EPISODE.19



麦わらの一味を乗せたサニー号は、先頭を進んでいたキッドのヴィクトリアパンク号にすぐに追いつくことが出来た。
同じ船首に立つルフィとキッドは相変わらずいがみ合っており、そうしている間にも船は着々と鬼ヶ島に近づいていく。


――嵐を抜け、また気候が変わったのか鬼ヶ島に着く頃には雪が降り積もっていた。


開けた場所に出れば鬼ヶ島の全貌が明らかとなり、錦えもんや侍たちは、その圧迫感に思わず生唾を飲み込んだ。
島の大きな巨大岩"ドクロドーム"は山と一体化しており、中から宴会を楽しむ、部下たちの声が外まで聞こえてくる。

敵襲など気にも留めていない様子だが・・・まだカン十郎の報告が届いていないのか、もしくはそれを知っていてもなお、余裕の意味を込めて宴会をしているのか・・・真相は定かではないが、これは僥倖ともいえた。今なら奇襲も可能なのだ。

カイドウのいる城は島の中でも奥のさらに奥にあると錦えもんから聞いており、正面入り口からでも思ったよりも距離はありそうだった。


「バレてねェなら速攻が命だな」
「錦えもん達が裏口に着くまでの時間も稼がなきゃいけねェ・・・どうする?」


――正面の門から島内に入ったルフィ達はサニー号を停泊させると、錦えもんの立てた作戦を再度確認した。

錦えもんと傳ジローは左右の山道を二手に分かれ、皆を連れて城の裏口へと向かう。雷ぞうたちはローの潜水艦で渦潮を避けながら裏口に辿り着き、皆で裏口に合流、という手筈になっている。


「主力の赤鞘たちを裏口から突入させるか・・・なるほど大体作戦は理解したがこんな開けた場所でこの数の船を停泊させたら完全に敵を戦闘態勢にしてしまうぞ」
「皆の者!下船の用意をするのだ!」

「?なんだ?」


突然、声を荒げる侍たち。その手には斧や槌を持っており、何をするかと思えば侍たちが自分たちの乗ってきた船を壊し始めたのだ。


「なんだなんだ!?あいつら何してんだ!?」
「何という思い切り・・・なんという覚悟よ」
「よし!各員速やかに、かつ静かに上陸せよ!」

「ッおいおいおい!俺とおめェたちが苦労して修理した船だぞ!」
「沈めて船を隠したってことか!?でももう乗れなくなっちまったじゃねェか!お前ら、帰りどうするんだ!?」
「これじゃ逃げられないじゃない!」

「――ルフィ殿、心配は不要でござる。全て沈めていく。帰りの船など・・・要らぬ故」


錦えもんの強い眼差しを受け、口角を持ち上げるルフィ。


「すごいものを見せられました・・・」
『侍たちの本気・・・だね』
「ええ。全員迷いなくその覚悟・・・勝つか死ぬか、四皇に挑む姿勢に一切のおごりなし」
「・・・っに、逃げてえ時は!?」
「海の藻屑になるだけね」
「えっ、じゃ、じゃあサニー号も沈めなきゃいけないのか!?」
やるかアホ!!
「数隻なら隠せる。お前たちも上陸せい」


ジンベエにそう言われた一行は、サニー号から岸へと上陸をした。
すると先に上陸していた侍たちは錦えもんの能力によってカイドウの部下、人造悪魔の実で力を得た"ギフターズ"に化けていた。あまりにも見事な変装っぷりに、一瞬敵襲かと勘違いしてしまう程にその精度は高い。

何も知らないキッド達も橋の麓にある門をくぐれば錦えもんの能力が発動し、同じように変装させられていた。


「おい!何だこりゃ!?」
「おーいギザ男ー!」
「ああ!?」
「それ、すっげェ似合ってるぞー!めちゃくちゃ強そうだ!あはは!」
「ぐっ・・・う・・・うるせェ!!」


フクフクの錦ちゃん呉服店と呼ばれるその大技は、橋の麓にある門をくぐった者が百獣海賊団に変装することが出来るという代物であった。


「お主ら相当の海賊と見受ける。この島をどう攻めるのも自由だが・・・敵の層は厚い。戦力差は5倍以上。その変化を活用することを勧める!」
「ファッファッファ。これはいい・・・カイドウを倒すのに雑魚に構ってられねェからな」
「フンッ・・・行くぞ!」


