もしも・・・



――。




――――。









「海賊王ゴールド・ロジャー、革命家ドラゴン!この2人の子供達が義兄弟とは恐れ入ったわい・・・!貴様らの血筋はすでに"大罪"だ!!誰を取り逃がそうが貴様らだけは絶対に逃さん!!!よう見ちょれ・・・・・・」
「!!!」


そう言ったサカズキの視線がエースより後ろにいるルフィと、ナマエへと向けられる。
気づいた時には既に遅くサカズキはマグマを纏いながら、ルフィ達に向かって飛んできた。


『!!』
「エースの、ビブルカードが・・・」
『ルフィ!!』


迫り来るサカズキの狙いがルフィだと知ったナマエは、ジンベエの手から逃れるとルフィの前に立ち、守るように両手を広げる。
クザンやボルサリーノはナマエを生け捕りにしようとした――がサカズキは躊躇う事無く、その腕をナマエに振り下ろした。


「ナマエーーー!!!!」
『ッ・・・』









――ドン!!!!













「「『!!!?』」」
「間に合った!!!」



何者かによって、サカズキの攻撃から救われた3人。
右手にはルフィを、左手にはエースを、そして正面から抱き上げるようにされたナマエの視線の先には・・・見かけたことのない、金髪の男性がいて。

一体誰だというのか、目を見開かせるルフィやエースとは違い、ナマエはただ一人・・・目から大粒の涙を流し、『う、そだ・・・』と信じられないように、何度も首を左右に振っていた。

























頂上戦争は、白ひげという伝説の大海賊を失ってしまったものの、その命のおかげで救われた者もいた。エース、ルフィ、ナマエ・・・そして、昔、亡くなったと思っていたはずのサボ。

頂上戦争の記事が全面に書かれた新聞を広げながら、ルフィは桜の木に寄りかかると嬉しそうに笑って言う。


「エースも助かってサボも生きてた!また4人で会えるなんて夢みてェだな!ナマエ!」
『っ、う、うん・・・うん・・・!』
「ほんとはぶん殴りてェ所だぞナマエ、それにルフィも!お前ら無茶しやがって!」
『だ、だってぇ・・・』
「ししし!言われると思った!」
「おいエース、おれの記憶が急に戻ったのはお前の遭難信号だろ?」
「ふざけんな!」
「あははは!」


エースは呆れるように溜息を吐きながらも、自分にくっついたままのナマエの頭を撫でると「いい加減泣き止め」と乱暴に涙を拭ってやる。そんな相変わらずの二人を微笑ましそうにサボが見つめていると不意にナマエと目が合い、するとナマエは顔を真っ赤にさせてまたエースの背中に隠れてしまった。
・・・頂上戦争以降、ナマエはサボに対してずっとこの調子で、まともに顔も見せてくれずルフィやエースの背中に隠れてばかり。なにか気に触るようなことをしてしまったのかと、気になりつつも後で本人に直接話そうと決めたサボは話題を変えるように"山賊盃"と書かれた酒瓶を取り出した。


「見ろ、これ憶えてるだろ?」
「ダダンの酒!よく手に入ったな」
「あの時と同じ酒じゃねェか!」
「昔みたいにこのままってわけにはいかねェ。またバラバラになるけどもう一度この盃に誓おうぜ。この先どこで何をやろうとも・・・おれ達は!兄弟だ!!」

「「おう!!」」 『うん!』


何があってもこの絆は切れない。皆が盃を一口で飲み干し、その後4人は昔話やこれまでの旅の話に花を咲かせ、時間も忘れまるで無邪気な子供のように笑い、食を楽しみ、酒を飲んだ。
いまだにエースの傍から離れず酒をちょびちょびと飲んでいたナマエを見つけたルフィは、「ナマエもっと飲もうぜー!」と酒瓶ごとナマエの口に押し付け飲ませ始める。


ごく、ごく、ごく。


されるがままのナマエは目に涙を浮かべながらもそれを全部飲み干し、これまでの疲労も重なったのか一瞬で酒が身体中を駆け巡り、血が沸騰するような錯覚を覚える。


「あ、おい、ばか、ルフィ!ナマエは一気に飲ませたら・・・!」
「ん?なんだよエース?」
「酔うと厄介なんだよ、ナマエは」
「そうなのか!?あははは!おもしろそーだなー!」
「笑ってる場合じゃねェ!」
「はは!まあ今日くらい、いいじゃないか、エース」
「・・・・・・いや、お前がいると一番厄介だサボ・・・」
「?なんでだよ」


