君とならどこまでも



シャボンディ諸島ではちょっとした有名店に足を運んだナマエとサボは遅めの昼食を取っていた。

リクエストした肉を美味しそうに頬張るナマエを見て笑みをこぼしたサボはふと、今朝ナマエが電伝虫の向こうで必死に泣き喚く弟を宥める光景を思い出し、プッと吹き込んだ。


「にしてもルフィの奴、朝から凄かったな」
『あ、はは・・・だいぶ心配かけちゃったみたい』


朝一番電伝虫でサニー号に電話をしてみれば、最初に出たのはナミだった。丁度よかったとナマエが事情を説明すると麦わらの一味はナマエがいなくなった事により既に大捜索が始まっていたようで・・・いつも皆が起きる時間にかけたつもりだったのだが、こういう時に限って早く起きてしまっていたらしい。
とにかく無事でよかったわと安堵するナミが続け様に「それよりルフィをなんとかしてちょうだい。朝からあんたがいなくて大騒ぎなのよ」と言ってルフィに代わると、すぐさま受話器の向こうからうおんうおんと涙を流すルフィの声が聞こえてきた。

今サボと一緒にいる事、そして必ずエレジアに向かうと約束をすれば、ルフィは鼻を啜りながらも「わがっだ。はや゛く来いよ゛」と落ち着きを取り戻してくれたから、ひとまずよかったが・・・。


「エースに似てきたな、あいつのそういうとこ」
『あはは、確かに』


エースもルフィも、ナマエの事となると心配症が炸裂する。もちろんそれはサボも同じなのだが。

周りからしてみれば少し過保護すぎないかと思われてそうだが、大切に思われてるからこその心配だと分かっているナマエは、申し訳なさそうにしながらも、どこか嬉しそうに笑みを浮かべた。


『ここのご飯、すっごく美味しいね!』
「ああ。客も少ない時間だし丁度よかった」


すでにナマエの前には空となったお皿が山のように重なっていて、客が少ないといえどその尋常ではない量に店内にいる全員の注目を浴びてしまっていた。・・・もちろん、気づいていないナマエは幸せそうに食事を楽しんでいるが。

いくら変装しているとはいえ、ナマエから滲み出るカリスマなのだろうか・・・最初は興味本位で向けられていた視線も、時間が経つにつれてそれは違うものへと変わっていて。


「お客様、こちら私からのサービスです」
『わあ・・・ありがとう!』


店員が運んできたのは、メニューには無かったパンケーキだった。フルーツがたくさん盛られており、ご丁寧に生クリームでハートまで描かれている。
何も知らないナマエは無邪気に店員に笑顔でお礼を言うと『サボも食べる?』と話しかけ、サボはんー、と悩む素振りをしながら明らかに色目でナマエを見つめる店員に視線を移すと、サングラスの隙間から、牽制するように静かに睨み付けた。


「ひっ」
『?』


顔を青ざめさせた店員は逃げるようにキッチンへ逃げていき、その後ろ姿を見たナマエは首を傾げた。


『どうしたんだろ、あの人』
「さあな。それよりそれ美味そうだな!おれにも分けてくれ」
『うん!すっごく美味しいよ!はい』
「ん」


食べやすいように一口サイズに切ったパンケーキを、サボの口に運ぶ。
ナマエの為に作られたと思うと腑が煮え繰り返りそうだが、こうしてナマエに食べさせてもらっただけでその怒りもどこかへ吹き飛んでいき、喜びの方が上回る。
サボはナマエの口元についてるクリームを見つけると「ついてるぞ」と、親指で拭ったそれを、周りに見せつけるようにぺろりと舐めた。


『私のリクエスト聞いてもらったから、次はサボの番だね!サボ、どこか行きたい場所ある?』
「おれか?うーん、そうだな・・・」








やって来たのは、32・33・34番GRにある遊園地、シャボンディパークだった。


『わたし遊園地に来るの初めて!』


シャボンディには度々足を運んでいたがいつもは歌姫として歌を披露するだけだったから、まともに観光をしたことがなかったナマエは子どものように瞳をキラキラと輝かせていた。
早く行こサボ、と腕を引っ張るナマエに連れていかれるがまま、2人はあらゆる乗り物を堪能した。

ジェットコースターにバイキング、コーヒーカップにフリーフォール・・・ある程度の乗り物を制覇したナマエは満足そうに、近くのベンチに腰掛ける。


『さっきのジェットコースター、途中でぐるんってなったところすごく怖かったー!』
「すげェ悲鳴あげてたもんな、ナマエ」
『サボだって驚いてたじゃんっ』


2人からは笑顔が絶えず、サボは席を立つと「なんかそこで飲み物買ってくる」と、近くにある売店へ向かった。
サボの背中を見つめるナマエは、こんなにも幸せでいいのかと喜びを噛み締めながら、次は何に乗ろうかな、とパークのパンフレットを鼻歌まじりに読んでいると――ふと、自分に大きな影が落ちる。


