EPISODE.17



「み・・・ッ・・・み・・・みんな!聞こえるかぁあーー!!」


黒い雲の奥から、モモの助の声が聞こえてくる。
墨の矢の攻撃を防ぎながら、海上で戦う者たちの視線が全員、空へと向けられた。


「全員、拙者の事は気にするな!それは敵の思うツボでござる!拙者は1人で逃げて見せる故、カイドウとオロチを討ち果たし・・・ワノ国を、守ってほしい!!」

「・・・フッ。モモのくせに、男見せたな・・・」


本当は怖くて、今すぐにでも助けてと叫びたいはずなのに。

ルフィは、どこか嬉しそうに笑みを深めると大きく息を吸い、空に向かって大声を出した。


「そうだ、モモ!!お前はビビりのアホガキのくせに威張ってるだけのちょんまげチビなんだー!!」
「!?モモの助様に向かって無礼な口を!?」
「誰だあの野郎たたっ斬れェ!!」

「何とか生き延びろ!必ず、助けに行くから!――ダチだからな!!」
「・・・〜〜っ、」


そのルフィの言葉は、遠くにいるモモの助にしっかりと聞こえていた。涙を流すモモの助はカン十郎に連れ去られて鬼ヶ島へと向かい、麦わら帽子を深くかぶったルフィは腕を伸ばし、サニー号へと戻ってくると声を上げた。


「よし。行くぞ、鬼ヶ島!モモが待ってる!」


黒い雲から抜けた一行は、サニー号を先頭に鬼ヶ島へと向かう。――すると、どこからともなくヒュウウという風を切るような音がしたと思ったその時、後ろを走る仲間の船に砲弾が直撃し、襲撃に遭った。
一体どこから・・・ウソップが単眼鏡で覗いて見るとそれを発射したのは最初に逃げ出した敵の戦艦であった。

どうやら長距離砲の砲台が積まれている戦艦のようで、敵は逃げたのではなく・・・間合いを取っていたのだ。

あんな距離から当てられるのは、ワノ国で作られた兵器のおかげ。海外のものよりも精度が高く、けれどなにもそれは砲台だけではなかった。ワノ国の武器工場のおかげで様々な武器が百獣海賊団には揃っているのだ。

応戦しようにも敵の戦艦はかなり遠い場所にあり、その間にも次々と砲弾が発射され仲間の船が大破し、沈んでいく。


「クソッ・・・やけにあっさり逃げたと思えば・・・」
「全速前進!近づくしかねェ!」

「ッまずい・・・この距離を保たれたらみんな沈んでしまうぞ!」


追いかけようとしても、敵の戦艦は常に一定の距離を保ちながら、攻撃を繰り広げる。
このままだと全滅してしまう・・・後ろで火の手が上がる仲間の船を見てナマエは床下に収納してあったメーヴェを取り出し、それに乗って起動させようとする・・・――が、夜でも無い上に空は厚い雲で覆われ、キラキラの実が原動力となるメーヴェはうんともすんともいわない。


『(っ、だめか・・・)!!』


唇を噛み締めた、その時――。何か強い気が近づいてくるのを感じたナマエは、メーヴェから降りると海底を覗いた。

――その気には、どこか見覚えがあった。・・・それは2年前の頂上戦争の時、サカズキの攻撃から身を呈して自分たちを救ってくれた――。


「魚人空手――槍波!!」


海中から放たれた槍のような水は敵の戦艦を貫き、長距離砲の砲台を再起不能にさせた。
さらに海中から追撃を喰らい、敵の戦艦は大破。一体何が起きたというのか・・・困惑する麦わらの一味の前に、海の中から"その人物"は姿を現した。

サニー号を近づけてみると、壊れた戦艦の瓦礫に誰かがいるのが見え、目を凝らすように見つめるルフィ。


「!誰かいるのか?」
「――どちらさんも、おひけえなすって!」
「・・・!」
「手前生国と発しますは――海底の国、リュウグウ王国魚人街」


その声に聞き覚えのあったルフィの顔から、笑みがこぼれる。


「ほうぼうのおあ兄いさんとおあ姉さん方に厄介をかけながら――この度、麦わらの親分さんに盃をいただく――駆け出し者でござんす。人呼んで――海峡のジンベエ!!以後、面体お見知りおきの上――よろしくお頼み申します」

