EPISODE.04



会場からはU・T・Aのコールが止まらない。それはまるで、海賊なんて要らないという意思表示のようで。


「オッケー!じゃあ、みんなのために私が海賊をやっつけちゃうね!」


ウタの言葉で演奏が始まる。人々の怒りを掻き立てるような、荒々しい伴奏・・・照明が落ち、カラフルなレーザーライトが明滅して客席を照らす。

パン、とウタが大きく手を打ち鳴らすと、観客達もそれに合わせて手拍子を始めた。リズムに乗って音符が現れ、集まり、鎧を纏った屈強な戦士の姿になっていく。


「いくらルフィの幼馴染みだからって、こりゃあ自由にしすぎじゃねェか」


抜刀して構えたゾロに、音符の戦士達が槍を構えて襲い掛かる。突き出された槍先が刀とぶつかり、高い金属音が響き渡る。
倒された戦士達は元の音符に戻り、空気に溶けるように消えていく。しかし一人、二人倒したところで戦士達はウタが手を叩けば次々と湧いて出てきた。

麦わらの一味は応戦しながらも焦りを覚える。倒せど倒せど音符はすぐにまた集まって再び戦士として復活し、襲いかかってくるのだから。


「これはキリがないのう」
「やっぱりこのエレジアは、トットムジカの島?」


麦わらの一味が音符の戦士達と戦う中、ルフィはマイペースに升席を出て海に浮かんでいたボートに乗る。
停泊中のサウザンド・サニー号に帰るためオールを漕いで海を進む。ふと、見上げると戦士たちがカラフルなライトを浴びて派手に飛び回っているのがルフィの視界に入り、まるで他人事のように「すっげぇなぁ」と目をキラキラさせている。


「ルフィ、あんたが海賊だって言うからいけないんだよ。私の友達なら、海賊は諦めて」
「・・・何言ってんだ、おめェ」


ルフィは戦闘態勢をとりかけた・・・が、すぐに思い直して、ふっと身体の力を抜いた。


「やっぱやめた。のらねェ。戦う理由がねェ」
「あんたがやらなくても、私はやるよ」


――冷たい歌声が会場に響き渡る。


<逆光>――人々を虐げる存在への怒り、そして屈せず戦っていく決意を歌った曲だ。
圧力のある激しいメロディを、ウタは息をつく間も無く早口で歌い上げる。

ウタが歌えば鼓舞されるように音符の戦士達はますます凶暴になり、陣形を組んで突っ込んでくる。

――音符の戦士を払いながら、ナマエはボートに積んだままだったメーヴェの元まで行くとキラキラの実を利用してメーヴェに乗る。いざという時に持ってきてよかった、と思いながら起動をさせた。

空高く飛んだメーヴェはナマエを乗せて、大きな音符に乗ってスケボーのように乗りこなすウタの前に立ちはだかった。


『もうやめて。こんな事、誰も望んでないよ』
「・・・・・・ナマエ、でしょう?」
『!う、うん』
「・・・昔、シャンクスと話してるのを岬で聞いたことがある。・・・そう。貴方だったのね」


ナマエの歌を聞いてから、己の無力感に打ちひしがられた。自分の声は、神様に与えられた贈り物だと、そう思い込んでいた・・・ナマエに出会うまでは。
それからは傲慢な考えは変わり、幼いながらに変わろうと日々努力し、歌に磨きをかけ、そして色々なことがあったが結果として今、世界一の歌姫"ウタ"になる事ができた。
いつか必ずお礼をしたい、そう願っていたというのに・・・まさかルフィの仲間となり、ウタが一番嫌う海賊になっていたなんて。

ウタの心情は真っ暗な渦に飲み込まれ、目の前に立ちはだかる顔もよく見えないナマエに苛立った様子で指差した。


「っ、なんで、海賊になったの!私と一緒に歌って、平和な世界を作ろう!?」
『!』


放たれた音符の戦士が一斉にナマエに襲い掛かる・・・が、ナマエはメーヴェを巧みに使い敵の攻撃を避けていく。


――麦わらの一味がいくら強くても、数には勝てない。そして戦えば戦うほど敵の数も増えていくのだ。まるで終わりの見えない戦いに麦わらの一味達が次第に疲弊してくると、ウタは五線譜を飛ばした。

五線譜は麦わらの一味がいる升席全体を覆い尽くし、そこにいた一味を絡め取ってゆっくりと宙に上がっていく。

仲間が捕まったのをみてルフィは音符の戦士たちを跳ね退けながらウタの方へ身を乗り出した。



「ウターーー!!」


大声で叫ぶが、歌にかき消されて届かない。必死なルフィを嘲笑うかのようにウタは人差し指を立てた。
指先から飛び出したレーザービームがルフィの身体を貫き、そこへ五線譜が絡みつきルフィの身体をぐるぐる巻きにしてステージの上まで運ぶ。

