EPISODE.32
――場所は変わり、聖地マリージョア。パンゲア城"権力の間"では世界政府に君臨する5人の最高権力者、五老星が集い、各々が深刻な表情を浮かべていた。
「特級のエージェントを一人失いカイドウを怒らせては本末転倒ではないか」
「その方がマシという未来があったとしたらどうだ?不安要素は潰すのが一番だ・・・」
「だからといってキラキラの実まで潰す必要は無かろう!」
「ゴムゴムの実とキラキラの実・・・まるで巡り合わせたように同じ時代に姿を現し、その二つを食べた者が共に行動するとは想定外だった・・・あの二つが揃えば事態は深刻さを増す一方だ」
「どちらか片方ならまだしも・・・ッなぜこうも惹き合うのだ!」
「ゴムゴムの実もキラキラの実も、いつの時代も世界政府が回収を試みてきたが・・・決してその手中に収まる事はなかった。800年もの間だ・・・」
「まるで悪魔の実が我々から逃げているようだな」
「ない話でもなかろう」
「動物系の実には意志が宿る。ましてやこの二つの実には"神"の名が・・・」
「ゴムゴムの実のもう一つの名は・・・動物系ヒトヒトの実幻獣種モデル"ニカ"――その体はゴムそのものの性質を持ち、空想のままに戦い・・・人々を笑顔にしたという"解放の戦士"、またの名を太陽の神ニカ。覚醒はゴムの身体に更なる腕力と自由を与えるという世界で最も・・・ふざけた能力と聞いている・・・!」
「そしてキラキラの実のもう一つの名・・・動物系ヒトヒトの実幻獣種モデル"セレーネ"。平和をこよなく愛し、人々を幸せへと導く"運命の守護者"、またの名を月の女神セレーネ。覚醒は――・・・・・・」
――――ドンドットントン♪
ドンドットット♪♪
「アハハハ!」
――暗い闇の向こうから聞こえてくるのは、ルフィの笑い声。
良かった、無事だったんだね。そう安堵の息を吐きながらゆっくりと瞼を上げてみれば・・・・・・目の前には、自分を背中に背負いながら楽しそうにはしゃぎ回る白髪の男性がいて。
『・・・・・・ル、フィ?』
すっかり容姿が変わっていたが、それは紛れもなくルフィであった。
腰巻き以外の着用していた服を含めて全体が白くなっており、目の虹彩は赤く染まり、白髪は炎のように逆立っている。
恐る恐るナマエが声を掛ければぐるんと勢いよく首を回したルフィが、楽しそうに笑って話し出す。
「ナマエ!!おれのやりたかった事・・・全部できるんだ!もう少し戦えそうだ。心臓の音も面白ェ!これがおれの最高地点だ・・・・・・!あ、そうだナマエ!歌ってくれないか!?」
『え・・・?』
「お前の歌が、いま無性に聞きてェんだ!」
なぜこんな時に、と思ってしまうが・・・それでもルフィの背中から聞こえてくる心臓の鼓動がナマエにまで伝わってくると、どこか懐かしい気持ちになったナマエは嬉しそうに頷き、丸い大きな満月の下――――頭に浮かんだ歌を、思うがままに奏でる。
――ナマエが歌った瞬間、二人は星の輝きに包まれ、それまでの傷が物凄いスピードで癒えていった。ナマエの澄み切った歌声は屋上だけでなく鬼ヶ島全体に響き渡り、歌を聞いたルフィは目を見開かせるとナマエを地上に下ろし、ニカッと口角を持ち上げる。
「これだ・・・!ありがとうナマエ!――ギア5!」
――――いまだかつてないほどの、強い覇王色の覇気が放たれる。
その覇気はドクロドームにいる部下達を一瞬で気絶させ、ライブフロアにいたカイドウを見つけたルフィが腕を伸ばし、空いていた大きな穴から龍の姿のカイドウをいとも簡単に屋上へと引っ張り出した。
「うおおおーー!!」
「おわァーーーー!?」
グルグルと振り回されたカイドウはその勢いのまま地面に叩きつけられ、愉快そうに笑うルフィ。
目を回しながらもカイドウは死んだと思っていたルフィとナマエの姿を見つけ嬉しそうに微笑むと熱息を放つ・・・が、ルフィはそれを地面を捲るように掴み上げ、放たれた火の玉はぼよよんとカイドウに跳ね返ってきた。
咄嗟に避けたカイドウだったが辺りに物凄い爆発音が響き渡り、その間もルフィは楽しそうに声を出して笑っていた。
「・・・さっきはバカが悪かったな・・・!アレで勝ちにしたくはなかった・・・!」
「気にすんな!決着つけよう!!」
――ルフィのゴムの力は自分自身だけではなく"他"にも影響を与えていた。
先ほどのカイドウの攻撃を跳ね返した地面もそうだったが、ルフィが今、楽しそうに弾んでいる地面はルフィと同じゴムの性質を持ち合わせており、てっきりカイドウは超人系の覚醒かと思った・・・・・・が、少し妙であった。ルフィのような変身は動物系の特技であるからだ。ルフィに何が起こったか分からないまま、カイドウは大きく口を開けると呑気にジャンプを繰り返すルフィを丸ごと口の中に飲み込んだ。
「だーーー!!」
「おえええーー!?」
飲み込まれた瞬間、カイドウの身体の中で暴れまくったルフィは最終的にはカイドウの中で風船のように膨んで口の中から脱出してきた。
膨らました空気を抜くように口から息が漏れると、ルフィはヒュルルルとそのまま上空にあった雲の中へと飛んでいき――・・・その異様な光景は鬼ヶ島を引っ張っていたモモの助と、その傍にいたヤマトの視界にも映し出された。
「ゴムゴムのォ〜〜巨人!!」
「「ええぇー!?」」
『!』
雲から現れたルフィに呆気にとられる一同。その大きさは、龍のカイドウを軽く超える・・・まさに巨人のようで。驚く暇もなくカイドウの尻尾と頭部分を掴んだルフィは、そのままカイドウを使って縄跳びのようにぐるぐると腕を振るい回しながら屋上へと落下してくる。
――カイドウは目つきを鋭くさせると目の前のルフィに熱息を放ち、直撃して吹き飛ばされていったルフィは真っ黒こげになりながらもすぐに体勢を戻し、カイドウの元に戻ってくる。
「ゴムゴムのォーー」
「ハァ・・・ハァ・・・降三世・・・引奈落!!」
「いでェーーーーーー!!!!???」
"ギャアアアアアアーーーーーー!?!?!?"
