EPISODE.13
クザンを押し退け、エース達が走る最中――突然地面が大きく揺れ始める。
一瞬、白ひげの能力かと思ったが・・・それは違った。激しい地響きと共に物凄いスピードで現れたのは先ほど湾内に乗り上げてきた外輪船であった。
パドルで陸を勢いよく走り抜ける外輪船の上には、白ひげ海賊団傘下の大渦蜘蛛海賊団とその船長、スクアードの姿があった。
「オヤジイイ!みんな!逃げてくれ!この戦場はおれ達が受け持った!!」
「・・・あの野郎共・・・・・・」
今だ血が流れ続けている白ひげの腹部に出来た傷は、センゴクとサカズキの罠にまんまとハメられたスクアードによるもの・・・その罪滅ぼしのつもりなのだろうか、スクアードは死ぬ気でいるのだ。
「例え償いにならなくても、こうでもしなきゃおれの気持ちが収まらねェ・・・!」
「っスクアードのやつ、つまらねェ方法を選びやがって・・・!」
今だ手錠が外れないマルコは小さく舌打ちをし、仲間に早く錠を外すよう指示をする。
スクアードたちを乗せた船が真っ直ぐと進んでゆく中――突然、船の動きが止まる。
何かにぶつかったのか、船下を覗いてみると・・・なんとそこには白ひげがいて、白ひげは重症にも関わらず片腕一つで一隻の船を止めたのだ。
「ハア・・・ハア・・・」
「オヤジ!?」
「ッ子が親より先に死ぬなんて事がどれほどの親不孝か・・・てめェには分からねェのかスクアード!?」
「!!」
「付け上がるなよ!おめェの一刺しくらいで揺らぐおれの命じゃねェ・・・!誰にでも寿命ってもんがあらァ!」
白ひげの言葉にスクアードは唇を噛み締めた。肩で息をしながらエースたちを振り返った白ひげは戦場で戦う息子たちに向けて、声を張り上げる。
「ここでの目的は果たした!もうおれ達はこの場所に用はねェ!!」
「オヤジ・・・!」
「よーく聞けェ!白ひげ海賊団!!ッ今から伝えるのは、最後の船長命令だ!!」
最後の船長命令、という縁起の悪い言葉に海賊たちは何かを悟ったのか、涙する者もいた。
「おめェらとおれはここで別れる・・・全員、必ず生きて無事に新世界へ帰還しろォオ!!!」
「オヤジ!ここで死ぬ気か!!」
「――おれは時代の残党だァ・・・新時代におれの乗り込む船は無ェ!!」
大気にヒビをいれ、その振動は圧倒的な衝撃波となってかけめぐる。
大きな地響きと共に周りの海は大きく波打った。
「行け!!野郎共ォォオオ!」
「おっさん!」
「オヤジ・・・!」
「振り返るな――時代は変わる・・・!」
巨大な地割れと共に周りの建物は次々と崩壊していき、辺り一面に煙が舞う。
白ひげの判断に納得しない者達は涙をするがこれは船長命令・・・白ひげの思いを無駄にするわけにはいかず、海賊たちは悲しみを堪え、次々と退却していく。
「・・・ずいぶん長く、旅をした。ケリをつけようぜェ・・・海軍!!!!」
既に立つのもままならないであろう瀕死の状態の白ひげに、海軍の集中砲火が向けられる。
しかし白ひげはそれを避ける事無く全て受け止め、逃げていく息子たちを守るようにして薙刀を振り払い、立ちはだかった。火拳のエースに気遣う事も無くなった今、白ひげは本気でマリンフォードを沈めるつもりなのだ。・・・己の命と共に。
周りの海賊たちが涙を流しながら逃げていくなか、エースだけはその場に立ち尽くし、海兵と戦う白ひげの背中を見つめる。
――自分が原因で多くの犠牲者が出てしまった。そして今、親同然の白ひげまでもが自らの命を犠牲に1人で戦っている。
『エース・・・』
「エース!行こう!おっさんの覚悟が・・・!」
「・・・・・・・・ッ分かってる。無駄にはしねェ」
白ひげを囲い、一斉に攻撃を仕掛ける海兵にエースは火を放つ。
・・・炎はエースと白ひげを囲うように燃え上がり、白ひげは静かに後ろに居るエースを振り返る。
――エースは膝と手を地面につけ、深く頭を下げていた。
「・・・・・・言葉は、いらねェぞ・・・・・」
「・・・・・・・っ・・・・・・」
「・・・一つ聞かせろ、エース・・・おれがオヤジで、良かったか・・・?」
「ッ・・・勿論だ・・・・・・・!!」
「グララララ・・・!」
これがエースと、白ひげの最後の会話であった。
エースは何も言わず立ち上がると踵を返し、その場を後にする。その背中を見届けながら白ひげは最後の力を振り絞って、周りの海兵を倒していく。
