EPISODE.09



コビーたちが帰ってくるのを待っていたルフィ達の前に、空気開扉エアドアが現れ、ドアが開く。

メーヴェを持ったコビーに続いて、黒い小さな生き物が出てくる。・・・小さな体に短い手足と大きなツノが生えておりなんとも可愛らしいフォルムだ。


「なんとか逃げられたな」
「お前誰だべ!」


その可愛らしいものがウタの能力の被害に遭ったブルーノだと分かるとバルトロメオは腹を抱えて笑いだし、あからさま不機嫌そうに表情を変えるブルーノ。が、なにしろ小さくて可愛いので怒っていても迫力はない。


「これ、ナマエさんのですよね?逃げる際、ちょうど近くにあったのでお持ちしました」
『メーヴェ・・・!ありがとう、コビー!』
「コビー、ウタに会えたのか?」
「・・・・・・それが」


言葉を濁すコビーに、説得が無理だったことを察する一行。
コビーが待っている間、民家の外にはブリュレやオーブン、そしてクラゲ海賊団の面々が集まってきていた。ウタの五線譜から助け出した見返りとして、協力してもらうことになったのだ。
クラゲ海賊団たちは気合いたっぷりだが、オーブンはルフィ達を見てあからさまに顔を顰める。


「ちょっと待て、麦わらと手を組むとは聞いていない。死んでもごめんだ。・・・そうだな、そこにいるポートガス・D・ナマエを差し出すっていうんなら話は別だが」
「・・・何言ってんだ。ナマエを渡すわけないだろ」


オーブンの船長である四皇ビッグ・マムはそれはそれはナマエの能力を欲しがっていると聞く。
しかしルフィがそれを許すはずがなく、ナマエを守るように前に立ち強い眼差しでオーブンを睨みつける・・・と、オーブンは小さく鼻で笑うと「ウタを倒すのは勝手にやらせてもらう」とブリュレの持っていた鏡の中へと飛び込み、続くようにブリュレも鏡の中に入っていった。


「おれの仲間は?」
「まだ戻ってきてないべ」
「あいつらがウタの弱点を見つけてくれないと、勝負にならない」


ローが深刻な表情でいい、その言葉にブルーノも頷いた。ドアドアの能力も、この姿になった以上はあまり期待はできないからだ。

バルトロメオも浮かない表情を浮かべる中、ルフィと、その後ろにいるナマエだけはいつも通りだった。


『大丈夫』
「あいつらなら」


――絶対に見つけて、戻ってくる。

そんな2人の信じた言葉通り、暫くして――麦わらの一味が次々と近くにあった割れた鏡の中から姿を現した。・・・先ほど消えたばかりのオーブン、ブリュレも共に。

咄嗟に機転を効かせたナミが、ブリュレの弱味につけ込んで鏡の世界からルフィ達のいる場所まで移動させてもらったのだ。


「お前ら無事だったか!」
「ルフィー!ナマエー!」
「サニー!」


チョッパーとサニーが再会を喜んで飛び跳ね回る。お互いのタイミングが悪く2人はゴン!と頭をぶつけてしまい、その様子を遠くから見ていたゾロが不思議そうに「なんだ、こりゃ」とサニーを指差すので、ナマエは苦笑いをしながらウタの能力で姿を変えられたサニー号だと説明をした。

再会を喜ぶ麦わらの一味の様子を見ながら、オーブンは舌打ちを噛み殺したのはいうまでもない。


「ロビンさん、ウタを倒す方法は分かりましたか?」
「昔の記録によると、ウタウタの世界に取り込まれた者は、自分の力で確実に帰ることはできない・・・絶対に」


ロビンは古い本を開いてみせた。


「ただし、ウタウタの実の能力者がトットムジカを使えばチャンスは訪れる」
「トットムジカ?」
「古代から続く、人の思いの集合体。寂しさや辛さなど、心に落ちた影。"魔王"とも呼ばれる・・・」
「それは兵器なんですか?」
「触れてはならない者、としか読み取れなくて・・・」
「そのトットムジカとやらを、ウタウタの実の能力者が使ったとき、どんなチャンスが?」


――記録によると、トットムジカを使い呼び出された魔王は、このウタウタの実ひよるウタワールドだけじゃなく、現実の世界にもその姿を現すそうだ。
そのため、魔王を接点としてウタワールドと現実がつながってしまうらしい。

その時、魔王を二つの世界から同時に攻撃すれば、魔王を倒しウタワールドを消すことができる――ロビンの言葉に希望を感じたのか、ブリュレが「本当かい?」と詰め寄る。
しかし、成功したことがあるから記録として残されているのだろう。やってみる価値は十分にありそうだ。


