EPISODE.02



新時代を歌い終えたウタは、観客たちに向かって笑顔で呼びかけた。


「みんな、やっと会えたね!ウタだよ!」


会場が歓声に包み込まれる。サンジ、ウソップ、チョッパーも一緒になって盛り上がり、再度会場を見渡したウタは目元を拭いながら「ゴメン、ちょっと感動しちゃった」と唇を結んで表情を引き締める。

この会場に集ったファンたちへの静かな決意が滲んでおり、観客席からはウタを応援する声が飛び交う。


U・T・Aと声を揃え、みんなが熱狂する中――ルフィだけがぽかんとした表情をしていた。
首を伸ばし、まじまじとウタを見つめたかと思うとルフィは何かを思い出したように勢いをつけて腕を伸ばし、天井に設置された照明を掴んでステージに飛び移った。


「お、おいルフィ!」


突然ステージに現れたルフィにウタは目を丸くし、そして観客はざわめきだす。ウタのステージから降りろ、と野次が飛び交いだしてもルフィは気を留める様子もなく、目の前にいるウタを上から下までジッと見つめ・・・そして満面の笑みを浮かべる。



「やっぱりそうだ。ウタ!お前、あのウタだろ?」
「え?」
「おれだよ!おれ!」
「おれ?・・・・・・・・・!もしかして、ルフィ!?」
「久しぶりだな!ウタ!」
「ルフィーー!!」


ルフィだと分かった途端、ウタの表情はたちまち笑顔に変わり、両腕を広げてルフィに抱きついた。

――その瞬間、会場から悲鳴に近い声が響き渡った。
まさかあのウタと知り合いだったなんて、とチョッパーやウソップ達は目をひん剥き、サンジに至っては先を越されたと涙を流している。

ルフィとウタはしばらく抱き合ってから顔を見合わせて幼い子どものように笑い合う。


「おい、あの麦わら帽子・・・」
「まさか、五番目の皇帝?」


変に目立ってしまったせいで、観客たちがルフィの存在に気づき始める。
驚いているのは、観客たちだけではない。麦わらの一味も同じだ。まさか自分の船の船長が世界の歌姫と知り合いだとは思わない。もちろん、ナマエが姉と聞いた時も衝撃だったが。

驚いた様子のロビンに「ナマエ、もしかして貴方とも知り合いなの?」と聞かれるが、ナマエは知らないと首を左右に振る。


「てめェ!だったら紹介しやがれ!」
「なんでウタと知り合いなんだー!?」

「だってこいつ、シャンクスの娘だもん」


あっけらかんというルフィの発言に、会場が瞬く間に静まり返る。
シャンクスといえば四皇の一人で、赤髪海賊団の大頭。その名を知らぬ者はいない大物の海賊の娘が、まさかウタだったなんて。


「「「えええええーーー!!!???」」」


麦わらの一味含めた観客たちも度肝を抜かれたように声を荒げた。

一方のナマエは、驚きはあったものの、幼き頃、エース達に内緒でシャンクスと会っていた時に「お前と同じ年頃の娘がいるんだ」と聞いていたのを思い出し、その子がウタなのかと妙に納得していた。


「あら?でもシャンクスって確か、」
「このエレジアを襲った極悪人だ」


観客の中には子供もたくさんいる。
子供たちはウタがシャンクスの娘だと知って不安げに涙を浮かべており、ロビンは不穏な空気に包まれた会場を見て目を鋭くさせる。


「会場がエレジアと聞いたときはどうしようと思ったけど・・・」
「あの伝説のことですか?」
「ええ。念のために調べておいたの」
『伝説・・・?ロビン、ブルック、それってどういう――!』


ライブどころではなくなり、会場のざわめきがなかなか収まらないその時・・・突然、ステージに謎の男たちが姿を現した。
ウタの知名度に目をつけ悪事を企んでいるエボシ、ハナガサ、カギノテの三人が率いるクラゲ海賊団だ。


