EPISODE.14



ローの能力によって、戦っていた者達は運河の入り江に瞬間移動していた。
ナマエはそれまで隣にいたはずのサボがいないことに気づくと寂しそうに眉をハの字にさせた・・・が、ぶんぶんと勢いよく首を左右に振った。・・・なにもこれが今生の別れではない。彼は彼でやる仕事があるのだろうと、無理矢理自分に言い聞かせた。


沿岸に停めてあったサニー号の船べりから、ルフィたちを呼ぶ声が聞こえてくる。――ナミたちだ。そこにはチョッパー、ブルック、そしてウソップたちの姿もあった。
ルフィたちは急いでサニー号へと乗り、他の者達もそれぞれの船へと戻っていく。


「ロビンが盗ってきてくれた海図のおかげで、逃げるルートは決まったけど・・・」



海図を眺めながらそう呟くナミの表情がだんだん曇っていく。島から最速で離れる海流は分かったのだが・・・問題は、その道にある軍艦だ。
水平線を覆いつくすのはバスターコールによって召集された沢山の軍艦・・・サニー号に続くようにしてロー、ハンコックなど他の生き残った海賊船も運河の出口から突出した。

しかしそれを待っていたといわんばかりに一斉に砲撃が襲い掛かる。


「なんて数だ!袋のネズミか・・・!」


舵を握るフランキーが唇を噛み締めたその時・・・背後から続々とサニー号を追い抜く海賊船が現れる。――キッド、アプー、ドレーク、ボニー、ホーキンス、ベッジ・・・最悪の世代の海賊船であった。
やられっぱなしでたまるかと、それぞれの船長が思いを馳せるなか、ルフィは同じ世代に口角を持ち上げると両手を高く掲げ、叫んだ。


「行くぜ・・・サニー!!!」




*




――・・・一方、ナマエたちと別れたサボはブエナ・フェスタを倒した後、海賊船に偽装した革命軍の工作船に乗り込んでいた。
そこにはコアラが保護していたアンの姿もあり、サボはアンに近づく。


「なァあんた、ナマエと知り合いだったのか?」
「知り合いといいますか・・・ナマエ姉さんは、わたしの救世主なんです!」
「救世主・・・?」
「はい!わたしの夢は、世界一の歌姫になることだったんです。けど周りのみんなは大海の歌姫セイレーン・・・ナマエ姉さんの歌を聞きたい人が多くて、わたしの歌なんてだれも聞いてくれなくて・・・人生に行き詰まってたわたしを救ってくれたのが、ナマエ姉さんなんです」






「・・・ッ・・・いくら歌っても大海の歌姫セイレーンに敵うわけない・・・あなたのせいで、わたしの人気が出ないのよ!あなたのせいよ!!」


たまたま同じバーで出会った時、アンは初対面のナマエに対して八つ当たりに近い感情をぶつけていた。

・・・しかし本当はアン自身も分かっているのだ。ナマエの歌を聞いたとき、まるで雷に打たれたかのようなそんな衝撃を受け、なぜナマエが世界一の歌姫と呼ばれているのか身を持って経験したのだから。

けれど一度吐き出してしまえばもう後戻りはできず・・・肩で息をしながら、それまでの鬱憤を叫んだアンに対し、ナマエは怒るわけでも、悲しむわけでも、ましてや馬鹿にするわけでもなく・・・ただ不思議そうに首を傾げて言った。


『・・・・・わたしは、あなたの歌が心に響いたよ?』
「!な、慰めなんか要らない!」
『ううん、本当。だって・・・あなたの歌、わたしを想って歌ってくれてるよね?』
「・・・!!」
『歌にはその人の気持ちが現れる。あなたの歌は・・・お客さんじゃなくて、わたしにしか気持ちが向いてない。だからきっと、お客さんの心に響かないんだと思う』




――あなたは、誰のために歌ってるの?










「それからわたし、お客さんのために歌うようになったんです。そしたらナマエ姉さんほどじゃないけどそれなりに人気になって・・・いま思うと、恥ずかしい話なんですけど」
「・・・・・・そうか」


ナマエらしい、とフッと笑みをこぼしたサボは、「そうだ」と何か思い出したように懐から1枚の写真を取り出し、アンに見せた。


「あんた・・・こいつ出せるか?」





*



前方からも、そして右や左からも軍艦が迫ってくる。
舵をとるフランキーはナミの誘導のもと、サニー号を操るがこのままでは塞がれてしまうのが目に見えていた。

・・・そしてさらに追い討ちをかけるように、前方の軍艦から強い覇気を感じ、ナマエの目つきが変わる。


『あれは・・・』


――大将、黄猿ことボルサリーノの姿がナマエの視界に映る。
母艦から飛び上がったボルサリーノは光となって海賊たちに向かってきて・・・このままだと海賊船全てが轟沈してしまう勢いだ。

向かってくるボルサリーノに応戦しようとナマエがキラキラの実を全力で解放しようとした――その刹那。


「「火拳!!!!」」


声と同時に、海上に炎の壁がせり上がった。その炎によって海軍の勢いは遮られ、母艦に戻ったボルサリーノも炎の正体が分からず、ほんのわずか様子を見て間を置く。・・・そんな時、甲板に伝令将校が走ってきた。


「スモーカー中将より入電!!海賊ダグラス・バレットは討伐!海賊王の宝は麦わらのルフィによって破壊され消失!上陸部隊はいまだ撤退中!バスターコールを即刻中止せよ、とのことです!繰り返す、バスターコールを即刻中止せよ!!」










――炎上網。


まさに火の道というのだろうか。
サニー号の目前には炎の壁に守られた海の道があり、咄嗟にルフィは後ろを振り返った。


「!おいナマエ!」
『?』
「あれ!!」


ルフィの視線を追うように島の沿岸部を見てみるとそこには――火拳を放ったサボと、そして・・・・・・サボと背中合わせに立つようにして身構える、いまは亡き最愛の兄・・・ポートガス・D・エースの姿があった。

同じ船の上にはアンの姿もあり、アンはエースの手配書を持ってこちらに手を振っている。・・・エースは、アンの出した"ビジョン"だったのだ。


「・・・あは」
『っ・・・』


ルフィは笑い、ナマエも目に涙を溜めながらも笑った。

例えそれが幻であったとしても――サボとエースが一緒に戦っているように見え、二度と見れないと思っていた光景にナマエの瞳から一筋の涙がこぼれてしまった。






――この海を、ひとりで生きていけるやつなんて、いるわけがない。






「・・・またな、ナマエ。ルフィ」





エースの幻影は瞬く間に消えていき、それを見届けたサボは人差し指で帽子のつばを上げると、ニッと笑って弟と妹の出航を見送る。


「いまだ!!!おまえら、行っけぇぇええ!!!」


麦わら海賊団は声をあげ、サニー号を先頭に海賊たちは炎が敷いたレールに沿って海を駆け抜けた。













――助けてもらえるから、守れるんだ。













   



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