EPISODE.09



ブルックの言う"あの人"とは――ペコムズのことであった。ペコムズはビッグ・マム海賊団の一員でもある・・・今はサンジ達に恩義を感じているため、もしかしたら証言してくれるかもしれない。
ペコムズは一命は取りとめたものの、まだ意識が戻っているかも分からない状態だそうだ。とにかく今はネコマムシ、そして意識が戻ってる事を願ってペコムズに会いに行く他ない。


ワーニーに乗って暫くすると・・・ネコマムシのいる居住区まで辿り着いた。そこには侠客団ガーディアンズたちが多くおり、そこでもまた大歓迎を受けた一同。


「よく来てくれた、恩人達とその仲間達。改めて礼を言わせてくれ・・・ありがとう」
「!だれだ!?」
「森では部下が悪かった。侵入者に過敏になっていた」


丁度ルフィ達の頭上――木の上に立っていたのはくじらの森侠客団ガーディアンズ団長、ペドロであった。


「奥でベポ達がゆガラたちを待っているぞ」
「ああ!あいつらは後でいいや。ネコマムシとライオンのペコマムシに会いてェんだ!」
「!ガルチュー!!!」


目を光らせたペドロが突然、ルフィに頬ずりをする。その距離のまま、小さな声でペコムズは先ほど奥の部屋で目を覚ました事を伝えた。この一件は皆には内緒にしてあるらしい。
チョッパー、ブルック、ウソップ、ロビンはネコマムシの部屋へと行き、残りは奥のペコムズのいる部屋へと向かった。


「あんたよく生きてたわね!」
「半分は能力で回避した!ガルルル・・・ベッジの野郎・・・悪かったな、黒足は連れていかれたか・・・もう結婚式からは逃れられねェ」
「それなんだけどペコマムシ、結婚って誰が決めたんだ?」
「そりゃもちろんうちのママとヴィンスモーク家のオヤジだ!」
「サンジくんのお父さん!?それってどういう人なの?」
「闇の世界じゃ有名な男だぞ・・・ジェルマ66って名前は知らねェか?別名を戦争屋・・・」
『!』
「な、なに言ってるの!それは"空想上"の悪の軍隊でしょう!?馬鹿馬鹿しい!」
「いや・・・実在する組織だ!!そのトップにいるのがヴィンスモーク一家・・・そのボスが黒足のオヤジなのさ!!」
「!!」



これだけは信じてくれ。おれは仲間に――隠し事をしてたつもりはない!



ヴィンスモーク家は人殺し一族として名を馳せていた。それでサンジはあんな事を言ったのかと、ナミは思わず俯いた。


「なんか知らねェけど、んなのはどうでもいい!おれ達が知りてェのはあいつが戻ってくるかどうかだ!結婚するならしてもかまわねェ、だけどそれでおれ達がビッグ・マムの子分になるのはイヤだ!!だからそん時はお前らがおれの下につけ!!!」
どぅぇえええーーー!?!?!?


ルフィの発言に、驚きのあまり重傷だというのも忘れ飛び跳ねてしまい壁に頭をぶつけ、そのままベッドから崩れ落ちるペコムズ。


「分かったなペコマムシ!ビッグ・マムによく言っとけよ!」
「ッ口を慎め小僧ー!!滅ぼすぞ!?ガオオオ!!恩人とはいえ調子に乗るな!ママは海の皇帝、四皇の1人だぞ!?」
「うん」
「いいぃ!?」


つけていたサングラスを上げてルフィを睨むペコムズ・・・だが、そのサングラスの奥に隠された瞳は予想以上に丸々しく、とても愛らしい瞳をしていた。勢いよく立ち上がったせいか、大声を出したせいか・・・それともルフィが頓珍漢な発言をしたせいだろうか、傷口に障ってしまい痛そうにその場で座り込むペコムズ。


