EPISODE.14



まだいくつかの問題点はあれど、皆の尽力により現状、極めて理想的に兵力は増えていた。
いまだに"傳ジロー"の情報は無いが光月の家臣も7人集い、錦えもん達は編笠村にて作戦会議を行った。

ロビンからの情報だと百獣海賊団の兵力は約2万人。将軍オロチの行列の人数は約1万人。
つまり当日鬼ヶ島には3万人の敵がいるという事になる。
対する錦えもん達の数はざっと4千人ほど・・・全面戦争ではないにしろ、人数だけ見ればこちら側がかなりの不利であった。


――現在、伊達港ではフランキーの指示のもと討ち入りに必要不可欠な船が修理されていた。懸念されていた武器も、河松の手柄により鈴後にて隠されてあった数千もの刀や槍を手に入れることが出来た。

当初、予定ではハブの絵で集合地"刃武港"を示していたが、勘のいい敵に万が一にも邪魔されぬよう、つい先日処刑された康イエが全ての状況を見通し、手を打ってくれたことによりハブの腹に線2本が足される事となった。
錦えもんの「ハブの腹に線2本」という言葉だけを聞いた同志達にも集合地が変更になった事は伝わっている。


一方その頃、兎丼では――ルフィはナマエ直々に組み手をしてもらい、修行をつけてもらっていた。


「うおおォオーー!!!!!」
『力みすぎだよ』
「!」


弾む男バウンドマンの状態でも、ルフィは覇気で防御をするナマエに一撃も打撃を与える事が出来なかった。

時間は刻々と迫っており、気づけば討ち入りまで残り3日・・・・・・二人の修行を見守っていたチョッパーが「間に合うのか?」と不安そうに呟く。


『どう?ルフィ』
「必ず間に合わせる!!」


そう答えるとまるで分かっていたように笑みを零したナマエは『じゃあ修行再会だね』と、覇気で覆った腕を構えた。


――それからルフィは寝る間も惜しんで修行に励み、一行が編笠村に戻ってきたのは討ち入りの2日前だった。無事に編笠村にいたナミ達とも合流する事が出来たナマエは、この数日間で一体何があったのかを聞いた。

・・・各郷のヤクザの親分たちが更に兵士を集めた事により戦力は4200人まで増えた。
ローから連絡が来ないのが気掛かりではあったが、残る時間は移動と準備に使うよう、錦えもんは皆にそう指示を出した。約束の港で会おう、という言葉を添えて。


侍たちの士気が高まる中、ルフィは一人、兎丼での徹夜が効いたのか編笠村についてからずっと眠りについていた。


「アニキ、起きないでやんすね」
『ずっと修行してたからね。今は寝かせてあげよう』
「アネキは眠くないでやんすか?一緒に修行してたのに・・・」
『うん。私は大丈夫』


笠の編み方を教わったナマエは、お玉と一緒に笠を編みながら横で眠るルフィを見て優しく微笑むと、『出来た!』と出来立ての笠をお玉に見せた。
・・・その見た目の酷さにお玉は「い、いい感じでやんす」と目も口もあらぬ方向を向いて言うので、すぐに嘘だとバレる。

落ち込みながらも編んだ笠を解いていくナマエは、こんなにも複雑な編み方ができるお玉を尊敬するように言った。


『たまは凄いね』
「そんなことないでやんす。作るのも慣れでやんすよ!」
『慣れだとしてもすごいよ!私不器用だから何にも作れなくて・・・あ、一回だけ自分で作って成功したやつがあるんだけど』
「へえー!なにを作ったんでやんすか?」
『・・・ネックレスと、ブレスレット』
「あ、それもしかして、アニキのつけてるやつでやんすか?」
『うん。そう』


お玉は、眠るルフィの腕にある赤い数珠で出来たブレスレットを見て納得した。綺麗でやんすね、そう褒めるお玉は、ふと・・・エースが首にかけていた、ルフィと同じ数珠のネックレスを思い出す。


『?どうしたの?たま』
「・・・ネ、ネックレスは、どうしたでやんすか?」
『え?んー・・・』
「っ、」
『・・・大切な場所に、置いてきてあるの』
「そ、そうでやんすか」


それ以上は、何も聞かなかった。聞いちゃいけないような気がして。チラリ、ナマエを見ればナマエは何事もなかったかのように苦戦しながらも笠を編んでいて、お玉はブンブンと勢いよく頭を左右に振ると、ナマエにアドバイスをするのだった。




