EPISODE.10
「てめェの相手をしてる場合じゃねェんだよ革命軍!」
「おれとお前の能力じゃ勝負はつかねェよ」
スモーカーの海楼石で出来た十手と、サボの鉄パイプがぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
離れた場所でその戦いを不安そうに見ていたナマエは、不意に背後から迫り来る声に咄嗟に振り返った。
「そ、そこどけェエエエ!!!」
『っ』
「!ナマエ!」
スモーカーの十手をなぎ払ったサボは目にも留まらぬ早さでナマエと、向かってくる"何か"の間に立つと・・・片手でナマエを庇いながら、激突する寸前にそれを足で止めてみせた。
一体何なのか・・・見てみれば、バギーであった。
「案内ご苦労・・・そなたらルフィの居所を知らぬか?」
サボの足により墜落したバギーの後ろには大蛇に乗った女性・・・海賊女帝のボア・ハンコックの姿もあり、どういう経緯かは知らないがバラバラの実の能力者であるバギーの足だけをもって、空からルフィを捜させていたらしい。
――その時、誰もいなかったはずのスモーカーの背後にも誰かが現れる。目つきを鋭くさせたスモーカーは十手を即座に振り向ける・・・が、相手は冷静にそれを大太刀で受け止めてみせた。・・・ローであった。
『トラファルガー!』
「っ、てめェ・・・元も含めて七武海が雁首そろえて、何しに来やがった!」
「熱くなるな。おれはバレットにひと泡吹かしてやろうってだけだ」
「おれはこの祭りの黒幕に用がある」
ローに続くように、そう告げたのは他でもないサボだ。革命軍の元々の狙いはブエナ・フェスタなのだろう。
「おいおい・・・何油売ってんだこの素っ頓狂ども!すぐら逃げねェと殺され・・・ふぎゃあ!」
「そなたら、一体何の話をしておる!!わらわはルフィがどこにいるかと聞いておる!!」
『ルフィは、あっちの方角にいるよ』
「なに!?」
バギーを踏みつけ上から目線で質すハンコックに、ナマエが先ほど感じた覇気の方角を指差しながらそう伝えればハンコックは目を光らせてナマエの目の前までやってきた。
ジロジロと上から下まで、まるで品定めをしているようなその視線に、他の者なら逃げ出したくなるのであろうが・・・ナマエは違った。
間近で見るハンコックの美しさに、「綺麗な人」と目を輝かせていたのだ。
ナマエもまたハンコックに勝るとも劣らないほどの美しさを兼ね備えているのだが・・・超がつくほどの鈍感であるナマエが、それに気づくわけがない。
絶対の自信と誇りを持っていたハンコックだったが、突如目の前に現れた、謎の美女・・・ナマエを見るなり、珍しく動揺していた。
・・・もちろん、自分が世界で一番美しいと自負しているが。
「・・・そ、そなた、ルフィのなんじゃ?まさかとは思うが、ルフィを好いておるなどとぬかすまいな?」
『あ、えっと・・・そのルフィの姉の、ナマエです』
「!姉・・・じゃと・・・?」
それまで顔を強張らせていたハンコックの表情が、徐々に和らいでいく。
マリンフォードの時、何度もハンコックがルフィを助けてくれたことを覚えていたナマエは「弟がお世話になってます」と、笑顔で礼を言った。
すると態度を豹変させたハンコックは頬を赤らめながらナマエの手を握り、
「ルフィの姉・・・つまり将来的にはわらわの姉になるというわけじゃな!うむ、ならばわらわの"次"に美しくて当然じゃ!」
と訳の分からないことを言い始め、何が何だか分からずナマエは首を傾げるのだった・・・。
それまで緊迫していた空気がすっかり変わってしまい、痺れを切らしたスモーカーが近くにあった鉄骨を殴りつけた。早くしなければ、バスターコールが開始してしまう・・・その前になんとしてでもバレットを倒さなければならないのだ。