すっかり出来上がってしまったナマエは『これおいしいねえ』と機嫌よくなると、エースの持っていた酒瓶を奪い取り、それも全て飲み干してしまった。
あちゃー、とエースは額に手を当てるなか、ルフィはいいぞナマエと盛り上げ、サボは俯いたままのナマエに歩み寄ると、心配そうにその顔を覗いてみる。


「大丈夫か?ナマエ」
『・・・・・・・・・?』


潤んだナマエの瞳が目の前のサボを映し、不思議そうに首を傾げた。


『サ、ボ・・・?』
「ん?ああ、そうだよ」


気分悪くないか?と、ナマエと漸く目が合ったことにサボが嬉しそうに笑っていると、ナマエは唇を噛み締め、そして大声で泣きながらサボに飛びついた。


『っ、うわぁああーーーん!!』
「!?」


驚きながらも小さいその身体を受け止めるサボ。突然泣いたナマエにさすがのルフィもどこか具合が悪いのかと狼狽え、エースは言わんこっちゃない、とこの展開を予想していたかのように溜息を吐いていた。
・・・エース曰く、どうやらナマエは酒を飲むと、泣き上戸になるようで。ただでさえ泣き虫だというのに、それはエースの力を持ってしてでもなかなか泣き止んでくれないそうなのだ。


『いき、てたぁ・・・っ、よか、ったよ・・・!ほんとに、死んだと思って、たか、ら・・・!』


それまでサボと目を合わせようとしなかったのは、恥ずかしさもあったのだが、本当に生きていたのかと信じるに信じられなかったから。これは夢なのではないか、と何度も自分に言い聞かせていた。しかしこうしてサボの温もりに触れる事が出来たナマエの涙腺は崩壊し、子供のように声を出して泣き喚いた。

決して嫌われたとかそういう類ではないことに安堵したサボはほんの少し頬を赤らめ、驚きながらもナマエの背中を優しく撫でて、ナマエの言葉に優しく何度も相槌を打ちながら耳を傾けた。


『わたし、寂しかった・・・!』
「うん」
『も、う・・・サボ、に、わた、しの歌、聞いて、もらえ・・・ないと、おもって・・・』
「うん」
『お、となに、なったら・・・ううっ」
「うん」
『サボの、お、よめさん・・・っなりたいって、おも、って、て・・・!』
「う――んん!?」
『だか、ら、わたし・・・!』

ちょっと待て
「『!』」


ぐいっ、と突然離されるナマエとサボ。
まるで猫のように首の後ろを掴まれたナマエは、サボから引き剥がされたことに不服そうに頬を膨らませると、鬼の顔をしたエースに怯むことなく睨み返した。


『なにすんのお、エース』
「だれが、だれのお嫁さんだってェ・・・?おれはそんなの聞いてねェし交際なんざ一切認めてねェ!まずは兄ちゃんに話せ!!」
『っもー、大きな声、出さないで、よー・・・わたしだって、サボに、まだ、告白して、ないんらから・・・』
「おれの断りもなくか!?」
『っえーすは、わたしの、お父さんじゃない、でしょ!それにエースより、つよいなら、付き合ってもいいって、エース、言ってくれた・・・!』
「ハア!?それはつまりなんだ、おれよりサボの方が強ェって言いてェのか!?」
『サボは、強いもん・・・!わたしたちを、守ってくれた。あのとき、サボいなかった、ら・・・・・・みんな、やられてたかも、しれないんだよ?』
「う"ッ・・・」
『あの時のサボ・・・絵本に出て来る、おうじさま、みたいだったあ・・・』


普段では言わないような発言も、酒の力というものは恐ろしいものでスラスラと言葉にしていくナマエ。エースの力が緩んだのを見逃さなかったナマエは、えへへ、と嬉しそうに笑いながらサボに抱き着き、エースの額に青筋が浮かび上がる。
一方のサボはというと・・・どうすればいいか分からず、しかしサボもサボで一目会った時からナマエの事を異性として好きだったという事もあり、急な展開ではあるものの好きな人に告白されて喜ばずにはいられない。

