EPISODE.31
「はあッ、はあッ・・・あいつら、戦ってんのかな・・・!」
『とにかく急がないと・・・!』
――カルタの丘でレベッカと別れたルフィとナマエは、再び城下町を走っていた。
とはいえ、さっきまでわんさかといた海兵たちの姿はどこにもなく・・・いたとしても皆、力尽きたように倒れていたり、武器を所持していない者達が多かった。
それが全てレオたち小人のおかげと知る由もなく・・・ルフィとナマエが不思議に思いながらも東の港へ向かっている最中、突然、地面にあった瓦礫や崩壊した建物が"浮上"しはじめる。
『!』
「な、なんだ!?」
走りながら空を見上げれば島全体のそれが1点に集まっており、それは巨大な隕石のような形となって空を飛んでいた。それがある方角は東の港――ゾロたちのいるほうだ。なんの能力かは分からないが、ナマエはそれが大将藤虎によるものだとすぐに気づき、ルフィに急ぐよう声をかけた。
――暫く走っていると、漸く東の港へと続く階段が見える場所までやってきた。
見れば目の前には藤虎とゾロたちが今にも戦いそうな状況で、ルフィとナマエの存在に気づいたバルトロメオが叫ぶ。
「ルフィ先輩!ナマエ様ぁあー!!急いでけろー!そいつをうまくかわしてェ・・・!」
「・・・かわす?ッ、おい!!賭博のおっさん!!おれが分かるかー!?」
「!来やしたね・・・・・麦わらのォ・・・」
「殴るぞぉおおお!!!」
「!」
『ちょ、ちょっとルフィ!?』
「ゴムゴムのォ・・・・象銃!!」
あろうことかルフィは膨らませた腕に武装色の覇気を纏わせ、藤虎に向かって攻撃を繰り出した。
しかし藤虎は冷静に鞘から刀を抜くとその拳を受け止め、ダメージは喰らっていないものの後ろへと吹き飛ばされていく。
まさか攻撃を仕掛けるとは思っていなかったのか、それを見ていたバルトロメオ一行が大きく目を見開かせた。
「ルルルルルフィ先輩ぃいー!?相手は海軍幹部の最高戦力、海軍大将だべえええぇえ!?」
「・・・いつか倒すじゃもうだめだ・・・ッ大将だからってなんで逃げなきゃいけねェんだ!そういのは・・・2年前で終わりだ!!海軍大将だろうが四皇だろうが全員ぶっ飛ばしていかなきゃ・・・ッおれは!!海賊王にはなれねェんだ!!!!」
ルフィの頭の中には2年前――シャボンディ諸島で、黄猿ことボルサリーノに一味が倒されかけた時の情景が浮かんでいた。
もう二度とあんな思いはしたくはない・・・ルフィの言葉に、ゾロとロビンは笑みを浮かべ、フランキーはそれもそうかと納得し、一番頭を抱えていたウソップもこうなったらヤケだとルフィを応援した。
すっかり藤虎を倒す雰囲気になってしまったその状況にただ1人、バルトロメオだけが驚愕していた。
「ナマエ!お前はゾロたちのところに行け!」
『分かった・・・!』
「――全力で行くぞ!!!おっさん!!!」
「ええ・・・こちらも本気であんたさんを捕らえやす・・・お覚悟を・・・!!」
ナマエが行ったことを確認したルフィはギア2になって蒸気を纏いながら、藤虎に攻撃を仕掛ける。・・・しかしどういうわけか、ルフィは藤虎に攻撃する前に、どういう攻撃をするかわざわざ言葉にしてからその通りに攻撃を仕掛けていた。
「ッおれはもう・・・逃げねェんだ!!」
「ええ・・・言うだけの力はあるようだ・・・その意気はいいが・・・」
「殴るぞ!!!」
「ッさっきから一体、なんのマネですかい!?蹴るぞ、殴るぞと・・・・・・同情ですか!?あっしは海軍本部大将・・・皆、怪物だといいますよ・・・今更、哀れみなんぞかけられたんじゃァたまらねェ・・・目の見えねェ奴が・・・戦場にいちゃ、迷惑ですかね!?あっしを怒らせてェんなら成功だ・・・あっという間にクビが飛びますよ!?」
「うるせェ!!!おれは目の見えねェお前を無言でぶっ飛ばすことなんて出来ねェ!!!!おれ・・・ッおっさん嫌いじゃねェからな!」
「!」
拳と刀の押し合いが続くなか、ルフィの真っ直ぐな言葉に一瞬、動揺した藤虎は・・・あろうことか、声を出して笑い始めた。目を見開かせたルフィは一旦後ろに退くと、突如笑い出した藤虎を睨みつける。
「ッなに笑ってんだお前!!蹴るぞぉお!!」
「その情けが・・・なんの役に立ちやすか!?」
「いっぱい殴るぞォおお!!」
「見損ないやしたよ・・・そんな筋の通らねェ話が・・・あるかァ!男の戦いにゃァ・・・立場ってもんがありやしょう!?そう正直に同情やら好き嫌いを口にするやつがありやすか・・・!?」
