EPISODE.30
「海軍が来る、急いで支度しろ!」
「うわあああ!と、とうとう来たぁぁああ!!」
「何を今更・・・逃げる準備ならいつでも出来てるでござる。ルフィ殿が目覚めるのを待っていただけ・・・」
「うむ。なぜ今の今まで敵が攻めて来なかったのほうが不可思議・・・」
「しかししまった・・・船がないでござる」
「!そうだった!!船が無いとどうなるんだよ!!」
ナミたちを乗せたサニー号はすでに"ゾウ"に向けて出航している。
混乱するウソップとは違い他の者達は冷静に状況を判断し、キュロスは持っていた電伝虫でレオたちに話しかけた。
「レオ、頼んだことはやってくれたか?」
[もちろんれす!全て言われた通りに!・・・あ!にわとりさん!王宮にも行くもようれすよ!戦士たちも危ないれす!]
「おう!心配ありがとよちびすけ!おれらも海軍の動きは随時見張りさつけてた・・・ぬかりはねェべ!」
[そうれすか!]
「ルフィ先輩たち、案内します!!真っ直ぐ東の港へ走ってけろ!!」
「!だ、だけど街には海軍がうじゃうじゃいるんだろ?どうするんだ!」
「大丈夫!あんた達がいつでも目覚めてこの国から脱出できるように既に同士たちがずっと要所に待機してんだべ!おれ達が道さ作る!東の港には船も準備してあります!」
「!そいつはありがてェな!」
これで逃げる準備は出来た。・・・しかし、ナマエの中で1つ心残りがあった。
――レベッカとキュロスのことだ。
顔を上げたナマエはキュロスに話しかけようとした・・・が、言葉に詰まってしまう。なにをどう話せばいいのか・・・しかし、本当にこのままでいいのだろうか。
もちろんその横で肉を頬張るルフィも同じ気持ちのようで、相変わらず不満そうにキュロスを見つめている。
・・・各々も逃げる準備をしていると――やけに外が騒がしくなり、窓の外を覗いてみればそこには武器を構えた海兵がこちらに向かってきていた。
「さ、行くべよー!!」
家を出た瞬間、待ち構えていた海兵たちの集中砲火が浴びせられる。しかし咄嗟にバルトロメオがバリアを張ってくれたおかげで銃弾は全て弾かれ、全員東の海に向かって一直線に走り続けた。
走りながら、ナマエは後ろにある小屋を一度見た後、隣を走るルフィへと視線を移す。
『・・・ねえ、ルフィ。わたし・・・』
「・・・・・・分かってる」
肉を全て食べ終えたルフィの足が不意に止まる。ナマエも足を止めると後ろを振り返り――海兵たちよりもさらに後ろにある王宮を見上げた。
「ル、ルフィ先輩!?ナマエ様!?」
「やっぱ用事があるから先に行っててくれ」
「はいい!?」
「ルフィ、ナマエ!時間は無ェぞ、用件なら急いで済ませてこい!東の海で待つ!」
『うん!』
何かを察したゾロの言葉を背中で受け止めながら、ルフィとナマエはバルトロメオたちとは違う方角へと走り出した。向かう場所はもちろん・・・レベッカのいる王宮だ。
カルタの丘から王宮へと続く道の途中には城下町があり、カルタの丘から飛び降りた先には警備していた海兵らの姿があった。上空から落ちてきたルフィ達が発見された瞬間、たくさんの銃弾が飛び交うが能力者であるルフィもナマエも普通の鉛弾は効かない。
行く手を阻む海兵たちを倒しながら城下町を抜け、王宮前のひまわり畑まで辿り着く。
「レベッカァアー!!!どこだァあああ!!」
叫びながら広大なひまわり畑を走っていると、丁度真上のほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ルーシー!!!偽名ー!ここだよー!!」
「!」
『レベッカ!』
見上げた先にある城の窓の向こうには、こちらに手を振るレベッカの姿があった。
思っていたよりも早く見つけられたことに笑みをこぼしたナマエがどうやって城内に入ろうか周りを見渡していた・・・その瞬間、ぐるりと腰に回るルフィの腕。そのまま引き寄せられて脇に抱えられたと思えばルフィは空いている方の手をレベッカのいる部屋の窓の鉄格子に向けて伸ばしていた。
まさか、と思った時にはもう既にルフィは地面を強く蹴っていて――物凄いスピードで、ルフィに抱えられながら空を飛んで行った。
『ちょっ、ルフィ・・・・っ』
「レベッカァァアア!!」
ルフィはナマエを抱えながら鉄格子にしがみついた。
「ルーシー、偽名!よかった、わたしお礼をちゃんと言いたくって・・・っ」
「うるせえ!そんな事で来たんじゃねェ!お前いいのかよ!?」
「え・・・」
「兵隊のこと!!!」
「!」
『っ、もう、会わない気なんだよ・・・?』
2人の言葉にそれまで笑みを浮かべていたレベッカの表情が曇り始める。
唇を強く噛み締めながら俯くレベッカの肩は、小さく震えていた。
「ルーシー、偽名・・・わたし、お手紙貰ったの。兵隊さんが、一生懸命・・・・わたしを、遠ざけようとしてるんだ。わたしを、他人にしようとしてるんだ・・・・・・ッ」
――なによ!!親でもないくせに!!!
――ドフラミンゴに勝てるわけがない・・・だってあなたは、片足のオモチャじゃない!!!!
「どうして・・・?ひどいこと言ったから・・・?・・・っ・・・わたしと暮らすの、嫌なのかなあ・・・?迷惑、なのかなあ・・・?」
「知るか!!お前が考えろ!!!おれ達はもう、この国を出なきゃいけねェんだ!おれ達は!これでいいのか聞きに来ただけだ!!」
「っ・・・やだよ!!いいわけないよ!!」
涙を流しながら叫ぶレベッカ。その言葉にルフィは「じゃあ来るか?」と問いただし、その言葉にレベッカは真っ直ぐ頷いた。後ろで話を聞いていたヴィオラが慌てた様子でレベッカを止めにかかろうとした――がレベッカは勢いよく振り返り、レベッカの手を握ると強い眼差しで言い放った。
「ごめんヴィオラさんっ!"王女"代わって!!」
「!」
おかしなお願いに思わず呆気にとられるヴィオラ。周りの兵士たちも驚き、その隙にレベッカは踵を返すとルフィたちの前に戻ってきた。
小さく頷いたナマエはルフィの腕から降りると先にひまわり畑の方へと下り、周りの海兵たちをなぎ倒して先に走り出す。窓の鉄格子を壊したルフィもレベッカを背負ってナマエの後を追いかけ、レベッカが海賊に攫われたという噂は城内だけでなくすぐに街中に広がった。
「振り落とされんなよ!!」
「うん・・・!!」
屋根から屋根へと伝って東の海へと向かうルフィ達。
下を見てみれば海兵だけでなく街の市民達も、レベッカを救出しようと追いかけてきているではないか。
ナマエはルフィとレベッカを援護しながら、元来た道を戻っていた。
「レベッカ!お前を丘の裏に置いて、おれとナマエが囮になる。あとは自分で行け!」
「!」
『国中がレベッカを守ろうとしてる。捕まったら王宮に連れ戻されちゃうから・・・気をつけてね』
「わ、分かった・・・でも、どこへ行けば・・・?」
「兵隊は花畑にある小さい家だ!」
「!花畑ね・・・!うん!分かった!」
「急がねェとあいついなくなっちまうからな」
「ありがとう・・・ほんっとうにありがとう!ルーシー、偽名!」
「にしししし!気にするな!」
『頑張ってね、レベッカ!ちゃんと自分の気持ち、伝えるんだよ!』
「うん!!」
さっきまでとは表情が変わって、すっきりした様子のレベッカの姿にナマエもルフィも笑みをこぼした。
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