EPISODE.06



「おれならここだ小僧ォ!」
「!出て来たな!」
「出てくるしかねェだろ!人ん家を相撲取りでブッ壊しやがって!」


町中で騒ぎを起こすルフィの前に現れたホールデム。お玉は噛二朗の口に挟まれ、ナマエは力抜けたようにホールデムの脇に抱えられていた。
ルフィはホールデムの腹にライオンがいる事に最初は驚いたものの、今はそれよりもナマエ達の奪還が先だと思い直し、すぐに戦闘の構えをとった。


「おれ達に刃向かうってことは盗賊"酒天丸"の部下か!?このガキと女を返してほしいようだが・・・ひとまず動くな!こっちはいつでも噛み砕ける状況」
「アニキ・・・っ」
「今助けるぞ、呼び名!玉!!」
「ガハハハ!助ける!?どう助けるってんだァオイ!?少しでも抵抗してみろ・・・このガキの体はおれの腹ことライオン噛二朗によって噛み砕かれるぞ!」


今はただ咥えられているだけだが、いつ力が入れられるか分からない恐怖にお玉からは涙が止まらない。一方、ホールデムの脇にあるナマエはだらんと完全に力が抜けており、表情が見えない事にルフィは焦りを覚えた。


「お前らこのガキの能力について知ってるな!?お前らを人質にして酒天丸も捕らえてやる!」
「誰だ!?」
「とぼけるな!てめェらの盗賊団の頭だろう!最近の農園での盗みもお前ら"頭山盗賊団"の仕業だろう!まぐれでも"浦島"を倒す程の男なら重要な部下であると見た!」


先ほどから聞いたことのない人物の名前を叫ぶホールデムに、何を言ってるのか分からず首を傾げるルフィ。すると何か心当たりがあるのか、お菊がホールデムに聞こえないよう、小さな声でルフィに伝えた。


「・・・ルフィ太郎さん。何とか彼を怒らせないようにお願いします」
「え!?もうだいぶ怒ってるぞあいつ」
「ですからこれ以上は・・・!彼はもちろん強いですが・・・町人たちが恐れているのはその後ろ盾です。百獣海賊団カイドウの懐刀"早害のジャック"こそかの九里の元締め!」
「――そいつ、ゾウを滅ぼした奴じゃねェか!?」
「え!?あいつか!ネコやイヌが毒でやられたって奴・・・結局ゾウがぶっ飛ばしたよな?」


ジャックは船ごと海に沈んだと思っていたが、それは違った――お菊によるとジャックは数日前、ここに現れたそうなのだ。もしここでホールデムを怒らせ、災害と呼ばれるジャックが復讐に来さえしたら・・・この町は一瞬で荒野と化してしまうだろう。


「オイオイ何をそっちでゴチャゴチャ言ってる!?早く取り返してみろよこの女とチビを・・・!まァ動いた瞬間・・・こうだがな!」
「ガゥ!」
「きゃーー痛いでやんすーー!」


噛二朗の口元に少し力が入り、苦しそうに悲鳴をあげるお玉。


「やめろコンニャロォー!」
「ガハハハ!嫌いじゃないぜ下人共の悲痛な叫び!てめェはおれん家ブッ壊したこと忘れんな!?」

「何の騒ぎだ、ホールデム」


――ルフィ達の背後から、馬のような4本の足をした女性・・・百獣海賊団"真打ち"のスピードと、部下達が続々と現れる。その後ろには食糧がたんまりと乗せられた宝船があり、カイドウの部下達は涎を垂らしながら興奮しており、綺麗な水で育った無害な食糧に憤慨するルフィは、ゾロに視線を移す。


「ゾロ!あっち頼む!おれはナマエと玉!」
「――菊!悪ィが"奪って逃げる"ことになった」
「え?・・・いつ?」
あいつ・・・は怒るだろうがブッ飛ばさねェだけマシと思え」
「え?」

訳もわからないまま、スピードの部下達も加わり、あっという間に四方から囲まれるルフィ達。
ただ一人、お菊だけがこの状況に焦りを覚える中、ルフィとゾロはコキコキと首を鳴らすと――ほぼ同時に動き出し、ゾロは食糧宝船へ、そしてルフィはホールデムの所へ移動をする。


瞬きする暇もなくホールデムの前に現れたルフィは、噛二朗が動き出すそれよりも先にパンチを喰らわせ、口からお玉を救出してみせると続くようにホールデムが抱えていたナマエも奪還した。


