EPISODE.08



本拠地となる廃城はすでに朽ち果てており、まともな屋根すらも無い場所であった。
一行が揃うと錦えもんは後から来たルフィ達に、モモの助の件に続き、ワノ国で起きた全てのことを洗いざらいにして説明をする。


――錦えもん達が20年前の過去から来たこと、そしてモモの助の父、おでんの壮絶なる戦いの事・・・誠に信じられない事ばかりだったが・・・誰一人として、錦えもんの話を疑う者はいなかった。


こちらの戦力はルフィ率いる麦わらの一味、ロー率いるハートの海賊団、ミンク族イヌアラシの銃士隊、ネコマムシの侠客団、そして今かき集めている反乱の意志を持つ侍たち・・・理想の戦力は5千人ほど、だ。
しかし錦えもん達は戦争をしたいわけではない。極秘のうちに情報を集め、計画的に大将の首を取る・・・ただそれだけだ。


「――時は二週間後!"火祭りの夜"!カイドウの住む鬼ヶ島へ討ち入りを決行致す!!」


決戦の地は鬼ヶ島と呼ばれており、カイドウと百獣海賊団の本拠地であった。
決戦当日の火祭りは都の町人達の盛大なお祭りが催されており、カイドウは国を守る"明王"とされており、その日オロチの将軍行列が鬼ヶ島へ参拝に行く。――と、それは表向きの形だけで、本当は役人たちと百獣海賊団の宴が始まるのだ。狙うときはそこだ。


「なるほど!酒飲んで酔っ払ってバカ騒ぎしてるバカ共をなぎ倒し、大将の首を取るのか!・・・そんなおれの勇姿を見たらお菊ちゃん、おれに惚れちゃうかもよ〜〜!そんなエロ侍より!」
「サンジ、菊はめちゃくちゃ強ェんだぞ」
「ん?」
「いやいやサンジ殿!勘違いは困る!拙者にはれっきとした妻があり、菊は単に同心であって・・・!」
「お鶴さん、お元気でしたよ」
「!会うたのか!?」
「はい、気づかれず」
「そうか・・・無事ならばよし・・・拙者は・・・まだとても会えぬ・・・」
「既婚者がモテるな!!羨ましい〜〜〜!!」

「・・・うるさいわね」
『ん、んん・・・』
「ほら、うるさいからナマエが起きちゃったじゃないの」
「!何!?!?」
「大丈夫でござるか!?ナマエ」
「ナマエ!」


モモの助、チョッパー、ルフィが慌てて駆け寄る。
床で眠っていたナマエはゆっくりと上体を起こすとまだ半分寝ぼけているのか焦点があっておらず、しかし眠ったことにより体力が戻ったようで『ん〜』と呑気に背伸びをしていた。
すると元々面の紐が緩んでいたのか、手が狐面に当たってしまい、狐面はそのまま音を立てて床へと落ちてしまって。


『あ・・・』
「・・・!!??」
『?』


素顔が露となったナマエと、サンジの目が合った――その瞬間。

それまで興奮状態だったサンジは、突然真顔ともいえる表情へと一変し、まるで走馬灯のようにこれまでの記憶が頭の中を巡っていく。・・・いつもなら美女を目の前にすると大騒ぎだというのにナマエを前にすると言葉をも失い、そしてやっと絞り出された言葉はといえば・・・。


「よ、ようやく出会えた、天使――今なら逝け、る・・・・・・ッグハ・・・」
「サンジィイイーー!?!?気を確かにしろォー!!」


穴という穴全てから血を撒き散らしたサンジは満足な表情を浮かべて倒れていき、涙を流しながら処置を行うチョッパー。

――ナマエの容姿は人を殺しかねないと危険を感じたナミは「サンジ君が慣れるまでこれつけてなさい」とナマエの後ろに回ると、落ちた狐面をナマエに付けさせてあげた。


「ガルチュー!ナマエっ、よかった!」
「拙者、心配したぞナマエー!」


キャロットに頬擦りされ、モモの助に抱きつかれたナマエは、ここにきてようやく目が覚めてきたようだ。

いつの間にかナミ達がいた事に最初は驚いていたものの、此処がおでん城跡だと分かるとルフィ達が錦えもんと無事合流出来たことに安堵し、そして自身の手当てされた腕や足を見て、横に座るローに礼を言った。


『手当て、ありがとうトラファルガー』
「大層な事はしてねェ。傷は深くないが・・・早いとこ、自分で治すんだな」
『うん。――やって、みようかな』


そう言ってナマエは大きく穴の開いた天井から、雲一つない青空を見て目を細めるとキラキラの実の力を解放し、自身に治癒の力を与える。
――日中は、満月でないとキラキラの実の力は使えない。しかしこれくらいの傷なら大した力を使うことも無かったのか、いつも通りにキラキラの実の能力が発動し、これには自分自身が一番驚いた。・・・前なら出来なかったことも出来るようになり、日に日に、キラキラの実の力が強くなっていくのを実感しながら、ナマエは無意識のうちに耳飾りに触れた。


――暫くすると身体を包んでいた淡い光は消え、試しに右腕に巻かれた包帯を解いてみれば先ほどまであった痣は綺麗さっぱり消えており、全ての包帯を取り終える頃には、ナミ達も錦えもんの力によってワノ国にふさわしい装束を身に纏っていた。

それらしい格好になった一行が盛り上がる中、くの一としての命を与えられたナミは一人、不満そうに錦えもんを睨みつけている。自分の着物だけやけに露出が高いのだ。


「待って錦えもん!これ本当にくの一!?」
「くの一とは!そうなのでござる!!」
「あんたウソついてない!?」
「では案内人を呼ぼう。本物のくの一でござる――しのぶ!」


本物のくの一の登場に、いつの間にか復活したサンジが再度、興奮したように期待の眼差しを向ける。

パチン、指を鳴らせば天井裏から姿を表したのは――ふくよかな体型をしたおばさんであった。
ナミとは違いきちんとした忍び装束を身に纏っており「ぜんぜんちゃうやないかい!」とすかさずナミの平手打ちが炸裂する。

一方のサンジはくの一という概念からだいぶかけ離れたしのぶの姿に、ショックで震えていたのはいうまでもない・・・。

大きく息を吐いたナミは着崩れしていた部分をキュッと締めると、袖はないものの結果的にはナマエと似た格好となり、渋々納得をしたようだった。


「フフフ。若いってのもいいじゃない?わたすはしのぶ!昔は錦様の妹分だった。今は、フフフ・・・得意技は"妖艶の術"よしなに」
「ッナマエちゃんやナミさんがいなければ心が折れていた!!」
「分かるわ少年。熟女って・・・凶器よね」


――これからは、集合まで各地に散ってもらうこととなる。
錦えもんは、特に探して欲しい3人の侍がいた。見つかれば100人力と言われるほどの実力を持った者たちの名前は――河松、傳ジロー、アシュラ童子。かつて錦えもんたちと同じくおでんに仕えた侍で、きっとこのワノ国のどこかで生きているはずなのだ。


話を終え、外に出たローとハートの海賊団一味は空を見上げた。――先程まで快晴だった空は厚い雲に覆われ、一部に大きな渦を巻いたような部分があって――その部分はちょうど、九里の真上であった。


何かに気づいたローは中にいるルフィ達を外へと呼び出し、出てきた一行は目を疑った。
――渦を巻いた暗雲の中から、巨大な龍が現れたからだ。


「やべーぞ麦わら」
「龍!?なんだあれ!?!?」
「――カイドウだ!!」



   



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