「お前、目可愛いな!あははは!」
「黙れェ!ッはあ・・・まァ・・・いずれにせよ結婚からは逃げられねェさ」
「!なんでだ?」
「実際に黒足が言ったようにまずママのお茶会の招待は絶対に断れねェ・・・断れば後日、そいつにはあるプレゼントが届く事になる。ママに恥をかかせることになるんだからな」
「プレゼントォ?」
「嬉しいものなど入っちゃいねェ・・・中身は、そいつに関わりのある誰かの"首"だ!!」
「「『!!』」」
「麦わらの誰かの首かもしれねェし東の海イースト・ブルーのレストランにいる誰かかもしれねェ・・・ああ、カマバッカ王国の誰かかもしれねェな」


ペコムズが述べた者達は、確かにサンジと深く関わりを持つものばかりであった。しかしその情報はどこから一体入手したのだろうか・・・なぜそこまで知っているのか、ルフィが問い詰めればペコムズはベッドに戻りながら、静かに言った。


「これが力ってもんだ、麦わら!!」


脅迫は圧倒的な実力者が口にすれば、必ず来る未来でしかない・・・一体、誰が逆らえるというのか。それが四皇という存在――成す術もないというのは、まさにこの事を言うのだろうか。
だからサンジは行くしかなかったのだ――あの時、ヴィトに耳打ちされたのは脅されたのだ。


「もう1つ、安心させてやろう・・・恩人たちよ。お前らがうちの傘下に入る事もないガオ」
「!」
「これは政略結婚だ、ママは傘下につく者達と必ず血縁を結ぶ・・・つまりこの結婚はヴィンスモーク家とシャーロット家の血縁を結ぶための儀式!お前らとの関わりを持つためじゃねェ!・・・もっと分かりやすく言おうか?――結婚が成立した瞬間、黒足のサンジはお前らの仲間じゃなくなるってことだ!」
「!?なんだその勝手な話!サンジはおれの仲間だ!!」
『ちょ、ちょっとルフィ!』


目を見開かせたルフィはペコムズの胸倉を掴むと乱暴に左右に揺らした。慌ててナマエはルフィの手からペコムズを引き離し、苦しそうに喉を押さえるペコムズはルフィからナマエへ視線を移すと驚いたようにまた飛び跳ね出した。


「ガルーーー!?お、お前!まさか!」
『・・・?』
「ポートガス・D・ナマエか・・・!?」
『う、うん・・・そうだけど』
「な、なんで此処にいる!?ま、まさかとは思うが・・・麦わらの一味に加わったなんていうんじゃねェだろうな!?」
「?なに言ってんだ今更」


先ほど意識を取り戻したばかりのペコムズは最近の出来事・・・情報を知らない。もちろん、ナマエが麦わらの一味になったのはつい最近の事で・・・傾げていた首を真っ直ぐと縦に振れば、ペコムズの顔はより一層青白くなった。


「お、お前・・・自分の置かれてる状況分かってるのか!?」
『状、況・・・?』
「そんじゃそこらの海賊や海軍だけじゃねェ・・・四皇すらもお前の力を恐れ、手に入れようとしているんだぞ!?」
「!四皇が・・・!?あいつらだけでも強ェのにか!?」
『・・・・・・』
「ああ・・・ママが言うにはお前の力はまだ成長段階・・・まあ、簡単に言やぁ今は赤ん坊みてェなもんだ。"覚醒"すればうちのママですら厄介だと言うくらいだ・・・だから"覚醒"する前になんとしてもお前を手に入れようと・・・既に動き出して居る奴らもいる!!」
『・・・わたしが、言いなりになるとでも・・・?』
「もし反抗した場合は・・・"覚醒"する前に息の根をとめる・・・そう、言っていた」


伝説の悪魔の実、キラキラの実・・・それほど脅威な力を持つ者が海賊王ゴールド・ロジャーの子どもなのだから目をつけられるのも納得がいく。シャンクスの船に乗っていた時は平和そのものだった・・・が、麦わらの一味となった以上、話は別だ。
しかしそれはシャンクス達に散々言い聞かされていた為、ペコムズの話を聞いてもナマエは臆する事無く『忠告ありがとう』と笑顔で返した。
その絵になるような笑顔にペコムズの頬は赤く染まり・・・隣にいたナミが「命がいくつあっても足りないわ」と半ば諦めた状態で溜息を吐いていたのはいうまでもない。


