EPISODE.16



カイドウとビッグ・マム・・・1人を相手にするだけでも大変だというのに、まさか四皇が同盟を組むとは想定外であった。顔を青ざめさせたウソップ達が絶望するなか、いい気になった部下達は勝利を確信するように声を揃えて笑いはじめる。


「へっ。なーにお前らが威張ってんだ。ナメやがって・・・みんな下がってろ!」
「バカが。お前が下がれ」
「!何だよトラ男!おれがやるって言ってんだろ!!」
「任せられるか」
「お前ら2人とも下がってろ。俺がやる!!」
「ギザ男!?てめえ・・・!」
「ごちゃごちゃ抜かすな!」
「お前ら人の話を聞け!」


カイドウとビッグ・マムが手を組んだと知れば戦意を失う・・・そう、敵側は思っていた。けれどそんな事はどうでもいいかのように敵を前にして言い合いを始める最悪の世代。いつの間にか早いもの勝ちだという競争が始まり、ルフィはゴムの腕を伸ばし、キッドは磁気の力を利用して海賊船へと飛び、ローは能力を展開すると雨粒と自身を入れ替え、ルフィやキッドよりも先に敵の戦艦に到着した。


「トラ男!?」 「てめえ!?」
「雨の中じゃROOMには敵わない」
「ッ大体汚ねえんだよ!お前の能力さあ!」
「知るか」
「目立とうとしてんじゃねェぞ!」
「お前に言われたくない」
「帰れよ!おれがやれば一撃なんだからよ!」
「その言葉、俺じゃ一撃で潰せねえように聞こえるな!?」
「おれがやる。お前ら2人は敗者だ、それでいいだろ」

「「敗者ァ!?」」


敵陣に乗り込んだというのにいまだに言い合いをする船長の姿に思わず笑みをこぼすナマエ。あれで最悪の世代と恐れられているのだから・・・なんともおかしな光景に笑わずにはいられなかった。
3人は相変わらず小競り合いをしながらも敵の戦艦をあっという間に沈めてしまい、すると今度は誰が戦艦を沈めのかと、再び言い争いが始まる。


「っ今のうちにあいつらから距離を取れー!!」


勝ち目がないと察した他の戦艦が、その場から逃げるように舵を切る。
すると――鬼ヶ島方面から、一隻の船がやってくるのが見えた。帆には「狂」の文字が大きく書かれてあり、それに見覚えのあった敵が口角を持ち上げる。

現れたのは――オロチに仕える侍の一人、狂死郎の船だったのだ。


「困っているようだな・・・何か手伝えることはあるか?」
「来てくれたんですね!オロチ様の命令で赤鞘を沈めりゃ終わりなんですけど・・・思ったよりてこずっちまって」
「そうか・・・敵を沈めるんだな。任せろ――」


そう言って船首に立った狂死郎は刀を抜くと・・・ルフィ達ではなく、目の前にいた敵の戦艦に攻撃を仕掛けた。


「ええええーー!?」


たった一振りで戦艦の砲台は真っ二つに斬られ、音を立てて破壊していく。敵は、なぜ味方である自分たちを攻撃したのか分からず慌てふためいた。


「あやつ・・・一体何のつもりだ!?」
「沈めるのも悪い・・・こちらに向いた大砲だけ使用不能にさせてもらった」
「な、何が起きている!?」

「赤鞘のお侍さん方――拙者、花の都のやくざ者。人呼んで居眠り狂死郎と申す!わが狂死郎一家200名・・・あんた方の討ち入りに助太刀させていただきたい!」


狂四郎の言葉に、錦えもん達は目を見開かせた。狂死郎はオロチの手下・・・こちらにつく事に、何の義理があるというのか。


「義理も恩も・・・光月家には計り知れずござんす・・・ッとかく思い出すのは、錦さん!」
「なっ・・・"錦さん"!?」
「40年前、都で起きた山の神事件・・・世間はまるでおでん様の暴走と理解してたが――違うね。あれは欲の皮の突っ張った若えあんたが子猪を売っ払おうとして起こした事件だった!」
「・・・!それを知るのは、もはやただ1人だぞ!!もしや・・・ッおぬし、傳ジローか!?」
「え!?傳ジローさん!?」

