EPISODE.32



『そっか、そんな事が・・・』


エースが帰ってくるまでの間、ナマエはルフィからこれまで起きた出来事を、サボがいなくなった経緯を聞いていた。



――あの日、ブルージャム海賊団を使ってサボを探していた高町の貴族であるサボの父親に、サボが捕まってしまったのが全ての始まりだった。
サボの父親はブルージャム海賊団に、エースとルフィが二度とサボに近付かないように始末するよう命じたらしく、「ゴミ山の人間など人の形をしたゴミだ」と言い切る父親が2人の命を惜しむ訳もなく・・・エースとルフィの命を守る為、その時サボが取った決断とは自身が高町に帰ることであった。



「お父さん、わかった。何でも言うとおりにするよ、言う通りに生きるから!!この2人を傷つけるのだけは、やめてくれ!!お願いします・・・、大切な兄弟なんだ!!!」



そう言うと、サボは自分の足でその場を後にした。エースとルフィは懸命に声をかけたがサボは決して振り返らなかった。もしその泣き顔を見せたなら、きっと2人は命を賭けて助けに来て・・・そして命を落とす事を分かっていたから。

その後、エースとルフィはブルージャム達に殺さない代わりに仕事を手伝うように言われ、ゴミ山に"箱"をまんべんなく置いていたという。

箱の中身は――そう、あの油と爆破装置だ。

この事はエースやルフィも知らないが、近いうちに世界政府の視察団がゴア王国に立ち寄ることが決定し、今回はあの世界貴族である"天竜人"が艦に乗っているとのことで大騒ぎした王族達は、国の汚点は全て焼き尽くして無かった事にしようと不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルに火事を起こして焼き払おうと企てた・・・・・・そう、全てはサボの父親・・・否、高町に住む王族・貴族によって起きた計画的な犯行だったのだ。


『サボ・・・・・・』


サボには帰るべき家があり、そして血の繋がった両親がいる・・・。何も挨拶もできず別れてしまうのは寂しいが、それがサボにとっての幸せなら仕方が無い。
どうか幸せに暮らして欲しいと・・・、何も知らないナマエが切に願っていた――その時だった。


『!』


山道の向こうから、大きな影がこちらに向かってくる。
近づいてくるにつれてその姿が明らかになるとナマエとルフィから笑みがこぼれ、ルフィは家の中で憔悴しきった山賊たちに慌てて声をかけた。


「みんな!エースと、ダダンが・・・帰ってきた!!!!」


道中、必死にダダンの命を繋ぎつつ、自分よりも数倍大きな体格をしたダダンを背負いながら、漸く帰ってこれた事にエースは安堵した。

山賊たちはすぐに全身に酷い火傷を負ったダダンの手当てをはじめる。・・・もちろんナマエも一緒に。今ここで治癒能力を使ってはマズイため、皆が寝静まった夜に行う事を決めたナマエは心の中で何度もダダンに謝り、「夜までの辛抱だから、頑張って」と誰にも聞こえない声で呟いた。

・・・一方のエースはダダンほど怪我も酷くなく、破れてしまった服を取り替えるため着替えようとする・・・が、それまでずっと涙を堪えていたルフィの涙腺が崩壊してしまい、大泣きしながら抱きつかれた。


「エ"〜〜ズゥ〜〜〜!!!」
「ッ・・・ルフィお前・・・おれが死んだと思ったのか?」
「だっ、だっでェ・・・!」
「何泣いてんだよ!!!人を勝手に殺すなバカ!!!!」
「ま、まァまァそれくらいにしといてやれ。ルフィも嬉しいんだよ」


わんわん泣く弟の頭を殴ったエースは呆れながらも溜息を吐いた。


『・・・水、替えてくるね』


ダダンの手当てを終えたナマエは温くなった桶の水を持ちながら立ち上がると、家の外へと出て行った。・・・その姿を横目で見ていたエースは泣きじゃくるルフィを放って、ナマエの後を追いかけに行った。


――家のすぐ目の前にある井戸で水を汲むナマエの手は、小さく震えていた。今更になってエースを失う恐怖が込み上げてきたというのか・・・けれどエースは無事に、ダダンと共に帰ってきてくれた。
エースの姿を見た瞬間、それまでルフィ達の前で張っていたナマエの緊張の糸は意図も簡単に切れてしまい、ズルズルとその場にしゃがみこんだナマエは声を殺して泣いた。


『よかっ、た・・・ッふ、う・・・っ・・』
「ナマエ」
『ッ!』


不意に、背後から降りかかる声・・・エースだ。しかしナマエは泣き顔が見られないよう、エースに背を向けたまま、決して後ろを振り返ろうとしなかった。


「・・・悪かったな、心配かけて」
『ほ、ほんとだよ!心配したんだからね、すご・・・く・・・っ』


心配をかけないよう、わざと元気な声を出したナマエだったが――不意に後ろからエースに抱きしめられ、言葉が止まる。


――自分の帰りを待っている間、ナマエはどんなにもつらい思いをしていたのか・・・もしこれが逆の立場だったなら、自分はナマエのように毅然とした態度でいられただろうか。
考えただけで胸が張り裂けそうになり、ナマエの抱えきれなかった気持ちを受け止めるようにエースはもう一度「悪かった」と、回している腕に力を込めた。

その瞬間、堰を切ったように溢れ出すナマエの涙が地面を濡らした。


「もうこんな思い、させねェから・・・」
『う、うッ・・・うわあぁあああん!』




   



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