「軍艦を奪ったぞ!早く乗れ!!」
港では無傷だった海賊船と、奪い取った軍艦がすでに出航の準備をしていた。
走り続けるエース達を護衛するようにジンベエも後に続き、背後から聞こえてくる仲間の悲鳴にエースは悔しそうに唇を噛み締めた。
「火拳のエースを解放して即退散とは、とんだ腰抜けの集まりじゃのう白ひげ海賊団」
「何ィ!?」
「見え見えの挑発に乗るんじゃねェ!立ち止まったらそれこそ奴の思うつぼだ!」
「まあ船長が船長・・・それも仕方ねェか。白ひげは所詮・・・先の時代の"敗北者"じゃけェ・・・!!」
敗北者。
大将サカズキの言葉にエースの足が止まり、自然とナマエ、ルフィ、ジンベエの足も止まる。
グッと強く掌を握ったエースは振り返ると背後にいるサカズキを睨んだ。
「敗北者・・・?ッ取り消せよ・・・今の言葉・・・!」
「!よせエース!立ち止まるな!!」
「勝手に言わせておけばいいんだ!」
「ッあいつオヤジを馬鹿にしやがった・・・!!」
「取り消せだと?断じて取り消すつもりはない・・・お前の本当の父親ロジャーに阻まれ"王"になれず終いの永遠の敗北者が白ひげじゃァ、どこに間違いがある・・・!!」
ルフィ、そして海賊たちがサカズキの言葉に耳を傾けるエースに声を掛けるが、もはやエースの耳にはサカズキの言葉しか入っていなかった。怒りのあまり炎を身に纏うエースにサカズキは不適に笑い、帽子をかぶりなおしながら話し続ける。
「オヤジオヤジとゴロツキ共に慕われて・・・家族まがいの茶番劇で海にのさぼり」
「やめろ・・・!!!」
「何十年もの間、海に君臨するも"王"にはなれず・・・何も得ず・・・終いにゃあ口車に乗った息子という名の"バカ"に刺され・・・それらを守るために死ぬ!実に空虚な人生じゃありゃせんか?」
「やめろォ!!!!」
「のるなエース!戻れ!!」
「オヤジはおれ達に生き場所をくれたんだ!お前にオヤジの偉大さの何が分かる!!」
「人間は正しくなけりゃあ生きる価値なし!お前ら海賊に生き場所はいらん!"白ひげ"は敗北者として死ぬ!!ゴミ山の大将にゃあ誂え向きじゃろうが!!」
「"白ひげ"はこの時代を作った大海賊だァア!!おれを救ってくれた人を馬鹿にするんじゃねェエ!!」
『ッエース!!』
仲間達が必死に静止しようとするも、エースも引き下がろうとはしない。
嫌な予感がしてならないナマエも他の仲間と同様にエースに近づくが、エースはナマエに目もくれず、サカズキしか視界に捉えようとしなかった。
「この時代の名が!!!白ひげだァ!!!」
怒りを堪えきれず、サカズキに殴りにかかるエース。マグマの拳と炎の拳がぶつかり合い、衝撃波が襲う。
「うおおおお!!」
「白ひげも、それをオヤジと慕うお前らも結局同じ敗北者じゃけェ!」
「!」
――サカズキの力に負けたエースが吹き飛んでいく。
火を焼き尽くすマグマ・・・エースの力はサカズキには通用しないらしく、その圧倒的な力の差にエースは成す術が無かった。
・・・目を疑う光景に海賊たちは驚愕し、倒れるエースを見てナマエは駆け寄ろうとするもジンベエに止められてしまう。ルフィも助けにいこうとするが既に限界を超えているのか膝に力が入らず、その場に座り込んでしまった。
その拍子にルフィの懐からエースのビブルカードが落ち、ルフィはそれを拾おうと手を伸ばす。
『ッ離して!エースが!!』
「よせ!危険じゃ!!」
「海賊王ゴールド・ロジャー、革命家ドラゴン!この2人の子供達が義兄弟とは恐れ入ったわい・・・!貴様らの血筋はすでに"大罪"だ!!誰を取り逃がそうが貴様らだけは絶対に逃さん!!!よう見ちょれ・・・・・・」
「!」
そう言ったサカズキの視線がエースより後ろにいるルフィと、ナマエへと向けられる。
気づいた時には既に遅くサカズキはマグマを纏いながら、ルフィ達に向かって飛んできた。
『!!』
「エースの、ビブルカードが・・・」
『ルフィ!!』
迫り来るサカズキの狙いがルフィだと知ったナマエは、ジンベエの手から逃れるとルフィの前に立ち、守るように両手を広げる。
クザンやボルサリーノはナマエを生け捕りにしようとした――がサカズキは躊躇う事無く、その腕をナマエに振り下ろした。
「ナマエーーー!!!!」
『ッ・・・』
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