EPISODE.11
不吉なメロディが構成する禍々しい音楽を、ウタが全身全霊で歌い続ける。
ウタは意識があるのかないのか、光を宿していない瞳でトットムジカを歌い続けており、やがて現れた黒い渦がゆっくりと上昇しながら、次第に質量を増していく。
渦の中央に人の形を成した巨体――殺戮と破壊を繰り返す古の魔王、トットムジカが現れた。
渦は可愛いものに変えられた観客たちを巻き込み、空中へと投げ上げていく。
「ウタ!ウタ、もうやめて!」
「ウタ、聞こえてる?」
「この世界はなんか違うよ!」
観客たちが必死に呼びかけるが、その声はもうウタには届いていない。
目の前に現れたトットムジカを前にルフィは指をくわえ、大きく息を吹き込んだ。腕を大きく膨らませ、魔王にパンチを放つ。
「おおぉおぉぉーー!!!」
ルフィのギア3を、魔王が片手で受け止める。ルフィは続くように次々と攻撃を繰り返した。
「ウタァアァア!!!」
しかしどの攻撃も魔王には効かず、ウタは魔王に守られながらトットムジカを歌い続けていた。
――麦わらの一味は、ウタを直接攻撃しようと試みた。サンジやゾロが先陣を切り、渦に乗って上昇しながらウタのもとへ向かおうとするが、現れた音符の戦士に邪魔される。そう簡単には近づけないようだ。
「クソッ、やはりウタを同時攻撃しなければだめなのか・・・!」
「プリンセス・ウタ!みんなを救う歌声を、こんなことに使うんじゃねェッ!!」
ウソップが攻撃の合間を縫ってウタに近づくことができ、必死に呼びかけながらスリングショットを引きウタに向かってポップグリーンを放つ。
種は魔王にあたってさく裂したが、これも全く効いていないようだ。
驚く暇もなくウソップは魔王に弾き飛ばされ、地面の上に叩き落されそうになった――その時。ゆっくりと瞼を上げたナマエがウソップに手をかざし、淡い光に包まれたウソップがふわふわと宙を浮き、静かに地面へと降ろされる。
「た、助かったぜナマエ・・・」
にこりと微笑んだナマエは目の前の魔王を見上げると――ルフィへと視線を移した。
「ルフィ!!トットムジカはおれたちに任せろ!だから――・・・!」
「!」
「ウタちゃんを一人にさせんな」
「ケリィつけてこい」
ウソップを筆頭に麦わらの一味がルフィに発破をかける。ルフィは表情をきゅっと引き締めると気合いたっぷりに叫んで、両足をポンプのように震わせる。
身体から濛々と蒸気が上がり、その勢いのまま、物凄い勢いで突進した。
「おい、今なら聞こえるだろ!?ウタ!こんなの・・・・・・!」
「ルフィ先輩!」
言いかけたところで音符が真正面から飛んできて吹き飛ばされてしまうルフィ。更に追い打ちをかけるように音符は次々と飛んできてルフィを玩具のように弾き続け、連続で打撃を与えられているというのにルフィは無抵抗だった。
見ていられなくなったチョッパーとローが呼びかけるが、ルフィはウタに反撃しようとはせず、
「ウタ、聞けーー!!」
と、ひたすらに呼びかけ続けている。
「海賊と話すことなんか、ない!!」
しかしウタは怒りに任せてそう叫ぶと生み出した槍をルフィに向け、勢いよく投げた。鋭い槍の切っ先が、ルフィの身体を貫く――その瞬間、どこからともなく飛び出してきたゴードンが、ルフィを守るように立ちはだかった。
「おっさん!!」
『・・・!!』
その姿が一瞬、エースと重なったナマエは急いでゴードンのもとへと向かった。ゴードンはその場に膝をつき、口から血を溢れさせながら、息も絶え絶えに口を開く。
「ウタに・・・大切な友人を、これ以上傷つけさせるわけには・・・・・・いかない・・・」
「シャンクスを信じてるようなやつだよ?」
『っ、違う・・・!!』
「!」
駆け付けたナマエはゴードンの傷を手当てしながら、目に涙を浮かべてウタを見上げた。
『全部・・・っ、違うんだよ・・・!』
「・・・な、なにを知ってるっていうのよ・・・あなたが・・・」
「十二年前のあの夜、エレジアを滅ぼしたのは、赤紙海賊団じゃなく・・・トットムジカなんだ」
ウタの表情が困惑に揺らぐ。
ゴードンは項垂れ、ぽつりぽつりと、十二年前の真実について語り始めた。
――エレジアを破壊したのはシャンクスではないこと。すべての元凶は、トットムジカだということ。ゴードンの語る事実を知ったルフィは、ウタの方に歩み寄りながら手を伸ばした。
「ウタ!聞いたか、やっぱりシャンクスは・・・」
差し出されたルフィの手を掴み返すかのように、ウタが片手を伸ばした――次の瞬間。
音符がミサイルのように飛んできて、ルフィの腹部にのめりこんだ。
ドサッと地面に転がり、呼吸を荒くしながら身体を起こそうとするルフィは、ウタの左袖に入っているマークに目を留めた。頭でっかちな雪だるまのような不思議なマーク・・・ファンなら誰でも知っている、ウタのシンボルだ。
「それ――おれが描いたやつか?」
ルフィはそのシンボルに見覚えがあった。ウタと暮らしていた幼いころ、ルフィが描いた絵にそっくりだったのだ。
シャンクスの麦わら帽子をイメージしたそのマークは昔、ウタと約束をしたマークそのもので。
"おれたちの新時代のマークにしよう。それ、やるよ。持ってろ!"
――――ウタはルフィの落書きをずっと、自分のマークとして使っていたのだ。ファンたちを新時代に導く、歌姫ウタのシンボルとして。それはルフィとの記憶がずっと頭の片隅に残っていたからこそで、知られたくない心の底を見つけられたウタは怒りに燃えてルフィに殴りかかろうとする――が、その拳はナマエによって優しく受け止められた。
『もうやめて、ウタ。こんなのは自由じゃない。こんなのは、"新時代"じゃない・・・っ』
「っ・・・」
「ウタ――お前が誰よりも分かってんだろ!!」
ウタの頬を、涙が伝う。
「ル――――」
「『!!』」
ウタの声を遮るように、どす黒い音符が突然噴きあがり、ウタの身体を覆いつくした。そして、近くにいたルフィとナマエも巻き込まれ、二人は気を失うように倒れてしまった。
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