『?早かったね、サ・・・ボ・・・』


言いながら、顔を上げると・・・そこにはサボではなく大きなウサギの着ぐるみがいて。シャボンディパークのイメージキャラクターなのだろうか・・・ウサギは持っていた風船の一つをナマエに差し出し、ナマエが『くれるの?ありがとう』と言って風船を、受け取った――その瞬間。



――パン!!!!


『っ』


突然、受け取った風船が割れ、中から粒子のようなものが飛び散る。咄嗟に口を塞いだナマエだったが少量吸ってしまい、即効性の類なのかぐにゃりと視界が歪み・・・意識が朦朧としてきてしまう。


『っ、――(睡眠薬!)』

「早いとこ連れて行け」


薄れゆく意識の中、ウサギの共犯者と思われる男達に囲われる。
抵抗しようとしたナマエだったが薬により体の自由が効かず、ナマエはそのまま眠るように意識を手放した――。










――目を開けると、見慣れない天井が映る。まだ薬が残ってるのか重い身体をゆっくりと起こした私は、辺りを見回した。

・・・薄暗くて湿気ているそこは明らかに船の一室で、小さな船窓から外を覗いてみると、船はすでに出航したのか遠くにシャボンディ諸島が見えた。


『・・・』


人攫い、だろうか。部屋には私以外にも攫われたと思われる女性たちが眠っている。
ここの部屋にいる女性達は私含め全員手足を鎖で縛られ、拘束されていた。・・・何が目的かは分からないけれど、サボとの貴重なデートを邪魔された事に怒りを覚えた私は眉間にシワを寄せると、とにかく彼女たちをどう助けるかを冷静に考えた。

幸いな事にシャボンディ諸島は目視できる場所にある。恐らく念には念を込めて、人攫い後に一旦、海に逃げて身を潜めているのだろう。


――見聞色の覇気で察するに、この船に乗っている乗組員は約20人・・・しかしよく調べてみると捕まった女性達は全員ここにいるわけではなくて、別室にもいるようだった。

ここにいるのならば守りながら戦うこともできたけれど、違う部屋にいるとなると別だ。下手に動くことができない。もし万が一、逆上してしまえば女性達を傷つけかねない。


『・・・・・・』


いっそのこと、自分に標的が全て向けられればいいのだけれど。
うーん、うーんと頭を悩ませていると、不意に扉の鍵が空いて、外から大男が入ってくる。


「もう目が覚めたのか?へへ、運が悪いな嬢ちゃん・・・あんたらはこれから人間屋ヒューマンショップに売り飛ばされるんだ」
『・・・・・・』
「ハハハ!怖くて声も出せねェか?俺たちも仕事なんでな・・・なに、大人しくしてりゃ怖い目に遭う事もねェ。本来なら俺たちは闇商人として武器を捌いているんだが・・・ここんところ、革命軍の奴らがガサ入れに来たと情報が来てな・・・大人しくなるまで、人攫いをする事にしたんだ」


聞いてもないのにペラペラと話す大男。すると周りにいた女性達も次々と目を覚まし始め、品定めをするかのように舌舐めずりをした大男が1人の女性に歩み寄っていく。


「人攫いは久しぶりでなァ・・・1番GRに着くまでの間、俺たちにも楽しませてもらおうか」
「っ・・・い、いや・・・助けて・・・!!」

『――・・・』


女性に手を出そうとする大男に向かって、私は覇王色の覇気を放つ。
白目を剥き、突然倒れていった大男に女性達は困惑していて、立ち上がった私はほんの少し、手に力を入れると手首の鎖を破壊し、足首のも難なく外した。


「あ、あなた・・・」
『少し待っててください』


――もう悩んでる暇はない。

驚く女性達を置いて部屋を出た私は、何の迷いもなく多数の気が集まる甲板へと向かった。


「遅かったなァ!いい女連れてきたかァ?」


船上では宴会が開かれていて、男たちは陽気に酒を浴びている。
先ほどの大男が来たと勘違いしたのか、こちらを見向きもせずそう話す男に笑みを浮かべた私は『今頃眠ってるよ』と答えてみせた。