サボ大好き、と甘い声で囁かれればサボの決意は固まり、ナマエをぎゅっと抱きしめながらサボは、意を決して目の前のエースを見つめた。


「エース、ナマエはおれが必ず幸せにするから!!」
誰が交際認めるっつったァ!?!?!?
「ルフィ、そういう事だ。ナマエは革命軍として迎え入れようと思うけど・・・いいか?」
「ししし!ほんとはおれの仲間になって音楽家になってもらいたかったけど・・・ナマエがそっちのがいいなら、分かった!諦める!」
『えへへ・・・サボの、およめ、さん!』
「一生大事にするからな!」


お前らおれの話を聞けェーーー!!!!!






















































































「『!』」
「あらルフィ、ナマエおはよう」
「オハヨーございまーすルフィさん、ナマエさん!」



――目を開けると、いつものように仲間たちが声をかけてくれて。
夜遅くまで宴をし、いつの間にか眠ってしまっていたルフィとナマエは勢いよく身体を起こすとお互い目を合わせ、そしてナマエはそれが"夢"だったと気づいた。
エースは死んでしまったという現実を突き付けられ『アハハ・・・夢、か』とから笑いし、そして不思議な事に同じ夢を見ていたルフィは表情を険しくさせると、落ち込むナマエに自分の麦わら帽子を被せるとそのまま勢いよく部屋を飛び出し、そしてゾロやサンジの元へと向かうとある頼みごとをした。


「「殴ってほしい?」」
「ああ、思いっきり殴れ!!おれがこんな夢見てるようじゃおれ達は前に進めねェ!!」
「「・・・・・・」」


――バキ、ボカ、ドカ。鈍い音とルフィの悲鳴が、船内に響き渡る。


「痛っっってェ〜〜!!!夢見ただけだぞ!そんなに悪いかよ!!」
「だから何の夢かも知らねェし!」
「ちょうど殴りたかった。お前昨日冷蔵庫のよ・・・・・・」


今日もサウザンドサニー号は賑やかだ。デッキに出てきたナマエは、ぼこぼこにされたルフィに苦笑いを浮かべながらも、広大な海を眺める。


――もし、あの夢が本当だったとしたら。4人で集まり、盃を交わし、宴をして・・・・・・どれだけ幸せだっただろう。けれど過去を変えられることは出来ない。全ての現実を受け入れて前に進むしかない。


『(それにしても・・・)』


盃を交わしたところまでは覚えているのだが、その後の夢の続きが曖昧なナマエ。夢とはいえ酒を飲んだ後の感覚が妙にリアルで。何か大切なことをサボに言って、エースが怒っていたのは覚えているが・・・一体自分は、サボに何を言ってしまったのだろうか。

・・・しかしそれも全て夢の話。ルフィも同じ夢を見ていたのは不思議だが、まさか今どこにいるかも分からないサボまで同じ夢を見ているはずがない。


まあいっか、と麦わら帽子のつばを上げて空を見上げたナマエは、『夢でも久しぶりに会えて嬉しかったよ。エース』と、微笑むのだった―――。







*






「!」
「おー起きたかサボ・・・まいったよ。市民のSOSを受けたってのに凪に捕まった。小一時間船が進まねェ」
「・・・・・・!そうなのか・・・変だな」


がばり、身体を起こせばそこには革命軍の仲間がいて。
それまで見ていたのが"夢"だと気づいたサボが顔を上げれば、視界いっぱいにコアラの顔が映りだされる。自身の顔を覗くように見つめて来るコアラは、ニヤニヤと口角を持ち上げながらからかうように言った。


「あれれー?サボ君涙ぐんでない?また"あの夢"見たの?」
「!」
「2年間毎日毎日苦しめられたあの・・・」
「ッお前な!人の苦しみをバカにしやがって・・・!!ッ大体、今日のはいつもとは違ェ!!おれと、ナマエがけっこ・・・!」
「わーっ危ない!火!火!!」


ボオッ、とサボの身体を取り巻く炎の渦。
慌てて火を消そうとするサボだったが、なぜかいつものように止まってはくれなかった。


「こらーー!!火事にする気ーー!?!?」
「・・・・・・・・・」


漸くその炎を拳に抑える事が出来たサボは、メラメラと燃える自分の拳を見て額に汗を浮かべる。


「・・・・・・あいつに怒られた・・・・・・アハハ。まだおれには"早ェ"らしい・・・」
「え??」
「おお、風だ・・・進もう!!」




























「これでおれ達は今日から兄弟だ!!」
「「おう!!」」
『うんっ!』




   



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