EPISODE.04



「ハァ、ハァ・・・うっ・・・」


毒の進行を遅らせていても、お玉はまだ小さな子供・・・体力も無い分、ナマエの力をもってしても毒の回りが早いのか、熱はどんどんと上がっていく。
持っていた手拭いで汗を拭いながら、周りの声も聞こえないほど集中しているナマエは必死にお玉に声を掛けながら力を与え続けた。


「――おいナマエ!もうすぐ茶屋につくぞ!」
『え・・・どうして茶屋に・・・って、ゾ、ゾロ!?』
「気づくのおせーよ!」


一体何が起きたのか、先ほどまで狛ちよに乗っていたのはルフィだけだったというのにそこにはいつの間にやら全身キズだらけのゾロと、そしてお鶴と名乗る女性が乗っていて。

ナマエが治療に集中している間、カイドウの傘下となった最悪の世代の一人・・・バジル・ホーキンスとその部下に襲われたらしく、ナマエとお玉を守るためルフィとゾロは戦っていたそうだ。なんとか敵から逃れる事ができたのだが、ゾロの傷はその時に出来たものらしい。

お鶴に関しては、先ほどのカイドウの部下に襲われかけたところをゾロが助け、いつの間にか狛ちよに乗っており助けた恩返しも兼ねてお玉を治す薬草を用意してくれると言ってくれた為、一行はワノ国九里にある"おこぼれ町"へとやってきた。

おこぼれ町の茶屋に辿り着くとお鶴はすぐさまナマエからお玉を受け取り、慌ただしく店の中へ連れていく。その間、ルフィ達は店の外にある床机に腰かけて、店の中から出てきた身長の高い女性から手当てを受けてもらった。


「さ・・・終わりました。応急処置ですが」
「おうありがとう。でけぇんだなお前」
「ビッグ・マムはもっとデカイ女だったぞ」
「申し遅れましたが拙者、お菊と申します」
「拙者!?」


お菊、という女性はゾロやルフィ達ですら見上げるほどの大きさで、ルフィは出してもらった団子を頬張りながら驚いたようにお菊を振り返った。


「治ったでやんす!かたじけないでやんすー!!」
「効くの早ェな!?」


ゾロの手当てが終わると同時に店から飛び出してきたのは、すっかり元気になったお玉だった。嬉しそうに駆け回るお玉は、店の中にいたお鶴に呼ばれると踵を返しまた店の中へと入っていく。

先ほどまでとは打って変わって元気そうな姿に、『よかった』と安堵の息を吐いたナマエはフラリと力なく倒れていき、隣に座るルフィに身体を預ける。


「ん?どうしたナマエ?」
『ご、めん・・・力、使い・・・すぎちゃって・・・』


月の力が弱い中、無理に使った代償が身体に出てきてしまったようだ。モコモ公国でもらった耳飾りが力を制御しているのも原因の一つなのだろう。

指先一つ動かすことが出来ず、申し訳なさそうに謝るナマエにルフィは笑いながら、「気にすんな!」と頼もしげに言った。

これじゃどちらが兄姉なのか分からない、そう力なく笑っていると・・・・・・店の中からお玉の声が響き渡る。


「ムリムリダメでやんす!!」
「?」
「おら薬草のお支払いできねぇのに、おしるこなんて買えやしません!!」
「いいんだよお代なんてお食べ!」
「いただけません!おかみさんもお菊さんもろくに食べてないでしょうに!おら助けられた上に食べ物いただくなんて!とてもできねぇでやんす!薬草代は必ず作ってきますから!」

おだまり!!女が一度出した食事をいりません、そうですかって引っ込められると思ってんのかい!?あんたが食わないんならあたしゃコイツを道にバラまいちまうよ!?
「ギャアアアー!!??」


お菊が慌てて店内へと駆け、お鶴を宥めだす。・・・お鶴は言い出したら聞かない人で、結局おしるこを手にしたお玉は申し訳なさそうに店の外に出てくると、ナマエとゾロの間に腰掛ける。


「アネキ、どうしたでやんすか?具合、悪いでやんすか?」
「気にすんな!疲れてるだけだ。それよりよかったじゃねェか!お前今日誕生日だもんな!」
「そうなのかい!?」
「そうなんだってよ!」
「・・・・・・っ」


お玉は皆が見守る中、ゆっくりと、おしるこの入った碗に口付け、ずず・・・と啜る。
口の中に広がる小豆の風味と、優しい甘さ。それだけで視界が滲み、感極まったのか涙を流しながら絶賛した。


