EPISODE.03



「お前が待ってるエースって・・・ポートガス・D・エースか?たま」


苦しそうに息をしながらも、ナマエの腕の中にいたお玉がルフィの質問に目を開くと弱々しく答える。


「・・・ケホ。知ってるんでやんすか・・・?アニキ・・・・・・」
「うん」
『・・・・・・』
「――エースは死んだ」
「・・・・・・え・・・?」


生暖かい風が、神妙な面持ちで俯くナマエの髪をさらうように靡かせる。
間髪入れずに聞かされたルフィの言葉があまりにも衝撃的すぎたのかお玉は唇を噛み締め、やがてぽろぽろと大粒の涙を流しながら「うそだぁああー!!」と悲鳴に近い声をあげた。

力尽きたように気を失ってしまったお玉を家の布団に寝かせると天狗男に外へと連れ出されるルフィとナマエ。


鬼かキサマ!たとえそれが真実でもあの場で申すか!?」
「だけどずっと待っててもエースは来ねェ」
「だとしてもタイミングや言い方があろう!!繊細さのわからん男め、おぬしら一体何者だ!!」
「おれはルフィ。海賊王になる男だ!で、こっちがナマエ。おっさんこそ誰だ!?」
「海賊ぅー!?基本的に好かん!!わしは飛徹――刀鍛冶だ。わしもまた長く人を待っている」


この編笠村には飛徹とお玉の二人しか住んでおらず、一年以上前、カイドウの軍にX・ドレークという新しい"真打ち"が加入した事により、村の要であった用心棒侍五人がやられ、全て破壊された。
ワノ国ではもはや栄えてる場所は将軍オロチのいる花の都だけで、その他の土地はカイドウ達の手によって無法の荒野と化している、と飛徹は話した。

四年近く前、この村はやはり食うに食えず餓死者もしばしば・・・村ももうだめかと思った矢先、海賊の船が海岸に打ち上げられ、村の者は弱った海賊達を縛り上げ全ての食糧と水を奪い取り、全部食らいつくし生き長らえた。
完食を見届けた海賊はなんとその後いとも簡単に拘束を解き、復讐されるかと思いきや男は言った――「どこに行けばデザートが手に入る?」と・・・。


「皆あっけに取られた。遭難した海賊に命を救われたとは・・・。エース達は数週間滞在した。特にお玉は懐いていてな」
「ふーん・・・そうか」


ルフィとナマエは、まるで自分のことのように嬉しそうに笑みを浮かべた。

――まさかエースもワノ国に来ていたなんて。エースの海賊らしからぬその行動は、少なくともルフィやナマエにとってみればとても誇らしく、またエースらしい行動に始終笑みがとまらない。目を合わせ、なにも言わずとも頷き合ったルフィとナマエは徐に立ち上がって口を開く。


「近くに医者はいるか?」
『あとお水と食べ物』
「!」
「たまを連れて行くよ!メシくれた恩返しだ」


すると飛徹はルフィに、あまり目立たないようにと着物を着付けてくれた。ヨロイとカブトも好きだぞと遠回しに着させろと言うルフィだが、普段着にそんなものを着てしまえば余計に怪しまれてしまうのは目に見えており、すぐさま却下されてしまった。

――ルフィが着付けている間、壁に飾ってあった狐面を見つけたナマエは飛徹の許可を貰い借りることができると、ルフィに借りてた麦わら帽子を返し、代わりに狐面を顔に装着してみせた。
面とは言ってもそれは目元だけを覆い隠すもので、鼻から下は見えてしまうが・・・無いよりはマシだろう。耳の部分にある房飾りには鈴がついていて、動くたびにシャンシャンと綺麗な音色が鳴っている。

布団で眠るお玉を抱き上げたナマエは、準備を終えたルフィと外に出た。


「わしはワケあって町へは行けぬ。お玉を頼むぞ!金は前借りでなんとか!」
「その前におれの仲間に会えたらメシも治療もタダだ!なんとかしてくれる!この刀も借りるぞ、侍っぽい。――じゃ行ってくる!」
「やっ!待てバカ者!それはダメだ!軽々しく触るも非礼なる名刀、、我が先祖古徹が打ちもうた世界に名だたる刀っ!!」
「たま!すぐ医者に連れて行くからな!」
「大業物21工に位列するその名も"二代鬼徹"であるぞ!!」


――業物とは世界に数ある刀の中で名工たちの作った武器をこう呼んだ。

"最上大業物12工"
"大業物21工"
"両業物50工"

と・・・。鬼徹という言葉に聞き覚えのあったルフィは勝手に取った刀を見て首を傾げるも、思い出すのが面倒になったのか直ぐに諦めてにこやかに「いいや借りてこ!」と走り出す。
その後ろを、目をひん剥かせた飛徹が追いかけてくる。


