EPISODE.05



「気をつけるんだな!おれ達は今盗っ人を捜し回ってるところ!ここ数週間農園で盗みが起きている!お前達じゃあるまいな!?浪人共!!」



幾つもの矢が空から雨のように降り注いでくる。

しかしバットマンの放つ矢はゾロにも、そしてルフィにも一つも当たることはなく、最後の矢はゾロの刀によって粉砕され、全て防がれるとバットマンは焦りながらも、ゾロを見て何か心当たりあるように目を見開かせる。


「隻眼の浪人・・・!瓦版の人相書きで見たぞ!」
「わー!誰でやんすかー!?ア、アネキー!」
「!?」


突然、背後からお玉の悲鳴が響き渡る。慌てて振り返るとほぼ同時、ルフィ達の真横を物凄い勢いで駆け抜けていったのは――バットマンの仲間のガゼルマンであった。
ガゼルマンの両脇には捕まったお玉と、ナマエの姿があり・・・お菊は店の外に置いてあった刀を手にすると、狛ちよに乗り後を追いかける。


「!あの女、刀持ったぞ!」
「剣術ができるらしいのよ、見たことはないけど!」

「ホホ!おいらは韋駄天!時速200km!!」
「攫われるでやんすー!!」
『っ、・・・!』


勝てない相手ではないというのに、思うように体が動かず唇を噛み締めるナマエ。


「呼び名!たまー!!っ犬!おれも連れてけ!」
「待ておれも行く!!」


ルフィはゴムの腕を伸ばして狛ちよを掴むと、反対の手でゾロを掴み、二人は狛ちよに乗ってガゼルマンの後を追った。


「何であのガキが狙われるんだ!?ナマエ・・・じゃなかった、呼び名まで・・・っ正体がバレてねェといいが」
「正体?・・・事情は分かりませんが、連れ戻さなきゃ!!」
「キキキキ!」



狛ちよで追いかけてる間も、上空からはバットマンの攻撃は絶えず止まない。



「完全に計画的な誘拐だな・・・!」
「行き先は役人街で間違いないでしょう。あの町にいる"真打ち"は3人!ホーキンス、ホールデム、スピード。さらに人工的な不思議な果実で能力を得た戦士が約30名」


お菊は懐からメモ用紙を取り出し、ペラペラと説明をしだす。普通の町娘ではないその行動に、お前何者なんだ、とルフィが聞けば、お菊は長い髪を一つに纏めながら言った。



「拙者は・・・侍です!」







「ホールデム様!こちらガゼルマン!」
「放すでやんすー!」
「報告のあった例の・・・狒々を手懐けたガキと、ホーキンスさんの言っていた狐面の女を捕らえました!」
【ホーキンスが何故その狐面の女に固執してるか分からないが・・・まァいい、よくやった。連れてこい】
「はっ!」


まさか、正体がバレたとでもいうのか。ガゼルマンは超スピードで駆け抜けながら電伝虫を使ってホールデムと呼ばれる男に報告を終えると、ナマエとお玉を"博羅町"の中心部分にある大きな屋敷へと連れ込んでいった。


屋敷の最上階には、巨体の大男――百獣海賊団"真打ち"のホールデムが待ち構えていた。能力者なのだろうか、腹部には大きなライオンの顔があり・・・お玉は初めて見るそれに泣きそうになるも、鼻の穴を広げて涙を堪えた。


「ハー、ハー・・・ゼー、ハァー・・・」
「もういい下がれガゼルマン!ぜーハーゼーハーうるせェな!」
「(横腹痛ェ・・・)」
「体力をつけろ!このバカ!!」
「!?」


ホールデムの腹部のライオン――噛二朗が、ガゼルマンに放った言葉を自分が言われたと勘違いしたのかホールデムを睨み上げる。その目が気に食わなかったホールデムは噛二朗の顔面を殴り、怒った噛二朗がホールデムの股間を殴りつける。
ホールデムと噛二朗は体は一つだが心はそれぞれ違うようで、お互いがお互い、自分自身を攻撃するというその何とも珍妙な光景にお玉はとうとう泣いてしまい、隣に座るナマエに抱きついた。


「うえ〜〜〜んコワイよおアネキぃい〜・・・!お腹がライオン〜・・・!!」
『・・・、大丈夫、』


なんとかして、お玉を連れて逃げ出したいところだが・・・周りの手下はともかく、ホールデムを前にして逃げ切れるだろうか。少しずつ体力は回復しているがまだ立つこともままならず、今この状態でまともに戦ったとしてもまず勝ち目はないだろう。

ホールデムと噛二朗はひとしきり暴れ回ると一人でかなりのダメージを受けたのか悶絶しながらも、ナマエの腕の中で怯えるお玉に視線を向ける。


「答えろ娘・・・貴様如きがどうやって狒々を手懐けた・・・!?部下が目撃したんだ・・・!"本物"の悪魔の実の力としか考えられん」
「・・・・・・」


――お玉!お前の能力は敵にとっても魅力的な能力だ!人前でその能力は使ってはいかんぞ!!



