EPISODE.30



――兎丼"常影港"の浜辺にはロー率いるハートの海賊団の一員と、黙々と目の前の食料を口に含むルフィ、ナマエの姿があった。鬼ヶ島から落ちていく2人を海上から運良く見つけてくれたハートの海賊団がすぐさま潜水艦を使って海中から救出してくれたのだ。

一時はどうなるかと思ったものの、目を覚ますと同時に肉と叫んだルフィはカリブーが蓄えていた食料を頬張り、傍にいたナマエも、ガープから教わった"食える時に目一杯食っておく"を教訓に、ルフィに負けず劣らずの量を口に運んでいく。・・・ルフィはともかくとしてナマエに関してはその細い体のどこに入るというのか・・・周りは呆気に取られながらもその光景を見守るしかできなかった。

――暫くして、先に満腹になったナマエは口元を拭いながら立ち上がると、カイドウから逃れるためしのぶの凧に乗って先に島から降りていたモモの助に歩み寄る。


『モモ、』
「!ナマエ、よかった、元気になったのか・・・ッ・・・ナマエ、すまぬ・・・錦えもんが、拙者を逃がすために、・・・ッ・・・き、菊も・・・」
『・・・・・・』


モモの助の周りで、何が起こったか・・・今は分からない。けれど今、話している時間は無い。鬼ヶ島本土が花の都に到達するまで、あと15分程度しか猶予は残されていないのだ。

涙を流し、顔を俯く姿を見てナマエは目線が合うよう膝を地面につくと、ぺちん、と優しくモモの助の両頬に手を当てて涙で濡れた瞳を真っすぐと見つめる。


『まだ戦いは終わってない・・・"大将"のモモが、泣いてちゃだめだよ』
「!」
『カイドウを倒さないと何も終わらない』
「呼び名、そんなひどい言い方・・・!!」
『ルフィは次は絶対に負けない』
「・・・・・・!!!」
『・・・だから、お願い。龍になってルフィを、もう一度あそこに運んでほしい』


漆黒の瞳に見つめられたモモの助は、涙を堪えるように唇を噛み締めると――意を決したように頷き、そして隣にいたしのぶに視線を向け、しのぶのジュクジュクの力を使って、自分を"大人"にしてくれと頼み込んだ。


「できますけど!!なんでそんなバカな事!!あんな危険な場所へはもう二度と行かせるわけにはいきません!!」
「しかし・・・!このままでは"花の都"が・・・ワノ国が滅んでしまう・・・!!」
「一度やれば二度とその姿には戻れません、心は子供のままに!」
「構わぬ!!大きな"りゅう"になれるかもしれないのだ!頼むしのぶ!」


――しのぶは、モモの助の強い意志にそれ以上拒む事は出来なかった。
しのぶとモモの助が話している間、その場を離れたナマエは一人、空を見上げると――雲の隙間から姿を現していた月に手を差し伸べ、静かに瞳を閉じる。
キラキラの実の力が元に戻り始めたからだろうか。自身にかけていた治癒の力によって、傷はほとんど癒えていた。食事をしたおかげで体力も戻り、力の戻った手をぐっと握るナマエの額に浮かぶ三日月模様が強く光を帯びる。

・・・月の周りには厚い雲があり、もう暫くすれば月は再びその姿を隠してしまうだろう。今自分に出来る事は仲間たちを癒す事・・・また、鬼ヶ島にいる時に月が姿を出してくれるのを祈るしかなかった。


『・・・・・・』


先ほどカイドウと戦った時、自分が自分じゃなくなるような感覚を再度思い出したナマエは、自身の耳飾りに触れながら、恐怖を抑えるようにギュッと瞳を閉じた。


「ナマエ」
『!』


目を開け振り返るとそこには、食事を終えてすっかり元通りになったルフィがいて。ルフィは真剣な表情から一変、ニカッと歯を見せて笑うと右手の拳を突き出した。


「手当て、ありがとう!次は絶対に負けねェ」
『!・・・うん!』


当たり前だよ、そう笑い返して目の前にあるルフィの拳と、自身の拳をコツンと合わせたナマエはそのままルフィの右手首についている赤い数珠のブレスレットに触れる。


『ルフィなら絶対に、大丈夫だよ』
「にししし!」


同じ仲間として、そして盃を交わした姉弟として――ナマエの言葉は、ルフィの原動力となる。先ほどまで瀕死の状態だったにも関わらず、ナマエの治癒の力と大好きな肉のおかげでルフィも完全に復活だ。対するナマエも、ルフィとこうして触れているだけでさっきまでの震えは気づけば収まっていて、不思議と怖い気持ちもどこかに吹き飛んでいた。