「ナマエはおれが守るから心配いらねェ!!それよりもペコマムシ、お前これからどうするんだ!!」
「ッ回復したらママの元に戻るさ!おれを殺したつもりだろうベッジのガキ・・・このままじゃすまさねェ・・・!」
「じゃァおれも連れてけ!!」
「ええ!?」
「ナマエ、ナミ!おれ1人で行く!ロビンたちが言ってたみてェにみんなで行ったら戦争吹っかけたみたいになっちまう!今そんな事やってる場合じゃねェ・・・おれ1人で!こいつと一緒なら茶会にもぐりこんで結婚式をぶっ壊せるかもしれねェ!」
「ふざけんな!おれに敵を誘導しろってのか!!」
「よし、決まりだ!!」


人の話を聞かずルフィはチョッパーを呼んでくるといって部屋を飛び出していった。次々と起きる深刻な事態にナミは悩ましそうに頭を抱えていると・・・なにやら外の方が騒がしくなってきた。激しい地響きに続いてたくさんの声・・・その中には悲鳴のようなものも聞こえ、気になったナマエが外を覗いてみればそこには気を失っている大きな猫――ネコマムシと犬のミンク族に襲われるブルック、そしてローと、ローの仲間・・・ハートの海賊団の船員達の姿もあった。

状況が飲み込めないが、一先ずルフィ達はローにサンジの件を伝える。


「何?黒足屋がビッグ・マムのところへ・・・?何がどうなりゃそうなるんだ!」
「だからよ、おれが迎えに行ってくるから!ちょっと待っててくれよカイドウと戦うの」
「待つも何もおれ達がカイドウに狙われるのは時間の問題だぞ?暫く身を隠せるはずだったがこのゾウも奴らに場所が割れちまってる」
「うーん・・・・・・」
「次はおれ達が狙いだとしてもまた攻め込まれたらこの国は一体どうなる!」


ローがそう言った瞬間、いつの間にいたのだろう・・・話を聞いていた多くのミンク族が「助けてくれただけでなく気遣いまで」と感動の涙を流していた。
それまで気を失っていたネコマムシが目を覚まし、チョッパーが安静にしてるよう指示をした瞬間・・・ネコマムシは勢いよく起き上がると叫んだ。


「よーし宴ぜよ!!酒と魚をー!!」
なんでそうなるんだよ!!
「よっしゃー!ノったァぁあー!!」
ノるなぁああー!!!!


チョッパーの叫びも虚しく響き渡り・・・ネコマムシの呼びかけによって、あっという間に宴が開かれた。麦わらの一味、ハートの海賊団、そしてミンク族たちは料理と酒を交わし、大賑わいをみせる。

そんな中、ナマエは出された酒を口に含みながら隣に座るローにチラチラと視線を送っていた。・・・もちろんローがその視線に気づかないわけが無く、「なんだ歌姫屋」と聞かれたナマエはギクッと肩を揺らすと、ローの反対隣に座っている白熊・・・ベポに視線を移した。


『あ、あの・・・そ、その・・・ベポなんだけど』
「?」
『ッい、一回でいいから・・・!ぎゅーしてみても・・・いいかな・・・!?』
「・・・・・・はあ?」


心底呆れたような声を出すロー。ナマエは恥ずかしそうに頬を赤らめながらも「お願いっ!」と懇願した。別に許可がいるものでもないのだが・・・ローは面倒くさそうに小さく舌打ちをしながらも、横で仲間達と話すベポに声をかける。


「おいベポ」
「アイアイキャプテン!」
「・・・こいつがお前と喋りたいんだと」
「ええ!?ほんと!?嬉しい!!!メスのクマだったらもっと嬉しいけど!!」


ベポは身を乗り出すとローと場所を入れ替わり、愛らしい顔でナマエの側に寄った。白いふわふわの毛に誘われるようにナマエはベポに抱きつくと、幸せをかみしめるように瞳を閉じる。自分よりも倍近く大きいため、すっぽりと腕の中にはまってしまったが・・・想像以上のもふもふ具合にご満悦そうだ。


『きもちいいい〜〜っ』
「あははっくすぐったい!」


――きゃっきゃと楽しそうにする2人を、ハートの海賊団の船員達が羨ましそうに見ていたのはいうまでもない・・・。




   



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