「いかにも!――光月家が家臣、赤鞘九人男が1人・・・傳ジロー!」


錦えもんらが見つめる中――狂死郎は頭のリーゼント部分を外し、その正体を明かした。

傳ジローは、錦えもん達の帰還を知った時、本当はすぐにでも名乗り出たかった。けれど万が一を考え、敵であり続けていたのだ。そしてその選択は正しかった。案の定、名乗っていれば"内通者"に正体をバラされ、傳ジローはオロチに消されていたのだから。

最後までオロチの信頼を得た事により、羅殺町牢屋敷の1000人の侍たちを解放することができた、そう叫んだ狂死郎の船の背後から――何隻もの船が、霧の向こうから現れる。


「見て、あれ!」
「敵の増援か!?」
『・・・ううん、違う。あれは・・・』


船の帆には、それぞれの武家の家紋が描かれていた。その数、およそ1200人――あまりにも圧巻の数に、錦えもんは言葉を失った。


「それにしても錦さん、さすが頭のキレる男!決戦の日と集合場所を現したこの図案・・・!」


火の鳥2羽にハブ、そして反乱の意志、逆三日月。
火祭りの日、夕刻酉2つ、場所は刃武港――元の絵に線2本は無かった。この絵の存在はオロチ達に漏れてしまったが、死の間際、康イエによって判じ絵は書き換えられ、新たに2本の線が書き加えられた。


「この2本の線は、腹の絵を消すことを意味する文字抜き!!つまり新たな集合場所は刃武港の中を抜いた――"波止"!」

『・・・え?』


傳ジローの言っている事と、錦えもんが言っている内容がだいぶ違っており、ナマエは首を傾げた。

康イエが愛した、もみじ林の絶景がある刃武港の波止――その事実に、遠くの陸地からカン十郎の「ええええぇえー!?」と悲鳴に似た声が聞こえてくる。


「ハブの腹に線2本と聞けば誰にでも容易に分かるこのメッセージ!しかしオロチの内通者がそばにいると察したあんたは、"あえて"身内にだけ常影港と読み違いをしてみせた!!」

「・・・確かに、あの絵はトカゲには見えなかったな」
「錦様が自信満々だったから信じてしまったけど」

「内通者はまんまとあんたの策にハマり、オロチに新たな集合場所は常影港と伝えたのだ!!」


長く都にのさばった権力者の愚かしさ。
オロチは土地の距離感を見誤り、行動を起こしたのが昨夜――だがその時刻には既に全員大橋を通過して必要な分の船は出航をしていた。壊されたのは、不必要な船だけだったのだ。


「あんた達が集めた4200人の軍勢は作戦通り――刃武港の波止に身を隠し、この時を迎えた!」
「!じゃあ、皆無事で・・・!?」


顔を上げたお菊の瞳から、涙が浮かび上がる。霧が晴れ、その先には――もう来ないと思っていた侍たちが、船に乗って現れたのだ。
その中にはヒョウ五郎含めた郷のヤクザの親分衆、イヌアラシ銃士隊の姿もあり、鬼ヶ島討ち入りの作戦はなに1つ狂ってなどいなかった。
狂死郎が連れてきた侍1200人を足した、総勢5400人の武士達が一丸となって錦えもん達の前に現れたのだ。

いざ鬼ヶ島、そう士気を高める武士達に、圧倒的な数に敵は鬼ヶ島にすぐに連絡を取ろうとするも、宴の騒ぎで気づいていないのか、誰一人として出てはくれなかった。


「おお、おお、すげえじゃん!なんだかんだで味方が増えてんじゃんかよ」
「別に俺たちだけでも行くつもりだったがな」
「戦力は大いに越したことないでしょ!」
『頼もしい限りだね!』
「これなら百獣海賊団なんて目じゃねえぞ!」
「ははっ、壮観だな!ニシシッ、何がどうなったのかよく分かんねえけど――問題なしだな」

