かせにきてくれ」とシャンクスの名前が書かれてあり、目を輝かせたナマエは説明書を片手にメーヴェに乗り込み、そして書かれていた通り力を解放しながら足元のペダルを踏む――が。


『!』
「ナマエちゃん!」


手紙の最後には「乗りこなせるようになるまで1年は掛かるからちゃんと練習しとけよ」と大事な事が書かれてあったのだが・・・一番肝心な部分を見落としていたナマエを乗せたメーヴェは空に向かって真っ直ぐと飛んでいき、その途中で呆気なく振り落とされてしまった。
慌てて駆けつけたマキノは泥だらけになったナマエの顔を拭い、けれどナマエは「大丈夫」といって何度も何度もメーヴェに乗っては振り落とされてを繰り返し、ひたすら練習を重ねそして――シャンクスが1年掛かると言っていたメーヴェを、たった半月で乗りこなせるようになっていた。


『やったぁ!』

「うおおー!すげェー!!なぁなぁ!おれにも乗らせてくれよー!」
「へっ、ナマエに船はいらねェな」



それから7年後――。


エース17歳、ナマエ17歳、ルフィ14歳の時。
その日は、人知れず成長した"海賊王"の子どもエースとナマエが旅立ちの日だった。
見送りに来ていたのはダダン山賊団と、フーシャ村の村長、マキノ、そしてルフィだった。
ダダンは見送りには来てくれず、きっと今頃寂しそうに1人で酒を飲んでいるのだろうか。




本当はエースはナマエを側におきたかったのだが、自分が海賊になる道を決めた以上、ナマエを危険な目に遭わせるわけにはいかない。それよりもナマエが自由に歌っていけるよう、自分が名声を手にし、ナマエの"盾"とならなければいけなかった。

そうとも知らずナマエは不安そうに、そして寂しそうに、泣かないよう必死に涙を堪えていた。


「何か困った事があったらすぐに知らせろよ、ナマエ」
『うん・・・あ、あのね、エース』
「ん?」
『これ』


ナマエが出したのは、赤い数珠で出来たネックレスだった。


『マキノに教えてもらって作ったの。エースが無事に航海出来るように、ちゃんと祈りを込めながら』
「!おれのために?」


起きてる時はいつも一緒にいたというのに全く気づかなかったエースは目を見開かせた。聞けば毎晩、皆が寝静まった時にこっそりと作っていたらしく・・・・見た目によらず、意外にもナマエが不器用だという事を知っていたエースは、彼女がどれだけ苦労をしてそれを作ったのか・・・想像もできなかった。


「えー!いいなーエースばっかり!」
『ルフィにもあるよ』
「ほんとか!?」


目を輝かせるルフィに、ナマエはエースと同じ数珠で作ったブレスレットをルフィに渡す。それを早速身に付けたルフィは自分の腕を見ては嬉しそうに笑みを深め、飛び跳ねていた。

初めて妹から貰うプレゼントに、どことなく照れたように頭を掻きながらもそれを受け取ったエースはそれを自分の首にかけると照れ隠しするようにナマエの頭を乱暴に撫でる。


「ありがとなナマエ!大事にするよ」
『!うん・・・ッ・・・』


それまで涙を堪えていたナマエだったが――エースの笑顔を見た途端、とうとう涙腺が崩壊してしまい、涙を流しながらナマエはエースに抱きつき、今まで口に出さなかった弱音を吐き出した。


『エー、ス・・・っ・・・離れ、たく・・・ッないよ・・・怖いよォ・・・!』
「今更なに言ってんだよ。決めただろ?お互い、自由に生きるためには仕方ねェんだよ」
『で、でも・・・ッ』
「泣−くーなっての!どんなに離れていても、おれとナマエなら大丈夫だ!・・・なんてったって、無敵の双子なんだからな!!」
『!』



――ナマエ、おれ達は鬼の血を引く子どもだ・・・けど、どんな悲しみも苦しみも乗り越えて、二人で強く生きていこう。おれとナマエなら絶対に大丈夫だ!二人一緒にいれば恐くない・・・なんてったって、無敵の双子なんだからな!!



それは5歳の頃・・・存在を否定され、涙するナマエにエースが投げかけてくれた言葉であった。どんなにつらくても、エースがいれば大丈夫・・・その言葉はまるで魔法のように、これまでのナマエの苦しみを乗り越えさせてくれた。


「つらい時、寂しくなった時、そういう時こそ歌を歌えばいい。どんなに遠く離れた場所にいても、おれの心はいつも側にいる。ナマエの歌が聞こえなかったとしても、気持ちは届く」
『っ、うん・・・うん・・・!』


泣き止んだナマエを見て頷いたエースはルフィ達にも挨拶をし、一人用の船に乗り、大海原へと旅立っていった。


「エースー!!またなー!!」
『無茶しないでねー!!』


エースの船出をルフィ達と見送りながら、ナマエは次は自分の番だとルフィを振り返り、そして世界で唯一の弟を強く抱きしめた。


『ルフィ、元気でね。怪我には気をつけるんだよ?』
「おう!エース達には言ってなかったんだけどよ、おれ、ナマエの歌が大好きだからさ!いつかおれの船の音楽家になってくれよな!」
『ええ?』


海賊になってしまったら元も子もないというのに・・・ルフィには事情を全て話したつもりなのだが、イマイチ理解していないらしい。しかしそれもまたルフィらしいといえばルフィらしく、笑みをこぼしたナマエは「考えておくね」と言い、メーヴェに乗ると見送ってくれた人たち皆に別れの挨拶をし、空へと飛び立って行った――。


『わあ・・・・・・!』


青い空、青い海。


視界に広がるそれはまさに"自由"そのもので、新たな人生の始まりにナマエは胸を高鳴らせた。



『(――サボ。見ててね!)』


サボが大好きだといってくれたこの歌でいつか世界一の歌姫となって、自分たちの存在を否定していた者達を――世界を、見返してやるのだ。

1人は寂しいが、離れ離れになっても思い合える事は出来る。ならばエースとルフィ、そしてサボをいつも想い、その気持ちを歌に乗せようではないか。

そう固く誓ったナマエは青空にうっすらと浮かぶ白い月を見つめ、笑みを深めるのだった。



   



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