「イヤイヤイヤイヤダメだっちゅーに!」
「じゃ、お前の刀と交換だ」
「これもまた名刀だっちゅーに!そっちは妖刀、わしは持ちたく無い!!妖刀ゆえ呪われてしまうぞ!お玉に何かあったら許さぬぞ!!」
「おう!!」
『あ、あの、必ず返すから』
「当たり前じゃー!!」


見た目から入りたがるルフィを止めるのはなかなか困難だろう。申し訳なさそうにナマエが謝れば飛徹はカッと、ただでさえ怖い顔をさらに怖くさせて叫んだ。


――山の中を走っていると、背後からお玉の友達の狛ちよがやってくる。
乗せてくれるのか、というルフィの言葉がわかるのか狛ちよは元気に鳴き、ルフィ達は早速狛ちよの背中に飛び乗り、町へと急いだ。


「あ・・・・・アネキ・・・」
『!気がついた?』
「おー、玉」
「!」


狛ちよの背中に乗って揺られていると、不意にお玉の瞼が持ち上がる。
お玉は自分を抱えるナマエからルフィに視線を移動させると、先ほどの言葉を思い出し、そしてまだ信じてないのか、悔しそうに目に涙を浮かべて暴れ出した。


「ッ・・・・アニキは嘘つきでやんすーー!!」
「おいおいやめろ、落ちるぞ」
「エースは来るでやんすからね!!」
「来れねぇよ!頂上戦争のことは世界中みんな知ってんだ!」
「だけどおら・・・っ約束じだでや゛ん゛ず・・・!」




エース!おらも海に連れてってけろ!

たま・・・まだ5歳だろお前。俺たちはまた来るよ!もっとでっかい海賊団になって!

じゃあその時仲間にしてくれるでやんすか?

海賊は強くなきゃムリだ!今度来た時お前が妖艶なくの一にでもなってたら連れてってやるよ。

!約束でやんすよっ!!





「あんなに仲良かったでやんす!おらのこと、妹みたいって可愛がってくれたでやんす!また来るって言ったんでやんす!!アニキはエースの優しさを知らないからおらの辛さが分からないんでやんす!あんなに簡単に死んだなんて!!」
「叩くな!痛くねェけど」


ドカドカと鈍い音をたてながらルフィの頭を叩き続けるお玉。
困ったように眉尻を下げながら笑みを浮かべたナマエが「熱上がるよ、たま」とルフィからお玉を離すと、今度はお玉はキッと真っ直ぐな瞳でナマエを見つめる。


「アネキは、エースを知ってるでやんすか!?」
『!・・・・うん。知ってるよ』
「!エ、エース、は、エース死んでないでやんすよね!?」
『・・・・・・・・・』


――お玉は優しくて素直で、本当にいい子だ。
ルフィの言う通り、ここで変に期待をもたせてしまうと今後お玉の人生を縛り付けてしまうだけなのは目に見えている。
きっとお玉は、生きてるよ、ただその一言だけが聞きたいだけなのだろうが・・・・・・ナマエは哀しそうに微笑んで言った。


『・・・ごめんね、たま。ルフィが言った通り・・・エースは、死んじゃったの』
「!っーーー・・・うっ・・・うわぁああーーーん!アネキも嘘つきでやんす!絶対に信じないでやんすー!!」






飛徹に言われた通り北に進むとやがて竹林から荒野に抜け出すことができた。
荒野には猛々しい猛獣達もいて、あれを食べればいいと意見するルフィだが、強い侍達は皆捕まったか盗賊になってしまったため誰も狩りができないとお玉は説明した。それにもし例え狩りができたとしても、動物達も川の汚水を日頃飲んでいるため、食べたら人間の体には毒なのだ。

荒野を駆けていると、遠くに大きな工場が見える。あそこには採掘場と武器工場があり、カイドウの部下で溢れているそうだ。


「そいつらのメシは!?」
「将軍とカイドウは自分達専用の無害な農園を持ってるでやんす。だからあそこには綺麗な水も・・・お米も・・・お魚もお肉もいっぱい・・・」
『・・・なんだ。ある所にはあるんだね』


静かに怒りを抑えながら、呟くナマエ。・・・食糧の話をしてしまったからだろうか、お玉のお腹がきゅるきゅると鳴っており、暫くするとお玉はまた意識を失ってしまった。


『・・・ルフィ、急がないと。たまの熱が上がってる』
「げ!早く医者にみせねーとな・・・!待ってろよたま!」
『――・・・』


ナマエは徐にお玉の腹部にそっと手を当てると、静かに目を閉じた。すると仮面の下にある額に三日月模様が浮かび上がり、そして触れた部分からお玉へと淡い光に包まれる。


「何してんだ?」
『ん・・・治癒の応用。病そのものは治せないから、毒の進行を遅らせてるの』
「そんな事もできんのか!?」
『でも、難しくて・・・ここは空が淀んでて月の力が弱いから集中しないと厳しそう』
「よし分かった!ナマエはそっち優先しろ。おれが周り見とくから」
『うん、分かった』




   



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