ルフィがステージに落ちたところで、曲は終わりを告げた。



――ウタが一曲を歌い終えるまでに、麦わらの一味は全員拘束されてしまった。たった、一人を除いて。


『ルフィ!』


メーヴェから飛び降りたナマエは、縛られているルフィと、ウタの間に降り立つ。
ーーその際、被っていたフードが外れてしまい、パステルピンクの長い絹糸のような髪が広がる。

それまで隠されていたナマエの素顔が露となり、さっきまで騒がしかった会場全体が一瞬で静まり返った。


「・・・"大海の歌姫セイレーン"?」


観客の誰かが、そう言った。麦わらの一味がいるということは少なからず予測はできていただろうが、恐らく誰もが信じてはいなかったのだろう。ナマエが、海賊になったということを。

ナマエは何も言わず、真っ直ぐと澄んだ瞳でウタを見つめる。


「"大海の歌姫セイレーン"・・・あ、なたが・・・?」


どうやらウタは、ナマエ=大海の歌姫セイレーンだという事実を知らなかったらしい。

皆が、口々に言っていた世界一の歌姫・・・ナマエはウタのように映像電伝虫で歌っていた訳ではないから、その歌がデータとして世に出ることはなく、実際にその歌声を聞いたことがなかったウタは世界一の歌姫と呼ばれた大海の歌姫セイレーンの実力がどんなものか、興味はあった・・・が、まさか幼き頃、たった一度歌を聞いただけで自身の人生を大きく変えた張本人のナマエだったなんて。

会場にいる者たちも、かつては大海の歌姫セイレーンの歌を聞いていた者たちばかり・・・中には、大海の歌姫セイレーンの歌を忘れることができず、寂しさを紛らわすためウタで補っている者もいるだろう。

突如姿を消してしまった世界一の歌姫に皆、困惑をし、そして絶望をした――そんな彼女が、今、ウタのステージに立っている。

最初こそ戸惑い、そして改めて見るナマエの美しさに一瞬は魅了されていた観客達だったが・・・彼らにとって裏切られたも同然のナマエの登場に、沸々と湧き上がる怒りには抗えなかった。


「っなんで今頃出てきたんだ!大海の歌姫セイレーン!」
「ウタのステージに立つなァ!!」
「ゴールド・ロジャーの娘・・・っお前達海賊のせいで、家族は殺されたんだァ!!」
「鬼の血を引く女ァー!」
「裏切り者ー!!!」
「信じてたのにぃー!!」


四方八方から罵声を浴びせられる。もちろん、言ってるのは観客達の極一部なのだが・・・あまりにも心無い発言が飛び交い、ナマエの背中しか見えないルフィの額から青筋が浮かび上がる。
――今までナマエの歌によって心救われた者たちは数知れない。この会場にいる者たちも――皆、そうだったはずだ。

しかしナマエが麦わらの一味に加わった事により、そしてナマエが大海賊時代を作ったゴールド・ロジャーの娘と知り、一部の人々は途端にナマエを見る目が変わった。


っ、うるせェ!!!何も知らないお前たちが、ナマエのこと好き勝手言うんじゃねェ!!

「そうよ!あんたらタダじゃおかないんだからねー!!」
「言わせておけば・・・!ナマエちゃんを悪く言うやつは許さねえ!表にでやがれ!」
「チッ、胸糞悪ィ・・・叩っ斬るぞ!」
「スーパー腹が立つ連中だァ!」
「ナマエが何したって言うんだよ!」
「ナマエさんを侮辱するなど私が許しませんよォ!」
「しかしこの状況じゃ・・・何も出来ないのが歯痒いのォ・・・!」
「いっそのことナマエの歌を聞いて全員脳みそが吹き飛べばいいのよ」
「いや怖ェこというなよロビン!!」


捕まっている麦わらの一味も大事な仲間が罵声を浴びせられて、黙っているわけがない。
ナマエは静かに息を吐くと伏せていた顔をゆっくりとした動作で上げ、安心させるようにルフィや麦わらの一味を振り返って言った。


『――大丈夫。大丈夫だよ』


凛とした、鈴を転がすような声は、会場にいる全員の耳に届き渡る。
世界中の人々が待っているのを知っていてナマエはエースを救出するべく自ら名声を捨ててきた。裏切り者と罵られても仕方のない・・・全てを覚悟してきている。

しかし大丈夫と言いながらもその表情は儚げで、笑みを浮かべたナマエは自身に野次を飛ばす観客達に、


『みんなごめんね』


と謝った。

たった一言、ナマエが謝るとそれまで罵声をあげていた観客達は静かになった。・・・否、それだけではない。叫んでいた者達を蔑むように、「大海の歌姫セイレーンは悪くない」と、他の観客達からナマエを擁護する声の方が増えてきているのだ。


――ナマエの言葉で一瞬で会場の空気が変わり、それを目の当たりにしたウタは乾笑いをした。


「みんな騙されちゃダメだよ!かつては世界一の歌姫と謳われていた彼女も・・・結局、海賊に成り下がったんだから!!」



   



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