EPISODE.33



――胸の奥底が燃えるように熱く、そしてどこか懐かしい気持ち・・・。
そんな込み上げてくる想いを乗せた歌を奏でるうちに、ナマエはルフィの心臓のリズムに合わせ、戦いの最中だというのも忘れ楽しむように歌を歌い続けていた。歌に乗ってルフィの鼓動も解放のドラムを刻み、まるで同調するように二人の覇気は高まっていく。

――ナマエから放たれたキラキラと輝く光は、ナマエ自身が気づかないうちに鬼ヶ島にいる仲間全員に降り注ぎ、まるで奇跡のように癒しの力を起こしていた。


「おい!モモ〜〜!!」
「「えええーーー!?」」


ルフィに呼ばれたモモの助が視線を向けてみれば、上空にはカイドウよりも大きな拳を用意しているルフィの姿があって。目が飛び出すほどの勢いで驚くモモの助とヤマト。


「全部終わらせるぞ!!鬼ヶ島が邪魔だ!どけろォ!!」
「!鬼ヶ島を撃ち抜く勢い・・・!」
「よせルフィ!!」
「モモ、お前を・・・信じてる!!!」
「えええ!?」


いまだに焔雲もまともに出すことが出来ないモモの助は、一度は無理だと言いかけたが――その時に脳内に浮かんだのはおでん、トキ、そして日和の姿だった。
未来で光月家を再興する・・・家族の想いによって心動かされたモモの助の目つきは変わり、自らの身体を鬼ヶ島に当ててでも押し戻そうとする。


「よくわかった、受けて立つぜ・・・・・・知ってるか?麦わら」
「!」
「20年前・・・・・・この国の英雄が・・・焼かれて死んだ!――"火龍大炬"!!」


口から吐き出した炎を自らが纏い、巨大な炎の龍になったカイドウ。その炎は鬼ヶ島の角を融解させる程の超高熱を帯びており、カイドウを掴んでいたルフィは慌てて手を離した。


「以来この国は無法の国!お前たちは20年待たれた"英雄"だ・・・!」
「熱ち!」
「そうだ手なんぞ離せ、逃げやしねェよ!そしてお前がその右手を振り降ろす事はない!溶けて消えるからだ!!」
「溶けてたまるか!!ゴムゴムのォー・・・!!」
「"昇龍"!!」
「触らねェ方法ならナマエに習ってんだ!奈落のどん底まで叩き落す!!」

「火焔八卦!」 「猿神銃バジュラングガン!」



カイドウとルフィ、それぞれの攻撃が激突する。



――歌を刻むナマエが不意に人々の"想い"を感じ、静かに瞳を閉じると様々な情景が目の前に浮かんだ。



おでんが処刑された日――涙を流しながら、城主の想いを胸に、モモの助たちを助けるべく九里と向かう赤鞘侍たち。

町の人々は身を挺して、おでん城へ向かおうとするカイドウを止めようとした――が敵うはずもなく、歯向かう者には撃って殺せと命令をするオロチ。
たくさんの血と涙が流された忘れもしない惨劇――。

兎丼、鈴後、白舞、希美――大名たちはカイドウとオロチに降伏か戦、どちらを取るか選択を迫られ・・・・・・しかし皆の答えは同じであった。将軍は光月家のみ、おでんの無念を晴らせと立ち向かい・・・・・・続くように後を追ってきた侍たちも、尽くカイドウによって倒されてしまう。

若い者は全員武器工場にて強制労働を虐げられ、工場から出た汚水により川の水は汚染され、綺麗な水も、作物が育たず食べ物も無くなり・・・それでも人々は、トキの言葉を信じて生き続けるしかなかった。
腹を空かせた町の住民は飢えに勝てず"SMILE"を食べたことにより感情を失い、笑顔以外の表情を作れない体質になり・・・泣きたくても泣けない体となって、ただ笑う事しかできなくなってしまい。


そんな人々を見たオロチが嘲笑っている。


・・・・・・あまりにも残虐非道で、見える全ての情景に思わず唇を噛み締めるナマエ。


『っ』


――今宵は火祭り。その祭りも終盤に差し掛かり、死者を弔うメイン行事が始まっていた。
人々は"空船"に願いをしたためて空に向けて飛ばし始めたのだ。






――お母ちゃんに会いたい。

――明日も子供にご飯を食べさせてあげられますように。

――とうめいなお水がのみたい。

――オロチがいなくなりますように。

――この地獄から逃がしてください。

――こわいりゅうをやっつけて。

――光月家がかえってきますように。





――お父ちゃんありがとう。








オロチもカイドウもいない花の都。そこに残された住民たちの素直な想いが、祭囃子と共に燈となって空を飛んでいく。・・・その空船の願いの中には、見知った人物が書いてあるものもあった。