「ッ・・・うるせェ!!そんなモンおれには関係ねェ!!」
「くっ・・・馬鹿じゃねェですか・・・!?こっちも"我慢"して立場貫いてんですァ!!!」
「!!」
重力刀猛虎――刀に能力を行使し、それを振るった方向へ向けて強力な重力帯が発生される。
藤虎が刀を振るった瞬間、ルフィは上空へと吹き飛ばされ、その背後にあった岩場が派手な音を立てて崩壊した。
くるくると回転しながら空を飛んで行くルフィを掴んだのは――コリーダコロシアムの戦士、巨人族のハイルディンだった。
ハイルディンはキャベンディッシュの指示の元、ルフィを掴んだまま港へと向かう。
「っ、こら離せ巨人!!」
「よーしルフィ!交代だ!」
「違う違う!!だからやめてけろゾロ先輩ぃいい!!こっちにはこっちの都合があんだァ!!」
「都合・・・?」
藤虎に応戦しようとしたゾロだったがバルトロメオに止められ、仕方なく踵を返す。
ルフィを連れたハイルディンの後に続いて、東の港に続く階段を駆け上がる一行。
それにしても港に船といってもそんなに沢山、どうやって港に停めるというのか・・・疑問に思ったウソップが顔を上げた瞬間、視界に広がったのは――縦1列に並ぶ多くの海賊船であった。
ルフィたちが乗る船は陸から5キロも先にあるらしく、海賊船からロープで繋がれた海の上に浮かぶ連結橋を渡る。
「ッおい!まだおれは戦ってんだ!離せ!!」
「今度にしろ。今は用がある」
『・・・!』
奇妙な音が上空から聞こえ、走りながら上空を見上げてみると――そこには先ほど、藤虎の能力によって街からかき集められた瓦礫が浮上を保ちながら、ルフィたちの後を追いかけるように移動をしていた。
それらは合体をしながら真上までやってきて、視界が一気に暗くなっていく。
――この能力が解除され、この瓦礫が落ちてきてしまえば最後・・・逃げ場のない船は全て海へと沈んでしまうだろう。
激しい衝撃音と共に、丸い塊となっていた瓦礫は空全体へと散らばりはじめた。停泊していた海賊船全ての上空に瓦礫が待機しており、とにかく走り続けるしかなかった。
「ッどこに逃げろっていうんだよおおー!!!」
ウソップがそう叫んだ、その瞬間――藤虎の能力が解除され、ゆっくりと瓦礫が落下を開始した。
『・・・?』
・・・しかしそれは最初だけで、瓦礫は落ちるどころか時間が止まったかのように再び上空で浮上を保っていた。
不思議に思ったルフィが陸の方角を見つめ――そして何かに気づき、巨人に言った。
「おい巨人、離してくれ!」
「いい加減諦めろ」
「もう戦わねェよ!」
そう言うとハイルディンから解放され、ルフィはそのままハイルディンの肩に乗ると沖を見つめた。
――そこには多くのドレスローザの市民が、自分達の後を追いかけてきていて・・・・・・投げかけられる言葉はルフィたちに対する悪態なのだが・・・・不思議なことに、その言葉に怒りの感情は無かった。盲目の藤虎にバレないよう、わざとルフィたちに悪態をついていたのだ。言葉とは裏腹に、皆が見せている笑顔が何よりの証拠だ。
「なんだァ?あいつら・・・ははっ!」
街の市民達がいてくれたおかげで、上空にある瓦礫が落ちずに済んだのだろう。こちらに手を振る市民たちにルフィも手を振り返した。
――ねえみんな、レベッカ様なら丘の上の家にいたよ?キュロス様と一緒に!
――ははっ。そうだね。でもそんなこと、みんな知ってるんだ。
――キュロス様が身を引けば当然そうなる。2人は本当の親子なんだから。
――16年前から大人たちはみんな知ってたんだ。スカーレット様と3人、丘の上で幸せに暮らしていた一家のことは。
――妖精の正体も同じく・・・みんな暗黙のうちに、見守ってきたんだよ。
――へえー!!!
――そんな事より早く走るんだ!この国の恩人達を逃がさなきゃ!!
――おれ達がルーシーに纏わりつけば藤虎は空の瓦礫を落とせない!!
市民達の話し声を聞いていた藤虎は、静かに刀を鞘に戻していく。
「・・・・・・」
馬鹿正直な麦わらのルフィ・・・・・・みんながお前さんを助けようとすんだねえ。
あんたァ・・・一体どんな人だい?髪の色は?目の形は?どんな顔してんだい・・・?
「――目ェ、閉じなきゃ良かったなァ。あんたの顔、見てみたい・・・優しい顔・・・してんだろうねェ」
その表情には、笑みが浮かばれていたのだった――。
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