EPISODE.11



「悪いねェおリンさん。それしかなくて・・・」
「マーママママ!食い足りねェけどね、あんたも貧乏なのにありがとねお鶴さん!おしるこって甘くておいしいねえ」
「お口にあったならよかった」


――頭の打ちどころが悪かったのか、記憶喪失となったビッグ・マムを連れておこぼれ町にやってくると、ビッグ・マムはおリンと名乗って、お鶴の用意してくれたおしるこを馳走になっていた。


「なあナマエ、ホントに行くのか?記憶が戻ったら一番危ないのはお前だぞ!?」


チョッパーは不安そうにナマエの肩に乗ると、ひそひそと耳打ちをする。しかし何度同じ質問をしてもナマエの答えは変わらないようで、『待ってる方が辛い気持ちは、よく分かるから』と呑気に笑っている。

――かというのも、お玉がずっとルフィの事が気がかりなようで、ビッグ・マムの力を借りて兎丼にいるルフィを助けに行きたいと申し出たのだ。

四皇ビッグ・マムが記憶喪失となり、味方になったのをチャンスと捉えたお玉は、意見に賛成してくれたナマエに「アネキ、ありがとうでやんす!」と抱きつき、腹を括ったチョッパーが恐る恐るビッグ・マムにとある提案を持ちかけた。

兎丼という場所に行けば、お腹たらふくにおしるこが食べることができる――と。


「うどん?そこにおしるこがいっぱいあるのかい?なら今すぐ行こう!!」


いとも簡単に賛同してくれたビッグ・マムと共に、一行は兎丼へと向かった。
編笠村で待っている飛徹に心配を掛けぬよう、スマートスマシを使ってお玉が事情を説明したところ――向こうから悲鳴に近い声が響き渡る。


【びっぐまむー!?】
「はい!海外の強ーーい人です!」
【待て待てだからなぜ浜辺への散歩から凶悪な兎丼へ使うことになるのだ!!戻りなさいお玉っ!!説明は後で聞く!!モモの助様と呼び名殿もそこにおられるか!?錦えもん殿よりしかとあなた方をお守りするよう頼まれており・・・!】
「お師匠様!大丈夫でやんす!もも君もアネキも、おらがくの一としてちゃんと守ってあげるでやんすから!」
【どこがくの一だ!!半人前にもなっとらん!!戻るのだ、お玉ーーー!!】
「ひ、飛徹殿!拙者もついておりますし・・・もう出発してしまいましたので・・・!どうか皆様にもよろしく、」
【ならぬ!!お菊殿!!今すぐに――!!】


怖くなったのかお玉はスマートスマシを強制的に切り、ナマエの懐で泣き喚いていた。
・・・一行は、ビッグ・マムが荒野で捕まえてくれたワニザメに乗って兎丼へと向かう。チョッパーはいつ記憶が戻るのかと気が気じゃ無いのか、始終ソワソワと落ち着きがない。


「みんな貧乏で弁当も持たせてくれなかったけどいい人たちだったねー、おこぼれ町のみんな!おれも知らねェ見ず知らずのおれに!」
「・・・」
「早く"うどん"に着きたいねェお腹が空いたねェー・・・」
「よだれを垂らしてこっちを見るなァー!!!」


大きく腹を鳴らしながら見つめられたチョッパーは身の危険を感じ、慌ててナマエの後ろに隠れた。


「それがおリンさん、兎丼までは結構遠くて」


そう言ったお菊は、取り出した地図を広げた。
六つの郷がそれぞれ大きな川で区切られており、土地土地で気候も違い、兎丼に着くためにももちろん川を渡らなければならないのだ。
果たしてビッグ・マムの腹がそれまでもつのか・・・チョッパーは新たなる危険を感じ、心の中で早く兎丼につく事を祈るしかなかった。


「マーママママ!そうかいお玉ちゃんもおしるこ好きかいー!」
「うん!おら本当にほっぺた落ちるかと思ったでやんす。あんこの甘さがじわっとほっぺたの裏に広がって・・・」
「わーかァーるー!おもちを包み込むカエルの目玉のような光沢・・・!」
「おリンちゃんそれはちょっとコワイでやんす!」
「ハーハハハそうかい?お腹空いたねーおしるこ楽しみだねー」


おしるこの話で盛り上がるお玉とビッグ・マム。

咄嗟に思いついた嘘がまさかここまでビッグ・マムを動かす原動力になるとは思っていなかったチョッパーは静かに涙を流した。
もし兎丼に行っておしるこが無いことを知ったビッグ・マムが、そのショックをきっかけに万が一、記憶を取り戻してしまったら・・・・・・兎丼にいるルフィだけでなく、ナマエにまで危険な目にあわせてしまう。

気づけば辺りはすっかり真っ暗で、兎丼まではまだまだかかりそうだった。


「ねむい腹減ったねむい腹減った。おしるこまだかい?お菊ちゃん」
「ワニザメさんもお疲れなので・・・だけどもう兎丼には入りましたよ!」







明朝――ビッグ・マムに恐れ、寝る暇もなく進む事を余儀されたワニザメのおかげで無事、兎丼に辿り着いた一行。

囚人採掘場は堅牢無比な岩の要塞・・・警備は厳重な上に、正面入り口は鋼鉄の門が立ちはだかっている。
どうやって突破しようか、お菊たちが考えていると――ふらりと立ち上がったビッグ・マムは何を思ったのか突然、門に向かって体当たりをし始めた。


「えーー!!!??」


けれども鋼鉄の門には大きな振動を与えただけでビクともせず、ビッグ・マムは一度その場を離れ、諦めたのか・・・と思いきや、門の隣にある横の壁を殴り、大きな穴を開けた。
驚く暇もなくビッグ・マムは第二、第三のゲートも破壊し、どんどんと前へ進んでいく。

――当然だが囚人採掘場からはありとあらゆる悲鳴が聞こえ、あっという間にビッグ・マムの姿は見えなくなってしまった。


「お玉ちゃん!早くおいでー!おしるこの香りがするよー!一緒に食べよー!!」


中からビッグ・マムの声が響き渡る。
入り口で様子を伺っていたチョッパーは、ビッグ・マムのおしるこの匂いがするという発言に目を見開いた。一世一代の嘘であったのに、まさか本当にあったなんて思わなかったのだ。


「開きましたね、扉!どうやって中へ入るかが課題だったんですが」
『これでルフィを救出できるね』
「お玉ちゃんとモモの助様は呼び名さんとここで隠れてお待ちください」
「えーー!?」
「当然です。モモの助様と呼び名さんに至っては絶対に見つかってはいけない人物」
「う・・・うむ仕方ない!」

『チョパえもん、お菊・・・気をつけてね』


この兎丼を仕切っているのは百獣海賊団の"大看板"クイーンだ。
ナマエは不安に思いながらも、チョッパーとお菊の手をそれぞれ握ると無事を祈るようにぎゅっと力を入れた。


「っ・・・さ、さあ、心して行きましょう!チョパえもんさん!」
「お前らのほっかむりへの信頼は何だ!!」


いつの間にかほっかむりをしていたお菊は、頬を赤らめてナマエから顔を背けるように踵を返すと、チョッパーと共に、採掘場の中へと乗り込んでいきナマエ達は皆が無事に帰ってくるのを待つのだった――。






   



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