2人が笑い合っていると、後ろの方からハートの海賊団の悲鳴に近い声が響き渡る。
何事かと思い見てみれば、それぞれ武器を手にして叫ぶ彼らの前には、いつの間にかカイドウに似た巨大な龍が姿を現していた。
それをカイドウと見間違えたのだろうハートの海賊団は混乱状態で、それがカイドウじゃない事にいち早く気づいたナマエとルフィは"桃色"の龍の近くへと歩み寄る。


「モモか」
「いかにも!!」
「モモの助様のご希望により・・・!これは28歳のお姿っ!うえええん!」
『・・・しのぶ、どうして泣いてるの?』
「だっで・・・!!」


――今は龍の姿だから分からないが、28歳になったモモの助の姿はまるで・・・・・・今は亡き、光月おでんそのもので。中身は子供といえど、その趣きのある姿に暫くの間、しのぶの涙は止まることはなかった。


「行くぞモモ!ワノ国を取り返しに!!」
「おう!!」


そう意気込んだものの・・・ルフィとナマエを乗せたモモの助は、飛ぶ事はおろか地面から少しも身体を離す事が出来なかった。


「おい何やってんだモモ!飛べよ!!」
「いや・・・わ、分かっておる!し、しかし体が動かぬのだ!首をもたげただけで・・・何メートルの高さだと思う!?」
「知るかばか!!大人になってもまだ高ェとこ恐ェのか!?」
「だまれ!無礼でござるぞ!!ぶ・・・武士にコワイものなどない!!」
「何のためにデカくなったんだよ!!龍だろ飛べ!!」
「分かっておるから囃し立てるな!!」
「急いでんだ!!カイドウが暴れまわったらみんなやられるぞ!!飛べ!!」
「わかっておる!ちょっと待て!!ハァ、ハァ・・・・・・ッ」


ルフィとモモの助の問答を冷たい目で見つめるしのぶとハートの海賊団の全員たち。
28歳の体に成長しても、心までは成長する事ができず・・・困ったように眉をハの字にさせたナマエは、自身の足元部分にあるモモの助の頭部分を撫でながら『無理しないで少しずつでいいから頑張って、モモ』と、優しく伝えた――その瞬間。ナマエの応援が効果あったのか目の色を変えたモモの助が突然、地上から飛び立つことができ、上空を飛行する鬼ヶ島へ辿り着くことが出来た。
しかしまだ飛ぶ事に不慣れな上に、高いところが恐いのか飛び方が安定せず・・・目指す場所はカイドウのいるドクロドーム屋上であったがモモの助の巨体はルフィ達を乗せたままライブフロアに突っ込んでしまった。


「ぎゃぁああーー!!ッ止まれ、モモ!何やってんだ!!」
「ここはどこでござるか!!」
『っ、モモ、落ち着いて・・・!』


恐怖のせいで目をぎゅっと閉じながらフラフラと飛んで行くモモの助は城内を破壊しながら進んでいき、あちこちで戦闘していた麦わらの一味やキッド、ロー、そしてビッグ・マムにもその姿は目視された。――カイドウによりルフィが倒されたと報告を受けていた仲間たちは全員、ルフィもナマエも無事な事に安堵をするも、その龍の正体も知らされぬまま、まるで嵐のように過ぎ去ってしまう彼らを唖然として見つめることしかできなかった。


「いい加減に目を開けろ、モモ!」
「っ、ナマエ〜〜!目に何か入ったでござる!!」
『ええ!?』
「色んなモンにぶつかるからだろ!ナマエに甘えてねェで根性で前見ろ!!」


――モモの助はそのまま壁を突き破って空高く上昇し、悲鳴をあげながらも・・・運良くカイドウのいる屋上に辿り着くことが出来た。


『ルフィ、モモ、あそこ!』
「!カイドウがいたぞ!!あそこへ突っ込め!!」
「カイドウ・・・!?」
「――"ギア4フォース"スネイクマン!」


漸く目を開けてくれたモモの助が、ルフィの指示のもとカイドウに向かって直下していく。戦闘態勢に入ったルフィはギリギリのところを狙いカイドウに攻撃を繰り出し、吹き飛ばされて行ったカイドウの近くにいた人物を見て笑みをこぼすと手を振った。


「ヤマ男!」
「ルフィ!ナマエー!」


カイドウを屋上に足止めしてくれていたのは、ヤマトだった。
襲撃にあったカイドウはよろめきながらもその姿を変形させ、再び龍の姿になるとモモの助たちの前に立ちはだかる。


「どうやって助かった!?その龍は何者だ!?名乗れ!!」
「どうやってもおれ達は死なねェよ!おれは海賊王になる男だ!!」
「せ、拙者・・・拙者の名は・・・!!光月モモの助!!ッワノ国の将軍になる男でござる!!」
「!モモの助君!?」
「ウォロロロ驚いたあのガキか!この世に・・・龍は二匹いらねェんだよ!!」


叫びながら、カイドウの口元にエネルギーが溜まっていく。


「!火の息でござる!!」
「よし!お前もなんか吐け!!」
何をだ!!無理でござる!!

