EPISODE.14



カランッ。


――強く目を瞑っていたナマエは、何かが落ちる音にゆっくりと目を開く。


「『!!』」


ナマエと、ルフィの視界に映ったのは・・・・・・サカズキのマグマによって体を貫かれた兄、エースの悲惨な姿だった。


「エースー!!!!!」



ルフィの悲痛な叫び声が、ナマエの頭の中に木霊する。エースがいつも身に着けていた赤い数珠のネックレスはちぎれ、バラバラになって地面を転がっていた・・・。

言葉を失ったナマエの虚ろな瞳が大きく揺らぎ、マリンフォードの全ての人間に衝撃が走った。
――サカズキはこうなる事を知っていた・・・溺愛する妹と弟を狙えば兄は必ず身を呈して守り抜く、ということを。それを逆手に取ったのだ。

海賊たちはサカズキを止めにかかるが自然ロギア系のサカズキを覇気以外で止めることなどできず、サカズキはエースにとどめを刺そうと再度、そのマグマの拳を振り上げる。


「やめろォ!!!」


虚しく響き渡るルフィの声。
サカズキの拳をかろうじて受け止めたジンベエだがその手はマグマによって燃え焦げてしまう。


「つまらん時間稼ぎはよせ。元七武海だ、わしの力は存分に知っとうが」
「この身を削って・・・時間稼ぎになるなら結構!!もとより命などくれてやるハラじゃい!!」


――サカズキの後ろでは、元の姿に戻ったセンゴクがガープを押さえ込んでいた。海軍の立場と、自分の正義と、愛する息子達との狭間に立ち・・・この中で一番辛い状況だったのはガープであったろう。センゴクにそのまま自分を押さえ込むよう指示するガープ。

そうでもしないと、今にでもサカズキを殺してしまおうとする自分がいる。

死に直面する息子を助けてやることも出来ず、さりとてその死を受け入れることも出来ず・・・その精神はギリギリの処で踏ん張っていたのか、ガープは突然の出来事に取り乱した。理性を越えて出たその感情こそが、ガープの本心だった。


「"裏切り者"への制裁も必要なようじゃのう!!!」


再び腕のマグマを沸き立たせた時・・・サカズキを制したのはビスタ隊長とマルコ隊長の二人だった。


「あーうっとおしいのォ。覇気使いか・・・"火拳"はもう手遅れじゃとわからんのか」
「「くッ・・・!」」


隊長だけでなく誰の目にも明らかだった。いくらサカズキを制しても、マグマに体を貫かれたエースの命がもたないことを・・・。
エースはドサリと膝から崩れるようにナマエとルフィの方へと倒れこみ、二人は愕然としながらもエースの血だらけの体を受け止める。


「・・・・!ごめん、なァ・・・・・ナマエ・・・・・・ルフィ・・・・・・ちゃんと助けて貰えなくてよ・・・・・・」」
『ッ・・エ・・・ス・・・ま、ってて・・・い、今・・・』


体の震えが、止まらない。生理的な涙を流しながらもナマエはエースの怪我を癒そうと、手をかざす。――しかしいくらたってもエースの傷は塞がらず、受け入れられない現実にナマエは何度も首を左右に振りながら、諦めずに治癒を続けようとするが・・・エースに握られた手によって止められる。


「や、めろ・・・ッ自分の命の終わりぐらいわかる・・・もうもたねぇ・・・だから聞けよナマエ、ルフィ・・・・・!」
「な、なに言ってんだよ・・・ッバカな事言うな!!」
『そんな事、言わないで・・・!』


いつになく弱気なエースに、ナマエとルフィは駄々をこねた。


『約束、したじゃない・・・っ絶対死なない、って・・・私やルフィを、守ってくれるって・・・!』
「・・・・・・そうだな。"サボの件"と、お前達みてェな世話の焼ける妹や弟がいなきゃ、おれは・・・生きようとも思わなかった・・・誰も"それ"を望まねェんだ、仕方ねェ・・・!!」


エースの脳裏には、物心ついた時から自分やナマエの血が世界から忌み嫌われ、憎まれ、恨まれ、絶滅を望まれることしか知らなかった幼き日々が蘇った。
人々から浴びせられる、これでもかの憎悪の言葉の数々に、自分の存在意義や生きていていいのかすらわからなかった日々。
そんな自分に向き合ってくれたのは、自分と同じ苦しみが分かるナマエと、ガープ、ダダン・・・そして"サボ"とルフィであった。


「そうだお前ら・・・いつかダダンに会ったら、よろしく言っといてくれよ・・・なんだか死ぬとわかったら、あんな奴でも懐かしい・・・。――心残りは一つある、お前らの"夢の果て"を見れねェ事だ・・・だけどお前らなら必ずやれる!!!おれの妹と弟だ・・・!!!昔、誓い合った通り・・・おれの人生には・・・悔いはない!!おれが本当に欲しかったものは・・・どうやら"名声"なんかじゃなかったんだ・・・おれは"生まれてきてもよかったのか"、欲しかったのはその答えだった・・・・・・」


苦しみながら喋るエースにナマエも、ルフィも涙が止まらない。
顔を上げたエースは目の前で泣きじゃくるナマエの涙を拭い、力なく笑った。


「すまねェ、な・・・ナマエ・・・最後まで、迷惑をかけちまって・・・・・・」
『っそんな事ない!お願いだから・・・っ1人に、しないで・・・・私、エース無しじゃ生きて・・・ッ生きていけない!』
「へ・・・へ、バカ言うな。お前は1人なんかじゃねェよ・・・・」
「エース!!!」
「ルフィ・・・おれがこれから言う言葉を・・・お前、後からみんなに伝えてくれ・・・。オヤジ・・・みんな・・・・・・そしてナマエ・・・ルフィ。今日までこんなどうしようもねェおれを、鬼の血を引くこのおれを・・・・・・!!!愛してくれて・・・・・・ありがとう!!!

「『!!!』」


ズル・・・と、二人の腕からすべり落ちるようにして地面に倒れるエース。
それと同時にエースのビブルカードは燃え尽きて消え、ルフィは呆然とエースを呼びかけるが返事は無い。・・・ただ、嬉しそうに、幸せそうに笑みを湛え眠るようなエースがいた。


『〜〜〜ッ・・・!!!!』
「っ・・・・・・!!」


――ジジイ・・・おれは生まれてきてもよかったのかな。




――約束だ!おれは絶対に死なねェ!!お前らみたいな弱虫の妹と弟を残して死ねるか!



――ナマエ、おれ達は鬼の血を引く子どもだ・・・けど、どんな悲しみも苦しみも乗り越えて、二人で強く生きていこう。おれとナマエなら絶対に大丈夫だ!二人一緒にいれば恐くない・・・なんてったって、無敵の双子なんだからな!!


―― 知ってるか?盃を交わすと兄弟になれるんだ!おれ達は今日から兄弟だ!!









   



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