――そして時は流れ、討ち入りの前日。


「ではルフィ殿、拙者たちは先に発つ。皆より早く着かねば」
「おう!おれ達のサニー号はここの海岸だから!見つかるなよ」
「何を!ずっと張り詰めておるわ。おぬしらを頼りにしておる!」
「おう任せとけ!!」
「では港で!!」
「おう!!」


がしっ、とお互いの手を握り合い、錦えもん達は編笠村を出ていった。

――さても粛々と歩きだす赤鞘の侍七人と忍一人、要人一人。まるで冬の霜のように鳴く枯れた大地を踏みしめる。
中天に太陽、煌々として雲やや怪しくなるも二十年前の時を超え、主君の無念を討ち果たさんとする"亡霊"でなき九人の影をくっきりと映し出す。






『・・・うん、上出来!』
「しししし!!みてろ、カイドウ!!」


ルフィは、目の前で抉れたように大きな穴の空いた木を見て満足げに笑みを零した。

――空は晴れ、桜舞い散る花の都。時はついに"火祭り"の日を迎え――その陰で、世界の運命をも揺るがす"戦"が始まる。











「うおおかっこいいー!おれにピッタリだァ!」
「おっいいな、俺はこれにするか」


討ち入り前日の夜、麦わらの一味はサニー号のいる近くの浜辺にて明日の準備に取り掛かっていた。
侍たちが用意してくれた鎧と兜にフランキーやウソップは興奮しており、てっきりルフィもそれを着ると思っていたのだが・・・ルフィは持っていた兜をフランキーに渡すと、自身はいつもの服装に、黒のマントを羽織るだけだった。


「海賊だからな、おれはやっぱこっちの方がいい」
「あたしたちのいる編笠村はここ・・・で、ここが集合場所の"常影港"ね」


ハブの腹に線2本――錦えもん曰く、それはハブに足が足されたトカゲを指しているそうだ。念入りに地図を確認するナミの隣で、ナマエは心配そうに夜空を見上げる。


『ナミ。明日・・・嵐、来るよね?』
「・・・ええそうね。湿った空気にこの嫌な風。可能性は高いわね」


メーヴェを操縦するためには天候を読むことも必要で、ナミに最終確認したナマエは『やっぱりそうだよね』とガクンと肩を落とした。今はこんなにも晴れているというのに、なぜ討ち入りの日に限って嵐なのだろうか。
明日はキラキラの実の力には期待しない方がいいだろう。

――新しい着物に着替えたナマエは丈は相変わらず短いものの、袖のない動きやすいものになっていた。偶然にも柄は大好きな向日葵の花が描かれたもので、着物の上から純白のフードマントを羽織るナマエの姿を見たサンジは、改めて見るナマエにその場で悶えるように転げ回った。


「くっ・・・そのご尊顔を見てェ・・・!けど見たら最後・・・ッ討ち入り前に俺はお陀仏だ・・・ああああああナマエちゅわぁあああん!!!おれは、おれはどうしたらーーー!?」
「うるっさい!敵にバレたらどうすんのよ!!!!」



――ドン!!!!



「「「「!!!」」」」


突然、爆発音がしたと思いきや崖の方から火の手が上がっているのが見える。方角的に、サニー号がいる場所だった。

まさか敵襲を受けたというのか。


「!サニーが!この野郎、だれがこんな事・・・チキショウ!ッうおおおサニー!!!」


フランキーを筆頭にルフィ達がサニー号の方へと向かうと・・・洞窟の中にいたサニー号は無事であった。船の帆は燃えてしまったものの、船体に目立った損傷は無く、安堵したフランキーはニッと口角を持ち上げる。

恐らく敵は爆弾を投げてサニー号を破壊したつもりだったようだが・・・爆破後にサニー号の確認されなかったのは不幸中の幸いだ。敵はサニー号を破壊したと思い込み、今頃オロチ達に嘘の報告でもしているのだろう。


「こうしちゃいられねェ!」
『フランキー、わたしも手伝うよ』
「あう!ありがとよ!」


――討ち入りの時間に間に合わせる為には今すぐにでも直しに取り掛からなければ間に合いそうにない。フランキーは早速、帆の修繕に取り掛かった。



   



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