「四皇シャンクスにまさかの娘がいたのか?」
「なんだ、お前ら?」
「それが本当なら、お前はシャンクスの最大の弱点になる」
「身柄を他の有力海賊に渡せばいい金になるなぁ・・・ってことで、本当に残念だがライブは中止だ」


カギノテが怪しげに口角を持ち上げながらそう言い、ウタに向かって手を伸ばしたーー次の瞬間。


熱風拳ヒートデナツシ!」


猛烈な熱風が吹き荒れ、カギノテたちを吹き飛ばす。
なんと攻撃を仕掛けたのはーービッグ・マム海賊団の一員、オーブンであった。オーブンは大きな鏡を取り出し、鏡の中からしゃっくりのような笑い声をあげながら鷲鼻の痩せた女性が姿を現す。同じくビッグ・マム海賊団の一員、ブリュレだ。


「その子はアタシたちの獲物だよ」
「お前は・・・枝!」
「ブリュレだよ!!」


枯れ枝のように痩せているが、何度か顔を合わせているというのにいまだ名前を覚えられていないブリュレは苛立った様子ですかさずツッコミをいれる。

どうやら二人は偵察としてこのライブに来ていたらしく、驚愕の事実に「ママの手土産にさせていただくよ!」と笑いながらブリュレが鏡をひっくり返す。
すると鏡の中からわらわらと手下が飛び出してきて、どうやらブリュレたちもクラゲ海賊団と同じようにウタを誘拐する算段でいるらしい。

次々に海賊が登場する急展開に、観客たちは呆気に取られる。


「おいおい、ウタちゃんを狙うなんてクソどもはおれが相手してやる」


言いながら、サンジがステージに飛び移る。すかさず殴りかかってきたハナガサの攻撃を身軽にかわし、反撃の蹴りを入れるとハナガサは観客席まで吹き飛んでいく。


「素晴らしいステージを汚す不届き者を放ってはおけませんね」
「ようやく面白くなってきやがった」


ブルック、ゾロもステージへ飛び移り、戦闘を繰り広げる。
その様子を見下ろしていたナマエが『私も』と手すりに足をかけた瞬間、「なーにやってんの!」と物凄い勢いで首根っこを掴まれ後ろに引っ張られる。
顔だけ後ろにむけてみれば自分を掴んでるのはナミで、鬼のような形相で「ビッグ・マムの一味もいんのにあんたの存在がバレたらもっと面倒なんだからここで大人しくしてなさい!」と息をつく間も無く言われてしまった。そもそも麦わらの一味になったと世界的に報道されてるのだから、隠れる意味があるのかさえ分からないが・・・目の前にいるナミを前にしてそんな事も言えず、渋々頷くしかない。
ナミに言われたようにナマエはなるべく目立たないよう、フードを抑える。

ステージの上はたちまち乱闘状態に陥り、ナミ、チョッパー、フランキーも加勢に入るべくステージに移り、状況を判断したジンベエ、ロビン、ウソップはナマエの側を離れず援護態勢を取る。


「はーい、そこまで!!」


各々が戦う中、ウタの明るい声が会場に響き渡る。


「ルフィとみんな!守ってくれてありがとう!でも、喧嘩はもうおしまい!」
「喧嘩?」
「みんな私のファンなんだから、仲良くライブを楽しんで!」
「いやでもこいつらウタを連れ去ろうとしているんだぞ?」
「それに、話してわかる相手じゃねェ」
「おれたちはほしいものがあったら戦って奪う!海賊だからな!」

「じゃあ、海賊やめちゃおう!今までやった悪いことは、私が許してあげる!」


そう言うとウタは観客たちに向かって大きく両手を広げて叫ぶ。


「ねえ、他のみんなも悪い海賊なんておしまいにして、私と一緒に楽しいこといっぱいの世界で過ごそう?私の歌があれば、みんなが平和で幸せになれる!」
「ふん!この世に平和なんてものはない」
「バカなことを言うガキは、顔を引き裂いてやろうか?」


