EPISODE.30



ずっと野宿という訳にもいかなかった為、サボが書いた設計図を元に秘密基地作りを始める4人。材料は全てゴミ山から調達し、順調に基地を作り上げていく一方で、4人を見つけたダダン一味は影ながらその姿を見守り、随時ダダンに報告をしていた。もちろんエース達はその事には気づいていないだろうが・・・。

ダダン達に見守られながら暫くして完成した秘密基地はフーシャ村も、ゴア王国も、海も全てが一望できる高い場所に建てられた。絶景を眺めながら、4人はこんな幸せな毎日がずっと続くと、そう思っていた。


・・・あの事件が、起きるまでは。








『・・・・・・遅い・・・』


朝から町へと出かけに行ったエース達が、まだ帰ってこない。いつもは夕陽が沈む前には帰ってくるはずなのだが・・・どこかで道草でも食っているのだろうか。
1人秘密基地で待つナマエが不安そうに顔を上げた――その時。


『!』


北の空が真っ赤に燃えていることに気づく。ゴア王国よりも手前――不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルの辺りで火災が発生しているようだった。それもかなりの大規模だ。
エース達が帰ってこないのはあの火事が原因しているのだろうか・・・妙な胸騒ぎを覚えたナマエは居ても経ってもいられなくなり、秘密基地から飛び降りると急いで不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルへと続く山道を走り抜けた。


『な、にこれ・・・ッ・・・』


森を抜けた途端、目の前に広がる火の海となった不確かな物の終着駅グレイ・ターミナル
炎が夜空を赤く染め、所々から銃声音と爆発音が響き渡る。銃声の鳴る方角を見てみれば、男たちが木箱に向けて発砲をし、その木箱には油や火薬が包まれているのか次々と爆発を起こし、そして火と化していた。
一体なんのために、そんな疑問も炎と共に消えていく。

火は時間が経つにつれてどんどんと拡大していき、不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルに住む住民たちは急いで端町へと続く大門に逃げこもうとする――が、大門の前で構えていた軍の兵士たちがそれを許さず、門前払いをされてしまう。
町の市民しか守らないと宣言した兵士たちは端町へ下がっていくと目の前の大門は閉鎖され、不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルの住民らは行き場を失っていた。


『ッ』


あまりにも残虐非道なそのやり方に、サボがこの町から逃げ出したくなるのも納得する。
彼らはここに居る住民たちを、何だと思っているのか。命を何だと思っているのか・・・。

風に乗った火は加速し、ナマエが来た道も炎によって遮断され、退路を絶たれてしまっていた。

ナマエは迫り来る炎に咄嗟に空を見上げた。――空は厚い雲で覆われ、月は完全に隠れてしまっている。なんとかしようにも能力が使えない今、ナマエに出来ることなど無かった。


『エース・・・サボ・・・ルフィ・・・ッ』


このどこかにいるであろうエース達を探すべく、ナマエは1人、炎の中へと飛び込んだ。自然ロギア系の能力者であるナマエに火は効かないものの、灼熱の炎は肌が焼けるように熱く、おまけにだんだんと空気も薄くなって息苦しさが増していく。
意識が朦朧とする中、エース達の名を呼びながら走り続けていたナマエは――視界の端に、二つの小さな影を捉えた。


『エース!ルフィ!』
「!ナマエ!」
「お前なんでここに・・・!」


怪我はあるものの無事な姿に安堵するナマエ。
暑さと恐怖に涙するルフィはナマエを見た途端、大粒の涙を流し抱きつこうとした――が、またエースに叱られると思ったのか寸でのところで止まり、自身で涙を拭った。


『エース、ルフィ無事でよかった・・・っ、サボは?』
「ッ今話してる暇はねェ!サボは無事だ、それよりも今は此処から抜け出さねェと・・・!!」

「誰が逃げていいと言った、悪ガキ共がァ!!」
「「『!!』」」


振り返ればそこにはブルージャム海賊団船長――ブルージャムとその手下達がいた。
咄嗟にエースはナマエとルフィを守るように立ちはだかり、持っていた鉄パイプを握る手に力を込める。


「っなんで火事を起こした張本人がこんな所にいるんだよ!とっくに逃げてるはずじゃなかったのかよ!?」
「黙れクソガキ!・・・絶望だよ、おれ達ァまさかの大ピンチだ・・・へへッ、人間ってのはおかしな生き物でな・・・不幸もどん底までくると笑えちまうよ」


船長がそう言えば手下達も不気味に笑い始め、各々が武器を構え始める。悪寒が走ったエースは彼らを相手にしている暇はないと、ナマエとルフィを連れてこの地獄の業火から脱出しようとする・・・が、背後にもすでにブルージャムの手下が回りこんでおり、退路を絶たれてしまう。