「錦さん、さすがは俺たちのリーダー!!やはりあんたは尊敬に値する!!」


うおおおおお、侍たちが歓声を上げる中――それまで黙っていた錦えもんの顔からは滝のように汗が流れていた。まさかトカゲではなくハトと読むなんて、考えてもいなかったのだから。
結果的にはそれで良かったものの、傳ジローを除く赤鞘衆は、錦えもんを疑いの眼差しで見つめていたのは言うまでもない。


「ワノ国はこの曇天よりも深い暗闇の中にいた――だが時は満ちた!いざ鬼ヶ島へ、共におでん様の無念を晴らそうぞー!!」


気を取り直した錦えもんが刀を掲げれば、周りの侍たちは声を上げた。
前哨戦はこちらの勝利――残された敵の戦艦が慌てて逃げようとするも、ルフィ・キッドが乗り込んだことによってそれは敵わなかった。

ナマエは、気がかりだったモモの助のいる陸地を振り返る・・・が、そこにはしのぶの姿しかなく、カン十郎とモモの助の姿がどこにもない。
一体どこへ・・・辺りを見渡したその時、上空からモモの助の声が響き渡る。


「うわああ高い!降ろしてくれええ怖いぃいい誰かぁあーー!」
『モモ!』


見上げた先には大きな鶴の背に乗ったカン十郎がモモの助を脇に抱え、空を飛んでいた。カン十郎が描いたと思われるその鶴は、今まで見たことのない綺麗に飛ぶ鳥で・・・これまで見てきた下手な絵は全て敵の目を欺くための芝居だったのだ。


「さらばだお前たち!どのみち貴様らなどカイドウ様の軍隊にかないはせぬ!島に入ることもできぬわ・・・!」
『!カイドウ・・・"様"?』
「助けてええぇえー!」


カン十郎の異変――いや、それは本性であった。内通者というのはカン十郎だったのだ。


「ルフィ!カン十郎は敵のスパイだったって!モモが連れてかれる!」
「えええー!?本当かー!?じゃあおれ達の事ずっと騙してたのか!?ッあの野郎・・・!」


――このままだと、カン十郎が雲の中へと逃げてしまう。

空中歩行スカイウォークを使って後を追いかけたサンジがカン十郎に攻撃を繰り広げるも、さすがに一筋縄でいく相手ではなかった。
サンジの攻撃を避け、さらに逃げようとするカン十郎を追いかけようとするが――不敵に笑ったカン十郎は長い髪をぐるぐると振り回しはじめ、上空に黒い雲が立ち込める。

嫌な予感がしたナマエはサンジに引き返すよう叫んだ。


「墨雲――降れ、墨の矢!!」
「!」
「――浮世夕立絵図」


雲の中から、数多の墨の矢が、まるで雨のようにして船に襲い掛かる。
ウソップ達は急いで船内へと避難し、ナミも逃げようと走るが――雨で足元が滑り転んでしまい、自分の周りに沢山の墨の矢が突き刺さると悲鳴を上げた。


「いいやぁあーー!?」
『ナミ!』


甲板でフランキー、ゾロと共に応戦していたナマエは倒れているナミの元へ駆けつけると武装色の覇気を纏った腕で、降り注ぐ墨の矢を弾き返した。


「!ナマエちゃんナミさんロビンちゃんのハートを射抜いていいのは――俺だけだあああ!!!」
『え・・・っ、サ、サンジ!?』


突然、サンジはナマエとナミの上空に飛び出すと降ってきた墨の絵を、2人を守るように背中で全て受け止めた。
驚いたナマエが慌てて助けようと、手を伸ばした――その瞬間。
降ってきた一本の矢がナマエのつけていた狐面の紐を掠り、ハラリと解けてしまった。
支えのなくなった狐面は音を立てて地面に落ち、ナマエと、真上にいるサンジの顔が至近距離で合ってしまい――。


「ッ・・・オール、ブルーが、見え・・・る・・・ッ」
ンなもん此処にあるわけねェだろ!!気を確かにしろ、サンジィイー!!!!???」


墨の矢ではなく、ナマエによって大ダメージを受けたサンジは血を吐きながら倒れたのだった。



   



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