熱息ボロブレス!!」
「ぎゃぁああーー!?」
月の壁ムーン・ウォール!』


モモの助を守るように張られたバリアは、カイドウの攻撃を防いだ。しかし月がすでに雲に覆われてしまったせいですぐにそれはガラスのように音を立てて割れてしまい、もう一度あの攻撃が来てしまったら今度は防ぐことは無理だろう。

初めての戦場に狼狽えるモモの助に、自身の筋肉に空気を入れながらルフィが言う。


「おいモモ!カイドウに噛みつけ!」
「・・・ええ!?待てルフィ、ムリムリ!ムリでござるぞ!!」
「ゴムゴムの――象銃エレファント・ガン!!」
「・・・!!」


モモの助の言葉は、すでにカイドウに攻撃を仕掛けに行ったルフィの耳には届いていなかった。目を見開かせたモモの助は怯える様に目を強く瞑ってその場に佇んでしまい・・・ルフィの言われた通り、すぐに行動することが出来なかった。

目の前の恐怖と戦うモモの助を見下ろしたナマエは、モモの助の頭を撫でながらその名を呼ぶ。


『モモ』
「!」



――――モモの助。




その優しい声色は、光月トキ――モモの助の母を思い出させるには十分だった。
カイドウによって殺された父と母、そして燃やされたおでん城・・・これまでの過去がフラッシュバックしたモモの助の目つきが変わる。


「ッ・・・うおおおお!!!!」
「『!』」


ルフィの攻撃によって地上に叩きつけられていたカイドウの身体を、大きく口を開け、思い切り噛みつくモモの助。・・・しかしカイドウの鱗は固く、刃が届いていないのかカイドウに全くダメージを与えていなかった。

目を覚ましたカイドウにギロリと睨まれたモモの助は、目に涙を溜めながらもカイドウを睨み返す。


「そうだモモ!!」
「!!」


反撃をしようとしたカイドウを遠くから殴り飛ばしたのは――ルフィだった。


「お前が噛みついたのは四皇だぞ!この世にまだ、恐ェもんがあんのか!?」
「・・・・・・!!な、ない!!」
「行け!お前は飛べる!」
「おう!」
「鬼ヶ島止めて来い!!カイドウにはおれが――必ず勝つ!!」


――ルフィの言葉は、スマシを通して城内にいる全員の耳に届いていた。場内で戦闘を繰り広げる仲間たちは傷だらけの身体でありながらもまだ残っている"希望"に歓声を上げ、各々が武器を手に取り敵と戦い続けた。


龍から人獣型になったカイドウは不敵に笑うと金棒を振り下ろし、ルフィはそれを覇気で纏った足で受け止める体勢に入る。


「俺に勝てる可能性でもあんのか!?」
「生きてんだから無限にあんだろ!!」





――――ドォン!!!!!







『・・・・・・!!』



2人の攻撃が激突し合った、瞬間――上空を覆っていた厚い雲が消え、まるで天を割ったように大きな月が姿を現した。キラキラの実の力が解放されたナマエの額からはいつの間にか消えていた三日月模様が浮かび上がり、力がみなぎってきたナマエはモモの助の頭から飛び降りると地上へと着地し、そして地面に両手をついた。


『(今しかない・・・!わたしに、できること・・・!)』


城内にいる仲間たちは、そのほとんどが瀕死の状態。見聞色の覇気を巧みに使い、中でも傷の酷い味方だけに向けて多くの月光蝶げっこうちょうを飛ばした。
それは治癒の力を具現化したもので、キラキラと星のように輝きながら城内を舞う蝶は、ナマエが思い浮かぶ人々――ざっと3000人は超えるであろう者達を、一瞬で癒したのだ。

超回復まではいかないものの、満月の力も相まってナマエの癒しの力は効果覿面で、しかしナマエの能力を知らない侍たちは急に痛みが消えていく自身の身体に驚きながらも、「これならまだ戦える!」と士気を上げて目の前の敵に挑んでいった。

一方、ナマエの力だといち早く気づいた麦わらの一味、そしてキッドやローは、優しい光の温もりに、口角を持ち上げるのだった。



   



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