EPISODE.09



背後で白ひげ達が戦う中、ルフィとナマエはエースの元へと進んでいく。
ゴムの手を精一杯伸ばせばエースに届きそうな距離まで来た・・・が、インペルダウンから動きづめのルフィの体力はもう尽きかけて膝がガクガクと震えだす。その様子を見てナマエは静かに空を見上げた。
――いつの間にか空は分厚い雲に覆われ、月が隠れてしまっている。・・・いくら満月であろうと隠れてしまえばキラキラの実の能力は思う存分に発揮する事が出来ないのだ。

満身創痍の状態のルフィをフォローしつつ、進んでいると――どこからともなく"光線"が飛んでくる。


「!」
『ルフィ!』


光線はルフィの体を貫き、ルフィの体は地面に倒れそうになる――が、慌ててナマエが受け止める。


「ハアッ、ハア・・・!」
『(!血の量が多すぎる・・・っ今の私の力じゃ治癒出来ない・・・!)』

「度胸だけじゃねェ、麦わらのルフィ・・・"力"がねェのなら救えねェもんは頑張ったって救えねェよォ」
「ナマエ!!!ルフィ!!」
『ッ・・・』


目の前に現れるボルサリーノ。咄嗟にナマエがルフィを庇うように抱きしめるのと同時――光の重さで蹴られた二人は、勢いよく一直線に後ろへと吹き飛ばされた。
しかし蹴り飛ばされた先に居た白ひげに二人は受け止められた。意識が朦朧とする二人をジッと見つめる白ひげ。


「おーおー、白ひげの采配にも焼きが回ったねェ・・・おめェともあろう男がそんな無謀なだけのゴミクズに先鋒を切らすとはねェ・・・」
「・・・・・・」
「さァて・・・悪ィけどそのお嬢さん、ちょいとこちらに引き渡してもらうよォ?うっかり殺しちゃったら怒られちゃうからねェ」


ボルサリーノはそう言ってナマエを指差す。
ナマエがゴールド・ロジャーの子どもだからなのだろうか・・・しかしそうだとしたら、今すぐここで処刑を行うはずだ。白ひげはナマエが能力を使う時に額に浮かんでくる三日月の模様を思い出し、そしてある一つの答えを見つけた。


「・・・月の民か」
「おおーっと、知ってたのォー?」

「いたっチャブル!!!麦わらボーイ!!それ見たことかぁ!!!だから言わんコフッチャナッシブル!!!」


二人の会話を遮るようにして響き渡る怒号。一体どこから、と後ろを振り返ればそこには巨大な顔面を持ったイワンコフと、その隣にはジンベエの姿があった。
頭の重みにバランスを崩したイワンコフは真っ逆さまに落ちていき、その派手な音にルフィの意識が戻る。


「ッイワ、ちゃん・・・ジンベエ・・・ッ!ナマエ!大丈夫か!?」
『うっ・・・』


自然ロギア系にも効く覇気を纏ったボルサリーノの蹴りをまともに喰らってしまったナマエは今だ意識が戻らないまま、唇を噛み締めたルフィは自分の足を掴む白ひげに離せと命令する・・・が、白ひげはルフィを離そうとはせず、近くに居る船医にナマエと一緒に引き渡す。


「コイツは充分よくやった。手当てしてやれ」
「ッ邪魔すんな!エースはおれとナマエにとって世界でたった一人の兄ちゃんなんだぞ!!必ずおれが助け・・・ッ」


その体は限界を超え、とうとう意識を失って倒れてしまった――。


「ほざくだけの威勢の塊・・・若く・・・無様!!!そういうバカは好きだぜ」


白ひげは肩で息をしながらも、そうルフィに言い残してジンベエと共に、混乱の中へと自ら進んでいった。




*



その後は3人の大将、七武海、戦桃丸にパシフィスタ対白ひげ海賊団の大混戦であった。白ひげにはサカズキが一対一について暴れることを許さず・・・その隙に空を飛べるマルコがエース救出に向かう・・・が、処刑台の上で叩き落されてしまう。
マルコを倒したのはなんと、ガープであった。戦場はガープの登場に驚きどよめいた。

・・・かの海賊王ゴールド・ロジャーを追い詰めた伝説の海兵ガープが動く・・・自分が育てた"家族"の死刑執行の為に。


「っ・・・」


大混乱の戦場を見渡す処刑台の上で、エースは体を折り畳むようにして頭をさげていた。
――エースは、昔を思い出していた。


"ゴールド・ロジャーにもし子供がいたら?そんなモン打ち首だ!"
"火炙りにしてよ・・・死ぬ寸前のその姿を世界中の笑いものにしたらいいんだよ!"
"そいつァいい!皆が言うぞ、ザマァミロって!"
"遺言はこういい残してほしいねえ。『生まれてきてすいません ゴミなのに』"
"ガハハハ!ま、ガキなんざいるわけねーがな!"


山から降りて町へ出ると、全員がゴールド・ロジャーの事を知っていて、世の中に海賊があふれ、人々が辛い生活を強いられているのは全て海賊王ゴールド・ロジャーのせいである、と口を揃えて言う。誰一人としてゴールド・ロジャーをよく言う人なんていなかった。

自分の父親が、世界最低のクズだと言われた幼きエースは、自分の血に苦悩し荒れ、ナマエはそんな荒れるエースの姿を見て何度も何度も心を痛めた。


「ジジイ・・・・・・」
「あァ?」
「おれやナマエは・・・生まれてきてもよかったのかな・・・」
「!?・・・・・っ、そりゃおめえ・・・生きてみればわかる」




二人が生きるその先に、もっと大きな苦難が待ち受けている事もガープには予測がついていたが、それでも強く生きる子になってほしかった。エースを"生かした"張本人として、生かしたその先で、エースの処刑に立ち会うガープの心境は誰の想像も及ばない。


今、海賊として、白ひげ海賊団の一員として生きたエースの目の前では大勢の海賊達が、妹や弟がその命を懸けて救出に駆け付けてくれている・・・皆が口々にエースの名を呼ぶ声が聞こえる。


「くそ・・・!おれは歪んでる!!!こんな時に・・・オヤジが!妹が!弟が!!仲間達が!!血を流して倒れて行くのに・・・!!!おれは嬉しくて・・・!!!涙がとまらねェ、今になって命が・・・・・・ッ惜しい!!!」


エースの瞳から、大粒の涙が溢れ出て、ガープはその言葉に目を閉じた。

――今、処刑を目前にして、自分の命の大切さを、生きることの意義を、家族や仲間の大切さを知ったエースを、生きる喜びを知ったエースを生かしてやりたいのは家族として当然のこと・・・だがガープは海軍、どうする事も出来ないのもまた事実であった。





   



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