「逃げるぞ、玉!遅くなって悪ィ!」
「っ・・・え、え??」

「はァ!?いつの間に!!」


宝船も奪い取る事に成功し、ゾロは宝船の手綱を狛ちよに括り付けるとそのまま町の外へと走り出す。

――二人を奪還したルフィが屋根から屋根を伝って狛ちよたちの後を追いかけていると、不意に脇に抱えていたお玉の赤くなった頬を見つけ、思わず眉を顰めた。


「ん?お前ほっぺたどうした」
「・・・!平気でやんす!ペンチで引っ張られただけでやんす。"きびだんご"そんな事しても取れないのに・・・っお、おらよりも、アネキの方が心配でやんす。おらを守るために、あいつにすごい殴られてて・・・」
「ペンチ・・・!?ッ殴った・・・だとォ・・・!?」


怒りを露わにしながらルフィは肩に乗せていたナマエを見やる。よく見れば顔から足にかけて全身、陶器のような肌の至る部分には無数に殴られた痣や引っ掻かれた傷があった。
・・・てっきりまだ体力が戻っていなかったから身動きが取れていないかと思っていたのだが・・・気を失うほど殴られた、その事実に、ルフィの額に青筋が浮かび上がる。


ちょっと待ってろ、それだけを言ったルフィは空中で身を翻すと、抱えていたお玉とナマエを宙に放り投げ、追いかけてくるホールデムを迎え撃つ構えをしだす。


「アニキ!!おらは平気でやんす!アネキとアニキに助けてもらえたから!!」

「吼えろ獅子の火!!」


お玉の声は、逆上したルフィの耳にはもう届いていなかった。
噛二朗から放たれた火玉はルフィを直撃し、もくもくと煙が立ち込める中、煙から姿を現そうとするルフィに追い討ちをかけるようにホールデムが刀を抜いて突撃してくる。


「見よ追い討ちの格操刀の威力!」
「アニキーー!」

「ゴムゴムの―― 火拳銃レッドホーク!!」


武装色の覇気を纏い硬化した腕に、さらに炎の爆発を伴った攻撃はホールデムを吹き飛ばしていった。
一部始終を見ていた部下達が目をひん剥かせて驚愕し、ホールデムを倒したルフィは落下していくナマエとお玉に腕を伸ばし、ナマエは抱え、お玉は背中に背負って地上に着地する。


『うっ・・・』
「!ナマエ、気がついたか」
『・・・ル、フィ・・・っあ、ぅ・・・』
「悪ィ。遅くなった」


逆光によってルフィがどんな表情をしているかは分からない・・・けれど声からして、明らかに怒っている声色だ。
まるでナマエとお玉の怪我は自分のせいだと責めているようで、そんな心優しい弟の姿に眉をハの字にさせて笑みを浮かべたナマエはルフィのせいではないという気持ちも込めて『私は大丈夫だよ。助けてくれてありがとう』と伝え、安心したのか眠るように目を閉じ、ルフィに身を預けた。

――ナマエの背中に腕を回したルフィは沸々と湧き上がる怒りを鎮めるよう、その手に力を込める。


「――馬だ!ちょうどいい!進め!」
「きゃあ!誰!?抱きしめるのは!――って何をする!」
「人間ー!?いや・・・馬!?」


逃げようとした矢先、たまたま視界に入った馬に飛び乗ったルフィ・・・だったが、それは馬ではなく、スピードであった。
引き摺り落とそうとするスピードと周りの部下達の攻撃を避けながら、ルフィはお玉にきびだんごを出すよう伝える。するとルフィはそのきびだんごをスピードに食べさせようとしており、しかしお玉は無理だと首を左右に振った。いくら動物みたいな見た目でも、相手は人間・・・きびだんごは人間に効いたことがないのだ。

物は試し、そう言ってスピードにきびだんごを食べさせた、その瞬間――。


「ヒヒーン!!どこまで!?ご主人様!!」
「わーー効いたー!!」
「なんで!?」
「半分馬だからじゃねぇか?」


スピードは物凄い速さで駆け抜けていき、あっという間に博羅町の入り口付近までやってくる。
ルフィはナマエを落とさないよう抱えながらもスピードにしがみつき、ルフィの背中にしがみついていたお玉もぎゅっと腕に力を込めると、先ほど自分の身を呈してまで守ってくれたナマエと、そしてホールデムを殴り飛ばしたルフィのことを思い出していた。


「さっきのアネキも、それにアニキも・・・エースみたいでやんした・・・!」
「え!?なんだ!?」
「!いえ!何でもないでやんす」
「?」



   



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