キッドは変装を解かないまま、仲間を連れて先へと進んでいった。

麦わらの一味もゲートをくぐれば百獣海賊団に変装する事ができ、露出度の高くなったナマエ達の衣装に「こ、小悪魔的魅力・・・!」と相も変わらず生死の境を行き来するサンジ。

――尚、錦えもんの能力は一度脱いだり破損したりすれば元の着物に戻ってしまうらしく、慎重な行動が必要不可欠であった。


「同志たちよ!ここは鬼ヶ島カイドウの本拠地である!彼我の戦力差は大きい。我々の気合は十分!だが少しでも無駄な戦いを避け、決戦の城へ到着せよ!!――武運を祈る!!」


錦えもん率いる東軍、傳ジロー率いる南軍――その総数は5000人を超える。
そしてローの潜水艦は赤鞘の侍たちを乗せて海底を進みオロチ、カイドウのいる城を確実に差す。

――敵はまだ、5000人以上の兵の進軍に気付いていなかった。


「よっしゃ!おれたちも行くぞ!」
「っと、その前にルフィ・・・こんな時のためにスーパーなやつを用意した。そいつで行こうぜ!」
「分かった!」
「!まさか、あのすげえやつか!?」
「よし、行くぞ――ん?ッ、ああ!?」


突然、声を上げたルフィの視線の先には――正面入り口から堂々と乗り込もうとするキッド達の姿があった。ルフィはキッドの元へ飛んで行き、先頭を歩くキッドに猛抗議しに行く。


「おいコラギザ男!なに勝手なことしてんだ!錦えもん達の作戦と違うだろうが!」
「フン・・・侍なんて知ったことか」
「あン!?この戦いにワノ国の全部が懸かってんだぞ!?あいつらがどんな思いで生きてたと思ってんだ!」
「勘違いするな!俺たちは誰とも組まねェ!カイドウをやりに来たところにたまたま道が同じになった、それだけだ!」


キッド達は誰一人として足を止める事も無く、前へと進んで行った。

・・・いくら変装しているとはいえ、絶対にバレないという保証はどこにもない。歯を食い縛ったルフィは「よし"おれ達"があいつら止めてくる!」と言って腕を伸ばすとジンベエの隣にいたナマエを引っ張り上げ、そのままナマエを連れてキッドの後を追いかけに行ってしまった。
一部始終を見ていたジンベエが呆気に取られていると、あろう事かゾロまで、


「ルフィじゃ騒ぎをでかくするだけだ。俺が止めてくる」


と言って、ナミ達に何も告げず、ルフィの後を追いかけに行ってしまった・・・。



*



『いきなりびっくりしたよ、もう』


突然連れて来られるので何かと思えば。

ルフィと共に前へと進んでいくナマエは、ルフィから事情を聞くと漸く事の状況を理解することができ、フウと息を吐いた。
しかし、ナミ達に何も言わず行ってしまっていいものなのだろうか・・・そんな不安はよそに、ルフィは「待てギザ男ー!」と突っ走っていく。

・・・キッドも不安だが、ナマエからしてみればルフィも十分不安材料でしかない。ここは姉である自分がしっかりしなければ、と心の中で誓っていると、賑やかな声が一際大きくなり――ルフィとナマエは、大きな広場へと辿り着いた。


「なッ・・・!」
『!』


そこは金色神楽ステージのあるライブフロアだった。フロア内にはカイドウの部下たちがわんさかといて、酒を浴びるように飲み、食を楽しみ、中には流れてる曲に乗ってノリノリに体を動かす者もいる。

この中から変装しているキッド達を捜すのは至難の業・・・見聞色の覇気で探ろうとするナマエだがこの土地に集まっている人数が多い上に、得体の知れない強者達があちこちにいるせいでキッド達の気を上手く探る事が出来なかった。

仕方なくフロア内を進んでいると、ステージ上階では囚人採掘場にいたクイーンが、マイクを持って歌を披露していた。


「!あいつ風船じゃねぇか・・・!」
「おーい、遅えぞ!お前たちも食えよ!」
「ん?うおお!お前らうまそうなもん食ってるな!」


近くにいた部下達に声を掛けられる。どうやら変装はうまくいっているようで正体に気づかれてないようだ。
ルフィは目の前に差し出された肉を見て目を輝かせ、当初の目的を忘れたのか呑気にそれを受け取ると大きく口を開け、頬張ろうとする・・・が。


「桃源農園のもんが食えるのは俺たちだけ!」
「おこぼれ町のやつらが食ったらうますぎてショック死しちまうしなー!」

「『!』」


部下達の発言に思わず動きを止めたルフィとナマエ。


――あの子が今日まで何日飯を食っておらんと思う!?毎日せっせと傘を編み!それを全て売ったとしても人一人、生きているかどうかの日銭暮らし!ひえを時々食う程度の暮らしだが、年に二度、生誕の日と正月くらいは米を食わせたく・・・!今日は町までお玉の8つの祝いの米を買いに行かせた!!