お玉は、飛徹に言われた言葉を思い出す。


「お・・・おら動物に懐かれやすいだけでやんす・・・」
「・・・確かほっぺを引きちぎっていたと聞いたぞ」
「『!』」
「やってみよう。おい!ペンチ持ってこい!」


とても冗談で言っているようには思えなかった。震えるお玉の身体をぎゅっと抱きしめながら、ナマエは部下が持ってきたペンチを構えるホールデムを睨み上げる。


『・・・っ、この子に、手を出さないで』
「キサマの相手はこの後だ。ホーキンスが今、こちらに向かってる・・・奴に引き渡すまで、お前には手を出すなと言われてるからな・・・もっとも無駄な抵抗をするなら別だが?――おら!さっさとよこせ!」
『っ』
「ぎゃーー!!アネキーーー!」


いとも簡単にお玉をホールデムに奪われる。泣き喚くお玉に、ホールデムは何の躊躇いも無くペンチを使った。



「えーーん!痛い!痛いでやんすーー!堪忍してけろ!狒々は返しますから!やべてけろォー!」
『たま!っ・・・――!!』


頬を強く引っ張られるお玉。目を見開かせたナマエは唇を噛み締め、瞳を鋭くさせると――お玉以外の、この場にいる全ての者に向けて"覇王色の覇気"を放った。


「!!」


強く放たれた覇王色の覇気は周りにいた部下はもちろんのこと、あのホールデムさえ気を失わせるほどのものだった。
ホールデムの手から逃れたお玉は泣きながらも逃げるようにナマエの元へと飛び込み、受け止めたナマエは急いで立ち上がりその場を逃げようとする――が、足に力が入らずそのまま倒れ込んでしまった。


「アネキ!」
『たま・・・っ私はいいから、早く逃げて。ルフィ達が、すぐそこまで来てくれてる』
「え!?アニキが!?な、なんで分かるでやんすか?」


まるで確信してるような言いっぷりに、困惑するお玉。見聞色の覇気で、ルフィやゾロ達がこの博羅町に来ている事が分かっていたナマエは早く逃げるようお玉の背中を押す。


『今はそれより、早く逃げ――「られると思っているのか?」
「『!!』」



――さすがは"真打ち"と呼ばれるだけある。ナマエの覇王色の覇気を受けたにも関わらずホールデムはすぐに身体を起こし、そして苛立った様子でナマエの頭を床に叩きつけた。


『う、かはっ・・・!』
「アネキ!」
「ハア、ハア・・・ッこの女ぁ・・・!痛い目みねェと分からないようだな・・・!」


――ホールデムが目を覚ましてしまったなら仕方がない。これ以上お玉が傷つかないよう、少しでもホールデムの意識を自身に向けるしかないと判断したナマエは、あえてホールデムを煽るように、唯一露わとなっている口元に弧を描き、ホールデムに向かって笑ってみせた。


「!ナメやがって!!」
「や、やめてけろー!」


ホールデムはナマエが動かないのをいい事に、ナマエの上に乗り掛かると全身を殴り始め、噛二朗もまるでおもちゃを与えられたかのように鋭い爪を使って引っ掻いた。
ナマエは抵抗する事なく無言で受け止め、容赦ない双方の攻撃にお玉が助けようとする――が、ナマエが『来ちゃダメ』と強めに発言した事により、お玉は体が硬直しその場から動けなくなった。


『(ルフィ、早く・・・っ)』


ホールデムの気が済んでしまえば最後、今度はお玉に標的が向かってしまう。

部屋中に響き渡る鈍い音と、お玉の泣き声。重くのし掛かる攻撃をただひたすら耐えるナマエの意識が朦朧としてきたその時――突然、ものすごい勢いで何かが吹き飛んできたかと思ったそれは――なんと横綱の"浦島"であった。巨体の浦島は屋敷を直撃し、建物ごと崩壊した。


「な、なんだ!?」

「出て来いボールでブー!呼び名とたまに何かしやがったら許さねェぞーーー!!」


外から聞こえる、ルフィの声。
良かった間に合った、と安堵するナマエの上から退いたホールデムは大きく舌打ちをしながら、お玉を噛二朗の口に咥えさせるとナマエを脇に抱え、そのまま大きく穴の空いた壁から外へと飛び出していった。




   



戻る
















×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -