EPISODE.24



一度泣くとなかなか泣き止まないナマエは鼻を啜りながら、恥ずかしさゆえかエースの背中に抱きついたまま暫く離れようとしなかった。そんなナマエの性格を一番よく理解しているエースは特に何も言わず、サボはそんなエースを羨ましく思いながらも縄で縛ったルフィへと視線を移す。


「こいつかよ・・・お前が言ってたルフィってやつ」
「え!おれの話してくれたのか!?」
「しつこい奴、って文句言ってたんだ」
「あと何も考えてなさそうな奴ともな」
「にししし!そっかぁ!」


貶されているというのにルフィは何も理解していないのか笑っていた。


「お前、エースの友達か?お前も友達になろう!」
「黙れ!お前にお前と言われる筋合いはねェ!」
「じゃあ名前なんていうんだ?」
「サ・・・って教えねェよ!ッだからお前もここに住めってのに!毎日の山道修行が仇になったな」


そうエースに愚痴るものの、知られてしまったものは仕方がない。かといってこのまま放っておくわけにもいかず、エースはルフィをどうするか考えた。

――暫くしてから一つの結論に至ったエースは自分の腕の中にいるナマエの両耳に手を当て、彼女から"音"を遮断させるとサボに視線を送る。


「殺そう」
「よし、そうしよう」


何の躊躇いもなく、エースの提案に頷くサボ。もちろんナマエにはこの会話は聞こえていない・・・がルフィには丸聞こえで、ルフィは先ほどの笑顔から一変、顔を真っ青にさせると森中に響き渡るぐらいの大声をあげた。


えええ〜!!殺さないでぐれぇ〜!!助けてくれ〜!!
「「ッ!!!」」
『?』


突然悲鳴を上げ助けを求めるルフィに、落ち着きを取り戻したナマエは首を傾げながらも、エースに早くルフィの縄を解いてあげてほしいとお願いする・・・が、エースとサボはそれどころじゃないのか必死に焦った様子でルフィを黙らせようとしていた。


「ッサボ!さっさとやれ!」
「なにいってんだ!?お前がやれよ!」
「おれは人なんて殺したことねェよ!」
「おれだってねェよ!やり方分からねェ!!」
ッ水に落とすのはやめてくれぇえ〜!!
「!よし!川だ!」
「こいつなんで自分から言ったんだ・・・」
「馬鹿なんだよ!」
「助けてくれナマエ〜!!!」
『っエース、ルフィに一体何を・・・』

「――森の中から声が聞こえたぞ!子どもの声だ!!」
「「!!」」


二人を止めようとナマエがルフィの前に立った、その時――不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルから複数の男たちの声が聞こえてきた。咄嗟にサボはルフィの縄を解き、エースはナマエの手を引っ張り、4人で草むらの中へと身を隠す。

――暫くしてやって来たのは"ブルージャム海賊団"の一味、ポルシェーミーだった。
ポルシェーミーたちは船員から金を奪ったエースを血眼になって探しているようで、まさかエースもブルージャムたちの金とは知らず・・・手を出してしまった事に後悔をした。
船長ブルージャムは残忍な海賊で、敵の頭皮を生きたまま剥ぐことで知られており敵に回すと厄介なのだ。

サボとエース、そしてナマエは息を潜めて身を隠していたが・・・隣にいたはずのルフィがいつの間にか消え、気づいた時にはなぜか目の前にいるポルシェーミーに捕まってしまっているではないか。


「ッ離せ〜!!」
「「(なんで捕まってるんだよーー!?」」
『(ルフィ・・・!)』

「なんだこのガキ・・・」
「助けてくれー!エースー!!ナマエー!!」
「(ッあの馬鹿、おれとナマエの名前を・・・!)」
「エースっていったか今?おい・・・一応聞くが今日エースの奴がおれ達の金を奪って逃げた、って言ってんだよ。どこにあるか知らねェよなァ?」


エースとサボは息を呑んだ。もしルフィが白状してしまえばポルシェーミーたちから奪った金だけではなく、今まで盗んできた海賊資金の全てが盗まれてしまう――2人の5年間の努力が、無駄になってしまう。
望みは薄いが、とにかく海賊資金の在り処をルフィの口から出ないよう祈るばかりだった。


「・・・し・・・・・・し・・・知らねェ」


大量の汗をかき、目を逸らし、そして唇を横に尖らせながらシラを切ろうとしたルフィだったが――あまりの嘘の下手さに、呆れて言葉をも失うポルシェーミーたち。


「・・・・・・よしよし。知らねェなら仕方ねェ・・・くくく!思い出させてやるから安心しろ!」
「「!」」
「なんだおい放せよ!どこ連れてくんだよォ!!畜生ォ!!」
『ルフィ――ッ』


飛び出そうとするナマエを止めるエース。相手は一端の海賊・・・下っ端はともかく、ポルシェーミーとまともに戦ったところで、まずタダでは済まされないことだろう。
ルフィはそのままポルシェーミーにアジトまで連れて行かれ、エース達はこれからどうするべきか、唇を噛み締めながらただその背中を見つめることしかできなかった。


『ッね、ねえ!早くルフィを助けに行こう!』
「ばか言うな!ガキのおれ達がどうこう出来る相手じゃねェよ!!」
『で、でも・・・っ』


ポルシェーミーたちがいなくなると、エースとサボは大急ぎで今まで貯めた財宝や金の隠し場所を移動させた。海賊に捕まったなら、ルフィは絶対に口を割るに違いないと思っていたから・・・。
何も出来ない自分の非力さに、ナマエが涙を浮かべながらルフィの安否を心配していたその時――どこからともなく"声"が聞こえてくる。





――痛いよおおお!





『!』




その声は、確かにルフィのものであった。しかしエースとサボには先ほどの"声"が聞こえていなかったのか、その手を止める事は無かった。







――恐いよぉおお!!助けてくれぇええぇえ!





『ッエ、エース!』
「何だよ!?」
『ル、ルフィが泣いてる・・・っ助けてって、言ってる・・・!』
「はあ!?っおいサボ、聞こえたか?」
「い、いやおれには何も・・・声なんて・・・」
『で、でもさっき・・・!』


そう言ってる今も、ルフィの泣き声が聞こえてくるのだ。脳に直接響くようなその悲鳴に、ルフィの助けを求める声にどうすればいいのか分からず、ナマエの瞳から再び涙が溢れる。


『ッ・・・ルフィ、きっとまだあの人たちに言ってないんだよ・・・宝の隠し場所・・・!』
「「!」」
『このままじゃルフィが・・・ッルフィが、殺されちゃうよぉ・・・!』




   



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