――作るのも慣れでやんすよ!


飛徹とお玉の言葉が、頭の中に浮かぶ。――お玉に教えてもらった笠の編み方は、決して簡単なものではなかった。それをあんな小さな子供が慣れるまで毎日編むというのは・・・容易な事ではない。

すっかり黙り込んでしまった2人に周りの部下達が戸惑っていると・・・突然、頭上に大きな影が出来た。何処からともなくおしるこの入った大きな鍋がナマエとルフィ目掛けて飛んできたのだ。

目を見開かせたルフィは咄嗟にナマエの肩を押して自身から突き離し、その瞬間、ひっくり返った鍋が中身ごとルフィに覆い被さる。


「うわァアー!?あちちち!」
『!ルフィ・・・!』

「おいなんだこりゃ、おしるこじゃねぇか!酒の席だぞふざけんな!」
「今回大量に作りすぎたらしく回ってきたんだ!」
「バーカ酒のつまみにもならねェよ!」
「捨てちまえ、クソ甘えだけのおしるこなんて!」
『!』
「おこぼれ町にぶちまけたらいい!アハハハ!」


近くにあるおしるこの入った鍋を、笑いながら蹴り飛ばす男。


――うんめぇー!なんてうめェ食べ物なんだー!!


『・・・・・・ッ・・・』
「・・・んんー!?暗くて分からなかったが嬢ちゃん、えらくべっぴんだなァ!?オラ、もっと顔よく見せろよ!」


先ほど鍋を蹴り飛ばした男がそう言って俯いたままのナマエの腕を掴もうとした、次の瞬間――。腕を掴まれる前に、男を一睨みしたナマエはそのまま覇王色の覇気を放ち、気を失わせた。
白目を向けたまま静かに倒れていく男を今さら気にする者などおらず、ルフィも被っていた鍋を殴り飛ばすと静かに周りを見渡す。

――部下達はふざけあいながら鍋を振り回し、辺り一面に飛び散っていくおしるこを見て眉を顰めた。


「・・・なんでだよ。なんでお前らみたいなバカの目の前に・・・食いもんがいっぱいあんだよ!」


言いながら、ルフィは部下たちが持っていた鍋を奪うと全てそれを自分の口の中へと流し込み始めた。
尋常ではないおしるこの量を難なく食べていくその姿に回りの部下たちも圧倒され、気づけば何十個とおしるこの入っていた鍋は全て空となり、ルフィのお腹へと収まっていた。


「なんだこいつ!?」
「そんなにうまいのかよおしるこが!」
「ああうめェぞ・・・こんなにうめェもん、他にはねェ!なんで・・・ッなんでたまの腹に何も入らねえんだ!!」

「たかがおしるこで何マジになってんだよ!」
『!!』


一人の男が、目の前にある鍋を蹴り飛ばし・・・まだ中に入っていたおしるこが足元にこぼれ落ちる。

すると周りの部下たちは腹を抱えてバカにするように笑いだし、騒ぎを起こしてはいけないと頭の中では分かってはいても、おしるこを最高の贅沢と言って涙を流しながら食べていたお玉の姿を思い出す度、おしるこを粗末に扱うこの男達を・・・黙って見過ごすわけには行かなかった。

静かに怒りを込み上げさせながらナマエは一歩ずつ、目の前で下品に笑う集団に歩み寄る。


「うっひょー!こんな別嬪が、何でこんな場所にいんだァ!?」
「オロチ様のお座敷に行った方がいいんじゃねェか!?下手すりゃ、"小紫"よりいい女だぞ!」
「あんな変な奴放っといて、こっちで一緒に飲もうぜェ!!」
「おしるこなんて甘ったるいもん、見てるだけで吐きそうだしなァ!」
『・・・・・・さない』
「え?なんて言った?」
『ッ――許さない、って言った・・・の!
「!ギャアァアアアー!?」


武装硬化した拳はいとも簡単に男たちを殴り飛ばしていき、さらに追い打ちをかけるように、上空では筋肉を膨らませたルフィが構えており、


「ゴムゴムの――像銃エレファント・ガン!!」


ルフィの巨大な拳はフロア内の地面を大きく変形させた。



   



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