EPISODE.09



腕の中にいるボロボロの姿になったナマエを見て、遅くなって悪い、と謝るサボ。
首を左右に振ったナマエは、それよりもなぜサボがここにいるのかと、そう問おうとした矢先・・・遠くにいたアンが半泣きで走ってきたのでタイミングを逃した。


「ナマエ姉さぁあん!無事でよかったぁああ」
『ご、ごめんね心配かけて』
「おいあんた、ここにいたら巻き込まれる。この先におれの仲間がいるから、そいつらの所に逃げろ。そこなら一先ず安心だ」
「え・・・で、でも」


ちらり、ナマエに視線を向けるアン。ナマエは心配かけぬように「わたしは大丈夫だよ」と笑顔を見せ、最初こそ躊躇ったアンだったが自分がここにいても邪魔になるのは目に見えていたため、ナマエの手をぎゅっと握ると「待ってますからねナマエ姉さん!」と、強い眼差しで言った。その言葉に頷けばアンは笑みを浮かべ、踵を返すとサボの言った方角へと走って行った。

アンの背中を見届けたナマエは、体中の痛みに堪えながらサボに視線を移す。


『サ、ボ』
「ん?」
『わたしは、大丈夫だから・・・ルフィと、ウソップが・・・瀕死の、状態で・・・』


助けて欲しいの、そう弱々しく懇願するナマエもサボからしてみれば充分に瀕死の状態なのだが。自分よりも他人を優先しがちなナマエの悪いクセに困ったように笑ったサボは今にも泣きそうな恋人を見下ろしながら、「あいつらなら大丈夫だ」と確信して言った。
どうして言い切れるのか、首を傾げるナマエにサボは見聞色の覇気で探してみろとアドバイスをくれ、動揺しながらも静かに瞳を閉じたナマエは島全体の覇気を探った。

――数多くの気を隈無く探していると・・・暫くして探していたルフィとウソップの気を見つけることができた。2人の覇気は弱りきっているものの・・・少しずつではあるが、回復に向かっている様子。2人の側には少し変わった、特殊な覇気もあって・・・それには身に覚えがあり、チョッパーとブルックのものであった。チョッパーが、ルフィとウソップの手当てをしてくれたのだろう。

2人が無事なことが分かり安堵した瞬間・・・視界がぼんやり歪む。


『っ・・・よか・・・』


血だらけのルフィとウソップを見たときは、生きた心地がしなかった。不謹慎ではあるがエースの死んだときと映像が重なってしまい、どうしてもあらぬ方向に考えが過ってしまうのだ。


『うぅっ・・・怖かっ、た・・・よお・・・』


生きていて、良かった。

折れていない方の手をサボの首に伸ばし、ぎゅっと抱きしめるナマエの体は恐怖から小刻みに震えており、宥めるようにトントンと背中を叩きながらサボはナマエの前髪にチュッと口づけを落とし、言った。


「んじゃ、次はナマエの番だな」
『え・・・?』
「おれだって今、傷だらけの恋人を見て生きた心地してないんだぞ」
『・・・あ、』


自分も怪我をしていたことをすっかり忘れていたナマエは、悲しそうに微笑むサボを見て胸を痛めた。サボにこんな顔をさせてしまったのは間違い無く自分で、慌ててナマエは自身の治癒に励んだ。


『ご、ごめんねサボ、すぐ、治すから』
「ん」


とはいえマンシェリー姫のような超回復ができるわけでもなく、ナマエの能力はあくまで回復速度を早めるもの。擦り傷などはすぐに癒えたものの、折れた腕は当たり前だがまだ曲げることすら出来ない状態だった。


・・・さっきはフラついてしまったが時間が経ったおかげで体力も覇気も戻りつつあるナマエはサボに降ろしてもらうよう頼み、自身の足で地面に立つと、沖合で待機する海軍軍艦の異常な数を見て妙な胸騒ぎを覚えた。


『サボ、あれ・・・』
「ああ・・・ナマエ、戦況は思ったよりも最悪だぞ」


――バスターコールが、発令された。

サボの言葉にさらに驚愕したナマエは詳しく話を聞いた。

そもそもの元凶、ブエナ・フェスタは"世界を、時代をぶち壊す熱狂"を探し求めた。

海賊王ゴールド・ロジャーに大海賊時代の幕開けという最高の祭りをやられ、フェスタは祭り屋として完全に敗北した・・・しかしその退屈でくだらない時代をぶち壊すために、裏社会の帝王や世界貴族・・・絶対に安全な場所にいると慢心しきった者達を引き摺り下ろそうと企んだのだ。

フェスタは、この大海賊時代を終わらせる"海賊王の宝"を手にし、バレットと手を組んだ。その海賊王の宝を奪い合って血を流し、強いものが勝ちとなる祭りを――・・・それがブエナ・フェスタが描く理想の新時代だというのだ。


『っ・・・宝箱には、何が入っているの・・・?』
「――ラフテルへの永久指針エターナルポース
『!』
「だから海軍本部は、バスターコールを発令したんだ。あいつらにとって"ひとつなぎの大秘宝ワンピース"は、不都合な存在でしかねェ」


バスターコールが発令された今、島に住人がいようと、逃げ遅れた海兵がいようと命令が遅延することはない。・・・海軍本部は、そのラフテルへの永久指針エターナルポースと共に、島ごと地図から無かったことにしようとしているのだ。

沖合にはすでに海軍艦隊第2陣、さらに第3陣の船影が万博島を完全包囲しつつある。

・・・そしてバレットの狙いが、このバスターコールであった。
全てを焼き尽くす、自身を敗北へと導きインペルダウンへと追いやったバスターコール・・・この無差別壊滅攻撃を凌げば、自身は"世界最強"という名声を手にすることができる。

お互いの理想を手にするために、バレットとフェスタは手を組んだのだ。


「バスターコールが開始するのは今から約5分後だ・・・さてどうするか」
『っとにかくバスターコールを止めなきゃ・・・』


万博島が焼け野原になる前に、バレットから海賊王の宝を取り返す必要がある。
しかし相手はケタ違いの覇気と、覚醒した能力を持ったまさにバケモノ・・・バレットを倒すためには――ここにいる"彼ら"全員の力が必要だ。

サボとナマエが同じことを思った瞬間、背後から、頭上を飛ぶ白い煙が見えた。
それが何か、すぐ分かったサボは口角を持ち上げながら炎を纏うと白い煙の後を追う。


「脱獄囚が・・・好き勝手暴れてんじゃねェ!!」
「――陽炎!!」


白い煙の正体――それは海軍中将、白猟のスモーカーだった。
バレットに立ち向かおうとするスモーカーの行く手を阻むようにサボの放った火柱があがり、不意をつかれたスモーカーが火柱に衝突する。しかしスモーカーも自然ロギア系・・・ダメージは食らっていないようで、空中で体勢を立て直し着地した。


「やつをぶっ飛ばすのは賛成だ海兵!だが、たった1人で勝ち目はあるのか?」
「ッ、てめェは革命軍と・・・ポートガス・D・ナマエ・・・!確か麦わらの・・・」
「ナマエとルフィを知ってんのか?お手柔らかに頼むよ・・・おれの妹と弟だ」



   



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