「ウソだろ・・・!?」
「麦わらの一味に入るのか!?」


そう、そこにいたのは元王下七武海の座に君臨する大海賊――ジンベエであった。その実力は魚人の中でも最強クラス・・・ジンベエが麦わらの仲間になると言聞いたローとキッドは驚いたように口を開いた。
大きく目を見開かせたルフィは、わなわなと拳を震わせると感極まったように、その拳を空に突き上げる。もちろん喜んでいたのはルフィだけではない。麦わらの一味も、同様に喜びの声をあげた。


「ハッハッハ!わがまま聞いてもろうてすまんかった!ルフィ、約束どおり生きて戻ったぞ。戦いに間に合ってよかった」
「ハハッ!」


居てもたってもいられなかったルフィは、サニー号から飛び降りると瓦礫の上に立つジンベエの胸に飛び込んだ。

――ホールケーキアイランドで、ビッグ・マム海賊団との抗争の際に共闘したジンベエ。逃亡時には自らがタイヨウの海賊団と共に最後尾を務め、ビッグ・マムの領域から麦わらの一味を逃してくれたのだ。

無事な姿に安堵したナミやブルックからも涙が零れ、ジンベエは笑いながら、いまだに離れないルフィと共にサニー号に乗り込んだ。


「皆、今日からこのサニーのクルーだ」
「心配してたんだから!」
「おやびーん!」
「ハッハッハ!わしも皆と再会できて嬉しい!」


タイヨウの海賊団の負傷者の手当てと自分の送別会が盛り上がり抜けるに抜けられなかったと、そう陽気に話すジンベエにルフィは「心配したんだぞ!」と笑って答え、麦わらの一味がジンベエと感動の再会を果たすなか――少し離れた場所にいたナマエは一人、きゅっと唇を噛み締めていた。



「ルフィ君、ナマエ君!しっかりせぇよ!!生きにゃいかんぞ!!!エースさんがおらぬこの世界を・・・明日も明後日も!!お前さんら、しっっかり生きにゃあいかんぞ!!!」




――頂上戦争の時、エースが目の前で殺され、薄れゆく意識の中、ずっと頭の中に鳴り響いていた声の主。そしてサカズキの攻撃からルフィとナマエを守ってくれた、命の恩人。


「!」


ナマエの姿を視界に捉えたジンベエは集団から抜けると真っすぐとナマエに歩み寄っていった。




「ジンベエ・・・おれがこのまま死んだらよ、悪ィけど妹と弟のこと・・・気にかけてやってくれよ・・・」
「いくらアンタの妹弟じゃとゆうても海賊の世界・・・わしはホレ込んだモンにしか手は貸さんし、守りもせん」




――それはジンベエが、インペルダウンで交わしたエースとの最後の言葉だった。


「ようやっと会えた、エースさんの妹・・・!わしはジンベエ!よろしく頼む!!」
『っ』
「その真っすぐな瞳・・・まるでエースさんと一緒にいるようじゃ!」


にこり、そう笑って手を差し伸べるジンベエに、ナマエは地面を強く蹴ると、ジンベエの胸元へと飛び込んだ。遠くからサンジの「んなァ!?」と悲鳴に似た声が聞こえてくるが、ナマエは気にも留めず、ジンベエの胸元にある大きな傷痕を見て、辛そうに顔を顰めた。


『ごめんなさい・・・!私、あなたにずっと謝りたくて・・・っ助けてくれたお礼も、まだ言えてなくて・・・!』
「ハハハ!礼などいらぬ。エースさんの大切な人を守れた・・・本望じゃ!」


目じりに溜まったナマエの涙を拭うジンベエ。その強い優しさに、顔を綻ばせたナマエは『ありがとう、ジンベエ!』とまた強く抱きしめた。


「皆、改めて――どうか1つよろしく頼む!」



   



戻る
















×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -