EPISODE.02



「・・・何やってんだ?」
「なにって・・・降参!降参でやんすよ!」


男を木の棒で殴り倒した少女は、ルフィを見るなり怯えたように武器を捨て、両手をあげていた。


「なんもしねェよ別に!」
「ホントでやんすか?・・・じゃ、少し時間もらってもいいでやんすか?ちゃ・・・チャンスなので!」
『チャンス?』


お玉と名乗った少女は「きーびだんごっ」と言って自身の頬を摘み・・・なんと、掴んだ部分がお餅のように取れてしまった。
衝撃すぎる光景にルフィとナマエが驚愕する中、お玉はてくてくと狒々に近づくとつまみ取った自身の頬を、いまだ正座している狒々へと差し出す。どうやら食べさせようとしているようだが、狒々は目の前に立った小さなお玉を威嚇するように吼え、その凶暴っぷりに一度は逃げようとしたお玉だったが・・・勇気を振り絞り、えいっ、と持っていた頬を狒々の口の中へと放り込んだ。


「・・・お手!」


するとどうだろう。先ほどまで凶暴だった狒々が急に大人しくなり、お玉が手を差し出せば、狒々は嬉しそうにその手に自信の指を置いただはないか。


「怪物が従順になったァ!!」
「やったでやんすー!あの凶暴な山の暴れ狒々をついに仲間にしたでやんす!」
『・・・能力者、みたいだね』
「へー、便利な能力だなそれ!」


お玉は買い物に出た帰り道、狒々を連れたあの男たちに見つかり、お玉を守るためにこの狛犬"狛ちよ"が狒々に飛びかかり、それで海岸で争っていたそうだ。

しかしその間、物を全部奪われてしまい逆上してしまったお玉は法に触れた暴言を吐いてしまい、男たちに捕まってしまった、と経緯を話した。


「危うくもう二度と家に帰れなくなるところでやんした・・・何か恩返しをさせて欲しいでやんす!アニキ、アネキ!」
「助かる!」



ぎゅるるるるるる。


「了解!食べ物でやんすね!」


ルフィの腹が大きく鳴り、物分かりのいいお玉は任せてくださいと鼻を鳴らす。

一先ず上陸したサニー号を見つからない所に隠すため、お玉の誘導のもと、崖下にある洞窟の中へとサニー号を隠すことができた。ここなら陸地からも死角になっているため、敵にも見つからないだろう。


「ビブルカードも無くなっちまってよー。でもナマエがいて本当に助かったよ!錦えもん達も無事か?」
『無事だと思う。でも私もよく把握できてないの。正体がバレたら大変だから、って・・・この辺りで身を隠してたから』


ルフィの話によると、ルフィ達は航路の途中で漸く陸が見えたと思いきや大きな渦潮に呑まれてしまい、サンジ達は海に呑み込まれる前に先に上陸すると言ってナミ達を連れていき、そのあとルフィも続いて脱出を試みたのだが謎の巨大蛸に邪魔をされたらしく、そのまま海の中へと真っ逆さま・・・気を失い、目が覚めたらサニー号とあの浜辺に打ち上げられていたそうだ。


何はともあれ、皆がワノ国に集まったということを、錦えもん達に報告しなければ。

お玉は狛ちよに、ルフィとナマエはひひ丸と名付けられた先ほどの狒々に乗って、九里の山の中を駆け抜けていく。


「海賊はおら好きな人も嫌いな人もいるでやんす!アニキ達は強くて優しいでやんす」
「どっちでもいいよ」
『山の中に村があるの?』
「いえ無くなりました!今はお師匠様と二人暮らし!おら将来、"ようえん"なくの一になるでやんす!」
「??」


お玉の話はコロコロと変わり、先ほどからルフィの顔の周りには?マークしか浮かんでいなかった。
恐らくお玉が言ってるのは"妖艶"の意味なのだろうが・・・意味を知らないルフィとナマエは顔を見合わせると首を傾げ、そうこうしてるうちに一行はお玉の住む編笠村に到着する。

お玉の家は、元々は神社だったのだろうか大きな鳥居が構えてあり、中に入ったルフィが悪気なしに「汚くて狭くてくせぇー!」と大笑いし、『失礼なこと言わない』と小突くナマエ。

そんな二人を見てくすくすと笑うお玉は、早速ご飯の準備に取り掛かってくれた。


――暫くして、美味しそうな匂いが部屋中に立ち込める。空腹の限界に来ていたルフィはまるで動物のように「うまそうな匂いがしてきた!」と舌を出し、ナマエがお玉の手伝いを申し出るも、お玉は首が取れるかと思うくらい勢いよく左右に振って「これくらい一人で大丈夫でやんす!」と、丁重にお断りされてしまった。


「どうぞ召し上がっておくれでやんす!アニキ、アネキ!」


お玉が用意してくれたのは炊き立ての白いご飯と、お漬物だった。


「ほかほかご飯だ!!いっただっきまーす!!」
『?玉は食べないの?』
「はい!今はくの一は身軽でなきゃなれませんから」
『・・・でも、少しくらいは食べたら?ほら、』


ワノ国の情勢はよく知らないが、この編笠村に住むお玉が、あまりいい暮らしをしてないというのは身なりを見れば一目瞭然であった。
心配に思ったナマエが箸で掴んだお米をお玉の口元へと運ぶ――が、お玉はそれを見て喉を鳴らし・・・口を開きかけたところでハッとなり、「本当にいらないでやんす」と顔を逸らし、明らかに無理をしてるのが見て取れた。

なかなか強情そうな性格に、どうやったら食べてくれるか思考を練っている・・・と、手元にあったお椀が気付けばルフィにとられてしまっていて。


「ナマエ、食わねーんならおれにくれ!」
『え、あ、』


有無を言わさずとはこのことをいうのだろう。
引き留める前にルフィは山盛りだったご飯を全て腹の中に収め、ナマエの分を食べても尚「おかわり!」と空になったお椀をお玉に差し出した。

あまりの速さに目が飛び出るほど驚くお玉だったが、次第に申し訳なさそうに頭を下げる。


「これ以上は、炊いてないでやんす・・・お漬物も、それが最後・・・」
「!そっか!おかわりは冗談だ!お腹いっぱいになった、ありがとう!」
「ウソがヘタ!!」


しっかりとお腹を鳴らしながら、物足りなさそうに空になったお椀を舐めるルフィにすかさずツッコミを入れるお玉のお腹が、きゅるるる・・・と小さく鳴る。
咄嗟にお腹に手を当てたお玉は恥ずかしそうに「ちょっとお手洗いに行ってくるでやんす」と、そう言って家の外へ出て行った。


「ふーー・・・足りねェけどわざわざ作ってくれていいやつだなー、たま!」
『うん、いい子だね』

「――何者だ貴様らァ!!!」


突然、扉を蹴破り現れたのは――ウソップのような鼻の長い、天狗の仮面をつけた男だった。


「え、ウソッ・・・違うな!!!!」
「!よもや・・・米を食うたのか!?」
「ん?食った。お前は・・・」
ッたわけ者がァーーー!!
「うわァ!!」


天狗男は怒号を飛ばし、腰に帯びていた刀を抜き取った。


「まてお前誰だ!おれ達は玉にメシ作ってもらっただけだ!」
「っなぜお玉がおのれらに飯を作る!?あの子が今日まで何日飯を食っておらんと思う!?」
「『!』」
「毎日せっせと傘を編み!それを全て売ったとしても人一人、生きているかどうかの日銭暮らし!ひえを時々食う程度の暮らしだが、年に二度、生誕の日と正月くらいは米を食わせたく・・・!今日は町までお玉の8つの祝いの米を買いに行かせた!!それを貴様らがなぜ食ったのだ!!」


なぜ、お玉はそこまでして振る舞ってくれたのだろうか。何も事情を知らなかったルフィとナマエが言葉を失っていると、騒ぎを聞きつけたのか、お玉が目に涙を浮かべて戻ってきた。


「お、お師匠様やめてけろー!勝手に炊いたのは堪忍でやんす!だけどこの人たちはおらの命の恩人なんでやんす!おらに恥をかかせねぇでけろ!!」
「!」
「傘もまた沢山編むから堪忍してけろ!ルフィの
アニキとナマエのアネキにちゃんと恩返しさせてけ、・・・ッゲホ!ゴホ!」

「『玉!』」


突然、咽せ返るお玉の口からは水が吐き出され、苦しそうにその場に蹲るお玉。

――お玉が吐き出した水を見た天狗男は、原因がすぐにわかったのか目を大きく見開かせて叫んだ。


「馬鹿なことを!お玉!!おぬし腹の虫を抑えるため川の水を飲んだな!?」
『川の水・・・?』
「この国の川の水はカイドウの工場排水により汚染されておるのだ!!」


まだ幼き少女には毒を飲むも同然の汚水――。
ゆっくりとお玉の身体を抱き上げたナマエは辛そうに呼吸をするお玉の額に触れ、そしてその異常な熱さに顔を顰めた。


「もう少しマシな土地はあるが・・・!っこの子はここで待っているのだ・・・!また来ると約束した、"エース"という名の海賊を・・・!!」

『!』
「え・・・」


――突然出てきた兄の名前に、ルフィとエースはまたもや目を見開かせた。



   



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