EPISODE.03
「2年前か・・・お前が母親の名を名乗り、スペード海賊団の船長として卓抜とした力の速度でこの海を駆け上がっていた時に・・・我々は漸く気づいたのだ。ロジャーの血が絶えていなかった事に!・・・だが我々と時を同じくしてそれに気づいた白ひげは、お前を次の海賊王に育てあげるべくかつてのライバルの息子を自分の船に乗せた」
「ッ違う!おれがオヤジを海賊王にするためにあの船に乗ったんだ!!」
「そう思っているのはお前だけだ」
「!」
「現に我々が迂闊に手を出せなくなった・・・お前は白ひげに守られていたんだ」
「なっ・・・」
「放置すれば必ず次世代の頂点に立つ資質を発揮しはじめる・・・だからこそ今日ここで、お前の首を取ることには大きな意味がある。――例え、白ひげとの全面戦争になろうともだ!」
――うおおおおお!!!
それまで黙って聞いていた海兵らが声を張り上げ、地響きが伝わってくる。
今だその場に座り込んだままのナマエはただ愕然とし、たった血が繋がっているだけだというのに何故このような仕打ちを受けなければいけないのか――世界政府が名乗る正義とは、一体何なのだろうか。
怒りのあまり握り締めていた手から血が滲む。彼らは本当に同じ人間なのか、本当に人としての心がそこにはあるのか。
『(エース・・・っ)』
エースに、会わなければいけない。
――幼い頃から自分の存在意義を確かめていた彼は、今どんなにもつらい思いをしてその処刑台にいるのだろう。
「っセンゴク元帥!報告します!正義の門が、誰の指示もなく開いています!動力室とは連絡もつかず・・・!」
「なんだと!?」
慌てた様子で海兵が報告しにきた次の瞬間、島中のサイレンが鳴り響く。
海の向こうにある霧の中から、いくつもの海賊船の大艦隊が突如として現れだした。どれも新世界に名を轟かせている海賊ばかりで、いずれも白ひげの傘下にある者達だ。
一体どこから来たというのか・・・しかしそんな疑問も他所に、白ひげ海賊団の姿が無い事に気づいたセンゴクは海兵にすぐに白ひげ海賊団の船を探すよう指示する。
白ひげの船が見つかるまで迂闊に攻撃する事も出来ず、緊迫とした空気が漂う。
「!まさか・・・!」
処刑台から見える目の前の湾内――海底から大きな影が浮かび上がり、センゴクが大きく目を見開かせる。
「そうだったのか・・・あいつら全船、コーティングで海底を進んでいたのか・・・!」
――ザパーーーーン!!!!
大きな波音と共に、目の前の海から飛び出してきたのは・・・白ひげ海賊団率いるモビー・ディック号。その姿はまるで空を飛ぶクジラのようで、その場で座り込んでいたナマエも驚いたように空を見上げた。
雨のように海水が降り注ぎ、港の目の前で着地をすると船のコーティングが剥がれ、続くようにして海底から白ひげ海賊団の3隻の船が海上に顔を出す。
中央のモビー・ディック号の甲板から、カツカツと薙刀を鳴らしながら伝説の男、白ひげことエドワード・ニューゲートが現れる。
「グララララ・・・何十年ぶりだセンゴク?」
「白ひげ・・・!」
「おれの愛する息子は・・・無事なんだろうな・・・・・・!」
「ッこうも接近されるとは・・・!」
「グラララ・・・ちょっと待ってな、エース」
「ッ・・・・・・オヤジイイ!!」
持っていた薙刀を甲板に突き刺した白ひげは空いた両手を内に回すと、その手で"大気"に拳を入れた。
大気にヒビが入るとその振動によって地面が大きく揺れ始め、与えられた海が大きくうねり始める。大きな地鳴りに恐れをなしてその場から逃げ始める海兵――だったが、暫くすると地響きは収まり、それまで荒れていた海も嘘のように静まり返った。
「オヤジ・・・皆・・・おれは・・・ッ・・・おれは忠告を無視して飛び出したのに、何で見捨ててくれなかったんだよ!おれの身勝手でこうなっちまったのに!」
「・・・否、おれは"行け"と言ったはずだぜ・・・・・・息子よ」
「!?嘘つけ!馬鹿言ってんじゃねェよ!あんたがあの時止めたのに、おれはァ・・・!」
「おれは行けと言った!おれは行けと言った・・・・・・そうだろ、マルコ」
言いながら白ひげは後ろに立つ1番隊隊長、マルコにそう問う。するとマルコも頷き、他の仲間も頷いていた。
「とんだ苦労、かけたなエース。・・・この海じゃ誰もが知ってるはずだ!おれ達の仲間に手を出せば一体、どうなるかってことくらいなァ」
「おめェを傷つけた奴ァ誰1人生かしちゃおかねえぞエース!」
「待ってろ、今助けるぞー!!」
海賊船から雄叫びのような声が響き渡る。
『(あの人が、エースの・・・)』
エースの心を救ってくれた、エースが認めた父親・・・。元々ゴールド・ロジャーとライバル関係であった白ひげとエースが仲間になったと聞いたときは正直不安ではあった。しかしそんな不安も一瞬で掻き消される。彼らはエースを・・・仲間を助ける為、命を張ってこの戦場へと赴いたのだから。
『ッ・・・!』
嵐の前の静けさとはこの事を言うのだろうか・・・長い沈黙が続くなか、程なくして再び地面が大きく揺れ始める。
先ほどよりも大きな地鳴りにその場で立つこともままならず、足元をフラつかせる海兵。直感的にここにいては危険だと察知したナマエはすぐに立ち上がると混乱する海兵の間を抜け、遠くの処刑台――エースのいる場所へと走っていく。いまさら誰もナマエを気に留める者などいなかった。
白ひげの悪魔の実の能力――ぐらぐらの実は世界を滅ぼす力とまでいわれており、ぐらぐらの実の能力によって先ほど振動を当てられた波は、大きな津波となってマリンフォードごと包み込もうとしていた。
逃げる場所もなく、今目の前で津波が襲いかかろうとした――その刹那。
「氷河時代」
白ひげが起こした大津波が大将クザンによって一瞬で凍らされる。マリンフォードを覆うように固まった氷は誰一人被害を生む事無く、それを合図に各々の戦闘が始まった――。
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