EPISODE.12



――ビッグ・マムが採掘場に乗り込んでからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
中は相変わらず何かが崩れる音や人々の悲鳴しか聞こえない。

ルフィだけでなくチョッパーやお菊達も心配に思ったナマエが見聞色の覇気を使い、中の様子を伺おうとした――その時。

何か、強い気がこちらへやってくる。目を鋭くさせたナマエは、中の様子が気になるのか覗き込もうとするお玉とモモの助の首根っこを掴むと、二人を抱えて岩場の影に身を潜めた。


「うおおおー!!!いざ鬼ヶ島ァーーー!!」


――囚人採掘場から飛び出してきたのは、数多なる看守と、荷台に乗って眠っているビッグ・マムであった。ビッグ・マムの身体は海楼石の鎖で厳重に何周も巻かれており、物凄い速さで出ていった一行は真っ直ぐと港の方へと向かって行く。

・・・恐らく強さからしてあの先頭にいた大男が、百獣海賊団の大看板クイーンだろう。
ということはクイーンがいなくなった今、囚人採掘場は手薄になったのだろうか。

目を細めたナマエは、悩んだ。
中に行って様子を伺いたいが、お玉とモモの助だけにするわけにはいかない・・・悩んでいる間にも、目の前の門は閉まろうとしていた。


「アネキ、モモ君!門が閉じるでやんす!」
「うむ!致し方ない!拙者達はここで待つ約束」
「行こう!!」
「えーー!!」
『たま!』
「っ!」


中へ入ろうとしたお玉だったが、聞いたことのない強い口調でナマエに呼ばれ、ぎくりと肩を飛び跳ねさせて止まる。
恐る恐る振り返るとそこにはいつもとは違う空気を纏うナマエがおり・・・お玉の目に涙が浮かぶ。


「ア、アネキ・・・っ・・・お、おら・・・ルフィのアニキを助けたいでやんす・・・」
『・・・・・・』
「ま、守られてばっかじゃ、駄目でやんす!」


―― 今のままじゃ・・・ルフィの足を引っ張っちゃう。もう守られてばかりじゃ、駄目なの。


『・・・・・・ふふ』


まるで、二年前シャンクスに頼み込んだ自分を見ているようだ。
不安げに自分を見上げるお玉に、困ったように微笑んだナマエは『私の側から離れない事。分かった?』と、条件を出した。

てっきりダメだと言われると思い込んでいたお玉はナマエの言葉に笑顔になると元気よく返事をし、絶対離れないでやんすとナマエの足に抱きついた。
モモの助も怯えながらも、仕方なくナマエとお玉と行動を共にし、3人は囚人採掘場へと乗り込んだ。


「討ち取れそのこざかしい6人をー!!」


――しばらく進んでいると、開けた場所に出た。お玉とモモの助を壁際に隠したナマエは二人に静かにするよう、人差し指を口元に当てて『シー』と伝え、2人はこくんと頷く。

・・・広間では、ルフィとチョッパー、お菊、雷ぞう、そして同じ囚人として捕らえられていた錦えもん達のかつての同心、横綱河松という河童と、花のヒョウ五郎と呼ばれる老人が、看守相手に戦いを繰り広げていた。

しかし一体何が起きてるというのか・・・副看守長ダイフゴーとその部下が持っている銃に当たった者達の体から、変なアザが浮かび出ている。


「ハッハッハ気をつけろ、そいつは接触感染する疫病だ!触れたら伝染るぞ!」


それは物作りが好きなクイーンが作ったものだった。敵意のない囚人に手を出せないルフィの弱みを握ったダイフゴーはルフィ達ではなくあえて周りの囚人を狙い撃ち、そして伝染した者達は苦しそうに呻きながら周りに助けを求め、触れられた者達へと次々と伝染していく。


「ああそうだ、言い忘れた。その伝染病の病名だが・・・撃たれた箇所から広がる高熱・・・!焼けるような全身の痛み!吐き出す血液・・・!苦しみ続け、のたうち回り無差別にその苦しみを人に伝染す――見ろ!アレが感染者達のなれの果て!!まるで干涸び腐った植物のようだ!!クイーン様の傑作の一つ!その名も奇病"ミイラ"」


――ここにいる囚人は、元は武士や侍でありカイドウを恨んでる者が多かった。しかしこの兎丼で、看守達に逆らって仕舞えば最後・・・例え脱獄できたところでカイドウとオロチの支配するワノ国で、逃げ切れるわけがない。
家族を失い、同志を失い、完膚なきまでに打ちのめされた囚人達は、ルフィが勇敢に看守達に刃向かう姿に心は強く打たれたものの、自分達が同じ行動に出ようとは思わなかった。
ここを出たところで彼らには帰る場所も食べ物もない。この国のどこを探しても、もう"自由"はないのだ。


