EPISODE.28



全てを思い出したサボは、エースと白ひげの墓の前に立っていた。


「やっと・・・ここに来れたよ、エース」


エースの墓に花を添えたサボは持ってきた新聞をエースに見せるよう広げ、ルフィの活躍を話し始める。さすがはおれ達の弟だと、取り出した4つの盃に酒を注いだ。

――エースの墓に添えられた向日葵の花は昔からナマエが好きだといっていたもので、よくエースが街中で見つけてはナマエに渡していたのを思い出す。もしかしてナマエもここに来ていたのだろうか・・・サボは小さく笑みをこぼすと腰を上げ、電伝虫を繋げた。


「・・・革命軍全軍に頼んでほしい。必ず手に入れたい悪魔の実があるんだ」








それからサボはコリーダコロシアムでルフィ、ナマエと運命の再会を果たし、エースの形見であるメラメラの実を手に入れる事が出来た。
サボの話を聞きながら涙を流すフランキーは、幸せそうに笑うルフィとナマエを見てまたさらに大量の涙を流した。


「へっ、ルフィたち笑ってやがる」
「ふふ」
「どんな夢見てんだか」

「・・・じゃあ、帰る」
「!もう?」
「顔も見たしな。これ一応ルフィとナマエのビブルカード。作っておいた」
「へえー・・・いつの間に」
「欠片はもらってくよ」


ゾロに渡したルフィとナマエのビブルカードを破ったサボは気持ち良さそうに眠るナマエの頭を撫でた後、置いてあったシルクハットの帽子をかぶりロビンたちを振り返る。


「じゃ、ルフィとナマエには手を焼くだろうが・・・よろしく頼むよ」


――サボの台詞を聞いてゾロは昔、アラバスタで再会したエースとの会話を思い出していた。




"デキの悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ。お前らもこいつには手を焼くだろうが・・・よろしく頼むよ"




「へへっ、エースと似たようなこと言ってやがる」
『んん・・・っ』
「!」


サボが出ていったと同時、身を捩じらせたナマエの瞳がゆっくりと開けられる。


「あらナマエ、起きたのね」
『・・・ロビン・・?』
「いま丁度サボが出て行ってしまったわよ」
『サ、ボ・・・・?・・・え!?』


それまで半分寝ていたナマエはロビンの言葉を聞いて大きく目を見開かせ、飛び上がるようにベッドから降りると慌しく家を飛び出した。

――街灯も何もない丘を唯一照らしてくれる月の光・・・今宵は三日月だった。花畑に囲まれた道の中央にサボはいて、間に合ったと安堵したナマエは裸足だという事も忘れてサボに向かって走り出す。


『サボ!』
「!ナマエ・・・?」


振り返ったサボは飛び込んできたナマエに驚きながらも受け止めた。


「ってお前、裸足じゃないか」
『もう、行っちゃうの?』
「ああ。やらなきゃいけない事があってな」
『そ、っか・・・』


暫く会えないのだろうか。サボに話したいこと、聞きたいことが山ほどあり、歌も聞いてもらいたかったのだが。
しゅんと肩を落とすナマエを見て困ったように微笑んだサボは辺りを見回し、そして何か見つけると花畑の奥へと進んでいく。
一体どうしたのだろうか、首を傾げるナマエがその背中を見つめていると・・・暫くして背中に何かを隠して戻ってくる。
月明かりのなか、不思議そうに自分を見上げるナマエに笑みを深めたサボは背中に持っていた一本の向日葵の花を見せるとそのまま髪飾りのようにしてナマエの髪につけた。


『っ』
「ナマエにはやっぱりこれだな!」


笑いながらそう言うサボの姿が、昔のエースと重なる。





――知ってるかナマエ?この花は向日葵っていってな、太陽が無いと綺麗に咲かないらしいぞ。

――へえー!じゃあ・・・私と一緒だね!

――?なんでだ?

――だって私にとっての太陽はエースだから!エースがいるから、わたし頑張れるもん!

――!そっか・・・確かにそうだな!お前、おれがいなきゃすぐ泣くもんな。

――な、泣かないもん!!!





・・・7歳くらいの頃だろうか。あの時からエースは何かある度に向日葵の花を持って帰ってきてくれて、「ナマエにはやっぱりこの花だな」と、本当の太陽みたいに笑ってそう言ってくれたのを不意に思い出す。

――太陽の無い向日葵は綺麗には咲くことができずただ枯れていくのみ・・・しかしナマエはエースを失った今でも枯れる事無く、今も尚、咲き続けている。

それは他でもないサボやルフィ、そして周りにいる皆のおかげで、みんなから支えられてここまで来れたことが実感してきたのかじわりと視界が揺らぎ、涙を必死に堪えるように唇を噛み締めるナマエ。


『うう〜・・・さぼぉお・・・』
「な、泣くなって!おれだって出来ることなら離れたくねえんだから」
『うっ・・・うぅ・・・』


そうは言われてもただでさえ涙腺が弱いナマエの涙は止まることもなく・・・頬に流れる一筋の涙を人差し指で拭うサボ。


「何かあったらすぐに言えよ?駆けつけるから」
『う、ん・・・うん・・・っ』
「・・・ああ、それと」
『?っ・・・んっ』


頬に触れていた人差し指が下がっていき、くいっと顎を持ち上げられたと思いきや次の瞬間、サボの顔が視界いっぱいに広がり、唇に柔らかい感触が伝わる。

――キスされた、そう理解するのに少し時間が掛かった。驚きのあまり涙は一瞬で止まり、頬に熱が集まっていく。少し顔を離したサボは金魚のように口をパクパクさせるナマエを見て小さく笑うと額を合わせ、至近距離で見つめながら言う。


「おれ以外の男の前で、あんまり泣くんじゃないぞ?」
『っ〜〜〜・・・ル、ルフィ・・・も・・・・・?』
「だめ」
『お、弟だよ・・・?』
「あいつも一応男だしな」


なぜ泣いたら駄目なのか・・・というよりも好きで泣いてるわけではないのだがサボの言いたい事がイマイチ分からないナマエの頭上には?マークが沢山浮かんでいた。
そういう疎いところがまた愛らしく、サボは「この先思いやられるなァ」と自嘲気味に呟くと、いまだ考え込むナマエの唇に再び口付けを落とした。

潤んだ瞳に赤く染まった頬・・・こんな状態のナマエを他の男が見れば理性など簡単に崩れてしまうに違いない。かというサボもまた、自分の中で激しく葛藤しているのだから。
けれどそこはナマエを大切に想う気持ちでなんとか抑え、今は恋人になれただけでも幸せじゃないかと必死に自分に言い聞かせ、理性ギリギリのところで堪えていた。

そうとも知らずナマエは照れながらも幸せそうにはにかんで笑うとサボに抱きつき・・・これが無自覚だから尚更タチが悪い。
今すぐ押し倒したい衝動を抑えながら、サボはナマエにその気持ちがバレないよう誤魔化すように頭を撫でる。


「じゃあまたな、ナマエ」
『うんっ!』


離れがたいがこれ以上一緒にいれば自分自身何をしでかすか分からない。

サボは迎えに来た"鴉"に乗って夜空の中へと消えていくのだった・・・。



   



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