EPISODE.34



――翌朝。

夜通し泣いていたルフィは明け方になって漸く眠りにつき、片時もエースの側を離れなかったナマエも木の下で蹲るようにして、その場で眠っていた。
家から出てきたダダンは一枚の布団をナマエに掛けると縄で縛られたエースを見上げ、手下達に縄を解くよう命令する。


「!お、お頭ー!!大変ですニー!て、手紙が!サボからです!あいつ海に出る前に手紙を出してたんだ!!」
「!」


その手紙には「兄弟へ」と書かれており、縄を解かれ自由となったエースはドグラから手紙を受け取ると一人、岬の方へ歩きながらその手紙を読んだ。




――エース、ルフィ。火事でケガをしてないか?心配だけど無事だと信じてる。
ナマエも、急にいなくなったりして怒ってるよな?心配かけてごめんな。

お前たちには悪いけど、3人が手紙を読む頃にはおれはもう海の上にいる。
いろいろあって一足先に出航する事にした。行き先は・・・この国じゃないどこかだ。
そこでおれは強くなって海賊になる。
誰よりも自由な海賊になって、また兄弟4人どこかで会おう。

広くて自由な海のどこかでいつか必ず!!


それからエース、おれとお前はどっちが兄貴かな。
長男2人に妹1人、弟1人で変だけど、この絆はおれの宝だ。
ナマエもルフィもまだまだ弱くて、泣き虫だけど、おれ達の妹弟だ。よろしく頼む。





「ッ・・・・・・」



岬に辿り着いたエースは読み終えた手紙を強く握り締める。

ナマエとルフィの兄として、決して涙を見せない強い男でありたい・・・・・・けれど、大事な兄弟の"死"を痛感したエースは1人、涙を流すのだった――。





*





親友で兄弟のサボとの別れをつけたエースと違って、ルフィはいつまでもメソメソと泣いてサボの死を受け入れられないでいた。かというナマエも涙は流さないもののその表情は暗いまま、あれからまともに言葉を発していない・・・・・・。


――いつもの岬で、落ち込み泣くルフィの姿を目にしたナマエは暫く悩んだ仕草を見せると、思い立ったようにルフィの真横に立ち、そして海に向けて歌を歌った。


「!」


その歌は、愛する人へ向けられた歌。いつの日か、自分が世界一の歌姫になったその時――サボに聞かせると決めていた歌だった。

ナマエの歌声は岬からダダンの家まで響き渡り、いつもと同じメロディなのに今日は悲しみを帯びているように聞こえ、ルフィは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でナマエを見上げた。


「ナマエ・・・・?」
『・・・これね、私が初めて作った曲なんだ』
「っ」
『・・・・サボに聞いてもらわなきゃ、意味ないのにね』


小さく呟いたナマエの言葉は、波の音にかき消され、ルフィに届くことはなかった。
ナマエは未だ泣き止まないルフィに困ったように笑い、そして後から来たエースがその麦わら帽子に一発、ゲンコツを落とした。


「いつまでそうやってるつもりだよ」
「っ・・・・・・」
「・・・中間の森に隠してた財宝は全部無くなってた。生き残ったブルージャムの一味に奪われたのか、軍隊に見つけられたのか・・・行方は分からねェ。でもあの財宝の事はもういい。あれは・・・サボと2人で使うと決めてた海賊貯金だったけど、結局サボは使わなかったんだ。だから・・・おれももう、別にいい。守れもしねェ財宝集めても、仕方ねェ」

「・・・ッ・・・エース・・・・・・おれはもっと強くなりたい!!!もっともっともっともっともっともっと・・・もっともっと!!強くなって!!!そしたら何でも守れる、誰もいなくならなくて済む・・・・・・!!!」


麦わら帽子のつばを引っ張り自身の泣き顔を隠しながら、必死に言葉を繋げるルフィ。


「お願いだからよ・・・・・・!エースとナマエは死なないでくれよ・・・・・!!!」
『っ』
「バカ言ってんじゃねェよ!!!おれ達の前にてめェの心配しやがれ!!おれやナマエより遥かに弱ェくせによ!!!」


エースはルフィの頭に再度ゲンコツを喰らわせると、はっきりと言い切った。


「いいかルフィ!ナマエも、よく覚えとけ!!おれは死なねェ!!!」
「・・・・・・!」
『・・・・・っ・・うん・・・』
「サボからもおれは頼まれてんだ・・・・・約束だ!おれは絶対に死なねェ!!お前らみたいな弱虫の妹と弟を残して死ねるか!」


エースの言葉にルフィも、そしてナマエも、涙を流しながら頷いた。


「おれは頭が悪いから、サボが何に殺されたのかわからねェ。でもきっと、"自由"とは反対の何かだ!!自由を掴めずにサボは死んだけど、サボと盃を交わしたおれ達が生きてる!!!だからいいかナマエ、ルフィ・・・おれ達は絶対に"くい"のない様に生きるんだ!!!いつか必ず海に出て!!思いのままに生きよう!!誰よりも自由に!!それはきっと色んなヤツラを敵に回す事だ。ジジィも敵になる!!命懸けだ!!」







   



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