EPISODE.21



これは10年前に遡る。



フーシャ村裏にある、コルボ山。
此処にはトラ、クマ、ワニなどの猛獣が生息しており、とてもではないが人が住めるような場所ではなかった。――山賊、ダダン一家を除いては。

ダダン一家の住む古屋の近くで花を摘んでいた、当時10歳のナマエは背後から自分を狙う猛獣の存在に気づかず、澄んだ声で陽気に歌いながら一本、一本と花を摘んでいた。
・・・草木の中から光る鋭い牙と爪を持った猛獣はナマエに狙いを定めると、物凄いスピードで突進をしてくる。


「ガアアア!」
『・・・?』


両手にいっぱいの花を持ったナマエが振り返ったと――ほぼ同時。
突進してきたはずの猛獣はナマエの目の前で止まり、ド派手な音を立てて地面に倒れていった。


「おれがいない時はなるべく外に出るなって言っただろ、ナマエ」
『エース!』


猛獣の上に立つ双子の兄、エースの姿を見て笑みをこぼすナマエ。
大人でも倒すのに一苦労する猛獣を、しかもたった一撃で倒したエースはナマエの前に降り立つと、自分を見て嬉しそうに駆け寄ってくる呑気な妹を見て、先が思いやられると一つ溜息をこぼした。


「だからじいちゃんおれは!!海賊王に!!」
「なーにが海賊王じゃ!!」

「!」
『あっ』


フーシャ村へと続く山道から、懐かしい声が聞こえナマエから笑みがこぼれる。一方のエースは不機嫌そうに眉を顰めながら、先ほど倒した猛獣の上に腰をおろした。


『おじいちゃーん!』
「おーナマエ!元気にしてたか!?」
「イデー!くっそーおれゴムなのに何で痛ェんだー!?」


だらしなくも幸せそうに手を振るガープ。その反対の手にはナマエ達より小さい少年がいた。
頬をつねられている所を見ると彼はガープに叱られここに連れてこられたようだが・・・人見知りの激しいナマエは慌てて踵を返すと、エースの後ろに隠れるようにして逃げる。


「ガ、ガープさん!ホントもうボチボチ勘弁しておくれよ!エースもナマエももう10歳だよ」
「これ以上我々じゃ手に負えニーよ!引き取ってくりよ!!」

「あいつがエース、そんで後ろにいるのがナマエじゃ。二人とも双子でな・・・歳はお前より3つ上。今日から2人と一緒に暮らすんじゃ仲良うせい!」
「「決定ですか!?」」


家から出てきたダダン一家の棟梁、ダダンの懇願も虚しく、海軍であるガープに弱みを握られている手前断るに断れず、一睨みされてしまったら最後、預かるという選択肢しか残されていなかった。
ガープは仕事に追われ忙しいのかルフィを置いてくとナマエを一度抱きしめた後、名残惜しそうにその場を去っていった。


少年の名はモンキー・D・ルフィ。ガープの実孫だそうだ。


――山賊ダダンの家での決まり事は、一日に一度茶碗一杯の米と、コップ1杯の水が保障され、後は自分で食糧の肉を狩って自分で勝手に育つか、山賊の仕事の下働きや犯罪に加担して働くかであった。それを聞いて、てっきり泣いて帰ってくれると思い込んでいたダダンだったが、なんとルフィはあっさりと承諾した。


「もっと幼い頃にじいちゃんにジャングルに一人で放り込まれたことがあったし、おれいつか海賊になるんだ!!それぐらいできなきゃな!」


海賊、という言葉にエースの目の色が変わる。
エースはナマエに「行ってくる」と言って家を出て行き、何を思ったのかルフィもその後を追いかけに行った。


「おーい!おれルフィ!友達になろう!!」


山のつり橋の上で、背後からそう叫んでくるルフィ。しかしエースにとって一部を除いた人間は全て敵だ。誰であろうと、それが例え自分より幼い子どもであろうと変わりはない。仲良くする気など更々無かった。
無視を決め込もうと思ったがこのままついて来られたら困ると感じたエースは持っていた鉄パイプを握りなおすと踵を返し、自らルフィへと近づいていく。
――友達になってくれるのか、そう勘違いしていたルフィが笑みを浮かべたその瞬間・・・・・・エースは何の躊躇いもなく鉄パイプを振り回し、ルフィをつり橋から落とした。


