EPISODE.23



そして次の日――その日は大事な用でもあったのか、朝早くから慌しく出て行ったエース。エースが出て行ったのを確認したナマエは隣で今だ眠るルフィを起こし、二人はエースの後を追いかけに行った。

――山に住む猛獣、そして自然という脅威。それらを3ヶ月で、全て身を持って経験したルフィは最初出会った頃よりも随分と逞しくなっており、ルフィはナマエの手助けがありつつも難関だったコルボ山を漸く越える事ができ、その急成長にナマエも驚きを隠せなかった。


「森を抜けた・・・!」


コルボ山を北へ抜けると、常時悪臭漂うゴミ山があった。
捨てられた大量のゴミは日光による自然発火で、いつも煙を上げている。ここは不要になった物と人間が集まる無法地帯・・・犯罪と病気が蔓延する地を人々は【不確かな物の終着駅グレイ・ターミナル】と呼んだ。


「サーボー!」


不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルから少し離れた森の方角から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。――エースだ。二人は顔を合わせると声のする方へと足を進め、暫く進んでいくと目の前に聳え立つ大木の上にはエースと、そして不確かな物の終着駅グレイ・ターミナルに住む10歳の少年――サボの姿があった。

エースが毎日ここに来ていた理由は唯一心許せる友であるサボに会いに来ている事と、それともう一つ――。


「うわ!すげェ!おれよりすげェ!大金だぞどうした!?」
「大門のそばでよ、チンピラ達から奪ってやった!どっかの商船の運び屋かもな」


二人はいつか海賊として海に出るための海賊資金として、5歳の時から5年もの間、強盗などを働いて金を集めていたのだ。意気揚々にサボと海賊船の話をするエースを見つめていたナマエは、漸くエースの怪我の理由が知れて納得すると同時に――言葉に表すには難しい、モヤモヤとした"ナニカ"が胸を苦しめた。


『・・・・・・』


エースが海賊になりたがっていたのは知っていたが、まさかそんな計画を企んでいたとは思いもよらなかった。
自分には何も話してくれなかった兄を急に遠くに感じてしまい、サボと楽しそうに話すエースがまるで別人のように思えた。
きっと自分に話さなかったのは余計な心配をかけさせないがためなのだろうが・・・少しくらい・・・せめて心許せる友人が出来たことぐらい教えてくれてもよかったのではないか。

"疎外感"、"孤独感"――この時ナマエには知らない様々な感情が芽生え始めたその時、隣にいたルフィが何の突拍子もなく突然二人に声を掛けた。


「海賊船〜!?お前ら海賊になんのか!?おれも同じだよ!!!」
「「・・・・・・!!」」


ルフィの姿を視界に映した瞬間、エースは今までの自分の行いを酷く反省した。ルフィを撒く為に人が通れない険しい道ばかり選んでいたというのに・・・まさか付いてこれるようになるなんて、思ってもみなかった。
おまけに留守番しているはずのナマエまでなぜルフィと一緒に此処にいるのか・・・次から次へと来る問題に頭の整理がなかなかつかないエース。


「っ」


一方で、頭を抱えているエースの隣にいたサボはナマエを見つめたまま、分かりやすいほどに顔を真っ赤にさせて釘付けになっていた。くりっとした大きな瞳に長い睫毛、筋の通った鼻、弾力のある愛らしい唇に、陶器のような肌・・・子どもといえどナマエは今の時点で既に大人顔負けの容姿を兼ね備えており、サボが見惚れてしまうのは無理もなかった。・・・最も本人は全く自覚を持っていないようだが。

そんなサボの様子を見たエースは「言わんこっちゃねェ」と小さく舌打ちをすると木から飛び降り、慌ててナマエが着て居るローブについているフードを被せ顔を隠す。


「お前ッ・・・なんでここに!」
『・・・エースが心配で。ルフィと、ついてきたの』
「!」
「なあエース!お前、毎日こんなとこまで来てたんだな!」
「ッ黙れ!・・・話は後で聞くからナマエ、早く一緒に家に帰るぞ」
『やだ』
「はあ!?」


今まで自分の言う事には何にでも頷いていたナマエ。それを初めて拒まれたエースは予想外の出来事に眉間にシワを寄せた――が、ナマエを振り向いた瞬間、ギョッと目を見開かせた。

ナマエの瞳から、大粒の涙が流れていたのだから。


『ッエースが、心配で、見に来た、のに・・・っひっく・・・エース、私に隠し事ば、っか・・・ッ私、何も知らない・・・っ!』
「だ、だからって何も泣くことねェだろ!?」
『うっ、エ、スが、私から、離れ、ちゃ・・・う・・・ッわた、し1人、じゃ、生きて、いけないッよォ・・・!』
「お前を置いて離れるわけねェだろ!わ、悪かった。謝るから!兄ちゃんが悪かった!」
『ふ、うぅう・・・ッ』


妹の涙に珍しく狼狽えるエース。さすがのエースも溺愛する妹の涙には弱いらしい。親馬鹿ならぬ兄馬鹿っぷりにサボが心の中で笑っていたのはいうまでもない・・・。
出会った時からナマエの話をエースから聞かされていたが、本当に妹が可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。

エースは事ある毎に口にしていた――「ジジイだけじゃ頼りねェ。おれが"名声"を手にして"あいつら"の目を欺きナマエを守るんだ」・・・と。海賊になりたいと願った理由の一つに、ナマエが大きく関係しているのだ。エースなりにナマエを想ってこその行動だったのだがどうやら裏目に出てしまったらしい。

泣きじゃくるナマエを宥めるように抱きしめながら、背中をトントンと優しく叩くエース。その姿は兄というよりは母のようだ。


『・・・っもう、私に、隠し事・・・しない?』
「しねェ!」
『ほんとに?』
「ああ!絶対に!」



   



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