「うんめぇー!なんてうめェ食べ物なんだー!!」
「!初めて食ったのか?それ」
「はい!!」


ルフィは不意に飛徹の言っていた言葉を思い出す。毎日傘を編み、ひえを時々食う程度の暮らし・・・お玉にとって、おしるこは例えるならば高級料理と同じくらいの価値があるものなのだ。

その後もお玉は幸せそうにおしるこを堪能し、今日は最高の日でやんす、そう言いながらあっという間におしるこを平らげるとお腹が満たされた為かお菊の膝の上ですぴすぴと眠りについた。


「・・・あんな子供はざらにいますよ、このワノ国にはね・・・」
「あんなチビ助が腹いっぱいメシ食えねェなんて・・・!そりゃ大きくなりゃ毒くらい食えるけどよ!」
「食えないよ?」
「海と山と森がありゃ普通買い物なんかどうとでもなるはずだ!」
「ええ、人間が自ら汚さなきゃねえ・・・。優しいねお兄さん方。そうだ、お名前は?」

「おれァゾロ十郎。浪人だ」
「おれはモンキー・D・「こいつはルフィ太郎」
「そうルフィ太郎だ!ござる。そんで、こっちが、えーっと・・・呼び名だ!」

「ふふふ。海外の人だろう?」


バレないよう咄嗟に思いついた名前で誤魔化そうとするが、お鶴には通用しなかったらしく、クスクスと笑われながら言葉が変だ、と言われてしまえばもう隠せる自信が無く・・・ルフィに至っては「なんでバレたんだ」ともはや自白をしてしまっており、誤魔化すに誤魔化せなくなってしまいゾロは自身の船長の素直すぎる性格に頭を抱えるのだった。・・・とはいえ、バレてしまっては仕方がない。

誰にも言わないと約束する。ルフィ達はお玉を救ってくれた恩人でもあるお鶴の言葉を信じた。


「あたしもこの町では新入りで、お菊ちゃんもウチに来て一ヶ月の新人さ」
「ここはおこぼれ町っつってたがなんだその名前」
「名前の通り・・・みんな役人の町のおこぼれを目当てにこの辺りに住んでるからさ」
「毒のねェ食い物がどっかにあるってたまが言ってたぞ」
「煙突のない山が見えるかい?」


言いながら、お鶴はとある方角を指差した。指差された山の山頂に昔はおでん城というお城が、20年前には見えたそうだ。

――20年前、永くに渡り「光月」という氏族がこのワノ国を治めていた。あの山の麓にかけて広がる大きな農園は今は亡きおでんが九里の皆に美味しい物を食べさせるために作られたものであり、決してオロチ達が"食"を牛耳るために作ったものではない。
お鶴の話によるとその桃源農園には安全で美味しい食料も、きれいな水も、着物も全てが揃ってるという。しかしそれらは全て将軍オロチのものである、と・・・。


「鳥居の奥に役人達の暮らす町がある。あたしらは彼らが使わなくなった物や腐り掛けの食糧なんかを売って貰って暮らしてる」
「・・・それでおこぼれ町か」
「大丈夫さ。最低限・・・生きていける・・・」

「「『!』」」



突然、何かが飛んでくる気配。ルフィ、ゾロ、そしてナマエが同じ方向を見上げる。
それは真っ直ぐと今話してる人物・・・お鶴に向かっており、すかさずゾロが抜刀すると飛んできた"矢"を、刀の面で受け止めた。


「誰だ!?」
「キキキキ!聞こえたぞ女ァーー!?おれの聴覚は人間の六倍だ!」


上空には、コウモリのような羽根を羽ばたかせるコウモリ男・・・バットマンが弓矢を構え、甲高い声で笑っており、ゾロが睨みつける。



「聞こえたのはいいが・・・それが命を取るほどの理由か!?当たりゃ死んでたぞ・・・!」
「大人しく生きてりゃそうそう手は出さねェ・・・が、オロチ様は反抗的な意志を決して許さねェ」


慌ててお菊の元へと駆け込むお鶴。ルフィはバットマンからいまだに身動きの取れないナマエに視線を移すと、危険な目に遭わせないよう、「呼び名を頼む」とお菊に伝えてすやすやと眠るお玉の横に座らせた。
不安そうなナマエの頭を優しく一撫でしたルフィは踵を返すと、バットマンと戦うゾロに加勢しに向かった。






   



戻る
















×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -