EPISODE.10



カランカラン――!!!カランカラン――!!!!


『ん・・・・・・』


国中に鳴り響く鐘の音・・・ベポの腕の中で幸せそうに眠っていたナマエは周りが騒々しい事に気づき、ゆっくりと体を起こす。
周りにいたミンク族たちは「2人の侍が現れたぞ!」と騒いでおり・・・宴会のせいですっかり忘れてしまっていたが・・・何も知らない錦えもんとカン十郎が島に上陸してしまったようだ。情報は国中まで広がってしまい、ネコマムシ、イヌアラシ・・・全ミンク族が総動員となって街へと向かっていた。


一気に目が冴えたナマエは慌てて近くで眠っていたルフィ達を起こし、一行と共に森へと向かった。
侍の濡れ衣で皆が死に目に遭った・・・このままでは2人の命が危険だ。


街に着くと丁度そこには錦えもん達の姿があり――なぜかは分からないが、部屋に閉じこもりっきりだったモモの助の姿もあった。3人はまだミンク族には気づかれてないようで、目にもとまらぬ早さで3人を瓦礫の影に隠す麦わらの一同。


「あっぶねェ間一髪・・・!」
「間に合った・・・!」
「あんた達、悪い事言わないからすぐサニー号に戻りなさい!!」
「ったくこんなところで出て行ったら火に油を注ぐようなもんだぜ・・・!!」


中心街ではイヌアラシとネコマムシが鉢合わせてしまい、不穏な空気が漂っていた。周りのミンク族が喧嘩を止めようにも、2人の耳には届いておらず・・・イヌアラシ、ネコマムシがそれぞれ武器を構え始め・・・ついに決闘が始まってしまった。

2人の戦いは激しさを増していき、それを見かねた錦えもんがウソップを押し退けると大声で叫んだ。


「喧嘩をやめえええええい!!」
「おいバカ何叫んでんだ!!」
「ゾウの国の者達よ!拙者、ワノ国光月家が家臣、錦えもんと申す者!同国武人、雷ぞうという同士を探しに来た!この国に来てはおらぬか!?」
「「(だからそいつがいねェからこの国は滅んだんだよ!!!)」」


心の中で泣き叫ぶウソップとチョッパー。

2人の喧嘩は一時は中断された・・・が、代わりに錦えもんへとその場にいた全員の視線が集まる。見るからに侍の格好をしている錦えもんの姿にミンク族たちは驚愕し、大きく目を見開かせていた。
するとナミに抱えられていたモモの助、そしてカン十郎までもが錦えもんの側に駆け寄っていき・・・・・・ウソップたちは早く逃げるように促すが、錦えもんたちは逃げようとしなかった。

緊迫とした空気の中――イヌアラシ、ネコマムシを率いてミンク族たちが錦えもん達に近づいていき、ルフィ達も仕方なく応戦しようとした――その時。目の前に信じられない光景が広がった。
イヌアラシ、ネコマムシを筆頭にミンク族全員が錦えもん達の目の前で膝を折り、涙を流していたのだから。



「・・・・・・っお待ちしていた・・・!」
「ううッ・・・・・・・・・!!」


――雷ぞうなど、神に誓って知らん!!!

――そんな男がもしおったらこの命くれてやる!!!


「雷ぞう殿は・・・ご無事です・・・!!!」


イヌアラシのその一言に・・・混乱する一同。さすがのルフィも驚きのあまりその場に座り込んだ。


「!そうか無事か!良かった!」
「ッおい待て・・・!おいおい、雷ぞうはいたのかずっと!?全員が知ってたのか!?」


ウソップの叫びにミンク族たち全員は笑みを浮かべていた。小さな子どもでさえも・・・雷ぞうのために命を張ったというのか。


「〜〜ッ・・・お、お前らみんな死ぬとこだったんだぞ!?千年続いた都市が滅んだんだぞ!?」
「ゆガラたちにも秘密ですまんかった。ワノ国の光月家一族と我らは遥か昔より兄弟分・・・何が滅ぼうとも、敵に仲間は売らんぜよ!」
「みんなには感謝いたす・・・!」
「大した事はしちゃあせん、気にせなァ!」
「かたじけない・・・それから、改めてこれを・・・!」


言いながら、錦えもんは上だけ脱ぐと背中にある家紋を、ミンク族に見せた。それはイヌアラシ、ネコマムシ、そして・・・匿っている雷ぞうと同じ光月一族の家紋であり、ミンク族たちから喜びの声が上がる。

てっきりミンク族との衝突を覚悟していたルフィ達は安堵したように息を吐いた。2人の王にも家紋がある、ということは・・・ルフィ達が思うよりもずっと深い繋がりが、彼らの中にはあるのだろう。


「しかし・・・イヌアラシ、ネコマムシ。おぬしらが生きてここにおったとは驚いたぞ!」
「死に損なってな・・・あの日の言葉を頼りにここで待てば・・・」
「ああ!必ずいつかゆガラ達に会える、思うとったぜよ!」
「おい化け猫!!」
「なんじゃい犬」
「いま私が錦えもんと話していたんだ、勝手に入ってくるな!!」
「あァ!?わしはただ錦えもんもゆガラと話すのは気分が悪かろうが思うてな!気を効かせて代わっちゃっただけぜよ!」
「何ィ・・・!?」


「ッ喧嘩などよせ!イヌアラシ、ネコマムシ!!」
「「!!」」
「あんなに仲の良かった2人がなぜ殺し合いのような喧嘩をするのでござる!!もう二度と喧嘩は許さぬ!!父上の事が原因なら尚更でござる、こんな2人を見たら父上は・・・ッ・・・悲しむぞ・・・!!」


モモの助が泣きながらそう叫ぶと、それまで一度も喧嘩を止めることの無かった2人が――潔く武器を手放し、モモの助に深く頭を下げ始めたではないか。頭を下げる2人にミンク族たちは驚き、そしてイマイチ話についていけず、頭の上に沢山の?マークが浮かぶナミたち。モモの助の父親はそこにいる錦えもんのはず・・・。どうやら秘密があったのはミンク族だけではないようだ。


「モモの助"様"の言う通りでござる・・・おぬし達も欺いていた事、許してくれ。実は拙者とモモの助様は・・・親子ではござらん!」
「「「「えええーーー!?」」」」
「ここにおわすはワノ国、九里大大名――光月おでん様の跡取り、光月モモの助様にござる!つまりイヌアラシもネコマムシも含め、我らの主君でござる!!」

「しゅ、主君!?どういうことだナマエ!?」
『・・・つまり、イヌアラシとネコマムシ、それに錦えもんとカン十郎も・・・モモくんの家来、ってこと』



頭の理解が追いつかず、腕の中で涙ぐむチョッパーに説明するナマエ。・・・しかし彼らが家臣の筆頭ならば相当有力なお殿様なのだろう。


「ここまでの道中、その身分が明らかになれば敵が増すゆえ、モモの助様は拙者と親子という芝居をうった。おぬしらは信頼しておったが・・・告白の時期を逸した!すまぬ!」
「親子じゃなかったのかぁ・・・」
「似てますけどねェ・・・エロいところが」

「・・・っ嘘をついて悪かった!拙者、実は偉いのだ!」
「・・・どーでもいい!」
「どうでもいいとはなんだ!図が高いでござるぞルフィ!!」
「知るかァ!なんでお前が偉かったらおれ達が変わらなきゃいけねェんだバーカ!」
「ッ無礼者がーー!!」


ルフィとモモの助は暫く睨み合い、やがて喧嘩が始まる。ルフィが子ども相手だからといって手加減するわけが無く・・・吹き飛ばされたモモの助は再びルフィに立ち向かおうとした――が、途中、ルフィより奥にいたナマエへと視線が移り変わり・・・・・・目を大きく見開かせると、身構えるルフィを通り過ぎてナマエの胸の中へと飛び込んできた。
驚きながらもナマエはチョッパーを床に下ろすとモモの助を受け止め、そのままモモの助はナマエの胸元に顔を埋める。


「おぬしがルフィの姉じゃな!?」
『ナマエよ、よろしくね』
「あいつが酷い事をするのじゃァ!!」
「「ぬわああーーー!?」」


子どもだからといって侮る無かれ・・・モモの助は鼻の下を伸ばしながらナマエの胸の谷間に顔を埋めており、すっかり地位を忘れた錦えもんが「離れんかこのクソガキー!!」と叫んだのはいうまでもない。
ナマエに抱きついているモモの助に目を光らせたナミが妖しい目つきでモモの助に言い寄った。


「ねえモモちゃーん?お父さんがお殿様だったら・・・お城に財宝、あるわよね?」
「やめろォ!!お前ほんととんでもねェやつだな!?」
「あっはははは!!」


さっきまでの空気とはガラリと変わり、モモの助からも笑みがこぼれる。


「・・・まだ数ヶ月しか経っておらんぜよ。あガラたちの賑やかさに救われちゅうがな」
「ああ。・・・休戦だ、猫。我々が引きずってはモモの助様を苦しめる」
「・・・・・・主君のためじゃ、ゆガラとは言葉は交わせども心は通わせん」
「望むところだ!!」


ルフィ達と楽しそうに会話をするモモの助を遠くから見つめていたイヌアラシとネコマムシが、お互いの手を取り合い、握手を交わしたではないか。
2人の王の仲直りに最初はどよめきが起きたものの、ミンク族たちにとっては願ったり叶ったりの光景であった。




   



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