ブリュレの爪先がウタの喉元に当てられ、すかさずルフィが助けに入ろうとする・・・が、ウタはあのビッグ・マム海賊団の一味を目の前にしても怯える様子もなく、笑顔で「大丈夫!」とルフィに笑顔を向けた。


「みんな、私の歌を楽しみに来たんじゃないの?」
「おれたちゃ海賊だ。歌なんかより大事なもんがあるんだよ」


エボシが低い声で言う。彼らにとって海賊をやめて楽しい世界で暮らそうなどという提案は、甘ったるい世迷言に過ぎない。奪う側にいるのが楽しくて海賊をやっているのだ、"みんなで平和に"なんて求めていない。

ウタを嘲笑う海賊たちの振る舞いに、観客たちは眉を顰めた。
せっかくのライブを中断され、希望であるウタの気持ちを踏み躙られ・・・いくら相手が海賊だからといって、怒りを隠しきれていない。

そんな観客たちの気持ちを汲み取ったのか、ウタは長いまつ毛を伏せ、視線を落とす。


「・・・・・・残念。なら歌にしてあげる」
「は?」


ウタはにっこり笑みを浮かべると、自信に満ちた表情で歌い始めた。

<私は最強>――聴く者の気分を盛り上げる、晴れやかでパワフルな曲だ。
ウタの意思を汲み取ったアニマルバンド達が演奏するハイテンションな曲調に呼応するかのように、ウタの身体が光に包まれる。
着ていたワンピースが、銅鉄の鎧へと変化していき、舌打ちをしたエボシは持っていた剣でウタに切りかかった・・・が、どこからともなく無数の音符が集まり、それは盾となってエボシの刃を弾き返す。

何度切りつけても同じように弾き返され、エボシはウタに傷ひとつつけることもできず・・・手のひらをかざしたウタの手の中に、また音符が現れる。無数に集まった音符は一本の長い槍へと変化していき、ウタがその槍を高く掲げれば槍の先から楽譜に使われる五線譜が現れ、空に浮かび上がる。
五線譜のうちの一本が海賊達を閉じ込め、しゅるしゅると巻き付いていく。


――線と線の間には海賊達が張り付いており、まるで粘着シートにかかったネズミのようだ。

海賊達がもがいても五線譜は海賊達を押さえ込んだままビクともせず、焦る海賊達とは対照的にウタは微笑を浮かべ、軽やかに歌い続ける。


熱風拳ヒートデナツシ!」


オーブンがウタに熱風を打ち込み、ルフィが応戦しようと身構えるーーが、オーブン渾身の攻撃すら音符にたやすく弾き飛ばされてしまう。
音符はシュルシュルと長く伸びて一本の線となり、オーブンを巻き取って上空に浮き上がるとパン!と弾けた。

先ほどのクラゲ海賊団達と同様、オーブンも宙に浮いた五線譜に磔にされていた。慌ててブリュレが鏡の中に飛び込もうとするも、人差し指を向けたウタの指先から伸びた五線譜がブリュレを絡めとり、オーブンと同じように磔にされる。

ビッグ・マム海賊団の二人をあっという間に動けなくしてしまったウタに、ルフィが驚いたように目を見開かせた。


「すげェ強くなったな、ウタ!」


歌いながら、ウタは嬉しそうに微笑んで右腕を挙げる。
会場内の海水が天高く噴き上がり、しぶきが陽光を反射してきらめく。高波が起き、海に浮かんでいたクラゲ海賊団の小舟はたちまち押し流されていった。

さらに、エボシ達が捕まっている五線譜と、オーブンたちが捕まった五線譜が結合して、一つの譜面を形成した。
<私は最強>の譜面だ。


「みんなー!悪い海賊は、楽しい歌になってもらったよ!これで平和になったから安心してね!」





   



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