「でも現実の世界じゃ誰がウタ様を攻撃するんだべ?」
「確かにおれたちは全員ウタウタの世界にいる。現実世界のウタを攻撃できるとしたら海軍かサイファーポールくらい・・・」


ーーそれが不可能であることに気づいたヘルメッポの表情が暗くなっていく。
その横にいたコビーが、無理です、と冷静に告げた。

一般市民を傷つける恐れがある以上、海軍は手を出さないのだ。


「せっかくの情報ですが、現実世界に誰かいなきゃ・・・」

「一人いる」


聞き慣れない声が、口を挟んだ。見るとゴードンが立っており、誰だと首を傾げるウソップ達にバルトロメオが簡単に説明をした。


「おい、一人いるってのは誰のことだ」
「・・・」
『シャンクス』
「!!」


俯くゴードンの代わりに答えたのは、ナマエであった。
四皇シャンクスの名前を聞いて、その場にいた誰もが息を呑む。ただしルフィだけが、いつもと変わらないテンションのまま「シャンクス?」と聞き返した。


「ああ・・・シャンクスが来れば、現実世界のウタを止めてくれるはずだ」
「おっさん。シャンクスとウタに、やっぱなんかあったのか?」
「・・・・・・それは・・・」


押し黙るゴードンに、やはりシャンクスとウタに何かあったのだと確信したルフィ。
それを見ていたナマエは何を思ったのか突然、コビーが持ってきてくれたメーヴェに乗り、ルフィ、と名を呼び手を差し出した。


「ナマエ・・・」
『行こう』


同じ血が通っていなくても、さすがは姉弟というべきか・・・目が合っただけで何か伝わったのだろう。ルフィは大きく頷くとナマエの手を握り返し、共にメーヴェに乗り込んだ。

足のペダルを踏むと同時にキラキラの実を解放させたメーヴェはナマエとルフィを乗せて高く舞い上がり、物凄いスピードでライブ会場へと向かっていく。


「あー!やばいべ!ウタ様のところへ行ったんだべ!まだ勝てねーのに!」
「止めたって無駄だ、うちの船長は」


狼狽えるバルトロメオだが、ウソップの言葉に麦わらの一味全員が頷いた。


「どっちみち時間がねーんだ。おれたちも行って。カタをつけちまおう」
「でもどうやって?」
「同時攻撃が必要っていうんなら。こっちはひたすら攻め続ければいい。現実世界で攻撃が始まり、こっちとタイミングが合うまでな」


さらっとすごいことを言うゾロ。不測の事態にも全く動じた様子を見せない麦わらの一味に、バルトロメオはすっかり圧倒され、そして感極まり涙を流したのは言うまでもない――。








――ウタに会うため、ライブ会場に飛び込んだルフィとナマエ。たくさんのライブグッズが空中を漂う中、ウタはステージの上にのんびりと寝転がっている。

――先ほどまでそこにいたはずの会場の観客達は皆、ウタの能力によって人形やら食べ物などに姿を変えられていて、本当にさっきまでのライブ会場なのかと疑うほど、周りはとても静かだった。


「・・・何しにきたの?何度戦っても私には勝てないよ」
「まだ決着はついてねェ」
「出た、負け惜しみィ!じゃあ、昔みたいに喧嘩で勝負するしかないねルフィ」


ウタがぱちんと指を鳴らすと、大量の音符が飛び出す。音符は戦士の姿へと変化して次々にルフィとナマエを襲い、槍を構えて向かってくる音符の戦士たちを、ルフィはゴムゴムのピストルで弾き飛ばした。

戦士達の姿がどんどん増えていくと、ゴムゴムの姿だけでは対応しきれない。ゴムゴムの銃乱打ガトリングに切り替えて応戦するルフィの背後に、たくさんの戦士たちが回り込んでくる。死角から放たれた槍は、ナマエの月の壁ムーン・ウォールによって防御する。

次々と攻撃を繰り広げるルフィだが、そこにいつもの勢いはない。・・・まるで、ウタを傷つけることを避け、自分の強さを見せることで戦いを回避しようとしているかのようだ。

ウタはすっと身を引いてルフィの攻撃をかわすと、全て分かっているのか「当てる気もないくせに」とつぶやく。

これは、ルフィと、ウタの戦いだ。ナマエはルフィの援護だけをし、ナマエから直接ウタに何かする様子はなかった。


「お前は間違ってる」
「それはルフィだよ」


ルフィがギア2セカンドの体勢をとると、ウタの力で水柱が噴き上がり、ルフィの身体が浮いて勢いを殺してしまう。


「いい加減、分かりなよ。大海賊時代はおしまいだって」



   



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