「あああ〜〜!!」


橋の下は無限に広がる森の中・・・だがエースにとってガープの孫が一人死んだところで何とも思ってなどいなかった。

その後"いつもの日課"を済ませたエースは家に着くと、先にベッドで深い眠りについていたナマエの横に静かに腰を下ろす。もちろんそこにルフィの姿はなかった・・・が、此処では誰も心配する者はいない。

すやすやと気持ち良さそうに眠る妹の頭を撫でながら、リビングで酒を交わすダダンたちの会話を盗み聞きする。


「だいたいエースもナマエもとっくに見放してんだ!!どこで野垂れ死んでもいいと思ってんのに憎まれっ子世に憚るとはこの事だ・・・あいつらは"鬼の子"だよ!!?万が一政府が嗅ぎつけてみなよ!あたしらどんな目に遭うか!」
「まーまーお頭・・・いいじゃないっすか、ナマエはよく働いてくれるし、いい子だし」
「あんた達そうやって甘やかしてるといつか痛い目みるからね!!」

「・・・・・・」


エースはその会話が間違ってもナマエの耳に届かないよう布団を顔から被せると、自分も横になり無理矢理夢の中に入っていった。

――それから一週間。どこをどうやって生きていたのか、ボロボロになったルフィがダダンの家に帰ってきた。しかしルフィはエースに文句を言う事は一度も無かった。


『(・・・あの子、またエースの後追いかけにいってる)』


懲りるという言葉を知らないのかルフィは翌日もその翌日もエースを追っては見失う日々を続けていた。
毎日毎日、雨の日も風の日も必死にエースを追いかけ続け、生傷絶えぬ追跡が3ヶ月を越えた頃――ルフィの傷だらけの腕に包帯を巻きながら、それまでまともに会話もしなかったナマエが初めて自分から話しかける。


『・・・どうしてこんなにまでなって、エースを追いかけるの?』
「決まってんだろ!友達になりてぇからだ!」
『・・・怪我をしてまで?』
「当たり前だろ!!」


ルフィの考えている事がナマエには理解できなかった。
あんなにもあからさまに突き放され、わざと険しい道を通らせ、酷いことをされているというのに、ルフィは一度もエースの文句を言ったことはなかった。それどころか兄の強さを褒めてばかりだ。

自分が尊敬する兄を初めて褒められた喜びから、思わずナマエから笑みがこぼれる。


「あ!やっと笑ってくれたな!」
『っ』
「お前、エースにしか笑わねェんだもんなー。おれが話しかけるといっつも逃げるし!まァそんな事どうでもいいや!なあなあ、お前はおれの友達になってくれるよな?」


ぐいっと至近距離で純粋な瞳でそう言われ、逃げるに逃げられなくなってしまったナマエ。・・・逃げていたのは決して嫌いとかそういう理由ではなくただ単に人見知りが激しく、どう話せばいいか分からなかったからだ。
エースからは放っておけと言われていたが友達になっちゃ駄目とは言われていない・・・。押しに弱いナマエが小さく頷けばルフィは満面の笑みを浮かべて「よろしくな、ナマエ!」と抱きついた。


「んじゃ、あいつんとこ行ってくる!」


機嫌が良くなったルフィは首から下げていた麦わら帽子をかぶり、再び家を出ようとした――が、視界に映った見覚えのあるその麦わら帽子に目を大きく開かせたナマエは出て行こうとするルフィの腕をぐいっと掴む。


「な、なんだよ」
『そ、その帽子・・・』
「これか?これはな、シャンクスから預かってんだ!」
『!』


シャンクス、その懐かしい響きに目を輝かせたナマエはルフィに自分も数ヶ月前にシャンクスと出会い、友達になった経緯を話した。すると同じようにルフィも目を輝かせ、すっかり仲良くなった二人は陽が落ちるまで、シャンクスについて熱く語るのだった――。




   



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