EPISODE.29



鴉の大群に乗っていったサボを見送ったナマエは月を見上げると1人、笑みをこぼした。


『・・・エース。サボが、生きてたよ』


その言葉がエースに届いているかは分からない・・・が、その時丁度、ナマエの真上を流れ星が通っていった。
まるでエースが応えてくれているような、そんな気がしたナマエはさらに笑みを深めると踵を返し、キュロスの家に戻っていった。


「あら。おかえりなさい、ナマエ」
『っ』


扉を開けるとロビンが先に出迎えてくれた。おかえりなさいと言われ、照れたように「ただいま」と言ったナマエは鼻提燈を膨らませながら気持ち良さそうに眠るルフィを見ると小さく笑みをこぼし、ベッドの淵に腰をかけた。


「サボに会えた?」
『うん!教えてくれてありがとう、ロビン』
「それに比べてルフィのやつ・・・さっきまで兄がいたってのになんにも知らねェでよく寝てやがる」
「起きたらがっかりするわね?」
「ッうおおおーーー!!いい兄貴だチキショウッ・・・修理にならねェ・・・!ッおれァフランキー、よろしく頼むぜ・・・ううっ、うううー!」
『ポートガス・D・ナマエです。よろしく・・・?』


泣きながら自身の体を修理している"改造人間サイボーグ"フランキー・・・なぜ泣いているのか分からず首を傾げていると、寝静まっていた方から声が聞こえた。起き上がっていたのは――キュロスだった。


「・・・本当にいい兄弟だ」
「起こしてしまったかしら」
「サボの話し聞いてたのか」
「途中からだがね」
「・・・おれ達の声より、うちの船長のこえの方が・・・」
「どうにかして止めるかァ?」
「いや、思い切り寝かせてやってくれ。そのためにここに来て貰ったようなものだ。ゾロランドも、酒なら台所の床の下にあるかもしれない」
「え!?本当か!?」


意気揚々と台所へと向かうゾロから、ベッドの上で眠るルフィに視線を向けたキュロスが静かに話しだす。


「ルフィランドには・・・どんなに感謝しても足りることはない。彼にどれほど国民が勇気付けられたことだろうか・・・この国は変わる。もちろん君たちみんなのおかげだ。キミ達の受けた傷の痛みは我々ドレスローザ国民に代わって受けてくれた痛み・・・その痛みに、報いねばならん」


台所から戻ってきたゾロが持ってきた酒をキュロスに渡し、「一杯飲むか?」と、2人で酒を交わし始めた。
それからフランキー、ロビンも眠りにつき、ロビンと話していたナマエにも睡魔が襲い掛かる。寝てもいいぞ、と言ってくれたゾロの言葉に甘えさせてもらい、小さく頷いたナマエはそのままルフィの横で眠りにつくのだった――。




*



朝日が昇ると同時に、街へ買い出しに行っていた錦えもん達が沢山の食料を持って帰ってきた。食べ物の匂いにそれまでぐっすりだったルフィはパッと目を覚ますと目の前の食料を口いっぱいに含み始め、驚く錦えもんたち。・・・しかし驚いていたのは錦えもん達ぐらいだった。特に驚きをみせないゾロは「ルフィはそういうやつだ」と言いながら自身も食事を始め、いつ海軍が襲ってくるかは分からないため他の者達も食事をとる。

食事を取りながら、錦えもん達は街の状況を説明していた。

街ではレベッカの父親がどこかの国の王子だった、という話しで持ちきりだったそうだ。
当時戦争中で、禁じられた恋に落ちて生まれたのがレベッカであり、しかし王子は戦争で亡くなり・・・残されたスカーレットとレベッカがこの国でひっそり暮らしていた・・・と。
しかしレベッカの父親は此処に居るキュロスだ。なぜそんな噂が流れたのか・・・。


「いやはや・・・で、レベッカ殿の父上がどこぞの王子だったと、そんな噂でもちきりだったでござる!」
「ばんだほれ!べんなはなしば!(なんだそれ!変な話しだ)」
「・・・・・・」
「ぞれにざぼいっびばっではなびいひ(それにサボ行っちまって悲しいし)」
「・・・・・・」
「ざんびだぢもはやぐほっはへなぎゃだ!(サンジ達も早く追っかけなきゃだ)」
ッ怒るのか泣くのか急ぐのか寝るのか食うのか1つずつやれ!!せわしねェな!!!
まだ回復しきってねェんだろー!食い意地張らずまだ寝てろ!!



ゾロとウソップの声に目が覚めたナマエはゆっくりと体を起こし、目の前で食事を取っている一味をボーッとした様子で見つめ、気づいたロビンが声をかける。


「おはよう、ナマエ。ゆっくり眠れた?」
『う、ん・・・』
「!」


食事を一旦中止したルフィの視線が、ナマエへと向けられる。
パアアッと明るい笑みを浮かべたルフィは手をナマエの肩に伸ばすとゴムの引力を使って飛びつき、そのまま勢いよくナマエを抱きしめた。
もちろん寝起きな上に突然だった為、受け止め切れなかったナマエはルフィに抱きしめられたまま後ろに倒れてしまった・・・が、幸いなことにベッドの上だったので床とぶつかる事はなかった。


「ナマエ無事でよがったああああああ」
『く、苦しいルフィ・・・っ』
「おいおいルフィ、ナマエもケガしてんだから」
「!?そうなのか!?どこだ!?どいつにやられたんだ!?ミンゴのやつか!?あの野郎・・・ッおれがぶっ飛ばしてやる・・・!」
「いやもうぶっ飛ばしただろうが!!お前ちょっと落ち着け!!」


鋭いツッコミをするウソップ。苦笑いを浮かべながらもナマエは目の前で自身の体を心配そうに見つめるルフィの頭を撫でた。いくつになっても弟は弟・・・普段、仲間には見せないルフィの姿に一同は笑みを深めるのだった。


姉と弟のなんとも微笑ましい光景に空気が和んだのも束の間・・・先ほどの話題に戻る。


「それにしても一体誰がそんな噂を・・・間違いないのか?錦えもん」
「しかと、この耳で聞いたでござる」
「それがしも確かに」
「・・・・・・その噂は、わたしが流したんだ」


キュロスの言葉により、その場にいた全員の動きが止まる。


「レベッカの出生を知る者は王族の一部と、それを調べたドンキホーテファミリーの一部だけだ。国中が知っているのは・・・母親の事だけ。私が父親だとバレる前に、噂を流した」
「どうして・・・?」
「・・・私には、前科がある。育ちも劣悪だ。本来王族と結ばれていい身分ではなかったのさ。だから・・・これでいいんだ」
「ッいいわけねェよ!!レベッカはそれ知ってんのかよ!?」
「・・・・・・手紙が渡っているはずだ。わたしの人生全てを正直に綴った。レベッカには長い間、苦しい思いをさせてしまった。これからは私のような人間とは縁を切って、明るい場所で楽しく暮らしてほしい」


それが父であるキュロスにとって、唯一の償いだった。・・・ルフィ達が旅立つ時、キュロスもこの国を出るつもりなのだ。


ナマエから離れたルフィは納得してなさそうに、しかめっ面で食事を再開した。


「レベッカはまだ子どもだ・・・一時の激情で、将来の幸せを逃してほしくない。リク王様にもご理解いただいた・・・!」
『・・・・・・本当に、それがレベッカの幸せなのかな』
「!」
『どんな前科があろうと・・・レベッカにとっては、あなたが唯一の家族・・・なんだよ』


――今、王宮にいるレベッカはどんな気持ちでその手紙を読んでいるのだろうか。真っ直ぐと見つめながら言うナマエの言葉にキュロスは俯いた。


『わたしは父親ロジャーと会った事も話した事も無い・・・鬼の血を引く子どもなんて呼ばれて辛い事も沢山あったけど、だからって自分が不幸って思ったことは一度も無いよ。・・・側に、守ってくれた人たちがいたから』
「!」
『レベッカも、そうだと思う。記憶が忘れてる間もずっと側で守ってくれた貴方を・・・』


た、た、た、大変だべ〜〜!!!!!!


――話している最中、突然バンッ!と扉が勢いよく開かれ、そこに立っていたのは・・・・・・バルトロメオであった。それと同時にキュロスの電伝虫も鳴りだし、一気に騒々しくなる。


「ゾロ先輩ぃいい〜〜!!!」
「ん?」
『?』
「!?ルフィ先輩にナマエ様ァ!お目覚めになられてんべェ・・・!おはようございますうう!!・・・ハッ!!!?!??」


ルフィ、ゾロ、ナマエ、ロビン、ウソップ、フランキー・・・と順番に目を向けていったバルトロメオは眩しそうに顔の前に腕をやると、大きな声で泣き始めた。


「ろ、6人も麦わらの一味が揃うと眩しすぎて見えねェべー!!まるで偉大さのレーザービームだべ・・・!!あああああもしいつか麦わらの一味のオールスターズに会ったときには溶けちまうべこれ・・・!!」
ッさっさと要件を言えよ!!
「!そうだべ!海軍のテントが騒がしくなってきた!!ぼちぼちここも危ねェべ!!大参謀つる中将と前元帥センゴクが到着したべ!!」

「「「「『!!!』」」」」



   



戻る
















×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -