EPISODE.08



ルーキーたちは愕然と、バレットの操る鉄の巨人を見上げた。まさかあの宝箱の中に、自分たちが目指す"ひとつなぎの大秘宝ワンピース"が眠っているというのか。


「最後だ!精々あがいてみせろ!」


鉄巨人の覇気を纏った拳が、大地に叩きつけられる。
衝撃波によってルーキーたちは吹き飛ばされ、まるで島全体が揺れているような、そんな大地震が起きた。

圧倒的な敵の覇気に技も、能力も全て打ち破れた次世代ルーキーたちはもはや手も足も出せないまま、次々と倒されていった。


「これがたった1人でしか辿り着けない境地!弱ェやつは全てを失う・・・!」


勝ち誇ったかのように笑いながら、目の前に立つルフィを見下ろすバレット。


――ルフィはまだギアフォースになれるほどの覇気が戻っておらず、口角を持ち上げたバレットは島が真っ二つに割れるほどの拳を、ルフィ目掛けて振り下ろした。


「・・・!!!」



ドォオーーーーーン!!!!



激しい衝撃音と、地鳴りが響き渡る。


その音に目を覚ましたナマエは、ゆっくりと体を起こし、頭を抑える。


『わ、たし・・・なにを・・・?』


力が暴走していた間の記憶がないのか・・・なぜ自分が倒れていたのかも分からないナマエ。
しかし血だらけになった瀕死のルフィを視界に映した瞬間、そんな悩みは一瞬で消え去った。


『ルフィ!!!!』


岩に埋もれ、ボロボロになった弟の姿。かろうじて息をしているようだが・・・。
慌てて駆けつけようとしたナマエの行く手を阻むのは――バレットが操る鉄の巨人。覇気を込めた巨人の足がナマエとルフィを踏み殺そうと足をあげ、ナマエは倒れるルフィを抱きしめたまま、転がるようにして巨人の足の下から逃げ出した。
しかしそれも先読みされてしまい、横から伸びてきた巨人の手に捕まってしまうナマエ。

手から逃げ出そうと身を捩るも、ビクともせず・・・強く締め上げられると苦しさで表情が歪む。


『っ、うぐ・・・!』
「ロジャーの子どもと聞いて期待していたが・・・ざまァねェな・・・」
『!ああぁあ!!』


ほんの少しでも指先に力を入れられれば骨が軋む音が身体中に鳴り響く。
このまま握りつぶそうとしているのか、バレットはさらに力を込めた。


『・・・ッ、う、ぁあ・・・』
「死ね」


――カンッ・・・カンカン。

なにかが巨人の装甲に当たる。巨人が振り返り、見下ろせばそこに立っていたのは・・・ウソップだった。ナマエの治癒により一命は取り留めたものの、まだ立つのもやっとなはずだ。辛いにも関わらずウソップは攻撃を止めず、お手製の武器カブトでクルミ弾を連発していた。


「ハア、ハア・・・っ、てめェの相手は、まだおれだ・・・!」
『!ウソ、ップ・・・』
「なんだそりゃ・・・弱ェだけじゃなく、おまけにバカか」


当たり前だがクルミ弾が装甲を突き抜けるわけがない。
しかしウソップの狙いはそれではなかった。一発のクルミ弾が装甲に埋め込まれたその瞬間、破裂したクルミ弾から芽が生え、急成長すると蔓となって、ナマエを掴んでいた巨人の指一本をへし折った。


「あ?」
「ハァ・・・ハァ・・・っ、船長と仲間がおれのために命かけてくれてんのに・・・ッ、寝てられるかよ!!」
「・・・弱ェ犬ほどバカで、よく吠える」


わずかに顔を強張らせたバレットだったが、すぐに呆れたようにため息を吐く。
折れた指の掌から砲口が出現し、潜水艦に搭載されていた大砲がウソップに狙いをつける。


『ウソップー!!』


ウソップはそれでも一歩も引かず、その目で巨人と対峙し続けた。




ドォオオオオーン!!!!!!!




大きな銃砲の音とともに、物凄い土煙が辺りを包み込む。爆風に一瞬目を閉じたナマエはすぐに顔を上げると辺りを見渡した。

――土煙が晴れてもウソップの姿も、ルフィの姿もどこにも見当たらず、涙を浮かべながらナマエはウソップとルフィの名を叫び続けるが、その声は虚しく響き渡るばかり・・・。


『そ、んな・・・っ・・・・・』
「安心しろ、てめェもすぐに会わせてやる」
『!』
「――あの世にいる兄になァ!!!」


・・・ヒュンッと風を切る音。

そのままナマエは中央港から遠くにある街の端まで投げ飛ばされていった。



――ナマエが落ちた先では海賊と、上陸した海軍が混戦しており・・・突然降ってきたナマエに、その場にいた者全員の視線がそこへと集まった。

ナマエは既に気を失っており、瓦礫に埋もれているのが麦わらの一味で、しかも全国指名手配されているナマエだと知った海軍の目つきが変わる。


「ポ、ポートガス・D・ナマエだ!!チャンスだ、気を失ってる!!やつを捕らえろ!!!」
「ビジョビジョ、ビジョン!」
「!」


他の海賊を放って、海兵がナマエを捉えようとした――その時だった。

海兵とナマエの間に巨大なドラゴンが現れ、そのドラゴンが幻だとも気づかず海兵が応戦している隙を狙い、このドラゴンを出した張本人・・・アンが、いまだ目を覚まさないナマエに必死に声をかけ続けた。


「ナマエ姉さん!大丈夫!?」
『・・・っ・・・う、』
「!」


ゆっくり、目を開けるナマエに安堵したアンは目に涙を溜めながら、ナマエに抱きつく。


『ア、ン・・・?』
「うわぁあーーん!!よかったー!!」
『こ、こは・・・!つ、ぁ・・・ッ!』
「!ナマエ姉さん!!ひ、ひどい怪我なんですから、寝ててください・・・!」


起き上がろうとしたナマエの全身に、激痛が走る。金縛りにあったかのような、そんな錯覚を覚えるほど全身が痛み、特に痛みの強い左腕を見てみればそこは青紫色に変色し、酷く腫れ上がっていた。・・・どうやら折れているようだ。

キラキラの実で自身の治癒をしながら、先ほどまで自分のいた中央港に視線を向けたナマエは驚愕した。

先ほどまで鉄の巨人だったそれは島のどこにいても見えるくらい、より一層巨大になっているではないか。


『あ、れは・・・』
「な、なんかさっき、上陸してた軍艦を全てあいつが飲み込んだんです・・・!」


バレットは覚醒をし、究極バレットとなって島全体を攻撃していた。

・・・あまりにもスケールが違いすぎる。海王類よりも大きなその姿に、勇敢にも海軍中将たちが立ちはだかるが・・・まるで虫けらのように手で払いのけられていた。

――海軍を呼んだ本当の狙いは、鉄や武器をふんだんに使っている軍艦を奪うためだったというのか。

究極バレットは万博島内を移動しながら海軍の上陸部隊を攻撃し、沖合で構える艦隊を挑発し続けていた。
奴の狙いが一体なんなのか・・・まだ分からないが、それよりもルフィとウソップが気がかりだったナマエは自分の体に鞭を打ちながら、無理やり立ち上がろうとする。


『・・・アン、助けてくれてありがとう。私のことはいいから、早くここから逃げて』
「!そ、そんな・・・!!こんな状態のナマエ姉さん置いていけません!」

「ッな、なんだったんだ今のドラゴン!?」
「ハッタリだ!!!ともかくアイツを捕らえろぉお!!」


ドラゴンの幻が消え、それまで足止めを食らっていた海兵たちが一斉にナマエに襲いかかる。
治癒の手を一旦止めたナマエはアンを自分から突き放し、向かってくる海兵に応戦しようとしたが・・・先ほどの暴走で覇気を使いすぎたのか、体がよろけ、相手に隙を与えてしまった。

しかし暴走していたことすら身に覚えのないナマエはなぜ力が出ないのかと、目を見開かせることしかできなかった。


『!』
「ナマエ姉さぁああん!!!」


一斉に襲いかかる海兵――アンが手を伸ばした、その時だった。


「炎戒――火柱ァ!」


突如現れた爆炎がナマエと海兵たちの周りを包み込む。

炎の外にいたアンは一体何が起きたのか状況が掴めないまま、爆風に体が飛ばされないよう自分を守るので必死だった。


「っ、ナマエ姉さん!!」


爆風が収まり、静まり返った場所にアンの声が響き渡る。
するとナマエたちを囲んでいた炎が一瞬で消え去り、不安げなアンの瞳に映ったのは――倒された海兵たちの中心に立つ、1人の男の姿だった。男の腕の中には横抱きされているナマエの姿もあり、無事だと分かりホッと肩をなで下ろすアン。

――その男には見覚えがあった。革命軍参謀総長の・・・。


『サ、ボ・・・』
「酷くやられたな・・・ナマエ」


ナマエの義兄にして恋人でもあるサボであった。安堵したように力なく笑うナマエの額と自身の額をコツンと合わせながらサボは「もう大丈夫だぞ」と優しい声色で呟き、ナマエは安心しきった表情で、小さく頷く。

・・・遠くで傍観していたアンが、まるで童話に出てくるような、そんな絵になる2人の姿に頬が自然と赤く染まったのはいうまでもないだろう・・・。



   



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