EPISODE.17
――親を失った白ひげ海賊団の船員達は、全力で退却の準備にかかっていた。
育ての親の遺体を海軍本部に残していくことは忍びなく、その白ひげの遺体に手を出し、事もあろうか白ひげの【グラグラの実】の能力を吸い出して自分のものとしたティーチは到底許しておけないが、今はとにかく海軍本部から逃げることが先決であった。
マルコは一番隊隊長として、哀しみに暮れる暇なく皆に退却を促し続け、皆は涙を呑んで退却を続けた。
・・・ジンベエはその腕に、今だ放心状態のナマエと瀕死のルフィを抱きかかえて逃げていた。
逃げながら必死にルフィとナマエに呼びかけ続けた。
「ルフィ君、ナマエ君!しっかりせぇよ!!生きにゃいかんぞ!!!エースさんがおらぬこの世界を・・・明日も明後日も!!お前さんら、しっっかり生きにゃあいかんぞ!!!」
それはジンベエ自身、自分にも向けられた言葉なのかもしれない。
白ひげの大恩に報いる為、エース救出の為にその命を捨てる覚悟で乗り込んできたというのに、二人は目の前で死に、そして自分がのうのうと生き残っている。
ジンベエもまた、白ひげとエースのいない世界で、生き続けねばならなかった。
――ただ、ジンベエには生きる目的があった。
"白ひげ"がその命に変えて守り通し、インペルダウンの監獄の中でエースから直接頼まれたからだ。
「ジンベエ・・・おれがこのまま死んだらよ、悪ィけど妹と弟のこと・・・気にかけてやってくれよ・・・」
「いくらアンタの妹弟じゃとゆうても海賊の世界・・・わしはホレ込んだモンにしか手は貸さんし、守りもせん」
それに値する者達だった。ならば"約束"は果たせねばならない。
・・・だがここは海軍本部の本拠地マリンフォード。大将級の戦力を1つとして欠いていない海軍がそう簡単に海賊を逃がすはずもない。
クザンが湾の海水を再び凍らせて艦の身動きを奪い、さらに地下からはサカズキがマグマを噴出させて海賊達の陸地での足場を奪いながら、ジンベエの行く手に立ち塞がってくる。
「二人をこっちへ渡せ!!!ジンベエ」
ジンベエは、自分がサカズキに勝てるとは思ってはいなかった。圧倒的な力量差があることは充分にわかっている、だが命に代えても守るという覚悟はとうに決まってあった。ここで命を張らずして、どこでこの命を使うのか。
ジンベエはとにかく海へ出れさえすれば、魚人である自分は逃げ切れると踏んでいた・・・が、海は凍りつき、逃げ場は失われていた。ジンベエの姿を目にしたクザンは「すまんね、ジンベエ」と悪気なさそうに謝り、行き場を失ったジンベエの背後からサカズキの拳が、エース同様にその身体を貫く。
「・・・!!」
ナマエとルフィを、その体で守るようにしてサカズキの拳を受ける様は、まるで二人を守ったエースのようであった。
苦しむジンベエを見たナマエの瞳が再び――揺らぐ。
『・・・っ・・・』
その瞬間、それまで隠れていた月が、雲の隙間から顔を出す。
今宵は満月――月光を浴びたナマエの身体は星のように輝きを放ち、その瞳がジンベエを攻撃するサカズキを捉えると――目にもとまらぬ早さでジンベエの腕から抜け、サカズキを蹴り飛ばした。
「!!」
――着地したナマエの額の三日月の模様が、いつもより濃く光り出していることに気づいたサカズキ。
怒りに染まったその瞳はもはやサカズキしか映しておらず、シャボンディ諸島から中継で見ていたレイリーはナマエの異変に「まずいな」と額に冷や汗を浮かべていた。
「・・・その厄介な力・・・目覚める前に、手を打っとかにゃァならんのォ」
『よくも・・・ッエースを・・・・・・ッ!』
「よせやい!!エースの妹!!!」
マルコがそう叫ぶも、今のナマエに届くはずもなかった。
それまでは敵であろうと傷付けたくない一心で相手に一切傷を負わせず、ただ気絶させていただけだというのに――まるで人が変わったかのようにナマエは、それこそサカズキを殺す勢いで攻撃を仕掛ける。キラキラの実の力とは違う、また別の力を感じ取ったサカズキは受身をとりながら、厄介そうに小さく舌打ちをした。
大将サカズキと互角・・・否、それ以上に戦うナマエの姿に周りが息を呑む。
――ナマエがサカズキと戦っている間、サカズキの攻撃によって意識を飛ばしたジンベエとルフィは突如現れた"死の外科医"の異名を持つトラファルガー・ローの潜水艦に運ばれていた。
しかしそれを見逃さなかったのは・・・黄ザルこと、ボルサリーノだった。
「"麦わらのルフィ"、"死の外科医ロー"・・・まとめて死んでもらうよォ〜?」
「くそ・・・!!」
まさに絶体絶命――誰もがそう思った、その刹那。
たった一人の男の声が、マリンフォードに響き渡る――。
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