EPISODE.10



――戦況が一変したのは、白ひげがその病に体が耐えきれずに吐血した時だった。白ひげの一番の敵は、大将達ではなく自分自身の病である。

一番恐れていた事態に慌ててマルコが目の前のボルサリーノを放置して白ひげの元へ駆けつけようとしたが、戦いから目を逸らした隙を逃す相手ではない。マルコはその背を光線で刺され、不死鳥への変化を止めるべく海楼石の手錠で拘束された。

クザンと戦っていたダイヤモンド・ジョズも白ひげに気を取られた一瞬の隙にその身を凍らされて氷像と化して倒れてしまい、そして――白ひげ自身もサカズキのマグマの拳をまともに受けてその身を焦がした。


「ッ!オヤジイイイィイイ!!」
『・・・!』


エースの悲鳴に似た声が、ナマエを覚醒させる。
ゆっくりと起き上がったナマエは痛む頭を押さえながら、隣でイワンコフにもう一度テンション・ホルモンを打つよう懇願するルフィへと視線を向けた。
イワンコフはそれを了承するわけにはいかなかった。テンション・ホルモンは治療ではなく体を騙しているだけのこと・・・インペルダウンの戦いで受けた猛毒によって死の淵まで行き、何度もテンションホルモンを打っているルフィにこれ以上打つと、副作用で命を落とす可能性が高いのだ。


「やるだけやって死ぬならいい!!今戦えなくて、もしエースを救えなかったら、おれは後で・・・死にたくなる!!!今・・・戦う力をおれにくれ!!!」
「ッ・・・・・勝手にしやがれェ!!!」


ルフィの強い意志の前に屈し、イワンコフはテンション・ホルモンを打ちこむ。
――暫くしてルフィは立ち上がると雄叫びをあげ、復活すると一直線にエースの処刑台へと向かった。ナマエもフラつく自身の足を強く叩き、ルフィの後に続く。


進む先にはパシフィスタが構えていたが、どこからともなく現れたハンコックによって守られ、ルフィ達は先を急ぐ。
・・・なぜハンコックがルフィを守ったのか、それを知るのはまた先のことである。


ルフィが突き進む中、海軍は「白ひげ」の首を獲る絶好の機会として白ひげに攻撃を集中させた。白ひげの援護に入ろうとする白ひげ海賊団の連中に、白ひげは一喝して止める。
攻撃を喰らいながらも腕を振るうと、周りに集っていた海兵の幹部達は一気になげ飛ばされた。


「おれが死ぬこと、それが何を意味するのか、おれァ知ってる・・・!!!だったらおめェ・・・息子達に明るい未来を見届けねェと、おれァ死ぬわけにはいかねェじゃねェか・・・なぁエース!」


若き命を未来に繋ぐ為ならその命を惜しまない・・・その白ひげの背を、ジンベエと隊長達が守った。


「お前らにゃあわからんでエエわい、おれ達はオヤジの"誇り"を守る!!!」
「ッ未来を見たけりゃ今すぐに見せてやるぞ!やれ!!」


センゴクは再び処刑を実行する。
どれだけ距離があろうとも、それが止められない白ひげではなかったがその瞬間、吐血に襲われてエースの処刑を止め損ねてしまう。
しまった、そう思った時には既に遅かった。

二つの鋭い刃先は真っ直ぐと、エースの首元へと振り下ろされる。


『エースー!!!!!!』
ッやめろォ〜〜〜!!!!!


――力の限り叫んだルフィ。その声はマリンフォード全域を襲い、処刑兵や海兵を含めた気の弱い者達は一斉に意識を飛ばして倒れていった。
間一髪のところで無事だったエースに安堵したナマエは、隣を走るルフィに視線を移す。
・・・以前、レイリーから聞いたことがある。白ひげや赤髪のシャンクスなど、強者中の強者に限られた選ばれし能力"覇王色の覇気"・・・まさかそれを今、ルフィも使ったというのか。強い者は、海軍海賊問わずそれが"覇王色の覇気"である事を感じ取り、ナマエ同様に驚愕していた。

――これでルフィへの扱いが一気に変わる。ルフィの秘める"恐ろしい力"が開花すれば、手がつけられない事態となる。


「ただのルーキーと思うな!!革命家ドラゴンの息子だ、当然といえば当然の資質・・・!!奴をこの戦いから逃がすな!逃がせばいずれ強大な敵となる!!!」

「野郎共!!麦わらのルフィを全力で援護しろォ!!!」


白ひげの号令を機に、その場にいた海賊達が一斉にルフィ達の援護にまわる。

――白ひげは賭けたのだ。この戦況で、特別な能力を持つルフィに、未来を。


「一大事よ麦わらボーイ!!世界一の海賊があなたを試してる!!ヴァナタ、白ひげの心当てに応える覚悟あんのかいって聞いてんノッキャブル!!ヒーハァー!!」
「白ひげのおっさんが何だか知らねぇけど、おれがここに来た理由は初めから1つだ!!!」
『エース・・・っ待っててね・・・!』


大勢の海賊達、クロコダイルにハンコックの力も借りて、ルフィ達は前へ前へと突き進み、とうとう処刑台の真下まで到達した。
ここでイワンコフはその髪の中に潜ませていたイナズナを呼び出して、処刑台への"道"を作らせた。


「カニちゃん!」
「あ、あれは革命軍の"イナズマ"!」
「ルフィ君、行け!!」
「おう!ありがとう!!」


この道こそがエースの命を救う最後の懸橋。



「来たぞー!!!エースーー!!!!!」




   



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