EPISODE.33



その日の晩、ナマエは誰も起こさないよう、隣で眠るエースに治癒をかけると続けてダダンにもその力をかけた。一瞬、淡い光に包まれるエースとダダン・・・見た目はさほど変わってはいないものの、目覚めた時には、傷も幾分かよくなっているに違いない。

安堵の息を漏らしたナマエはここ最近眠れなかった事もあり、エースの隣に戻るとすぐに眠りについた・・・。


「・・・おい、起きてんだろ」
「・・・・・・」


ナマエが眠ったのを合図にエースが突然、声を掛ける。すると眠っていたはずのダダンの目が開かれた。
――他人に能力を見られてはいけないというのに・・・けれどエースに焦った様子は無かった。むしろダダンはその能力の事を知っていたのか、何事も無かったように平然と話し始める。


「エース・・・お前あの時、なぜ逃げなかった」
「・・・・・・時々カッと頭に血が上るんだ。逃げたら何か、大きなものを失いそうで恐くなる。あの時は・・・おれの後ろにナマエと、ルフィがいた。わからねぇけど、たぶんそのせいだ」
「・・・・・・」


その話しを聞いたダダンは、大きく一つため息をつくと目を閉じて、昔ガープから聞いた海賊王ロジャーの事を思いだした。





ロジャーは敵うはずもない敵の大軍を前にしても、逃げずに立ち止まって逃げない。背後に"愛する者"がおるからじゃ。共に逃げれば仲間達も危険にさらす事になる。正確に言うならば・・・"逃げない"んではない・・・目の前の敵達が仲間を追わんように"敵を逃がさない"。その時のロジャーはまさに"鬼"!!仲間の悪口を言われたと、一国の軍隊を滅ぼしたこともある。
確かに怒らせりゃあ凶暴、短期でわがまま。しかし行動はいつも子供のように単純でまっすぐじゃった・・・今のエースやナマエにも似た生い立ちのせいじゃろう、愛する者を失う事を極度に嫌っておった。あんな無茶な生き方をしても、運よく生き延びた結果が"海賊王"。世間の評判は最悪でも、仲間からの信頼は絶大。海兵のわしでさえ、あいつを嫌いになれんかった・・・・・・。



今のエースは海賊王ロジャーにそっくりではないか。
会ったこともない憎き父親と、恨んでも血は争えないというやつなのか・・・ダダンはその皮肉に言葉を噤んだ。




*



翌朝、エース達と行き違いでエースとダダンの行方を探していたドグラが血相かいて帰ってきた。ドグラにエース達はもう無事だと伝えるルフィだが・・・ドグラの表情は浮かないまま、なにかとんでもないものを目にしたような、そんな表情をしていた。

一体どうしたというのか・・・家に入ったドグラはエース達に、その目で見たありのままの事を報告した。


――町の港で、サボが盗んだと思われる漁船に乗り込み、黒い旗を掲げて堂々と海に出た後、"天竜人"を乗せた巨大な政府の艦隊に砲弾を撃ち込まれ沈められた。
サボを乗せた漁船は木っ端微塵に砕け、燃えながら海へと沈んでいき、海面には、漁船の木々とサボが愛用していた帽子が無残に漂っていた・・・ということを。


『う、そ・・・っサボが・・・』
「ッ嘘つけてめェ!!冗談でも許さねェぞ!!」
「冗談でも嘘でもニーだよ・・・!おれにとっても唐突すぎてこの目を疑った・・・!夢か幻を見たんじゃニーかと!」
「黙れ!サボは貴族の親の家に帰ったんだ、なのに海に出るわけがねェ!!」
「そうだ!サボは自分の家に!」
「おれ達みてェなゴロツキにはよく分かる!!・・・ッ帰りたくねェ場所もある!!あいつが幸せだったなら、海へ出る事があったろうか!?ッ海賊旗を掲げて1人で海へ出る事があったろうか!?!

「「『・・・・・・!!』」」


エースも、ルフィも、ナマエも・・・サボは家族と共に、幸せに暮らしていると、そう思いこんでいた。

――サボは、幸せではなかったのか。エースとルフィの前で父親についていった時、一体彼はどんな表情をしていたのか・・・・・・なぜあの時、自分たちはサボを奪い返しにいかなかったのだろうか。
突然のサボの死にルフィは泣き、ナマエは言葉を失い、そして悔しそうに唇を噛み締めたエースはドグラの胸倉を勢いよく掴む。


「サボを殺した奴はどこにいる!おれがそいつをぶッ殺してやる!!」
「て、天竜人を!?そ、そんな事無理に決まッ・・・」
「ッあいつの仇を取ってやる!!」

『エース!!』


鉄パイプを持ったエースはまだ身体の傷も癒えていないというのに、家を飛び出そうとした・・・がそれはダダンによって力づくで止められる。頭を鷲掴みされ、そのまま床に押し付けられたエースは自分を押さえるダダンを睨んだ。


「退けてめェ!!」
「ッロクな力もねェくせに威勢ばっかり張りやがって・・・一体お前に何が出来るんだ!死ぬだけさ!!!死んで明日には忘れられる!それくらいの人間だお前はまだ!!」
「・・・!!」
「サボを殺したのはこの国だ・・・・・・世界だ!!お前なんかに何が出来る!!お前の親父は死んで時代を変えた!!それくらいの男になってから死ぬも生きるも好きにしやがれ!!」


――それが、ダダンがエースを止める精一杯の言葉であった。
これ以上子ども達の命を危険に晒すわけにはいかなかった・・・これ以上、子ども達を、仲間を失うことは耐えられなかった。

今にでも飛び出していきそうなエースを見たダダンは外の木に縛るよう指示し、夜になってもルフィの泣き声は森中に響き渡っていた。

エースはなんとしても縄を解こうと暴れるが何重にもきつく縛られた縄はビクともせず・・・足元で座り込むナマエに縄を解くようお願いしても、ナマエは首を左右に振るだけで、自身の膝をぎゅっと抱きしめるように蹲っている。


「うっうッ・・・・・・サボーーーー!!!!」
『・・・・・・っ・・・・・・』
「くっそ・・・!ッうるせェな!男がメソメソ泣くんじゃねェ、ルフィ!!!!」
「う、うあああああぁあああ!!!」





   



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