「一緒に仕事をした仲間じゃねェかおれ達ァ・・・死ぬ時は一緒に死のうぜ?」
「誰がおめェらなんかと!死んでもごめんだぜ!」
「つれねェなァ・・・そういやァ、貯め込んだ財宝の隠し場所をまだ吐いてくれてなかったな・・・この地で燃えちまう前におれ達がもらってやるよ!さァ場所を言え!」


自分の命でさえ危険なこの状況下で財宝の在り処を聞くブルージャムのイカれ具合に唇を噛み締めるエース。相手は複数の大人と、船長・・・自分1人だけならまだしも、ナマエやルフィを守りながらの戦いに勝算は無かった。今はとにかくこの場所から逃げ、ナマエとルフィの安全を確保しなければいけない・・・。


「・・・っ分かった、教える」
「!エース!あれはエースとサボが長い時間を懸けて・・・!」
「サボも分かってくれる!!今はお前とナマエ・・・っおれ達の命が大事だ・・・!」
『エース・・・!』


エースは足元にあった木の破片を拾うとそこに地図を書き、5年間貯めた宝の在り処をブルージャムらに説明をした。そのやりとりをしている最中ルフィは悔しそうに涙を流し、そんなルフィを見てエースは叱った。
これで終わりではない・・・命さえあれば、財宝などまた1から集めればいい――そう思った刹那、エースとルフィは背後に回った海賊たちによって身柄を拘束されてしまった。

男達に摘み上げられる2人を助けようと駆け寄ろうとしたナマエも、背後にいた男にナイフを向けられ身動きが取れなくなる。


『エース、ルフィ・・・ッ』

「ッなにすんだよ!場所は教えたじゃねェか!」
「確かに・・・終わったわけじゃない。ウソという可能性もある。おめェらもついて来い」
「ふざけんな!!そんな事やってるうちに逃げ場が無くなる!お前ら勝手に行けよ!!!!」



――カチャッ。

ブルージャムの持っていた銃口が、エースへと向けられる。


「今のおれをこれ以上怒らせるな!ガキの集めた財宝を頼りにしてでもおれァ再び帰りたい・・・貴族共に復讐すると、誓ったんだ!おめェらの兄弟もそうだろ!?あいつらは己を特別な人間だと思ってやがる・・・その他の人間はゴミとしか見てねェ!!」
「ッサボはそんな事思ってねェ!!」
「同じだ馬鹿野郎!!おめェらとつるんで優越感に浸ってただけだ!」
「違う!!!」
「親が大金持ちのあいつに本来、なんの危機感がある?貴族の道楽に付き合わされたのさ・・・腹ん中じゃお前らを見下して笑ってたのさ!!」
「それ以上サボを悪く言うなァ!!!!」


男の腕を噛んだルフィはエースを助けようとする――が、噛まれた男が怒り狂い、何の躊躇いもなくルフィに剣を振り下ろした。
真っ赤な鮮血が飛び散り、悲痛な叫びをあげながら地面をのたうち回るルフィに、再び男の切っ先が向けられる。

――彼らはブルージャム海賊団。子どもだからといって生かしてくれるほど生ぬるい海賊団ではない。


「このガキ・・・死ねェ!!」

ルフィに手を出すなァ!!!
ルフィに手を出さないでェ!!!


エースとナマエ、二人がほぼ同時に叫んだその瞬間――ルフィを殺そうとしていた男も、エースを捕らえていた男も、ナマエにナイフを向けていた男も――ブルージャムを除いた全ての手下達が突然意識を失い、白目を剥きながらその場に倒れていった。
周りを包んでいた炎もわずかではあるが消えており、何が起きたか分からないが自由になったエースとナマエはすぐさまルフィの元へ駆けつける。
斬られた傷口は深く、すかさず能力で治癒しようとするナマエ――だがエースに止められてしまう。すぐ近くにはブルージャムがおり、その能力は決して他人にバレてはいけない。
唇を噛み締めながらも、ナマエは結んであった自身の髪を解くと、マキノがくれたスカーフを裂き、ルフィの傷口を強く押さえるように包帯代わりとして巻いた。



その間、倒れる手下達の中心に立っていたブルージャムは背中に伝う冷や汗を感じ、切羽詰まったようにエースたちを振り返った。


「貴様ら・・・ッ何をしやがったァ!」
「!」
『エース!』


ブルージャムに蹴り飛ばされ、立ち上がろうとするエースの腹部に重く大きな足が圧し掛かる。
身動きを封じられたエースに再び銃口が向けられ、キッと目を鋭くさせたナマエはその場を離れるとエースを踏むブルージャムの足にしがみついた。


『エースを離して・・・!!』
「ッやめろナマエ!」
「ッなんだこの女ァ・・・お前から死にてェのか!?」
『!』


切羽詰ったブルージャムはエースからナマエへと銃口を移し、そして何の躊躇いも無く引き金を引いた・・・。




   



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