「お前達もいけ!!反逆者になりたいか!!」


囚人看守長ババヌキに鼓舞された囚人達が、ゾロゾロとルフィ達を囲う。


「出て行っでぐれ・・・!」
「おばえ達が来なぎゃ・・・こんな事には・・・!」
「あんたらがも゛し本当に・・・20年前死んだはずの赤鞘の侍達だったとしても勝てやしねェんだ・・・!カイドウには・・・あの空を飛ぶ龍には!!百獣海賊団には誰も敵わねェ・・・!!」
「見ろ・・・!その部下の一人が作ったたった一つの"兵器"で・・・この脅威・・・!この絶望的な力・・・!」
「そうだ!!余所者のお前が来なきゃ・・・この兎丼にもただ"日常"が続いただけ・・・!こんな目に遭わずに・・・」


眉間にシワを寄せたルフィは、目の前の囚人の顔を鷲掴みにした。
触ってしまったら最後、ルフィも疫病に侵されてしまう・・・しかしルフィはそれを物怖じともせず、自身の体が変色していくにも関わらずゴムで両腕を目一杯左右に伸ばすと、自ら囚人の群れに飛び込んで行った。


「止まれお前ら!!」
「!!自分から・・・!?」
「バカか!?」
「何をするルフィ太郎殿!!」

「ッ・・・何が絶望的な力だ・・・こんなもん、全然効かねェ!!」
「ウソつけ!早く離れろルフィ!!」
「おれの知ってる"侍"達は、みんな強ェのにお前ら心の中までバキバキに折られやがって!!ッ何が日常だ!!言いなりに動いて団子もらって生かしてもらってんのが日常!?――目ェ覚ませ!!お前らただの奴隷だ!!」


全ての囚人達を、吹き飛ばしていくルフィ。全身に疫病が回ってしまい、尋常ではない熱が放出されているのか体からは蒸気が出ており、目を見開かせたナマエはいてもたっても居られずに、『ここにいて』とお玉とモモの助に伝えると飛び出た。


「アネキ!」 「ナマエ!?」

「おれは約束したんだ・・・九里で・・・自分のメシをおれにくれた"たま"って友達と!!ここを!!腹いっぱいメシの食える国にしてやるって!!それができなきゃここはずっと地獄だ!おでんの話なら聞いた!あいつはすげェ!でも20年前おでんがカイドウに殺された日この国は止まったんだろ!?おれ達はカイドウに――勝ちに来たんだ!!!それを味方に邪魔される筋合いはねェ!だから今ここで決めろ!おれ達につくか・・・カイドウにつくか!!」


――長い沈黙が続く。囚人達は力が抜けたようにその場に座り込み、中には涙を流す者もいた。
ルフィは、自らの身を犠牲にして囚人達の心を掴んだのだ。


「本気か・・・・・・まだ・・・チャンスを・・・くれるのか・・・!?」

「まずいな心揺れちまってんじゃねェか――だが今隙だらけ。あの真ん中に撃ち込めば・・・大パニックでまた状況逆転だ!この疫災弾200発分のウイルスが飛び散る・・・疫災散弾で!」


看守長のババヌキは、腹部にいるゾウの鼻に疫災弾を詰め込み、狙いをルフィ達のいる方角へと定める。

ゾウがくしゃみをしたら最後・・・鼻に詰め込まれた弾が発射されてしまう。

異変に気づいた河松が急いで周りに避難指示を出すが、気づいたときにはもう既に手遅れだった。ババヌキが勝ち誇った表情で弾を発射をしようとした、その刹那――。


「え」
『大事な弟なの。ごめんね』


どこからともなく現れたナマエが、一瞬でババヌキの間合いに入り、ゾウの鼻の先端を結ぶ。
既に発射の用意をしていたゾウは自身を止めることもできず、くしゃみをしてしまい――けれど発射口が閉じ込められてしまえばどこにも飛ばすことのできなかった疫災弾はゾウの中で爆発し、ババヌキと共に吹き飛んでいった。


「ババヌキ様ァー!!」
「看守長ー!!」

「!ナマエ・・・!」
『迎えに来たよ。ルフィ』
「へ、へへ・・・っ・・・あと・・・頼む」


ルフィは副看守長のダイフゴーを指差してそう言うと、どさり、その場に倒れて行った。
頷いたナマエは、狐面をしているためはっきりと表情は見えないものの、静かな怒りをあらわにしており・・・思わず逃げようとするダイフゴーの退路を絶ったのは、なんと囚人達だった。


「おい待ててめェら、思い出せ、看守に楯突いた場合の刑その1・・・!」
「知ってるいいんだ。おれ達は"反逆"することにした!」

「!ぎゃぁあーーーー!!??」


――決戦8日前。敵本陣にバレることなく兎丼制圧!!



   



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