EPISODE.22



「なあなあ、エースはいつもどこに行ってんだ?」
『それは・・・私にもよく分からないの』
「何でだ?お前ら兄妹なんだろ?」
『・・・昔はね、よく連れて行ってくれたんだよ。でも、もう駄目だって言われちゃって』


なぜ駄目なのか、ナマエ自身もよく分かっていなかった。
しかしエースはエースで、何かやり遂げなきゃいけない事があるのだろう。「もう少ししたら教えてやるよ」と言われていたため、それを教えてもらう時が来るまでナマエはエースの言うとおり、大人しく留守番をしていたのだが・・・最近、思うことがあるのだ。


『エースね、最近・・・よく怪我して帰ってくるの』
「猛獣と戦ったからか?」
『ううん。猛獣なんかじゃない。エースは、強いもん』


コルボ山の猛獣を倒すことなど、エースにとって日常茶飯事・・・どうってことはない。

怪我の理由は別にあるはずだ。ナマエはまたエースが1人で無茶な事をしているのではないかと心配でならなかった。一体何をしているのか問い出してもエースは「大丈夫だって、心配すんな」の一点張り・・・。


「じゃあさ、おれと一緒に確かめに行こうぜ!」
『ええ?で、でも、エースに怒られちゃうよ』
「大丈夫だって!」
『・・・・・・』
「行きたくなければいいけどよ、別に」


行きたくないわけではない。大事な兄の怪我の理由が気にならないわけがなかった。

話し込んでいるうちに辺りはすっかり暗くなり、ルフィはおれは明日こそ山を越えるぞ、と意気込みながら数秒もしないうちに眠りについた。そんな彼の早技に驚きつつも布団をかけたナマエは静かに家を出る。

電灯も何もないコルボ山を唯一明かりで照らしてくれる月――今日は上弦の月であった。

そろそろ帰ってくるであろうエースに余計な心配をかけないよう、家からそう離れていない、海が一望できる岬に足を運ばせたナマエは静かに腰を下ろす。
ゆらゆらと波が揺れるのが月の光でよく見える。一定時間で聞こえる波音を聞きながら、ナマエは悩んだ。明日ルフィと一緒に行ってもいいのか、と。


『うーん・・・エース怒らせると怖いし・・・でも何してるのか気になるし』
「ナマエ」
『ッ!?』


ぶつぶつと独り言をしているナマエに背後から声をかけたのは、エースだった。
いつからそこにいたのだろうか、まさかさっきの独り言を聞かれていただろうか。ダラダラと冷や汗を浮かべるナマエだったがそんな不安も一瞬で消える。
最初は木の影で見えなかったエースの顔が月明かりの下に照らされ、そこには以前よりも酷い怪我を負ったエースの姿があったのだから。


『エース・・・っど、どうしたのその怪我』
「ん?ああ・・・心配すんな、どれも掠り傷だ。見た目ほど酷くねェよ」
『ッそういう問題じゃないよ!』


つい、大きな声を上げてしまった。
珍しいナマエの怒号に驚くエースの手を掴んだナマエは目に涙を浮かべながら自分の前に無理矢理座らせた。


「お、おいナマエ」
『ジッとしてて!』


言いながら、少し乱暴に自分の額とエースの額を合わせ、静かに瞳を閉じたその瞬間――額に三日月の模様が浮かび上がり、やがてナマエの体が淡い光に包まれる。そしてその光はナマエからエースへと移りゆく。
ほんの数秒間経つと二人を包んでいた光は消えていき、それと同時にエースの至るところにあった身体の傷も全て癒えていた。


「・・・駄目だろ、外で力を使っちゃ」
『エースが怪我しなければ使わないもん』


キラキラの実――それは伝説の悪魔の実とも呼ばれ、数百年に一度、選ばれし者の前にしか姿を現さないと云われている大変希少なものだった。
物心ついた頃、導かれるようにして目の前に現れたその実をナマエは何も知らず食してしまい、後日それを知ったガープは白目を剥いて卒倒していた。

――伝説と呼ばれる悪魔の実の能力者となったナマエの存在が万が一にでも世間に知られてしまったら最後・・・まず平穏に暮らすことなど出来ないだろう。・・・最も、海賊王の子どもとして生まれた時から、その壮絶な人生になることは決まっていたのかもしれないが。

キラキラの実は月の力を利用する事ができ、その力は計り知れないがある一説によれば世界を揺るがすほどの脅威的な力を秘めている・・・とまで云われているそうだ。

その力は悪事を働く海賊だけに限らず世界政府までもが血眼になって探しており、ガープは意地でも愛する"家族"を守るため、ありとあらゆる権力を駆使してナマエの存在を隠し通し、またナマエが"選ばれし能力者"だという事をガープから聞かされていたエースもナマエが危険な目に遭わぬよう、側で守り抜くことを堅く決めていた。

――それなのにたった今自分が怪我を負ってしまった事によって、何も知らないナマエに能力を使わせてしまった。もしさっきの光景を第三者に見られていたら――想像したくもない未来に、エースは自嘲気味に笑みをこぼした。


「・・・おれが危険な目に遭わせちゃ、元も子も無いよな」
『え?』
「分かったよ。おれが悪かった。もう危険な事はしねェよ」


・・・なるべく、と小言で付け足すエースの余計な一言にナマエの眉間にシワが寄る。ナマエはエースの約束を守るが、エースはナマエの約束を破ってばかりなのだ。
やっぱり危ない事をしてたのか・・・と自分で墓穴掘ったことにも気付かず呑気に笑っている兄に頬を膨らませているとエースはこれ以上ナマエの機嫌を損なわせないよう、わざとらしく話題を変えるように「ほらもう遅いから寝るぞ」と無理矢理ナマエの手を引っ張り、家へと連れて帰った。

――この時、ナマエはエースの背中を見つめながら心に決めた。明日、ルフィと共にエースの後をついていこう――この目できちんと、エースが一体どこで何をしているのか確かめよう、と。





   



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