すると声で大男じゃないと気づいた男が慌ててこちらを振り返り、周りの男達を召集しはじめる。


「無駄な足掻きはやめときな、傷つくのは自分だぜ?」
「それとも何か、嬢ちゃんが俺たちの相手してくれんのかァ!?」

『・・・・・・相手?』


――冗談じゃない。私は込み上げてくる怒りを抑えながら、ぎゅっと握り拳を作る。


『サボとの貴重な時間を奪われて、これ以上、あなた達の相手してる時間はないの』


――その瞬間。強い海風が吹き荒れ、私のかぶっていたキャスケット帽子が空へと舞う。
もう、彼らに隠す必要なんてなかった。静かにサングラスをとった私を見て、周りの男達は驚きのあまり、皆が揃えて大きく目を開けていた。


「ま、ま、ま、まままさか、」
「ポ、ポートガス・D・ナマエ!?」
「って事は大海の歌姫セイレーン!?」
「な、なんでこんなところにいるんだよ!麦わらの海賊団に入ったって、新聞に書いてあったぞ!?」
「お、おい、けどこれはチャンスだ!こんな大目玉商品、逃すわけにはいかねェぞ!!」


どこからともなくそう叫んだ男の言葉に、全員の目つきが変わる。
各々が武器を手に取るとあっという間に囲まれ、「商品だ、顔だけは傷付けるな」と誰かが指揮を取っていた。
ジリジリと歩み寄ってくる男達に、私は地下にいる女性達に細心の注意を払いながら、覇王色の覇気を強く放った。


「・・・!が、はッぁ・・・」


どさりどさり、倒れて行く男たち。

あえて覇王色の覇気を向けなかった1人の男に歩み寄った私は、腰が抜けて立つ事もできない男と目線が合うよう屈むと今すぐに32番GRへ引き返すように命じる。


『・・・ねえ。あなた達が人攫いをしたのは、いつ?』
「き、昨日!昨日です!」
『・・・・・・そう』
「ヒイイイ!?お、お助けを・・・!!」


まさかと思って聞いてみたけれど、嫌な予感は的中していた。攫われてから1日も眠らされていたなんて。
ということは、サボといられるのは今日しかない。明日にはエレジアの船が出航してしまうのだから。

焦る気持ちをおさえながら、私は男に早く船を出すよう伝えると、地下に向かい捕まってる女性達の錠を外していく。


『すぐに帰れるから。安心してね』
「あ、ありがとう・・・!」


女性ばかりと思っていたけれど中には小さな子供もいて、安心させるように笑顔を向ける。

サボ、今頃どうしてるかな・・・ルフィ達だけじゃなくてサボにまで心配かけるはめになっちゃった。重いため息を吐きながら落ち込んでいると、私の顔を先ほどの子供が心配そうに覗き込んでくる。


「お姉ちゃん、どこか痛いの・・・?」
『!う、ううん。大丈夫だよ、ありがとう』


咄嗟に笑顔でそう答えるけれど、子供や女性たちは不安そうに私を見つめてくる。
・・・いけない。私が不安にさせてどうするのだ。

思い立った私は、捕まった人たち全員を甲板へ誘導すると、そこら辺に倒れていた男達を全員一つの部屋に纏めて閉じ込め、そして青空の中、みんなの前で――歌を紡いだ。


「!!」


歌を奏でると空を飛ぶ鳥たちも一緒に歌うように翼を羽ばたかせ、みんなの不安が少しでも無くなるよう心を込めて、希望の歌を紡ぐ。


「こ、この歌声って・・・!」
「!間違い無いわ、大海の歌姫セイレーンよ・・・!ほ、本物だわ・・・!」
「ッ、こんなところで聞けるなんて!」
「わあ・・・!女神様みたい・・・!」


さっきまで不安な表情を浮かべていた女性たちは、次第に笑みを浮かべる。
子どもたちも喜ぶように辺りを駆け巡り、自然と笑みをこぼした私は気分が良くなり、近くにいた女性の手を取ると一緒に踊りながら歌った。

あなたたちも踊ろう、そう声をかければ周りの女性や子どもたちも一緒になって踊り始め、船上はあっという間にパーティー広場になる。


「っ、ポートガス・D・ナマエ!!!」
『!』


――せっかく楽しい時を過ごしていたというのに。見上げた先には舵を取っていた男が苛立った様子で私に向かって銃口を向けていた。


「ッふざけた真似しやがって・・・!う、動くな!動いたら撃――「綺麗な歌声が聞こえてやってきたんだが・・・パーティー会場はここか?」
「・・・は!?」


どこからともなく男の真横に現れたシルクハットの男性。男が持っていた銃は男性の手の中でメキメキと粉砕されていて、その人物が誰かすぐに分かった私は笑みをこぼし、その名を呼んだ。


『サボ!』
「俺の大事な恋人だ。手を出さないでもらおうか」



   



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