『――ルフィ、お願い』


――今ここでカイドウを倒せるのは、ルフィしかいない。

瞳を開けた瞬間、ナマエからは一筋の涙が溢れ出た。ワノ国の人々の想いが一気に感情として流れ込んできたせいだろうか。悲しくて辛くて、それを全て受け止めるようにナマエは浮かんでくる空船を見上げながら、再び歌を紡いだ。


「お前が一体どんな世界を造れる!?麦わらァ!!」
「おれは・・・友達が・・・腹いっぱい!!メシを食えるーー世界!」
「!!!」

「――出ろ"焔雲"!!!」


モモの助が出した大きな焔雲は落下寸前だった鬼ヶ島全土を覆い、花の都から押し戻す事に成功した。ルフィとカイドウの戦いの場から離れていき、そしてそうなる事を信じていたルフィはカイドウに渾身の一撃を撃ちこんだ。







ドォン!!!!!!











――ルフィに殴られた勢いで、龍の形を地表に残して地面を貫き奈落の底まで落ちていくカイドウ。


『ルフィ!』


鬼ヶ島ドクロドーム屋上の戦い勝者"カイドウ"改め――勝者"麦わらのルフィ"!
そして、今この瞬間、20年に渡るワノ国の戦いは終幕を告げた。


上空から落ちて来るルフィを受け止めたナマエは腕の中で眠るルフィを見て泣きながらも笑みを浮かべ、その体を強く抱きしめた。
鬼ヶ島もモモの助によって無事着地をし、中で起きていた火の手も、雷ぞうとジンベエの活躍によって消化され、無事に地上へと戻ってくることが出来た。


「ルフィ!!ナマエ!!!すごいよキミ達!!ほんっとにすごいっ!!」


片や都では賑やかに祭りが終わろうとしていた。

屋上へと確認しに来たネコマムシは空に浮かんでいく空船を見上げ懐かしみながらも、戦況を確認するとスマシを使って城内にいる全員にスピーカーで伝えた。


「間違いないぜよ!!ゆガラら!!カイドウはルフィの手で地中深く殴り飛ばされた!!落下する鬼ヶ島は巨大な龍となったモモの助様が受け止めた!!!あの日より20年・・・・・・!おでん様の無念に始まったこの弔合戦はついに!!わしらの勝利じゃあァーーーー!!!!」




"うおおおおおおおおおおおおお!!!!"




まさか生きて帰れると思っていなかった侍たちは今日一番の歓声を上げ、そして皆が涙を流し、肩を抱き合った。
ライブフロアから聞こえてくる沢山の声にヤマトと笑い合っていたナマエは、何かに気付いたように目を見開かせるとルフィをヤマトに預け、急ぐように鬼ヶ島のライブフロアへと向かう。


「チョッパー重傷者2名ー!!!」
「チョッパー!ゾロが目ェ覚まさねェー!!!」
「チョッパー先生!!こっちに来てくれー!!!」


だんだんと覇気が弱まっていくお菊、錦えもん、ゾロに危険を感じたナマエは、チョッパーに手当てを受ける3人の元へ行くとすぐさま能力を解放した。


「!ナマエ!!!」
『・・・っ、3階の西側の部屋と、5階の階段近くで倒れている人がいる。すぐに連れてきて』
「え!?」
『急いで!間に合わない!』
「わ、分かった!!」


――ルフィが命を懸けてカイドウと戦い、そして勝ったこの勝負。それを無事に見届ける事が出来た今、自分に出来る事はこれ以上の犠牲者を出さないことだ。

精神を研ぎ澄ましたナマエは見聞色の覇気を使って周りにいる動ける侍たちに指示をし、重傷者のいる場所を的確に教えると、自身はキラキラの実の力を使って運ばれてくる重傷者に癒しの力を解放した。

戦いの最中、何千人と治癒をしてきたナマエの体力はもうすでに限界を超えていた。
それでも月が出ている以上、怪我人の治療を終えるまでは気を抜くわけにはいかない。少しでも集中が切れてしまえば意識を失うと分かっていたからだ。

チョッパーとナマエが汗水流して治療を行っている頃、同じフロア内ではヤマトと、麦わらの一味が対面をしていた。


「カイドウの息子ォ!?」
「えー!?まだ戦いは終わってないんですか!?」
「違うよ違うよ!僕は敵じゃない!キミ達の事だってずっと新聞で追いかけてた!いやあ人間か疑わしい人たちが多いと思ってたけど会ってみたら案外・・・」
「お前のツノは!?」
「とにかく!これからキミたちの船に乗せてもらう光月おでんことヤマトだ、よろしくね!!」
「えーーー!?」
「ヨホホ私は賛成」
「大賛成ー!!」
「そういわれても船長の口から聞かん事には納得できんぞ」
「そうだね。大丈夫かなルフィ・・・しびれたよ・・・彼の戦い・・・その姿」


