EPISODE.31
例え撃たれたとしてもナマエは自然系・・・普通の銃弾は効かないがそれでも銃を向けられれば怖いものは怖く、咄嗟に目を強く閉じた。
「ナマエ!!!エース!!!」
『っ』
――バァン!!!!!
銃声音が鳴り響く。
恐る恐る瞳を開けたナマエの視界に映ったのは――ここにいるはずのない、ダダンの姿であった。ゴミ山の異変に気づき、エース達を心配しすぐに駆けつけてくれたのだ。
ブルージャムの持つ銃を握るダダンは銃口の軌道を変えており、銃弾は誰にも当たる事無く地面に穴を開けただけであった。
突然のダダンの登場に涙をこぼすナマエ。
「やめねェか、海坊主・・・」
『ダダン!!』
「エースを、離しなァ!!!」
言いながら、ダダンは持っていた斧を振り回す。ブルージャムは腰に帯びていた剣を抜いてそれを受け止めると反動で後退していき、その隙に解放されたエースに駆け寄るるナマエ。
ダダンの後ろからは続々と仲間も駆けつけ、動けなくなったルフィをドグラが背負い、ダダンは怒った様子で目の前のブルージャムを睨みつける。
「てめェは・・・コルボ山のボス猿だな」
「山賊ダダンだ!何の因果かこのガキ共の仮親登録されててねェ・・・だが例え仮でも、子の命が取られようって時に指を咥えてみている親はいねェ!このまま引きゃァよし・・・引かねェなら腕ずくで片付けるしかねェ!!」
ブルージャムの手下達は皆気を失い、残るは頭のみ・・・この状況で立ち向かうはずがないと踏んでいたダダンだったが、ブルージャムの返答は予想外のものだった。
「へッ・・・やってみな」
「!そうかい・・・さァて――ッ逃げるぞお前達いいい!!」
ダダンといえど、ブルージャムとまともに戦いたくは無かった。ルフィを抱え真っ先に逃げていくダダンたち。しかしエースはその場から逃げようとせず・・・エースの腕を掴むナマエは早く逃げようと促すが、エースの瞳にはブルージャムしか映っていなかった。
エースとナマエがついてきていない事に気づいたダダン達も足を止め、後ろを振り返る。
「おれは・・・逃げない!!」
『!』
「っなに言ってんだおめェエース!そいつァやめとけ!ブルージャムのやばさはハッタリじゃねェぞ!子どもがいきがっていいレベルじゃねェんだよ!!」
「お、おれも・・・!」
「だ、だめだルフィ!」
ドグラの腕の中で暴れ回るルフィ。しかしナマエの治癒能力はあくまで治癒効果を早めるだけで、傷が深ければ深いほど完治には時間を要するのだ。まだ完全に治ってはおらず、立つことすらままならないルフィが戻ったところで足手まといになるのは目に見えていた。
エースの強い意志が見えたダダンは踵を返しエースの横に並んで立つと、後ろにいる部下たちに告げる。
「お前ら、ルフィとナマエを連れて先に行ってな」
「!?お、お頭!?」
「エースは私が・・・・・・責任を持って連れて帰る!!行けえぇえ!!」
「!ほ、ほら!行くぞナマエ!」
『っやだ!離して!!』
後ろから来た山賊に抱えられ、エースから引き離されるナマエ。ナマエはエースとダダンの遠ざかっていく背中を見つめながら、ぼやける視界の中、叫ぶ事しか出来なかった。
『エースー!!!ダダンー!!!!』
――その日、エース、そしてダダンは燃え盛る不確かな物の終着駅から帰って来なかった――。
*
「ま、待てルフィ!そんな身体でどこに行くんだ!?」
「ッエースとダダンを探しに行く・・・!!」
「無茶言うな!」
ナマエに治癒してもらったにも関わらずいまだ全身包帯が外れないルフィはやがて力尽きたように玄関先で倒れてしまい、ダダン一味は慌てて布団に連れ戻した。
不確かな物の終着駅は今、火事の後処理で軍隊が大勢出回っている。後処理というのは焼けたガラクタだけでなく"生き残りの処理"も含まれており・・・今探しに行ったところで殺されてしまうのは目に見えていた。
そうルフィに説明するドグラだが、それでもルフィは諦められなかった。
「でも・・・ッでも・・・・・・うっ、うう・・エースに会いたい!!きっとナマエとサボも心配してる!!!うわあああああ!!!」
思うように動いてくれない身体を憎みながら涙を流すルフィの姿にドグラ達はそれ以上掛けられる言葉が見当たらなかった。
「ルフィも心配だが・・・ナマエは大丈夫なのか?」
「あ、ああ。部屋にずっと篭っててな・・・声かけてもなんも反応してくんねェんだ」
『私は、大丈夫!』
「「「「!」」」
バンッ、と派手な音を立てて奥の部屋から出てきたのはナマエだった。
ナマエの姿を見てルフィはまたもや弱々しい声を出すが、そんなルフィに歩み寄ったナマエは「大丈夫だよ」と目の前で膝を折り、ルフィの頭を撫でる。
『エースは、大丈夫。絶対にダダンと一緒に帰ってきてくれる』
「で、でもッ・・・でもォ・・・!!」
『私は・・・信じてるから。だからルフィも信じなきゃ、エースに叱られちゃうよ』
「!ナマエ・・・・・・」
頭を撫でていたナマエの手が、小刻みに震えていることに気づいたルフィ。
よく見れば目元は赤く腫れ、頬には涙の筋、下唇には噛み締めた跡までもがあり・・・ナマエが無理して自分たちに笑いかけているのは、その場にいる全員が理解していた。
『エース達がいつでも帰ってきてもいいように、私達は私達で出来る事をやろう!』
「うッ・・・ナマエ・・・!」
『ほらほら、ドグラたちもいつまでもそんな暗い顔してないで、まずはご飯にしよう!おじいちゃんが言ってたよ!食える時に目一杯食っておく・・・ってね!』
――エースは必ず帰ってくる。
私を置いて、勝手にいなくなったりなんかしない。
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