人獣型になったカイドウの金棒がルフィの頭を直撃し、ルフィの頭は丁度真下にあったライブフロアへと続く穴の中に落ちていき、巨大な顔のまま大きな悲鳴を上げた。
突然天井からルフィの特大な顔が現れればライブフロアは絶叫の渦に包まれ、ライブフロアにいた全員が目玉が飛び出すほどの勢いで驚愕していたのはいうまでもない・・・。
顔を引っこ抜いたルフィは疲れたように座り込み、その姿を見てカイドウは息を荒げながらも言った。
「まるで絵物語・・・興味深いショーだったが結局限界じゃねェのか?お前に俺は倒せねェ」
「うるへー!何が限界だ!ハァ・・・ん?ウ・・・ゼー・・・・・・ッつかれた・・・」
「誰だ貴様!!」
それまで白一色だったルフィの姿が、元のルフィの姿に戻っていき・・・・・・すっかり萎れた姿にすかさずツッコミを入れるカイドウ。けれどカイドウも蓄積されたダメージと体力の消耗により立つのでさえやっとの状態で、その場で片膝をつくと苦しそうに呼吸を繰り返していた。
「そうら・・・おれ死にかけらった・・・・・・消耗すげェなこれ・・・」
「ハァ、ハァ・・・ッ安心して死ね、お前らの戦いは誰かが語り継ぐだろう・・・」
「いらねェおれは、そういうの・・・!」
「!」
「ハァ・・・死んだらみんな、骨だけだ・・・ししし・・・!!終われねェよな・・・!モモ・・・たま・・・錦えもん・・・ペドロ・・・!!」
「ウォロロ!おい死ぬぞ」
「だからおれがそんなもんにおれがビビってると思うのか!?――ナマエ!」
『っ、』
「上がれ心臓の音・・・!!」
名前を叫ばれたナマエが、ルフィの意志を取り組み再度またあの歌を奏でれば――ルフィの心臓は、その歌声に合わせるようにリズムを刻みだす。
ドンドットット♪
ドンドットット♪
「きた!!この音」
「(ッなんなんだコイツは!真っ白に姿を変え・・・武装色も覇王色も纏い・・・"他"に影響を与えるこんな自由な戦闘、見たことがねェ・・・!!)俺を倒せるやつはこの世にはいねェ!!!」
――――ボコォン!!!!
ルフィの拳は、激しい音を立ててカイドウの顔面を直撃し、倒していった。
「楽しいなァ!!カイドウ!!今の技・・・ゴムゴムの何にしよう?」
「ウグ・・・っ一つ聞くぞ・・・"お前"は"誰"だ!」
「?」
懐かしいな・・・この鼓動にこの歌・・・ジョイボーイ・・・ルナ。
なァジョイボーイ・・・ルナ・・・まるでお前たちがそこにいるようだ・・・心が躍る・・・運命を感じずにはいられない。期待せずにはいられないんだ・・・!
『!』
――どこからともなく頭の中に語り掛けるような、そんな不思議な声が聞こえたナマエは歌を奏でながら振り返った。・・・その声には聞き覚えがあった。モコモ公国でジャックに襲われた時に聞こえた声――象主だ。意識をそちらに向けてみれば、象主はこのワノ国に少しずつだが向かってきているようで、その声は今も鬼ヶ島を押し返そうとするモモの助の耳にもしっかりと聞こえているようだった。
「?おれが誰か?モンキー・D・ルフィ!お前を超えて海賊王になる男だ!!!」
「生意気は健在で安心したぜ麦わらァ!お前の心身が能力に追いついた時起きるのが"覚醒"だ。フザけた能力だぜ!――もうずいぶん失った・・・これまで築き上げてきたものをずいぶん!部下も!城もだ!!お前もだろう?」
「それでも取り返さなきゃいけねェもんがあんだ!!」
「下はフロアも城も全て戦火に包まれてる!お前らの軍も、何千人と閉じ込められてるだろうな!!みんな焼け死ぬ!!」
「下の事は全部あいつらに任せてる!!おれはお前を――ブッ飛ばすだけだ!!」
← →
戻る