「なるほど時間がねェ、か・・・そしてこの場にいる唯一の戦力は全員バラバラ・・・」
「あァ!?」
「まぁ、聞け白猟屋・・・おまえら死にたくねェなら聞け。やつを・・・バレットをあの巨体からひきずりだす策が、おれにある」
「ッハデバカ野郎!!死にたくねェから逃げるんだろ!アホかおま・・・ッほわァあああ!!」
怒鳴り散らしたバギーが、突然、力が抜けたようにその場に倒れていく。
みればスモーカーが持っていた十手でバギーを突いていたのだ。
「話せ」
「チャンスは一度だ。失敗したら命はねェ・・・だが、他に手は無ェ」
「海賊の策に命張れってのか・・・!!」
「――うおおおおおおおおおお!!!」
その時、一同の頭上を何かが過ぎっていく。
覇気を纏った黒い塊・・・それが何か、すぐに分かったナマエとハンコックから笑みがこぼれた。
「『ルフィ!!!』」
覇気が戻ったルフィは弾む男となって、巨大な究極バレットの背後に迫っていく。ゴムの足を蛇腹上にたたんで目には見えないほどの速さで縮めては伸ばし、断続的に空気を蹴り出し推進する・・・空を弾んでいるのだ。
「ゴムゴムの猿王銃!!」
・・・しかし二人の大きさは桁違いだ。ただ大きいならマシだが、究極バレットは強力な覇気を纏わせている。
ルフィの渾身の攻撃もバレットの前では歯が立たず・・・呆気なく弾き返され、ナマエ達の目の前に吹き飛ばされてきた。
『ル、ルフィ!』
「ッてめェは・・・いったい何してんだ!」
「あははは、ルフィ」
愉快そうに、呑気に笑うサボ。すかさずハンコックは元の姿に戻っていたルフィに駆け寄り、声をかけた。
「ルフィ!会いたかったぞ、ケガはしておらぬか」
「あ、ハンコック!久しぶりだな元気だったか」
「!!!!じ、自分の体より、わらわの心配を・・・!?」
沢山のハートを散らばせながら、ハンコックはよろめき、そして幸せそうにその場に座り込んだ。
「あ、トラ男!良かった無事だったか」
「・・・麦わら屋。あのバケモノから、バレットの本体を引きずりだす策がある。ただし、」
「ほんとか!?よし、やろう!」
最後まで聞かず、立ち上がりながら賛成するルフィ。その姿に思わず、サボだけでなくナマエからも笑みがこぼれた。後先考えない無鉄砲な弟に振り回されるロー達を見て笑っていると、その声に気づいたルフィがパアッと明るい笑顔を浮かべながらナマエに腕を伸ばし、抱きついた。
「ナマエ!!!ケガは大丈夫か!?」
『うんっ。サボが、助けてくれたから』
「え!?サボ!?」
「よっ」
義兄の登場にルフィの笑みがさらに深まる。
「ケムリンもいたんだな!・・・よし、やろう!」
「!麦わら屋・・・失敗したら死ぬかもしれねェんだぞ!」
「心配ねェよ。ここにいるやつらでやるんだろ?なら大丈夫じゃねェか」
ロー、スモーカー、サボ、ナマエ、ハンコック、その場に居る全員の視線が、ルフィへと集まる。・・・ちなみに、バギーは先ほどルフィが吹き飛んできた衝撃で気を失っており、誰も気にする者などいなかった。
ルフィの言葉はまるで魔法のようで、それまでバラバラだった全員の心をいつの間にか1つにしていた。
海賊、海兵、王下七武海に革命軍・・・一気に集結したそのメンバーの想いは――ただ1つ。
「細かい事はトラ男に任せる。おれは・・・とにかくあいつに勝ちてェ」
『うん!』
「ははっ」
「上等だ」
「ルフィ・・・わらわは、どこまでもついていきますぞ」
「迷ってる時間はねェ、か・・・」
――ダグラス・バレットを倒す。最終決戦の幕が今、開かれる。
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