ナマエに治癒をかけてもらっているルフィを見つめながらそう呟いたヤマトは、拘束していたカイドウの部下が逃げようとしていたのを見つけ、すぐさま捕らえに行った。
その姿を見たジンベエが確かに敵じゃなさそうじゃのう、と一人納得し、ウソップはお玉に、キビキビの実の能力によって主従関係を結んだギフターズがこれからどうなるのかを問いだした。


「おらの術は同じ月が出たら解けるでやんす」
「一か月ってことか?」
「ひと月たつと元に戻る動物もいれば・・・そのまま懐く子もいるでやんす。きっと居心地のいい方を選ぶんでやんすね」
「!ご主人様!私このままの方が幸せです!!」
「ウマ美ちゃん!おらもそうなってほしいでやんす!でも家来じゃなくて・・・お母さんみたいに・・・ずっとそばにいてくれたらいいな!」
「!!」


お玉のその言葉に心を射抜かれたスピード。そんな話をしていると、花の都から通信が入ってきたようだった。
映し出された光画には赤鞘侍たち、そして小紫――光月日和までもが中央に道を開けるようにして膝まづいており・・・煙の向こうから、見知らぬ男性が姿を現した。


【"わが父"・・・光月おでんの死より20年!!】
「父・・・!?ま、まさか」
【辛く長い年月を・・・よくぞ生き延びてくれた!!火祭りは終わらぬ!明日から好きな商売をしてよい!!酒も好きに飲んでよい!湧く水に金はとらぬ!!工場から国を枯らす毒は出させぬ!!ワノ国に奴隷などいらぬ!!】

「・・・もも君?」


――声も少し低くなっているけれど、お玉は小さく呟いた。そしてその瞬間、飛徹と出会った頃の記憶が脳裏を過る。
両親を失い、その両親から教えてもらった笠もまともに売れず・・・そんな苦しい生活の中でも「光月という強き侍たちが帰ってくれば鬼が討ち滅ぼされる日は来る」という飛徹の言葉を信じ、辛抱して今まで生き抜いてきたお玉。


【オロチの悪性もカイドウに怯える日々も・・・終わりでござる!!海にて得た心づよい仲間たち・・・!忍者海賊ミンク侍同盟と共に鬼ヶ島へ討ち入り!!カイドウ、オロチ、"百獣海賊団"!!この国を脅かすすべての"悪"を我らが今成敗いたした!!】


花の都の住民からは悲鳴に似た声が上がった。まことに信じられないが、それでも、今皆の前に現れたその人物を見て――信じせざるを得ず、皆の目から涙が溢れ出る。
それは光画を見ていたお玉も一緒で・・・ルフィの治癒を最後に、全ての治癒を終えたナマエは全身の力が抜け切ったように大きく息を吐くと、目の前で佇むお玉の姿に眉をハの字にさせながらも、弱々しく両手を広げてその名を呼んだ。


『たま』
「!アネ、キ・・・・・・ッうわぁあああーーーん!!!」


体力が無いとはいえ、その幼い体を抱きしめる事くらいは出来る。
ナマエは腕の中で泣き喚くお玉の頭を撫でながら、『よく頑張ったね』と優しく声をかけた。



たま・・・!当たり前にしてやるから!おれ達がこの国出る頃にはお前が毎日腹いっぱいメシ食える国にしてやる!




【この討ち入りに至るまでの恩人たちの存在は決して忘れない・・・!】




お前は飾りかよモモ!!この世にまだ恐ェもんがあんのか!?




【・・・っ・・・ち・・・父がくれた拙者の名は"天下無敵"の意味をもつ!!拙者が率いたこの国はかれた大地も桃源郷に変えるだろう!!そのために働き!!力を貸してくれ!!20年の時を超え!皆を救いにやってきた!!これより拙者"光月モモの助"が!!ワノ国を統治いたす!!!】




"わあああああああああ!!!!!!!!!!!"




威風堂々たるその英姿に、涙を流さない者などいなかった。



――もののふが刃を納めた未来の空に、くるりちらちら花が散る。

ここは名に負う"侍の国"。夜桜見上げた齢8つのいい男!!義理と人情は人一倍。腕っぷしならちとご愛嬌。

――後の世に広く轟くワノ国の「名将軍」光月モモの助はかくして、ここに誕生した。



   



戻る
















×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -