EPISODE.07
ギア4スネイクマンになったルフィとバレットの激闘が背後で繰り広げられるなか、ナマエはバレットを警戒しながらウソップの治癒に全力をかけていた。
「カハハハ!さすがは15億!骨があるじゃねェ・・・か!!」
「ぐァ・・・!!」
「どうした!それで終いか!」
「・・・ッああ!これで終わりかだァ!!」
「とっておきで来い麦わらァ!貴様の最強を見せてみろ!!」
渾身のルフィの攻撃とバレットの攻撃が、お互いの顔面をほぼ同時に打ち付ける。
鈍い音が響き渡り、ルフィは口から煙を吐くと後ろへと飛んでいき、バレットも地面に叩きつけられるようにして吹き飛んでいった。
――ギア4が強制解除されたルフィは覇気さえ使えない状態になり、立つ気力も無いのか顔だけをバレットのいる方向へ向けた。
もくもくと立ち込める土煙の中から・・・バレットが現れる。しかもルフィほどダメージを喰らっていないのか、圧倒的な強さを見せつけるように笑みさえ浮かべているではないか。
「効いたぜ、麦わら・・・強ェやつは嫌いじゃねェ。そいつをぶっ倒すのはもっと好きだ。貴様も、貴様の仲間も・・・この島ごと全員ツブす!おれの最強を証すためだ」
「ッ、最強なんて勝手にやってろ!これ以上、おれの仲間に手ェ出すな!」
「仲間・・・?だから貴様らはおれに勝てない。反吐がでるぜ・・・この海は戦場だ!」
突然、地面を殴りつけるバレット。
地割れが走り、港が崩壊していくなか・・・地面の下から巨大な潜水艦が姿を現した。
「このカタパルト号にはありとあらゆる武器が装備されている!・・・鎧合体!!」
地面にのめり込んだバレットの両手が青く光り始める。
青い光がカタパルト号を照らすと潜水艦が大きく変化し始め、バレットが能力者であることを知ったナマエは悔しそうに唇を噛み締めた。
ただでさえあの強さ・・・それに加え能力者だったなんて、バレットはまだ本気を出していなかったのだ。
「おれはガシャガシャの実の合体人間!あらゆるものを合体させ、変形することができる」
青い光がカタパルト号を包み込むと、船体が分解されて変形し、バレットの体に組み込まれ、それはやがて鉄の巨人となって姿を露わにした。
「弱ェやつはこの海では生きていけねェ!さっきの長っ鼻のようにな!これは忠告だ・・・使えねェ仲間は切り捨てろ、麦わら」
「・・・何言ってんだ、お前。そしたら・・・宴もできねェじゃねェか!!」
「救いがてェ馬鹿はてめェだ!貴様のいう仲間は弱さだ!あのバケモノだった白ひげのジジイですら、てめェの部下のために死んじまった!!!」
鉄の塊を内部から操るバレットは嘆き、声を張り上げるとルフィからナマエへと視線を移す。
「ロジャーの娘、貴様も見たんだろう?マリンフォードで、その目で、白ひげが死んで、やつの海賊団が崩れるところを!」
『っ』
「あれが家族ごっこの末路だ!哀れなもんだなァ・・・元はと言えばてめェの兄が下手を打ったせいじゃねェのか。そんな半端者を子分に・・・仲間にしたから白ひげは死んだ!!」
苛立つままに吼えるバレットの言葉にナマエは静かに俯いた。
――脳内を過ぎるのは最愛の兄エースの姿・・・怒りを通り越して黙り込んでしまったナマエの代わりに、ルフィが声を張り上げた。
「あの場にいなかったお前が・・・白ひげやエースのことを、あれこれ決めつけるな!!」
「フハハハ!!あァ、お前の義兄弟だったか?返す返すも口惜しい!もし今、おれの前に立っているのが貴様でなくロジャーの息子だったなら・・・兄妹諸共、血祭りになっていただろうに!!」
『!!!』
「ッ、ナマエ!逃げろ!!」
ルフィがそう叫んだその刹那――鉄の巨人がナマエに襲いかかる。
咄嗟にナマエはウソップの首根っこを掴むと自分から引き離すように、遠くへと投げ飛ばした。そしてウソップが投げ飛ばされるとほぼ同時――巨人の足が、ナマエを踏み潰す。
大きな地鳴りが辺りを襲い、目を見開かせたルフィは姿が見えなくなった姉の名を悲痛な声で叫んだ。
「ナマエー!!!!」
「フハハハ!!哀れだなァロジャーの娘!1人なら逃げ切れてたものを、てめェもまた仲間のせいで死ん・・・っ、?」
――ふと、足元に違和感を覚えるバレット。
巨人の足元に視線を向けてみれば、ナマエを踏み潰した足がほんの僅かな隙間だが地面から離れているではないか。
土煙が晴れ、目を凝らしてよく見てみると・・・なんとそこにはほぼ無傷のナマエの姿があり、ナマエは頭上にある巨人の足を片手で持ち上げ平然と立っていた。
無事な姿に安堵するルフィだったが、ナマエから伝わる覇気がいつもと違うことに気づき、妙な胸騒ぎを覚える。
「ナマエ・・・?」
『っ・・・家族ごっこなんかじゃ、ない・・・!』
エースは白ひげを本当の父のように慕い、そして仲間を家族と思ってその人生を捧げていた。
それまで自分の存在意義を探していたエースにとって、生きる幸せを・・・愛されるという実感を与えてくれたのは他でも無い白ひげ海賊団なのだ。その関係は決して"ごっこ"などではない――本物の家族の"絆"だ。
いつもの漆黒の瞳が黄金色に染まり、額に浮かぶ三日月模様も濃く光りはじめる。
ナマエは持ち上げていた足を更に押し上げ、巨人のバランスを崩させるとその一瞬で巨人の真上に移動し、キラキラと星のように輝く足で巨人の頭上から踵落としを決めた。
「が・・・!?ッな、にィ・・・!?」
ナマエの攻撃が、巨人の内部にいるバレットにも通用する。
驚いたのはルフィや、一部始終を見ていたキッドたちだけではない――バレットもだった。
それまで余裕の笑みを浮かべていたバレットは、ナマエから感じるただならぬ空気に思わず生唾を飲み込む・・・が、ニヤリと妖しげに笑った。
「なんだァ?暴走しててめェ自身コントロールが出来てねェじゃねェか」
『っ・・・』
着地したナマエの額から尋常ではないほどの汗が浮かばれる。
・・・バレットの言う通り、ナマエ自身何が起きているか分からず、ただ身体中から溢れ出る力の制御ができていない状態であった。
――やがてフッとナマエの瞳の色は元に戻り、体を包んでいた星の輝きも消え、ナマエは力尽きたようにその場へと倒れ込んでしまった。
「ナマエ!!!」
「フハハ!!!この海で死んだやつは皆、敗北者だ!それが仲間だ家族だ盃だ、ほざいてるやつらの限界だ!おれの強さは・・・おれ1人だけが勝ち残るためにある!!」
「ッ・・・そんなもんに、おれは負けねぇ!!」
逆鱗するルフィ。
バレットは、ルフィにとって触れてはならないものに触れた。
「ガハハハ・・・!ほざくなら長っ鼻がとられたこいつを奪い返してみろ。――死にゆく敗者の貴様らに教えてやる!この箱の中身は本物のロジャーの宝だ!この宝箱には・・・"ひとつなぎの大秘宝"が入っている!!!」
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